Front misson Brockade
Misson-6 Brockade in underwater defense line
1/17 ランカラン資材集積所事務所 1940時
「何なんですか?ここに呼びつけて。」
カダールにシエラとリヴィエ、ハーネルの4人を呼ぶとディートリッヒは後ろのホワイトボードに作戦概要を描きこんでみせる。首都バクーからランカランまでの地形だ。カダールは思わずシエラとの逃避行を思い浮かべてしまう。
「貴官らを呼んだのは他でもない。少数精鋭によるアイゼル首相、およびゲオルギー中将の救出作戦だ。そこで現在ルートを考えているのだが、なかなかこれと言った案が出てこない。」
補佐官も困った様子でホワイトボードを見ている。2本のラインが入っていて、それぞれ陸上案と海上案らしい。
「これが現在のランカラン、バクーには陸上を迂回するか、海上ルートの2つがある。ここからどうやっていくかが問題だ。」
「へー、こんな感じねぇ。」
補佐官の説明を受けてシエラはイメージを重ねどんなものが待っているかを考えてみせる。海上ルートなら民間貨物船に化けたところで哨戒艇に捕まる。陸上を進軍したら3日4日はかかってしまうだろう。
「ECの輸送機で空からはどうだ?」
「いや、航空爆撃を恐れ首都周辺に新型の迎撃ミサイルを配備したらしい。性能が未知数な以上、無茶は出来ないだろう。」
カダールはこれもダメか、とため息をつく。といってもすぐに救出しないと首都で処刑が行われてしまう。そうなれば反乱軍は単なるテロ組織に成り下がる可能性も高い。
そうなればECも支援を引き下げるしかないだろう。政府軍は反乱軍の繊維が落ちることを見越して、直ぐに処刑を敢行するに違いない。
「でも、迂回路は取れないしトレーラーは通行止め。陸路は無理ですね・・・」
リヴィエもうーんとうなってしまう。どうやって進撃するかが問題だ。空路でさっさと始末したいが輸送機も貴重なため使い捨てには出来ない。でも海路でヴァンツァーを運べば間違いなく見つかり陸路は危険が大きすぎる。
「先制してステルス爆撃機で迎撃ミサイルを破壊できないか?そうすれば空挺部隊で到達できるかもしれない。」
「いや、危険が大きすぎる。迎撃ミサイルの配備位置もまったくわかってない以上うかつに爆撃するのは危険だ。」
これもダメか、とカダールが首を振ると思わずシエラが窓の外を通ったヴァンツァーにめをやってしまう。ECから供与されたガルボの最新型だ。
「あれ、ガルボの最新型・・・」
「少尉、会議に集中しろ。今は大事な会議中だぞ!」
姓を呼ばれてシエラはごめん、と補佐官に謝ってみせるが、何かいい案が浮かんだらしく少し考え込む。確かガルボは水中用WAWがベースだったはずだ。
「・・・何か考え付いたか?」
ハーネルがたずねると、シエラはうなずき海上ルート案をホワイトボードに備え付けられた棒で示してみせる。
「海上ルートで、途中からヴァンツァーで潜って進むのはどう?」
「ヴァンツァーを潜らせるだと!?」
突拍子も無い案に補佐官は驚くが、カダールは割りと悪くないかもしれないといいシエラの意見にうなずいてみせる。
「出来なくも無いだろう。去年のマン島占拠事件でブラウネーベルが潜水部隊を編成して強襲、人質を救出した。カスピ海に潜水艦をもぐりこませようと言う連中もいないから哨戒艇にソナーは搭載されていないはずだ。」
2093年、ECイギリスのマン島を武装集団が占拠する事件がありそのときにブラウネーベルやバーゲストなどの対テロ特化戦チームが参戦。犯人は島全体にヴァンツァーを配備し住民を人質に取り、現金を要求してきた。
その際にブラウネーベルが取った戦術が潜水バックパックを使用し、ヴァンツァーで直接ECイギリスからマン島に乗り込ませる方法だった。作戦は成功し武装集団は壊滅、住民は全員解放された。
