Front misson Brockade

Misson-7 Escape from capital

 

1/18 バクー議事堂前 2031時

『ホークス隊4機、接近してきます!』

イーゲルアインスの後方に続くストライフが突撃を開始。リヴィエが報告をすると同時にサンオウルが先頭のストライフに直撃する。

だが、分厚い装甲のため一撃で倒れず立ち上がるとストライフはジュアリー1を連射しながら突撃してくる。他の2機も突撃し、接近戦を挑んでくるようだ。

『隊長、気をつけて!』

「わかっている、シエラも無茶をするな!」

突進しながらフラットソウルSGを発射するストライフにイーゲルツヴァイは両腕のショットガンで応戦する。するとブリザイアがストライフの背後からショットガンを発射、バックパックを破損させる。

一瞬だけ気を取られたストライフにバズーカ砲弾が直撃、爆発する。さすがに10cm砲を受けては増加装甲も持たず増加装甲ごと本体が大きくえぐられている。

「敵を撃破した、続け!」

『わ、わかりました!』

必死でシールドを構えながらリヴィエがモストロ24を連射。24mm銃弾がストライフに直撃するが相手もシンリブラとジュアリー1を同時に発射。分厚いシールドに衝撃が伝わり、次々に弾痕が刻まれていく。

『がら空きだぞ?』

『・・・!』

レーダーを見て、とっさにリヴィエはシールドのみをイーゲルアインスに向けながらストライフに発砲する。シールドにキーンセイバーが直撃するが真正面からの銃撃にクラスタシアがさらされる。

数十発もの弾丸が直撃し、クラスタシアが機能を停止する。前線レベルでは修復不可能なほど手ひどいダメージだ。

「リヴィエ、脱出しろ!」

『わかってますが、脱出ハッチが・・・!』

開かない。そうなれば行動は1つしかないと思いカダールはすぐに行動に出る。10cmバズーカ砲を発射しながら前進、ストライフに直撃弾を与えながら直進する。

2発の砲弾がストライフに直撃、胴体部分の増加装甲を突き破り操縦席を大きく抉り取りもう1発は腕を吹き飛ばしている。ストライフはそのまま沈黙、倒れこむ。

「機体を放棄しろ!高価だが置き去りにするぞ!」

『だめです、イジェクトレバーも故障して・・・!』

「だったら俺に任せておけ!奴を倒す!」

といっても近距離用の武装が一切ないカダールにはきつい話だがやるしかなかった。ホーネットを発射するが、あっさりとイーゲルアインスが回避してしまう。

『バズーカで接近戦だと?弾の無駄遣いだな。』

「どうとでも言え。リヴィエを守らせてもらう。」

脱出不可能らしくリヴィエは必死に扉をたたくがそれでも開く様子がない。そうなれば敵を殲滅して運ぶしかないだろう。

シエラは増援として到来したBT66戦車2台と、ハーネルはストライフと交戦しているため救援など求められない。こちらの救援にくれば、確実に背後を突かれる。

『守る、なぁ?英雄的行為は戦場において死を早めるだけだぞ?』

「知らんな。」

近距離でミサイルは発砲できない。バズーカも接近戦での取り回しが悪く一撃を与えるのは難しいだろう。それでもカダールは慎重に狙いを定める。

イーゲルアインスが接近するぎりぎりまでひきつけてか発砲すればよけられないだろう。ロドリゴ機が接近してくるのをカダールはじっと待つ。

「来た!」

キーンセイバーを振り上げ、イーゲルアインスが攻撃態勢に入ったのを見計らいカダールはトリガーを引く。だが、そのときにはイーゲルアインスが横に跳躍して回避している。

『甘かったな。振り上げたらすぐ攻撃と言うわけでもないだろう?』

「・・・っ!!」

側面からキーンセイバーをたたきつけられてストームが吹き飛ばされる。転倒すると、イーゲルアインスがじっくりとストームに接近する。

『隊長、何があったの!?』

「シエラ、お前達は戦いに集中しろ!」

カダールが怒鳴りつけるが、無線が故障したらしく声が送信できていない。一瞬だけカダールは何があったのかわからなかったが、ロドリゴからの音声が聞こえてくると同時に何があったか判断した。

