Front mission Brockede
Last Mission Graedian of Az?rbaycan
ナヒチェバン ヴァンツァープラント 0200時
『撃破しろ、シュトゥルムピングィンを生かして返すな・・・ただし死体は回収できる程度にとどめろ。』
『了解!』
ゲオルギーの号令の元、第1師団の直轄部隊が突撃を開始する。カダールは真正面のストークめがけホーネットを発砲。一瞬でストークは胴体を貫通され破壊される。
その後ろからギャフがローラーダッシュを仕掛けてくるがシエラが20mm機銃とアールアッソーCで迎撃、ショットガンの射程圏内に入りこまれる前にギャフが炎上してしまう。
「生かして返すな、だってさ。こんなんじゃ先に死ぬのはどっちかな?」
『まったくだ。』
カダールは嘲笑するかのようなシエラの言葉に頷くと、プラヴァーを発射する。ライフルを構えようとしたジャウアーにミサイルが直撃、ヘキサG3を吹き飛ばす。
その隙をつきオルクスが2機、両サイドから両腕に装備したFV-24を連射しながら接近してくるが、2機が背中合わせになるとシエラはアールアッソーCを発射、カダールはシールドで防ぎながらホーネットを発射する。
1機のオルクスは弾幕に突っ込んで爆発、もう1機は10cm徹甲榴弾をまともに受けて胴体が大きくえぐられ、倒れてしまう。
「どーしたの?元帥直轄軍ってそんなに弱かったっけ?」
『手ごたえがないな・・・倒されたいのか?』
そんな軽口をたたきながら、シエラはトリガーを引き至近距離に接近したストークをショットガンで吹き飛ばす。装備していたプレスニードルを直撃させることなくストークは空中で衝撃を受け、その場に落ちて沈黙してしまう。
ゲオルギーは苛立ちを抑えきれず、すぐに命令を下す。
『レイブンで始末しろ!奴等を消してしまえ!』
ゲオルギーのレクリーズが鎮座する両サイドの扉が開き、大型の黒いヴァンツァーが出現する。シエラはレイブンを一瞥するが、その前にFV-24を連射しながら接近してくるエルドスに集中砲火を浴びせる。
カダールはミサイルを発射しようとするヴァリアントに照準を合わせプラヴァーを発射し、ホーネットも2発連続で打ち込む。まずミサイルが直撃しヴァリアントがぐらつくが、そこに砲弾が直撃し1発目はミサイル発射機に直撃し爆発、2発目は胴体に直撃しヴァリアントは胴体を貫通されて爆発する。
2人が主に攻撃しているのは、パートナーの脅威となりえる敵だ。カダールは遠距離戦を挑んでくる敵機を集中砲火して撃破しシエラは敵機をカダールに近づけまいと近距離で対応する。
『シエラ、レイブンだ。遠距離でしとめたいがいけるか?』
「こいつを黙らせたらすぐ護衛するよ!」
接近戦を挑んでくるヴェイパーに対し、シエラは20mm機銃を連射し続けるがオーバーヒートし強制冷却してしまう。すぐに武装を換え、シエラは76mmショットガンを連射。
至近距離で大口径の散弾を受け、ヴェイパーは25mm機銃の連射を止めて沈黙してしまう。操縦席に直撃しパイロットが死傷したらしい。それと同時にレイブンが接近、右腕のクローで殴りつけてくる。
『格闘戦特化型と近接攻撃型らしいな・・・』
「うん、けどこいつ・・・!」
シエラは俊敏にレイブンクローとシールドでの一撃を回避しながら銃撃を絶え間なく浴びせ続ける。だが分厚い装甲を持つレイブンはまったくこたえる気配も無くシエラを執拗に狙ってくる。シエラはシールドと格闘武器と言う組み合わせに覚えが会った。
『いい動きをするだろう?確か素材はロドリゴと言ったかな、ホークス隊の精鋭だったそうだな・・・』
「ふざけないで!どーも姿を見かけないと思ったらこんなことに・・・!」