「だが、ザーフトラ軍の水中部隊もいるだろう。それはどう対処する?」
「排除してはどうですか?水中用の武装もあるはずです。」
リヴィエは以前、雑誌でヴァンツァーの水中用武装についての本を読んだことがありシュネッケ製の見慣れない銃器が水中用武器だと解説していたのを思い返した。水中でならヴァンツァーを破壊できると書かれており、水中部隊にも対応できると言われている。
「・・・上陸後は、使い捨てのECMポッドで本部への通信を妨害し輸送用コンテナを投下、目立たない場所で武装しバクーで首相を救出すればいいだろう。」
「だが潜水機材はどうする?」
「使い捨てと割り切って爆破するか・・・あるいはバクーの協力者に運んでもらえばいい。最悪フルトン回収(※1)という手もある。」
なるほど、とディートリッヒはうなずく。一番マトモに使える手段は潜水くらいしかないだろう。脱出なら港から輸送艦でも何でも奪って脱出すればいい。彼らにはそれくらいの実力があるのだ。
「作戦を許可する。直ちにECから必要な物資を搬入させよう。貴官らはそれまで潜水作戦のシミュレーターを一通り終えておくこと、いいな?」
「了解!」
「以上だ、解散。」
ここ数日以内に作戦を行わなければならないと聞き、直ぐに彼らはヴァンツァーへと戻っていく。早くても明日までに作戦を決行しなければならない。その気になれば政府は2日以内にでも処刑を実行してしまうだろう。
大急ぎで事務所を出て、コンテナの内部に入るとヴァンツァーに乗り込みシミュレーターのアップデート内容を確認しシミュレーターを開始する。
「上手く行くのですか?少将。」
「危険な賭けだが、それでもやるしかない。」
ディートリッヒは彼らなら出来ると信じているようだが、補佐官は大丈夫なのかと不安な様子だ。無論、成功の可能性はかなり低い作戦ではある。それでもやらなければ反乱軍が潰されてしまう。
「ECからの物資は明日到着するようです。」
「作戦決行時刻は明日1300時だ。輸送艦に乗り敵哨戒艇に発見されない距離から潜水、バクーへと潜入する。念のため水中戦闘用の武装をセットアップさせ、潜入ポイントにステルス輸送機でコンテナを投下する。潜水資材は後々民間の協力団体にトレーラーで送り返そう。」
「なるほど、しかしECに陽動とかさせないんですか?」
折角ECがいるなら支援爆撃くらいさせればいいと補佐官は思ったがディートリッヒは首を振り、作戦を否定する。
「我々の手だけでやらなくてはならない。アルメニア軍やザーフトラ軍の排除は任せてもいいが重要な局面を我々アゼルバイジャン国民の手で行ったという自負があればECの影響を最小限にとどめられる。」
大国に協力を要請すれば確かに影響下に置かれる。だが今でもザーフトラの影響下で検閲や盗聴が酷いのだからまだECの方がましと言える。少なくとも基本的な人権を尊重するだろう。
それでも、出来る限り利権などの影響力を少なくしなければ後々の政治に響いてくる。ディートリッヒも幹部の1人としてどう影響力をそぎ落とすか、常々考えている。
1/18 1800時 バクー沖65km洋上/輸送艦「ルサールカ」甲板
「ねぇ、全然着かないね。」
「文句を言うな。30ktしか出ないんだからな。」
ヴァンツァーから降りて、シエラは退屈そうに夜空を見つめる。カスピ海上空には雲が無く星が瞬いて見える。だが、彼女には30ktの遅さが納得できないようだ。
中型の輸送船だがランカランに停泊していた民間船のためそれほど速度は出ない。軍用貨物船なら40ktは出るのだが、贅沢は言っていられない。見かねたのかリヴィエがシエラをたしなめる。
「シエラ少尉、落ち着いてください。退屈なのはわかりますが。」