『急に黙ったか・・・まぁいい、止めを刺すとしよう。』

イーゲルアインスがキーンセイバーを振り上げるが、その途端に輸送用トレーラーが議事堂前の大通りに出てくるとアクセル全開で突撃を仕掛けてくる。

『しゅ、首相!?』

『黙って見ているわけにはいかない。愛国者を私は見捨てるわけには・・・!』

先ほどアイゼルとゲオルギーを乗せたトレーラーが突撃し、イーゲルアインスへと高速で衝突。イーゲルアインスは大きく吹き飛ばされてしまう。

『な・・・何!?くそっ、駆動系にダメージが・・・!』

『早くして!クラスタシアをウィンチにくくりつけて!』

あぁ、とカダールがストームをたたせるとシールドを装着した腕でトレーラーのウィンチにクラスタシアを引っ掛ける。トレーラーがクラスタシアを牽引、荷台に載せるとそのままバックする。

「撤退だ、シエラ!ハーネルも切り上げろ!」

カダールは叫ぶが、無線はまだ故障しているらしい。だが引き際を察したのかブリザイアとイーゲルツヴァイも後退しそのまま第1埠頭へと引き上げる。ストライフも追撃してくるがカダールはすぐにサンオウルを発射。

ストライフにミサイルが突き刺さり、爆発する。カダールはほっと胸をなでおろすと、そのままイーゲルツヴァイに続き、第1埠頭まで後退する。停泊していた揚陸艇にトレーラーとヴァンツァーをとめると、揚陸艇が出航する。

『よくやった!司令の救出に成功したな。』

『ルスラーン、隊長は無線が使えないのでこっちに連絡よこして?敵哨戒艇は発見できる?』

『データを揚陸艇に転送した。万一発見されても撃沈すれば良いだろう。』

30mmCIWS程度しか搭載して無い哨戒艇ならヴァンツァーで何とか対応できる。了解、とシエラは応答するとカダールは真っ先にヴァンツァーから降りる。

あの閉鎖空間で誰とも会話できない状態はこたえるらしく、カダールの表情には疲労がたまっているのがはっきりとわかる。もっともイーゲルアインスに撃破される寸前になればあせるのもわからなくは無いが。

「・・・そうだ、クラスタシアは?リヴィエは!?」

すぐにカダールはトレーラーに近づくと反乱軍の兵員はバーナーを使ってクラスタシアの非常用扉を焼ききっている。ハーネルのブリザイアも扉に手をかけると、一気に引っ張りあげて扉を開く。