好敵手との望まない形での再会にシエラは胸が締め付けられるような痛みを感じたが、涙を流す間もなくレイブンの隙をうかがう。
レイブン相手にはまともに銃撃で損傷させられないためシエラは隙をうかがうが、ロドリゴがベースだけあって隙なんて探すほうが難しい。いつも共同で撃墜して来たのだが、その仲間もいない。
「隊長は無理っぽいし・・・」
ちらとカダールをシエラは一瞥するが、レイブンの猛攻を回避しつつ砲撃を繰り返しているので支援など頼めそうに無い。自分で何とかするしかないと考えながら冷静にシエラは攻撃を受け流す。
しかし、そんな状況におかれながらなぜかシエラは笑みをこぼしてしまう。これくらい楽しめる戦場はそうそうない。1機討ちに興じられる状況はなかなかないのだ。
「お楽しみと行きますか・・・二度も戦えなかったし。」
などと笑みをこぼしながらシエラはレイブンクローを突き出してきた一瞬の隙を見逃さず、前に出るとクローを回避しつつ近距離で76mmショットガンを発射する。
間接部分に直撃してレイブンの腕がへし折れるが、シールドだけでレイブンは殴りかかってくる。胴体にシールドが直撃しガストの胴体が大きくへこんでしまう。アラートが鳴り響くがシエラはスイッチを切りアールアッソーCと20mm機銃を連射。
近距離で弾幕を受け、シールドを取り外すと落ちていたストークの右腕からボーンバスターを奪い取りレイブンは攻撃を仕掛けてくる。
「ちょ、うそでしょ!?」
『自立兵器はこれだからいい。兵士がそこにいるかのように行動し、攻撃する。オリジナルより多少能力が劣るのは仕方ないとしてもな。』
プログラムどおりの行動ではなくしっかりとシチュエーションに応じた行動を取れる自立兵器をみてシエラは厄介な相手だと思ってしまう。シールドでも結構な損傷を与えてくれたが打撃に特化したボーンバスターで一撃を喰らえば致命傷になりかねない。
猛然とレイブンはボーンバスターで殴りかかってくるが、シエラは上手く回避しつつ20mm機銃で牽制するが威嚇射撃にもなっていないようでレイブンは勢いを止めず殴りかかってくる。
真っ先にシエラはそれを回避するが壁を背にしてしまう。その状態でレイブンはボーンバスターを片手にガストへと突撃してくる。
「ま、厄介なところ見せてくれたけど・・・負けないよ?」
シエラはとっさにショットガンのトリガーに手をかけるとローラーダッシュをしかけ、すれ違いざまに散弾を叩きこむ。レイブンの間接部に散弾が全て直撃し、レイブンが転倒するとシエラはすばやくターン、ショットガンをレイブンの背後に突きつける。
「ぐっばい、せめて安らかに。」
トリガーを引いてシエラはレイブンの操縦席を破壊すると、すぐにカダールの元へと向かう。カダールはバズーカを散発的に発射しながら応戦しレイブンを寄せ付けないでいた。
『シエラ・・・支援出来そうか?』
「何とか!」
少なくとも自分自身には負けられない、とシエラは自分に言い聞かせながら20mm機銃とアールアッソーCを乱射。武器腕のレイブンは搭載した76mm速射砲で射撃を加える。
レイブンがシエラに注意を向けた隙を狙い、カダールはすぐに物陰から出てバズーカとミサイルを発砲する。10cm砲弾は外れたがミサイルが直撃、レイブンの右腕が吹き飛ぶ。するとシエラはある事が思い至ったのかスピーカーでレイブンに呼びかける。
「・・・もうわけわかんない場所で戦わなくていいよ。落ち着いて、一瞬だから。」
『何を言って・・・!?』
ゲオルギーが不可解なシエラの行動に疑問符を投げかけるが、レイブンが機能停止してしまったのをみて意図を理解する。自分自身の声を聞けば誰でも戸惑ってしまうのは当然だ。もちろんA型デバイスのマテリアルは殆どが殺されているから、こういう状況を想定した対策などなされていない。