「でもさ、夜空を眺めるだけじゃつまんないよ。こんなことだったらヴァンツァーの雑誌でも買ってくれば良かったなぁ。」
そんなことをぼやきながらシエラは甲板上を退屈そうに歩き回る。だがそれにも飽きたのか甲板上に待機するイーゲルツヴァイの水中用装備をじっくりと眺める。
水中用のフレシェット弾を使うことでショットガンはそのまま利用できる。ただターボバックパックの間に挟まったバックパックにウォータージェット用の筒が搭載されている。これで水中での推力を得るのだろう。
カダール機はミサイルが魚雷発射管に変更され水中用バックパックが搭載されている程度で特に変更は無い。水中用砲弾を使えば問題なく発射できるらしいが、さすがにミサイルを水中で発射することは出来ないらしい。
「あんまり変わりないんだよなぁ、機体も。水中用装備っつーからどれだけ変わるのか期待してたのに。」
「そろそろ乗り込め。作戦時刻だ。」
「はいはい、よーやく退屈から解放されそう。」
カダールがヴァンツァーに乗り込むのを見て、直ぐにシエラもイーゲルツヴァイへと乗り込んで躊躇なく水中へとヴァンツァーを飛び込ませる。
わずかに遅れてブリザイアとクラスタシアも潜水すると一定深度まで潜行し、それから機体を前進させる。脚部が使えないためバックパックに搭載されたウォータージェットでの推進になる。
潜水バックパックに搭載されているのはウォータージェット推進のエンジンと水中通信用機材、そして索敵用のソナーが搭載されている。これでほぼ陸上と変わらぬ行動が可能になる。もっとも移動の方法が違うため操縦感覚は若干違うものになるのだが。
『結構綺麗・・・魚とか一杯いて。』
なかなか幻想的な光景にシエラは先ほどまでの退屈な気分がうせてしまったようだ。リヴィエも見とれているが、ソナーをみて通信を入れる。
『パッシブに感!4機ほどいます!』
「リヴィエ、敵の動きは!?」
『4機、こちらに気づきました。向かってきます!』
向かってきた。ならばもう隠すことも無いと思いカダールはアクティブソナーを稼動させる。パッシブは敵の音波を感知するだけだがアクティブソナーはこちらから音を出してその反響音で敵の位置を特定できる。
パッシブなら気づかれにくいが、敵機に気づかれたらパッシブをかたくなに維持するよりはっきりと位置のわかるアクティブソナーを使っても問題ない。
「アクティブソナーに変更しろ。敵部隊に気づかれた、隠す必要も無い。」
『了解、行くよ!』
シエラとハーネルの機が突撃、それと同時にカダールはロックオンを仕掛け短魚雷を発射する。目標は先陣を切って進んでくるジラーニ級だ。
スティックの先端にあるスイッチを押し込み、短魚雷を発射。2発の魚雷は白い航跡をなびかせながら突進。ジラーニに直撃し爆発する。
『目標ロスト、発射します。』
突撃してくる3機のヴィーザフ・ロークとジラーニにリヴィエが爆雷投射機から爆雷を発射する。水中で放物線を描くグレネードランチャーは使用できないため直接大口径の爆雷を発射するしか手段は無い。
爆雷は発射されると時限信管で炸裂、突撃してくる3機を巻き込んで爆発する。水中での衝撃波はすさまじく、満身創痍になったところにフレシェット弾(※2)が直撃、エンジンブロックを貫通されたのか爆発する。
『楽勝、まだいる?』
『まだいます。両翼から4機ずつ。哨戒部隊が接近中。』
『やれやれだね、こういうのってまずいんじゃないの?』
シエラの言うとおり、戦力を小出しにすることは非常に危険である。といっても水中の哨戒部隊という性質上戦力を集中させるのに時間がかかる。何にしても好機でありイーゲルツヴァイとブリザイアは右翼の敵に突撃する。
「当然だ。戦力を集中投入出来なければ戦争は負けるからな。リヴィエは左翼の敵に爆雷を撃ちまくれ。弾を惜しむな。」
『了解。』