兵員を押しのけてカダールが操縦席を見ると、いくつかの銃弾が貫通こそしていたがリヴィエに目立った外傷は無い様子だ。

「隊長・・・」

「リヴィエ、無事か!?」

脳震盪を起こしているようだが、リヴィエはがっちりとカダールの手を握る。カダールが引き上げると、すぐに兵員がシートをしいて寝かせる。

「ねぇ、私がわかる?リヴィエ、ねぇ!」

「大声出さないでください・・・少尉、わかりますよ。」

よかった、とシエラの表情から険しさが消えてそのままリヴィエに抱きつく。

「・・・シエラ、その辺にしておけ。脳震盪を起こした奴を動かすのはまずい。」

「あ、ごめん。でも無事でよかったぁ・・・」

涙まで流しているシエラにカダールは大げさだ、と言い放つがリヴィエに近づき、手を握る。

「・・・無事でよかった、リヴィエ。」

「隊長・・・感謝します。」

短く返事を返すと、リヴィエは疲れたのか静かに寝息を立て始める。周囲の兵士が一安心するとルスラーンも無事でよかったなと連絡を入れる。

「ルスラーン、まだ見てたの?」

『UAVの燃料がまだ持つからな。まぁ無事がわかったからそろそろ帰る。また会おう。』

盗撮はよくない、とシエラは突っ込みたかったが注意しようとした途端に通信が切れる。UAVが収納されたようだ。

あーあ、と思いながらシエラが艦橋側に座り夜空を眺めていると、ハーネルが近づいてくる。

「ヴァンツァーの操縦だが、どこでそんなものを覚えた・・・?相当な腕前だな。」

カダールについていけるだけの技量をみて、ハーネルは素直に感心している様子だ。シエラはそう、と逆にたずね返す。

「私は隊長に言われたことをしっかりと覚えて、そのとおりに行動してるだけなんだけどなぁ。可能な限りね。」

「だが、それだけでそんなに出来るものなのか?」

「出来るんだよこれが。すごいでしょ。」

ああ、とハーネルはうなずいてシエラをしげしげと見る。兵士としては射撃のセンスがいい程度で陸軍の歩兵という観点で見ると大して強くも無さそうではある。腕相撲なら簡単にひねれそうな細い腕を見ているとそう思えて仕方ない。

「・・・念のために聞くが、陸軍の歩兵訓練は?」

「2、3度出たけどぜんぜんダメだったね。共感の評価だと体力という面では今ひとつだってさ。射撃と軽車両の操縦はかなりよかったけど、酔ったし・・・」

やはり、根本的に歩兵とヴァンツァーは違うのだろうとハーネルは改めて実感する。USN海兵隊を視察したときは歩兵訓練7割にヴァンツァーの訓練3割という配分だったのを思い出した。

歩兵に出来ないことはヴァンツァーにも出来ないとUSNの部隊長もよく言っていたことからもわかるようにUSNはどうもヴァンツァーを鎧とか体と見ている風潮がある。OCUでも「厚着」だとか言っていることを考えると似た雰囲気なのだろう。

だが、目の前にいるシエラを見てやはりそれは無いんじゃないかとハーネルは思うしかなかった。結局は兵器であり道具だ。兵器も道具も使い手を選ぶものであり意外な人物が適応する可能性だってある。ECやザーフトラでも「ヴァンツァーは陸戦兵器で、装甲車の機動力と戦車の火力を持った兵器だ」と教えていた。

「何か考え事?」

「なんでもない。ただUSN軍がおかしいなと思った・・・」

「あ、それわかる。PMOの時行ったけど歩兵の訓練ばっかりやってるの、ヴァンツァー部隊なのに。」

シエラもやはりおかしいと思っているらしい。歩兵出身者からの採用も多いというのもかなり気になるらしい。そもそも完全なグラスコックピットで歩行時の振動こそあるが力を要する部分は少なくむしろ機械工学に長けた人員の方が向いている。(※1)

「まぁでも、歩兵のほうが躊躇無く敵を撃てるんじゃない?ヴァンツァー1機を有効に使えるという意味では。」

「精神的なものは結局別物だ。恐怖を受け入れるか麻痺するか、何にしても実戦を経験させないとどうしようもない。歩兵出身でも撃てない奴は撃てない。」

シエラはうなずいて見せるが、言い方が気になってたずねてみる。

「あれ、ハーネルって元々どこにいたの?」

「ザーフトラ軍だ。最初は歩兵だが、ほとんど装甲車に乗っていた。BTR-84にも何度か乗ったが・・・それからヴァンツァー部隊に転属だ。上官に進められ、給料があがる上に指揮を任せるということでだ。」

ふーん、とシエラもうなずいてみせる。確かにそういう経緯で絶対数の足りないヴァンツァー部隊を早急に編成する事例はよくある。

「じゃあ何でここに?」

「聞くな。」

そっけなくハーネルは答え、揚陸艇でヴァンツァーやトレーラーの応急修理をしている兵員の元に向かう。シエラは聞いたらまずいのだろうと思い、また退屈そうに夜空を見上げる。

星空はきれいだが、シエラにはもう見飽きた光景でありさっさと基地に帰りたいという思いが強くなっていた。リヴィエも無事なら、さっさと寝たいところだが政府軍の哨戒艇やヘリが来たら真っ先に戦わなければならないため、起きている必要がある。