『・・・終わりだ。安らかに眠れ。』
カダールがレイブンの至近距離にまで近づくと、バズーカを至近距離で発砲する。レイブンは操縦席を貫通され沈黙し、レクリーズのみが残されたがゲオルギーは平然と2人を賞賛する。
『なかなかやるものだな、カダールにシエラ・・・ディートリッヒも厄介な奴を連れ込んだものだ。レイブン2機、2個小隊を完膚なきまで叩きのめすとは・・・』
『部下が死んでもそれか?俺達を手厚く保護したのはマテリアルのためか!?』
冷淡な程度にカダールは怒りをあらわにするが、ゲオルギーはもちろんだとディスプレイ越しにうなずいてみせる。
『もちろんだ。祖国を守る切り札がお前達だ、そう簡単に失っては困る。喜ぶがいい。お前達は祖国の礎となり、永遠に国を守り続ける。それが理想の姿だろう?』
「あいにくだけどそう言うのはいらないよ。私たちが守る・・・アゼルバイジャンをね。」
『守る?たった2機で守れるというのか?』
嘲笑しながらゲオルギーはレクリーズが保持する大型の15.2cmキャノン砲をシエラのガストへと向ける。すぐにシエラは射線から回避、同時に15.2cm砲弾が発射され壁に直撃する。
『たった2機ではない。ペンギンが2機もいる意味はわかっているはずだ、ゲオルギー。俺達が戦闘技術を教えればいい話だ。人を生贄にした機械に頼るつもりは無い。』
『大きく出たな。なら、祖国を守るに値するのはどちらか実力で決めようじゃないか。単純に強いほうが祖国を守るのにふさわしい・・・手は抜かんぞ。』
15.2cm砲をゲオルギーは発射。桁外れの発砲音がプラント内部に鳴り響きストームのセンサー部分を掠める。カダールは逆襲と言わんばかりにホーネットを発砲するが、レクリーズは敏捷に回避する。
『大型機の癖にいい動きを・・・!』
『元帥だったからと言って見くびっては困る。北部戦線で自らヴァンツァーに乗って戦ったのだ、まだ腕前は鈍ってないぞ!』
ゲオルギーは腕前を誇示しつつ肩に搭載したアルバトロスを発射。ロケット砲弾をカダールはシールドで防ぐがシールドに砲弾が直撃、破損してしまう。
「あっそう?でも私に気づいて無いよね?」
すぐにシエラが接近、ショットガンの射程まで接近するがレクリーズが反応、肩に搭載されたFV-24Aガトリング砲で応戦する。猛烈な銃撃を受けてシエラは直ぐに離脱、カダールがほぼ同時にプラヴァーを発射する。
レクリーズの側面に直撃するが目だった損傷は無く、逆襲と言わんばかりに15.2cmキャノンを発砲。プラヴァーに砲弾が直撃、爆発してストームが吹き飛ばされる。
「た、隊長!?」
『安心しろ、お前もすぐカダールに会える。』
シエラは涙を流すまもなく、落ち着いてアールアッソーCで銃撃するがレクリーズの分厚い装甲は40mm銃弾ですら弾き15.2cmキャノンを発射してくる。
一旦シエラは物陰に隠れると、シュナイダーが無線通信を入れてくる。
『レクリーズ級か・・・厄介なものだな。』
「落ち着いて無いで何か言ってよ、シュナイダー!隊長の仇とってやるんだから・・・!」
レクリーズはじわじわと距離を詰めてくる。シュナイダーは機体データを見ながら思案しているが、シエラはじっと息を潜めている。
『間接部に大火力を叩きこむことくらいしか出来ないな・・・カダールを脱出させれば空爆で撃破すると言う手段も使えるが。』
「もうそれでいい・・・全部話は聞いたんだから、隊長を脱出させる時間を稼いでくる。空爆の要請お願い。出来たら言って。」