リヴィエの応答を聞くと、カダールはバズーカから水中用砲弾を発射。砲弾は2機の間を通り抜けてジラーニへと直撃。爆発する。
間髪いれず、シエラ機がショットガンを発射。フレシェット弾が直撃しジラーニは水中用マシンガンを発射する前にエンジンが停止、沈んでいく。パイロットはとっさに脱出し、必死に泳いでいるのが見える。
『水深50mで助かるかな?』
『余計なことを考えるな。』
ハーネルにぴしゃりといわれ、そうだねとシエラもうなずく。ブリザイアが水中用のロッドを振り下ろし、ヴィーザフ・ロークに電撃を浴びせる。ロッドが直撃したところにハーネルはショットガンを発射。
フレシェット弾が操縦席に直撃、その後にバズーカ砲弾がヴィーザフ・ロークに直撃して爆発する。
「撃破したぞ。リヴィエ、左翼は?」
『こちらも爆雷の連続発射で何とか食い止めてる。今2機目を撃破!』
水中の爆発は地上よりも威力が大きく、爆雷の爆発を近くで喰らったジラーニが原形をとどめないほどつぶれ、沈んでいく。
残り2機のジラーニは同時に突撃、クラスタシアにマシンガンを発射するが直ぐにリヴィエはシールドを構え、銃弾をはじく。
『今助けるよ、リヴィエ!』
イーゲルツヴァイが最大出力でジラーニめがけ突撃、ショットガンを発射しながら距離を詰めていく。ジラーニが一瞬だけイーゲルツヴァイに注意を向けた瞬間、リヴィエは水中用マシンガンを連射、ジラーニの頭部を破壊する。
ヴァンツァーの頭部に一撃を加えてもセンサーを一時的に破壊するだけで予備センサーやカメラがあればまったく意味は無い。だが一瞬の隙をついてイーゲルツヴァイが零距離にまでジラーニに接近、銃口を突きつけるとショットガンを発射する。
フレシェット弾が直撃し、エンジンブロックが破壊されたのかジラーニは沈んでいく。搭乗員も生きていないようだ。
『あ、ありがとうございます。』
「後は任せろ。リヴィエ!」
ストームから短魚雷が放たれ、ジラーニをロックオンして向かっていく。かなわないと思ったのかジラーニはバックパックから水を放出し浮上する。あの様子では戦闘するつもりも無い。脱出するつもりだろう。
しばらくしてから短魚雷が直撃、ジラーニが沈んでくる。アクティブソナーには敵機の姿は見当たらない。
「作戦成功だ。迅速にバクーへと向かうぞ。」
『了解、行こう!』
わずかに深度をあげて、4機はそのままバクーへと向かう。哨戒艇もこちらに気づく様子はまったく無く、順調に潜行を続ける。
「デムチェンコ中将・・・やられました・・・」
『何だと!?』
脱出したジラーニのパイロットが、ザーフトラ軍の本部にいる司令官と話をしている。南部中央アジア方面軍司令官のウラジーミル・デムチェンコだ。
「空挺部隊の水中警備隊が壊滅しました、アゼルバイジャンの反政府軍です・・・おそらくは第41機動中隊のメンバーかと。」
『連中か・・・お前達は何をしていたのだ!この役立たずが、さっさと戻って詳しい状況を報告しろ!』
「は・・・はっ!」
生き残ったのは2人しかいない。空挺部隊のパイロットは厳しい叱責を覚悟して救援を待つ。いまどき敗軍のパイロットを銃殺するなどといったことが無いだけまだマシなのだろうが。
「大丈夫か、ユーリ?」
「・・・あぁ。」
先ほど浮き上がってきたパイロットを彼は救命ボートに引き上げる。反乱軍にしては動きが統制され、無駄が無く鮮やかな動きだった。
これは苦戦するんじゃないか、とパイロットは思ってしまう。ブリーフィングでは統制の無いゲリラだと言っていたが、士気が高いだけのチェチェン解放軍とはレベルが全然違う。
統率された動きであっさりと空挺部隊を打ち破って見せた。こんな敵にかなうはずは無い。誰が止められるんだとため息をつく。
バクー港湾施設 2040時
『こちらルスラーン、UAVで高度12000から追跡している。』