 

「司令は今どこに?」

「中将と奥の個室で原稿を練っています。明日、発表を行い全世界にザーフトラへと宣戦布告を行う様子です。」

なるほど、と兵員から話を聞きカダールは損傷したクラスタシアを見る。大規模な修理が必要でありここではどうにも出来ないほどの損傷を受けている。

「別の機体にしてもらったほうが良いですね、せっかく新しいヴァンツァーだったのに・・・とりあえず、資材集積所で直せるだけ直しますが修復には相当の時間がかかります。」

「なるほどな。当面は無理か。」

申し訳ありません、と反乱軍の兵員も情けない声を出してしまう。カダールはリヴィエの機体をどうするか考え始める。

彼女の戦闘経歴を考えてみるとどうも回避行動は下手だ。だからいっそ出力と装甲を重視したツェーダーあたりがいいのだがマシンガンの方が得意そうだ。

だからある程度の機動力を持ち、出力と装甲に秀でた機体がほしい。そうはいってもなかなかそんな理想的な機体はなかなか無い。クラスタシアくらいしかカダールも思いつかないのだ。

「何か考えているの?大尉。」

「司令。何かありましたか?」

さすがに自分達をまとめる司令官だけあってカダールは丁寧に答える。

「いえ、原稿も終わったし夜風に当たろうと思って。そうかしこまられても・・・」

「気になさらず、司令ですから。」

「確かに。でも、同志と距離は置きたくないものね。特に命を助けてもらったあなた達には。」

もったいない、とカダールは照れ隠しのためか思わずうつむいてしまう。人柄がよかったためかカダールはこれからの政府がよくなるんじゃないか、と淡い期待を抱いてしまう。

「紛争が終わった後、おそらく貴方達はEC総司令部の命令で数々の特殊作戦に従事させられることになるかもしれない。それは覚悟して。」

「どういうことで・・・?」

「ECの影響力を完全に排除するには私達の力を見せておかなくてはならない。ECの特殊作戦やPKFとしてあなた達を派遣することになると思う。国民のためにも、ね。」

ある程度の軍事力を見せつけ、いざとなれば立ち向かうと言う覚悟を見せておけば下手に圧力もかけられない。ECはとにかく、ザーフトラとアルメニアにはさまれての情勢では軍事力もものを言うのだ。

2度の侵攻を受けてロシアやザーフトラにいいようにされてきたが、もうこれ以上侵攻は受けさせたくないようだ。

「・・・俺達に休む間は無いようですね。」

「そうなると思う・・・けど、ザーフトラやアルメニアの工作部隊とかにこの国をいいようにされたくは無い。過去、特殊部隊で事件や作戦行動がつぶされた例も多いから。」

「そのための抑止力と・・・」

強力な特殊部隊がいれば相手の妨害工作を排除することも可能になる。アイゼルの言うとおりヴァンパイアズや自由の星といった一大勢力も特殊部隊により手痛いダメージを受けている。

主要戦闘に強いだけでは軍は強くない。非正規戦闘での強さもまた軍隊の強さと言える。

「ええ。まずはこの内紛を終わらせてザーフトラの圧政から開放しないと。終わらせたら平和な国にしたいと思っている。」

「その言葉、信じますよ。」

ありがとう、とアイゼルはうなずくとまた個室へと戻っていく。揚陸艇には珍しいが仕官用の部屋があるらしくそのスペースをアイゼルとゲオルギーで分け合っている。他の兵員はヴァンツァーや艇内のヒーターで暖を取る。

途上のヘリや哨戒艇などは無く、無事に揚陸艇はランカランへと帰還することが出来た。

 

1/19 0941時 ランカラン資材集積所

『我々はここにアゼルバイジャン開放同盟を結成することを誓います。今こそ我々はザーフトラの圧政から解放される権利を得たのです。志ある国民や国家はランカランやハチマスに集まり、ザーフトラと戦い祖国の誇りを取り戻すのです!』