悲しげに、でも涙を一滴も流さずに冷静な声で応答するとシエラは物陰から躍り出て20mm機銃とアールアッソーCを連射する。レクリーズもFV-24Aとアルバトロスを同時に発射しガストをしとめようとする。
するとシエラは急激に停止、射撃を回避すると一気に距離をローラーダッシュで詰める。レクリーズが15.2cmキャノン砲を発射するがシエラは寸前で回避、しかし回避しきれずアールアッソーーCが吹き飛ばされる。
「あんたはもう元帥じゃない、ゲオルギー!隊長をよくもっ・・・!」
近距離でシエラがショットガンを発砲。76mmのショットシェルが爆発し、散弾が拡散しきる前にレクリーズの脚部間接部に直撃する。レクリーズは転倒し、シエラは倒れたままのストームへと接近する。
「隊長、起きてよ・・!ねぇ、ねぇってば!」
通常腕では無いため操縦席ブロックを強制的にこじ開けるということは出来ず、20mm機銃の武器腕でなんどもストームを叩いてカダールを起こすことくらいしかシエラには出来なかった。
『シエラ、カダールは多分生きていないはずだ。それより速く脱出しろ。』
「そんなのできない!隊長を絶対助け出すんだから!」
『やめろ、シエラ!』
何を思ったか、シエラはカダールのストームをひっくり返すとショットガンを至近距離に突きつける。おそらく発砲し、強制的に射出でもさせようと言うのだろう。
しかしそんなものを至近距離で直撃させてはカダールが木っ端微塵になるかもしれない。シュナイダーが思わず目をつぶった瞬間、ストームが再起動し立ち上がる。
『・・・シエラ、まだ生きてるぞ・・・』
「隊長・・・!?よ、よかったよ!ほんっとうに心配させてもう・・・!」
涙を流してまで喜ぶシエラを見てカダールはため息をつきながら、シールドを吹っ飛ばされた腕を操作しガストをなでてしまう。
『泣きすぎだ。それより引導を渡すぞ。』
「え・・・?」
シエラがすぐに振り向くと、レクリーズが立ち上がるのがはっきりと解った。直ぐにシエラは涙を拭い去り、照準をレクリーズへと合わせる。
『・・・少々甘く見ていたようだな。ヴァンツァー程度と甘く見すぎたか・・・』
「終わりだよ、ゲオルギー。あんたを倒せば終わりだからね・・・」
なるほど、とゲオルギーは納得した表情を浮かべるといきなりのように高笑いし始める。訳がわからず、カダールが視線を鋭くしてゲオルギーをにらみつける。
『・・・ゲオルギー、何故笑う。』
『どちらかが死ぬというわけか・・・あとくされがなくていい。未練を残さずに済むからな。』
『まったくだな・・・』
カダールは声の調子を落としながらも、唯一残ったホーネットをレクリーズに向けて発砲。レクリーズが回避すると同時にシエラが突撃する。
接近してくるシエラにレクリーズはFV-24Aを連射。猛烈な弾幕を浴びせかけるがシエラは多少の被弾を物ともせず弾幕を突破、20mm機銃を連射しながら接近し至近距離で76mmショットガンを発砲。
散弾を直撃させてアルバトロスを破壊、シエラはそのまま離脱する。しかしレクリーズは反撃するそぶりもまったく見せない。ここでシエラはあることに気づく。
「ゲオルギー・・・そいつは反応速度もいいし大火力も運用できるだろうけどさ、旋回性能ってどーなのよ。」
『・・・何?』
「狙撃用の15.2cm砲搭載機じゃん、そいつ・・・近接戦闘を想定してないじゃないかな?2機に囲まれたらやばいと思うけど?」
一瞬で弱点を見抜かれ、ゲオルギーはあせってしまうがその隙にカダールが10cmバズーカ砲を発射。回避が送れ左腕に砲弾が直撃。大口径の砲弾に耐えられず左腕が吹き飛ばされてしまう。