「了解。」
空中管制機であるルスラーンがカスピ海に進出、高高度偵察UAVでこちらの状況を報告している。どうやらサポートのために反乱軍が送り込んだようだ。
4機のヴァンツァーは陸に上がり、武装や弾薬をコンテナから取り出して交換する。水中用武装やバックパックはコンテナに収め、従来どおりの武装を施す。
『現在地、わかる?ルスラーン。』
『バクーの第1埠頭、マリーンポート付近のでかい埠頭だ。議事堂の目と鼻の先だぞ?』
おぉ、とシエラがライトアップされた巨大な議事堂を見る。首相が監禁されているのもどうやら議事堂らしく警備が厳重だ。だが装甲車と戦車がほとんどでヴァンツァーの数は少ない。
『ヴァンツァーは前線に出払ったのでしょうか?全然いませんね。』
「おそらくな。まさかバクーにヴァンツァーが攻め寄せることなど想定もしていないのだろう。」
BT66戦車とBTR-84C装甲車が周囲を警戒している。装甲車の方は10cm砲と同軸機銃に12.7mm機銃を備えている重武装型だ。
『議事堂の守備隊と一戦する?ちょっと首相に逃げられそうだけど。』
「いや、折角近い位置だ。議事堂裏にヴァンツァーを止めて白兵戦を挑もう。首相を救出したら空のトレーラーか装甲車に載せてこの埠頭に戻ろう。ちょうど良いものもある。」
カダールが後ろを向くと、エアクッション揚陸艇が停泊している。おそらくバクーから一気にランカランを制圧するための揚陸部隊を乗せていくつもりだろう。
『・・・確かにちょうどいい。こいつで逃げよう。』
揚陸艇には人がいない。そのまま乗り込めば奪えるだろうと判断しハーネルも納得する。早速ヴァンツァーに乗ったまま4機は行軍し議事堂裏の空き地にヴァンツァーを止める。
カダールは操縦席から降りるとSR-75サブマシンガンを構え、セーフティをはずすと周囲を警戒する。シエラとハーネルもそれぞれ銃を構えるが、リヴィエは慣れていないのか手が震えている。
「リヴィエ、無理はするな。だが・・・命令があるまで撃つなよ。」
「は、はい。」
『こちらルスラーン、ここは本当に議事堂なのか?眠そうな警備兵が2人裏門にいる程度だ。装甲車もいない。』
UAVの赤外線画像がヘルメットのディスプレイに表示される。片方はビンを片手に座り込んでいてもう片方はマジメに警備をしているようだ。壁に背を向けているがちらちらと隣の兵士を見ている様子だ。
「こっちだ、行くぞ。」
カダールを先頭にして4人が議事堂へ向かうと、警備兵の片方は暇なのかウォッカを飲んで酔いつぶれている。もう片方は酔いつぶれた兵士が気になり警備に集中できていない。
「私が何とかしてみようかな。隊長とハーネルで隙をみて気絶させちゃって?」
「任せろ。」
それだけ言うと、シエラはSR-75をしまって兵士の前に出る。警備兵が突撃銃を構えるが彼女は何てこと無いといった様子で話しかける。
「ちょっといいですか、警備員さん。」
「誰だ?」
「いや、ちょっとお店探してるんだけど。わかる?確かここのあたりに・・・」
シエラに注意が向いた隙を狙い、物陰からハーネルが飛び出すと警備兵の口をふさぎ、腹を殴りつけて気絶させる。
「ごめん、眠ったら聞けないね。」
「まったくだ。ゆっくり眠っていてもらおうか。」
無線機をどこかに放り投げ、ハーネルは突撃銃を奪うとスリングをかける。ソレを見てリヴィエが後から出てくると不安げにたずねる。
「・・・突撃銃、邪魔じゃないですか?」
「俺の癖だ・・・長らく持っていたからな、落ち着く。」
「長らく、ですか?」
ということは歩兵出身だったのかとリヴィエはなんとなく思ってしまう。先ほどの接近戦の動きからしても結構腕が立つようだ。
「無駄話は話しながらでも良いよ、行こう?」
「あ、はい。」