アイゼルが市民ホールを借りて行った演説はその日のうちに各地の衛星放送や主要な政府にむけて放送された。EC以外にもCAUイラン、OCUからも支援の約束が取り付けられたらしい。

ランカランの資材集積所は元の役目を果たし早速CAUから食料と共に歩兵用弾薬、武器食料や戦車や装甲車。そしてヴァンツァーのパーツまで届いている。いまだに雪が降り続けるが大型のドーザーが雪を掻き分け、温水で氷を溶かし作業機械が滑らないようになっている。

「すごい量だねぇ・・・」

シエラは悪漢の光景に目を丸くしている。リヤード・アーマメンツ製(※2)の新型戦車であるV6アーノルド戦車が輸送されてきている。他にも同社製WAS(※3)ジャンビーヤ級(※4)などが待機している。

他にもECやUSN製のヴァンツァーもそろっている。兵員が全員乗っても良いほどの数がそろいシエラは満足げだ。

「満足するな、シエラ。これは始まりだ。」

「わかってるよ。同盟軍と政府軍の戦争はこれからでしょ?」

資材集積所には現政権に不満を持っている市民や志願兵が集まり、あわただしく駆け回っている。これから戦争をするのだから、これくらいの喧騒は当然とも言える。

カダールはこれほどの大軍でも政府軍やアルメニア、ザーフトラ軍と戦うのは足りないと思い真剣にならざるを得なかった。アイゼルの言葉を聞いた今となれば、余計に生き残らなければと自分に言い聞かせる。

「何だあのヘリ・・・」

見慣れない大型ヘリが来たのを見てカダールとシエラがそのヘリに視線を向けると赤い日の丸のマークが見える。日防軍の輸送ヘリだ。そして出てきたヴァンツァーにカダールは目を丸くする。

「炎陽の最新型か?」

胴体部分の流線型は150年前の戦闘機にも通じるような鮮やかな曲線を描いている機体。だが炎陽にくらべ胴体や腕部分の装甲が一回り強化された、日本独特のカラーリングを施した機体が降りてくる。

早速2人はヘリに近づくと日防軍の兵員が指示を出している。暇そうな人員を見つけカダールが話しかける。

「あの機体は何なんだ?」

「110式陣陽といって日防軍に納入されたばかりの新型だ。炎陽のバージェンチェンジ型で装甲を追加、大出力エンジンで出力もある程度確保している。格好良いだろう?」

「ああ。かなり・・・!」

思わずカダールが見とれるようなその機体は日防軍独特のオリーブドラブカラーがよく似合っている。

「予備機はあるか?出来ることなら・・・」

「いえ、さすがにそれは・・・前線部隊分しか持って着てないんだ。悪いな。」

そうか、とカダールは残念そうにため息をつく。なんとなくリヴィエには似合いそうな機体だと思ったがもらえないのは仕方ない。とりあえずECからアブニールとかギザとかがあるから後は選ばせようと考えてしまう。

「仕方ないよ、隊長。格好良いけどさ。」

「・・・わかった。」

しぶしぶカダールは立ち去っていく。高望みはよくないとシエラにも言われたが、まだ未練があるらしくちらちらと陣陽を見ながら自分達の格納庫へと向かう。

新品同然に修理されたヴァンツァー3機と、新たに追加されているリヴィエ機のスタブラインがいる。ただし左の腕はツィカーデに交換され、シールドを装備している。グレネードは幸い無事だったためワイルドビークをそのまま搭載しているようだ。

ちょうどよくリヴィエが操縦席から降りてくると、疲れた様子で2人に言う。

「これ、かなり疲れます・・・ホバー脚部だと目の回るような忙しさで、滑りますし。」

「わかった、脚部はツィカーデのに交換しておこう。」

ホバー脚部は出力を強めて段差を超えたりするため慣れている人物でなければ扱いこなすのは難しい。挙動の感覚もかなり違う。

シエラは大丈夫だよ、とリヴィエをなでてしまう。そんな年齢でもないが、とにかく無性になでたくなったようだ。だがリヴィエは彼女の動作を気にせずカダールに返事をする。

「このスタブライン、最新型なのか?今気づいたが・・・」

「ええ、重武装発展型(※5)のようです。」

カタログで見たよりスタブラインの武器腕が一段と太くなり、肘部分を固定しているのがカダールにははっきりとわかった。おそらく反動を押さえ込むためだろう。また胴体内臓のバルカンも大型化している。