しかし反撃に発射されたFV-24Aをまともに受けてカダールはバズーカを損傷、発射できなくなる。形勢が逆転したゲオルギーは直ぐにガストを目標として捉える。
『頼りない司令官だな、カダールは・・・こんなに弱かったとは。』
「え・・・ちょ、ちょと隊長!?」
一瞬でシエラは大体の状況を把握した。丸腰で何も出来ない状態になっているのだ。シールドが吹き飛ばされ、バズーカもミサイルもなければ対抗することは殆ど不可能だ。
『・・・シエラ、悪いな・・・』
「いいよ・・・こんな奴、私で何とかするから見てて!」
もう1発間接にショットガンをぶち込んでやればレクリーズの脚を吹き飛ばせる。そう思ってシエラはもう一度真正面から突撃を仕掛ける。レクリーズも片腕だけで15.2cmキャノン砲を構え、そのまま発砲する。
寸前でシエラは着弾を回避するがレクリーズは回避先を読みFV-24をすばやく連射。弾幕を浴びてガストは脚部を吹き飛ばされ仰向けに転倒してしまう。
「ちょ・・・!」
『残念だったな。いくらエースと言えども終焉は来る・・・せめてもの情けだ。俺が止めを刺してやろう。』
シエラはすぐにトリガーを引くがガトリング砲の銃弾が突き刺さり、20mm機銃も76mmショットガンも発砲できない状態にある。そこにレクリーズはガストの胴体へと15.2cmキャノン砲を突きつける。
「た、隊長っ・・・!」
悔しさと恐怖でシエラは悲痛な声を漏らすが、とたんにレクリーズが爆発を受けて転倒する。その後、何発も砲弾を受けて炎上してしまう。
シエラが目をあけて状況を確認すると、ストームがロックジャックを構えて居たのだ。すぐにストームはガストに接近する。
『大丈夫か、シエラ・・・泣きそうな声まで出して。』
「う、うん・・・それより脱出しないとね・・・」
『とりあえず操縦席に乗り込め。後梱包爆薬を仕掛けたら脱出する。』
そのままシエラはストームの操縦席に乗り込むが、とても狭くこの状態で脱出したらまず間違いなく大変なことに成りそうな体制で座席の間にもぐりこむのが精一杯と言う状況だ。
その間にカダールは撃破したヴァンツァーのバックパックから梱包爆薬を回収すると、奥にある制御室に仕掛ける。制御室は無人だが、エンジンなどが置かれていて爆薬1つでも十分爆破出来そうだ。
「そ、そろそろ脱出しない・・・?」
「そうだな、そろそろだ。きついが少々我慢してもらうぞ。」
それだけ言うと、カダールはストームを反転させローラーダッシュで離脱。同時に梱包爆薬のスイッチを入れる。操縦席で立ちながらちょうど抱きつくような格好でシエラはカダールにしがみつく。すると、無線機から声が聞こえディスプレイに顔が映る。
『・・・カダール・・・シエラ・・・』
「・・・まだ生きてるのか・・・」
うんざりした表情でカダールはゲオルギーを見る。操縦席には怪我をしたゲオルギーが映し出されているが、シエラはそっと声をかける。
「大丈夫?」
『・・・そんな風に見えまい・・・最後の願いだ。』
何だ、とカダールは視線を鋭くしてディスプレイ越しにゲオルギーをにらむが彼は真剣な表情で訴える。
『ザーフトラやアルメニアから祖国を守ってくれ。軍に在籍する限りでいい・・・頼む。』
「言われなくてもそうするつもりだ。安心して眠れ。」
言葉こそ冷たいが、わずかに温かさを含んだ声に安心したのかゲオルギーは微笑すると通信装置を切る。そのままカダールとシエラはプラントの扉から脱出するが、まだ戦闘が続いているようだ。
「全機、プラントから離れろ!爆発するぞ!」
カダールが無線を使い、大声で危険を伝えるとさっとシュトゥルムピングィン機はプラントから離れていく。無人機はシュトゥルムピングィン機を追撃し、ストームに敵機画発射した砲弾が直撃する。