慣れないサブマシンガンを構えながらリヴィエはシエラの後ろについていく。裏の扉から議事堂に入るが弾痕や血の跡が残っている。おそらく中部方面軍は議事堂を制圧したものの、直ぐに奪還されたのだろう。
議事堂内部に人は少ない。その少ない人を避けるように4人は階段を上がり議員控え室をしらみつぶしに当たっていくと与党控え室に数名の兵員が監禁されているのを発見する。
「無事か!?」
「カダール大尉・・・生き残りは我々と首相だけです。」
すぐにシエラとリヴィエがナイフで拘束しているバンドを切ると反乱軍の兵員にハンドガンを手渡しておく。自分達のサイドアームがなくなってしまうが、彼らを救出するために贅沢は言っていられない。
「首相は?」
「地下シェルターに監禁されています。明日にも基地へ移送されるかと。」
わかった、というとカダールはすぐ地下へ向かおうとする。それを兵士が呼び止める。
「どこへ?」
「首相を救うのが私たちの任務。助かりたかったら裏口から抜けて第1埠頭の揚陸艇まで急いで。」
「了解。我々は待機します。」
シエラの道案内を聞いて、そのまま反乱軍の兵員は外に出て行く。残ったカダール達は再び階段を下りて地下室へと向かっていく。
「発砲許可だ、見つけた敵は射殺しろ。」
「了解!」
地下室なら音も聞こえにくい。カダールとハーネルが正面に立つと無線連絡を入れようとした政府軍兵士めがけ発砲。兵士が倒れこむと警戒している政府軍の警備兵が突撃銃を発砲する。
あまり広くない廊下ですぐに2人は下がり、階段まで後退すると入れ替わりにシエラとリヴィエが発砲。マガジンを交換している警備兵を倒す。
「首相を救出しましょう・・・!」
「勿論、行くぞ!」
細い廊下を抜け、重厚な鉄扉が設置されたシェルター入り口の前に兵士がいるのを見るとすぐにハーネルが突撃銃で警備兵の脚を狙う。6.75mm弾が警備兵の脚に直撃すると直ぐに踏み込んでリヴィエとシエラが銃口を突きつける。
「降伏して頂戴?撃つよ?」
「・・・っ!」
おとなしく警備兵はうつぶせになり、武器を捨て手を頭の上におく。ハーネルが警備兵の荷物を取り出し、IDカードを見つけると端末に差し込む。
思い鉄の扉が、ゆっくりと上にたたまれると2里の人物がいる。片方は30代後半の女性でありもう片方は中部方面軍の司令官ゲオルギー中将だ。
「首相、ここから脱出を!」
「第41機動中隊か・・・心強いな。」
ゲオルギー中将が微笑すると、首相を連れて一緒に脱出する。
「首相?アゼルバイジャンは大統領制じゃ・・・?」
「勝手に皆そんな風に呼んでいるだけよ。今はまだ反乱軍の司令官。アイゼル・レムシャンデ。元大統領補佐官。」
「へぇ、大統領補佐官ね。」
なるほど、とシエラがうなずいてみせる。何故反乱を起こそうと考えたかは後で聞くとしてサブマシンガンを渡しておく。
「自分の身くらい、守ってよ?私はコッチを使うから。」
「ええ。救出に感謝します、シエラ・・・少尉?」
「うん、少尉。」
AKD-84(※3)突撃銃を構え、シエラが首相の近くに立って守るようにしてシェルターから脱出。だが警備兵が先ほどの銃声を聞きつけて向かってくる。
「見つかったか・・・!」
「応戦する、早く出て!」
シエラがAKD-84を連射、警備兵に命中こそしないが相手の射撃を封じるには十分でその間にカダール達が扉に向かっていく。セレクターを切り替え、バースト射撃しながらシエラも後退する。
裏口に来ると、ちょうど良く中型の貨物用トレーラーが止まっている。アイゼルとゲオルギーが乗り込むとカダール達もヴァンツァーに乗り込む。するとルスラーンから通信が入る。
『派手にやってくれたな?正面門の装甲車部隊も向かってくるぞ、気をつけろ!』
「軽く終わらせるぞ。司令は後方から随伴を!」