するとクレーンでスタブラインが吊り上げられ、脚部が取り外されるとツィカーデの脚部を搭載する。バランサーのデータを読み込んだ後、胴体を吊り上げたクレーンが取り外される。スタブラインはアンバランスながらも直立している。

「リヴィエ、何か反応してよ。せっかくなでてるのに。」

「いえ、落ち着いていますよ。」

なんだぁ、とシエラがつまらなそうに手を離す。リヴィエはやれやれと内心思いながらも2人についていき格納庫から離れる。

「しかし、同国民同士の戦い・・・ですか。」

「リヴィエ、そんなことを考えるな。民族や国民じゃない、敵か味方か・・・だろう?」

はっきりと断言するカダールをみて、リヴィエはやっぱり強いと思いながらもそう割り切れずにまだ悩んでいる様子だ。

「同じ国民といっても結局他人じゃない。リヴィエだったら町の人が銃を構えてきたら止める・・・もしくは倒しちゃうでしょ?」

「・・・あ、ええ。」

それと同じか、とリヴィエも納得する。結局は銃を向けてくる相手を指示通りに倒すだけの仕事でしかない。

シエラも、そう思っているから躊躇無く敵を倒せる。銃を向けたなら、それは倒される覚悟があることの意思表示だと考えている。

「あんまり難しく考えないほうが良いよ。頭が詰まっちゃうから。」

「わかりました、でも詰まるというのはどういうことで?」

適当に発しただけの言葉に突っ込まれシエラは次の言葉をしゃべれず、固まってしまう。

「つ、詰まるは詰まるなの!とにかく行こう!」

「行くってお前、格納庫に用件だろう?リヴィエと訓練をするのではなかったのか?」

シエラは思わず固まってしまうが、カダールは微笑するとはしごを上ってストームに乗り込む。

『早くしろ。シミュレーションを開始したぞ。敵はキャニオンクロウだ、ちょっと苦戦するぞ。』

「わ、わかった!」

無論初期メンバーの5人だが侮りがたい実力のため、シミュレーションデータの最上級として挿入されている。もっとも今の彼らでは手ごわい敵、程度でしかないのだが。

シエラははしごをあがり、イーゲルツヴァイへと乗り込む。ハーネルはすでに乗り込んでいるらしく、シミュレーターが開始される。

 

2094年、1月19日・・・各地の民族主義、独立運動を再燃させるきっかけになった紛争であるアゼルバイジャン紛争、同国では「1月革命紛争」と呼ばれた戦争が始まった。

 

続く

 

 

 

(※1)
2ndのリラとかリーザ、サユリ。3rdのエマやアリサ、ユン、2089のオッドアイから見ても軍事訓練に関してはさほど意味がなさそうである。射撃のセンスは必要だがGもあまりかからない(大体歩くか時々ローラーダッシュ、急加速するが70km/h程度だと自動車でスピードを出す程度)ので射撃と立ち回りと反射神経さえあれば何とかなりそうではある。5thでは歩兵出身者を募ってる一面もあったが、あんなんだから2089でストーム隊に海兵隊がボロボロにされたのだろう。

(※2)
オリジナルのメーカーでCAUサウジアラビア製の複合産業メーカー。砂漠地帯に強い自動車や陸上兵器、歩兵銃に定評がある。せっかくなのでメーカーが不明だったV6アーノルド戦車もこのメーカーで作られたことに。創業は2024年、自動車などの修理メーカーが発展してCAUでは少ない大規模兵器産業のメーカーになった。略称RA社。