「っ・・・!?」
「まずい・・・!」
2人が転倒の衝撃に備えると同時にプラントが爆発する。ローラーダッシュを仕掛けていたストームは着弾した衝撃で転倒するが、ダッシュしていた勢いがあったのか転がり続けてしまう。
無人機を次々に爆風が飲み込み、炎の中にその姿を消していく。ストームも何とか転倒を止めたが、衝撃波が機体内部にまで伝わり不気味な振動音をたてる。しばらくしてからカダールは目を覚ますと、シエラを揺り起こす。
「・・・シエラ、大丈夫か?」
「何とか、ね・・・」
シエラもようやく起き上がると、ルスラーンから通信が入る。
『こちらルスラーン。プラントが爆発した後、無人機は活動を停止した。おそらく指令系統を全て失い引き継ぎ先が無くなったために停止したのだろう。良くやった。シュトゥルムピングィン機は帰還せよ。カダールとシエラは回収用の装甲車を向かわせた。しばらく待て。』
「・・・待ってよルスラーン、皆無事なの?」
シエラが意外そうな表情でたずねると、勿論だ、と笑みを見せてルスラーンが答える。
『あの激戦で生き残るなんて、さすがペンギンだ。もっとも全員ボロボロだがな・・・必死に扉を守りきった。後でねぎらってやってくれ。』
「勿論だ。」
それだけいうとカダールはレバーを引いて正面のハッチを開く。そこから2人で外に出ると、呈した無人機とそれを牽引するEC軍のヴァンツァーが見える。
「・・・終わったね?」
「ああ。偽者のお前も出来る心配もなくなったし・・・世界平和も守ったかも知れないな。ああいう無人機が大々的に量産されたらどうなってたか。」
安心した様子でカダールはシエラの肩を抱き寄せる。シエラもそうだね、と笑みをこぼしながらカダールによりそう。
「・・・まぁ、10人くらいいたらいたで面白いじゃない。めっちゃ騒がしくて最強の小隊が完成するんだからさ。でもやっぱり・・・カダールの取り合いは嫌だなぁ。」
「ちょっと待て、今・・・」
「どーしたの?カダールってば。」
いきなり呼び捨てにされたことに気づき、カダールは目を丸くしてシエラを見つめる。
「・・・なんで急激に呼び捨てにした?」
「2人きりだから。あんまり機会も無かったんだからいいでしょ?」
屈託の無い笑みを見せられ、カダールもわかったとあきらめたようにうなずく。
「そうだな・・・シエラ、感謝してもしきれないほどだ。」
「いいのいいの。ゲオルギーが許せなかったしさ。ひどい奴だったし・・・」
何気なくシエラは笑みを見せて言うが、カダールは沈んだ口調で反論する。
「今でもひどい奴・・・とは思えないな。外敵の脅威を間近に感じていた元帥だ。マキャベリストの一面もあった・・・だからこそ心強かったし信頼も出来た。純粋に守りたかっただけだろう。」
「首都ぶっ壊して何千って人を殺しても・・・?」
「目的を見ると手段をいくつか飛ばしてでも迅速に実現しようとするのがゲオルギーだ。奴を許せないが理解は出来る。」
難しいなぁ、とシエラはつぶやき勝手に次の話題へと進めてしまう。
「それよりもさ、ゲオルギーの遺志守ってやるって約束したんでしょ?アゼルバイジャンを守る・・・って。どうすんの?」
「元帥不在の混乱している間にアルメニアやザーフトラがせめて来ないように1ヶ月間出撃待機状態を維持するくらいだな。ディートリッヒ中将にも頑張ってもらわなければならないしな。」
えー、とシエラは嫌そうに声を漏らす。タダでさえ疲れたのに1ヶ月も出撃待機などかけられたら神経が擦り切れてしまいかねない。そんなシエラを見て、カダールはぎゅっとシエラを抱きしめる。
「終わったら・・・ずっと一緒だからな?もう少しだけ待ってくれ。」