それだけ言うと、議事堂前にでてカダールはホーネットを発射。10cmバズーカ砲弾がBTR-84Cに直撃。爆発する。その爆発を合図としてイーゲルツヴァイとブリザイア、クラスタシアが議事堂前に飛び出て戦車を狙う。
BT66戦車が12cm砲を発射するが横に跳躍してブリザイアが回避、戦車の真上からショットガンを発射する。
わずかに遅れてイーゲルツヴァイとクラスタシアからも射撃を受けてBT66が爆発する。砲塔が吹き飛んだのをカダールは確認すると、サンオウルを別々の敵機にロックオンして発射。
BT66が気づいたが、どうにもならないために搭乗員は直ぐに脱出する。その後でミサイルが直撃しBT66は爆発を起こす。もう1発はBTR-84Cに直撃して爆発。
『敵増援・・・ホークス隊だ!』
ハーネルが叫ぶと、黄色いカラーリングのヴァンツァーが4機突撃してくる。先頭の1機はイーゲルアインス(※4)に盾と剣型のロッド、キーンセイバーを搭載している。
『久しいな、カダール。まさかお前とこんなところで戦うとはな?』
「セントピードからホークスに鞍替えしたか、ロドリゴ・・・」
ある程度ストームが接近し、バズーカの砲身を先頭のイーゲルアインスに向ける。
『誰なの?隊長。』
「傭兵部隊セントピードにいたエース、ロドリゴ・ジュッサーノだ。稼ぎが悪くなったから中東に向かったと言う話を聞いたが、こんなところに居たとはな。」
騎士の様な武装に反して敵の殲滅を好むという好戦的な性格であり、ECグルジア内戦ではザーフトラ軍のヴァンツァーを何十と破壊、ジウーク級大型機動兵器を単機で破壊した実績も持つエースだ。
その時カダールとも交戦しているが、わずかな時間であり増援部隊も到着したために決着はついていない。
『ECは暇だからな。中東に来てやった。しかし、お前の部隊と当たるとはな?』
ロドリゴはどうやら喜んでいるらしい。カダールは出会いたくなかったなとため息をつくとミサイルのロックオンをかける。
「悪いが今、お前に構いたくは無い。司令を取り戻してさっさと帰りたいんだが。」
カダールはスティックに手をかけ、サンオウルを発射する・・・!
続く
(※1)
ヘリウム式のバルーンで対象物を浮かせ、そこに航空機を通過させフックで引っ掛けて捕まえる方式。実際は人員も回収する計画もあったが死亡事故もあり物資回収の手段にとどまった。ちなみにヴァンツァーだと復数機を回収する手間があり間に合わない危険性もあるため単機での回収にしか使えず、回収できるだけの風船を膨らませるヘリウムだと被弾の衝撃で爆発する可能性もあるため滅多に使わない。せいぜいコンテナ程度が限度。ちなみにデュランダルも使い終わった輸送コンテナをこの方法で回収しているらしい。(※2)
水中では散弾よりフレシェット弾のほうが威力が落ちにくいため水中ではショットガンの弾薬にフレシェット弾を使用している。ちなみにライフルはフレシェット弾を発射する専用タイプ。マシンガンとオートキャノンも水中専用のタイプを使用する。ロケットはヘッジホッグに交換される。また、格闘用武装はそれほどの威力が期待できないため高電圧の電流を流す武装に変更。パイルバンカーはそのまま。(※3)
ミハイル・カラシニコフが作った傑作突撃銃AKシリーズをドミトーリ公社が改良して生産したタイプ。威力と制御性を両立した6.75mm×45弾を使用しているが機構などはベースのAK-107から変化していない。泥水に浸しても動く信頼性は健在であり命中精度に難点はあるものの威力と反動制御、コストパフォーマンスの高さからザーフトラ本国どころか紛争地帯各地にも輸出されている。(※4)
くどいよーだがこっちは4thやオンラインのイーゲルアインスである。2ndのイーゲル系列では無い。区別のために4thのをイーゲルアインス、2ndのをイーゲルツヴァイと呼称しているに過ぎない。