ついでなのでV6アーノルドの設定も。

V6アーノルド
2075年、CAU主力戦車のコンペでヴェルダ社のBT66改、ドミトーリのT-78と争い採用されたモデル。ヴァンツァーの機銃対策として側面を覆うスカートやヴァンツァーのセンサーを応用した照準システムを備えている。センサーは特殊な鋼板の裏に収納し、露出していないため被弾にもかなり強い。
主砲は13cm滑腔砲を使用。同軸機銃と上部機銃に12.7mm機銃を搭載している。オーソドックスなスタイルながら局地での運用に適し、照準システムもシンプルながら信頼性、生産性に優れていたためCAU陸軍で採用。
2094年現在では後継のV7サムソン2に主力の座を譲ったが現在でも戦車どころかヴァンツァーにも通用する性能を持ち、信頼性も高いため採用している国家は多い。CAUの敵国であるUSN領内でもベネズエラ軍が採用している。
無論戦車のため、速度はあっても機動力はかなり低く敵の攻撃を回避するという芸当は難しい。

(※3)
Wander Sonderkraftfahezeug(ヴァンダー・ゾンダークラフトファールツォイク)の略称。行ってみれば人型特殊車両というところ。支援ポッドの本作品での呼び名。他にもWASd.kfzとか書いたりする奴もいる。何故この呼び名でわざわざ書いたかというと2nd未経験時、支援ポッドって何ですか状態だったのである。そして他の作品にも出てきていないが「爆発的に売れた」とか「霧島重工やバレストロを一流メーカーにした」とか書かれてるのを見ると「何でヴァンツァー技術使われてるこいつがポッド扱い?」とか「もっと詳しく書け」とか突っ込みたくなったのである。せっかくワーゲンとかパンツァーとか使ってるのでこいつもドイツ語風に名前を付けるとしたらこうなるだろうと考えた。2ndにしか出てなくて爆発的に売れてるなら、もっとマシな名前つけてやったらどうなんだろう。

ちなみにあんまり設定が詳しくないのでこっちでもついでに書き加える。
リペアバックパックと同等の修理機能を持った小型WAWが一般的であり自衛用のシールドとヴァンツァー用火器を装備可能。(ただしマシンガンとかショットガン程度。当然でかすぎると無理。格闘武器やバズーカ、ライフル。および肩の武装はでかすぎて装備不可能。格闘武器も無理。)ただしヴァンツァー火器は出力の都合上1基しか搭載できない。内臓武器を使っているタイプはおそらくだがシールド程度しか装備できない。
このくらいの機能があれば「爆発的な売れ行き」になったりするのではないか?
ちなみに筆者はドイツ語に詳しくないのでわからないがもしかしたらWAKと言う可能性もあり。(Wander Kraftfahezeug)

(※4)
RA社製のWAS。全高3m程度で内臓火器として20mm3連銃身バルカンを装備する機体で軽装ヴァンツァーのエンジンをそのまま搭載したためWASとしては出力がかなり高い。高出力リペア装置を備えた1型と装甲重視の2型、RA社製の40mm機銃に換装し攻撃力を高めた3型が存在する。ただしWAP用火器の装備は不可能。CAU陸軍に採用されている。海軍にも「艦艇のダメージ補修用」としてジェットパックを付けた2型の改造型を採用している。ジャンビーヤとは短剣の名称でありRA社は武器の名前をヴァンツァーやそれに近いものに付けている。

(※5)
武器腕の17mm機銃と胴体内臓23mm機銃とあるがどうも既存の弾丸と違う上に威力も低い。せっかくグレイブという名作があるので武器腕にグレイブの機構を移植した32mm機銃、胴体に23mm3連銃身バルカンを搭載した重武装発展タイプにした。ヴァンツァーの弾薬に規格は無いらしいが、メーカー内部では口径は統一しているはず。新規の弾丸を作るのは意外とつらい上に明確なコンセプトがないとメリットが無いため廃れる可能性が高い。(実際の銃でも15mm弾を使った重機関銃や4.65mmケースレス、英国製4.8mm弾などは失敗に終わっている)。

inserted by FC2 system