「・・・わかったよ、カダールってば・・・オーバーワークした分、甘え倒してやるんだから・・・」
そっとシエラは笑みを向けて、カダールを力強く抱き返す。楽しみだとカダールはつぶやき、そのまま回収部隊が到着するまで待つ。するとリヴィエが心配そうに無線を入れてくる。どうやらストームが転倒したところを見ていたようだ。
『隊長、無事ですか?』
「こちらカダール、無事だ・・・シエラも随伴している。部隊はどうなった?」
『あれだけ喰らってよく生きてたとわれながら思うよ、ったくもう。無茶ばっかりして・・・』
レジーナの元気そうな声を聞いて、シエラはよかったと胸をなでおろす。
「それだけ元気な声が出せればだいじょーぶだよ、レジーナ。それよか、戦況はどうだったの?」
『大半が損傷、EC空挺部隊にも多数の被害が出た・・・だがシュトゥルムピングィンはすべて生還した。隊長の言葉は間違いではなかったようだな。』
「俺が・・・?」
カダールが疑問符を抱くと、ハーネルは忘れたのか、とあっけにとられながら答える。
『世界最高の特殊部隊、だとな。』
「・・・あれはお前たちだから言えたんだ。ジュリアスやナミクも・・・一緒に居たからな。しかし本当にそうなってしまうとはな・・・」
カダールが苦笑しながら答えると、シエラが笑みを浮かべながらカダールに振り向く。
「当たり前じゃない。隊長が指揮してるんだからさ。はっきり言うよ・・・私たちは最高の部隊だ・・・って。」
『・・・そうだな。最高の司令官を持って誇りに思う。』
2人の言葉を聴いて、カダールはくすぐったそうに笑みをこぼす。
「俺もだ。お前たちが部下でよかった。シュトゥルムピングィンに万歳!」
ここ数年くらい聞けなかったほど、晴れ渡った声でカダールは堂々と宣言する。
この後、バクー市街地における一連のテロ行為、そしてナヒチェバンで発生した戦闘についてECは国際的テロリストであるグリムニルの犯行と判定、幹部二名を射殺したと発表した。それと同時にA型デバイスの全容も明かされ、世界中を震撼させると同時に人間の脳髄を直接使用する技術に関しての永久凍結を呼びかけた。
その一方でバクーは相当な攻撃を受け、死亡者5700人以上、負傷者は20000人にも上る。EC政府はアゼルバイジャンに復興や被害者のための補償を進めるための経済支援を行い、復興にも協力するとの声明を発表。
当事国アゼルバイジャンのアイゼル首相は「我が国においてテロリストの同調者を出した事は誠に遺憾であり、この攻撃によって死んだ多数の犠牲者、またこのテロ攻撃を食い止めるために散った勇士にに追悼の意を表します。私は復興を支援する政策の目処がつき次第、責任を取り首相を辞任する考えです」と述べた。
一方、シュトゥルムピングィンの隊員には勲章が授与されたが部隊の再編は行われていない。カダール指揮下の第1中隊には4/8にアゼルバイジャン国家勲章が授与された。
EC軍総司令部 2340時
「・・・はい、シュナイダーです。えぇ・・・」
総司令部で電話を取り、シュナイダーは敬語を使いながら話を聞く。
「はい。掃討作戦は順調に進んでいます。おそらく年内にECの協力者は掃討できるでしょう。アフリカ連合も巻き込んでおきます、ええ。」
そのままシュナイダーは冷静に受け答えを続ける。
「えぇ、当面リヴィエは連絡員として放置します。いずれはアゼルバイジャンを・・・はい、我々でもある程度の量産を。解りました。1名ほど生き残りがいるので、廻しましょう。」
話がまとまったのか、シュナイダーは安心した表情を浮かべると話題をしめくくる。
「解りました。では中東と中南米を監視します。またお会いしましょう、バーゲスト司令・・・」