Front mission Brockede

Misson-28 Defending to the last

 

3/3 ナヒチェバン・ヴァンツァープラント正門 0047時

『敵機、向かってきます!』

「・・・行くぞ。」

司令官代行としてハーネルが指揮を執ると、指示を出す。69式やクイントGがマシンガンを連射しながら突撃してくるがレジーナがライフルを発砲。69式の胴体を貫通させ爆発させる。

クイントGが至近距離でラプターを発砲するが、銃弾が掠めるのも構わずハーネルはF-5ハンドロッドを振り下ろす。真上からロッドが直撃、クイントGが大破し火花を散らしながら沈黙する。

『抗うというのかね?この圧倒的な物量を前に・・・』

『えぇ、当然のことでしょう?私達が屈したら道を開けてくれたEC軍空挺部隊にも、私達を信じてくれた隊長にも申し訳が立ちません。』

ナザールが通信を入れてくるが、リヴィエは聞き流しながらクラヴィエを発砲する。37mm銃弾が攻撃しようとしたミュートスを貫通。そこにアーヴィトがジュアリーとモストロ3SZを叩き込み沈黙させる。

『・・・あぁ。そう簡単に死なないぜ?あんたらも道連れだ・・・!』

『面白い、ならやってもらおう。』

ナザールが指示を出し、無人機が正門めがけ突撃を開始する。真正面からハーネルは突撃してくるルフトローバーを見据える。片手にプレスニードルを搭載してルフトローバーが向かってくるがハーネルがハンドロッドで一撃を加える。

ホバー駆動のルフトローバーは体勢を崩し、そこにハーネルがコベットを発砲。大口径の散弾が直撃しルフトローバーは沈黙してしまう。

『ECの新型機か!?』

アーヴィトが突撃してくる機体を見てビックリしてしまうが、ハーネルはなんてことはないと聞き流す。

「ゲオルギーはECからヴァンツァーを購入できる。A型デバイスはどういう機体にも接続可能だ・・・弱音を吐いている暇はないぞ、アーヴィト。」

『解かってるっつーの!』

アーヴィトもモストロ3SZとジュアリーを発砲。突貫してくるデスマッツを一瞬で弾痕だらけに変えてしまう。装甲の薄いデスマッツは攻撃するまもなく爆発する。

その後ろからストレーガがグレイブSを発砲しながら高速で接近するもレジーナがダブルコメットで狙撃。脚部を破損して停止したところにリヴィエがクラヴィエを発砲する。

ストレーガはそれでもグレイブを構えるがアーヴィトも同時に射撃、十字砲火を受けて木っ端微塵にされてしまう。

『素晴らしいな、シュトゥルムピングィン・・・これで無人機の比較のしがいがある。フェンリルなどより数段優れた兵器だとな。』

「・・・何?」

拍手をしながら話すナザールに、ハーネルが聞き耳を立てながらコベットを発砲する。

『今頃、アロルデシュでもクーデターが起こって居るだろう。それにOCU軍は正規軍や精鋭部隊を出す手はずが整っている・・・解かるな?何故アゼルバイジャンをテロの標的に選んだか。』

「無人機の比較実験か。フェンリルなどというわけの解からん物体とこのA型デバイスの。」

『そう、ヘンシェルは愚かしいことに衛星は無敵だと勘違いしている。OCUはその気になればあの忌々しい物体を軌道上からたたき落とすのに対衛星ミサイルを湯水のように使うだろう。衛星は撃墜されれば終わりだ。だが私は兵士を作り上げたのだ!指示に従順で十分な戦闘結果を残せる、優秀な兵士をな!』

ハーネルはナザールの乗る大型機動兵器を見据えながらコベットを発砲、接近しガルヴァドスを発射しようとしたルフトローバーを一瞬で破壊する。するとリヴィエがクラヴィエを発砲しながら口を挟む。

『その割には質が劣って居るようですね?私達より。』

『多少の質の低さには目をつぶらねばなるまい。何よりも短時間で量産できる兵士こそが最高の存在だ。物量に勝る戦力などこの世界に存在しない、我が祖国は人海戦術で侵略者を追い払い、T-34戦車は数でティーガーを圧倒したのだ!犠牲が出ないスチームローラーこそこの世界で最強を名乗るに相応しい!』

10機ほどの敵機が包囲するように展開してくるがまずハーネルは突撃、真正面に展開するアブニールめがけハンドロッドでなぎ払う。

胴体側面部と腕にロッドが直撃、電磁波を受けてアブニールが行動を停止する。その一瞬の隙を逃さずハーネルはコベットを至近距離で発砲。80mmのショットシェルから拡散した散弾がアブニールの装甲版を叩き割る。

『言ってくれるねぇ・・・けど数が多いだけの無人機が何だってんだ!スチームローラー程度、押し返してやるよ!』

『良く言ったレジーナ・・・!俺もやってやる、この程度の数がどうした!』

アーヴィトが必死に銃撃を続け、突進してくるルフトローバーに弾幕を浴びせる。何十発もの銃弾に装甲版を貫かれルフトローバーは沈黙、転倒してしまう。

「この程度の数なら、何十機でも撃破できる。来たぞ・・・?」

ジェット機の爆音を聞いてハーネルは不敵な笑みを浮かべる。AF84攻撃機がロケットランチャーを発射しながら空中を通過し、無人機を追い払っていく。

その隙にハーネルはリヴィエに指示を出しインヴァイデッドに接近する。無人機の指揮を総括しているのはナザールであり、彼さえ倒せば問題なくこの一帯を制圧できる。だがインヴァイデッドは相応の武装を施されたヴァンツァー駆逐用大型機動兵器であり対空火力もある。

『私を倒せば終るとでも?無人兵器は自立兵器に他ならない。指揮権はゲオルギーに移るだけのことだ。それでもやると?』

「・・・愚問だ。隊長はゲオルギーを倒す。貴様も倒れて終りだ。」

『倒せると?重火器の支援も無しにS型デバイス搭載の大型機動兵器をか?』

インヴァイデッドが砲塔を旋回させ40mmガトリング砲を連射する。ハーネルは弾幕に突っ込む真似はせず側面に回りこみつつコベットを連射する。散弾が直撃しインヴァイデッドの胴体に火花が散る。

「倒す。ヴァンツァーは操縦者の技量が全てだ。祖国の軍事教練にもある。「兵器は性能では無い、使い方だ」とな。」

『いいだろう、生身の兵員がどこまで戦えるか見せて貰おう!』

インヴァイデッドにすえつけられたロケットランチャーが発射されるが、狙いが不正確で周囲に着弾こそするものの110式陣陽にまったく直撃しない。その間にリヴィエはワイルドビークを発射。

12cm迫撃砲弾がインヴァイデッドに直撃、15cm迫撃砲を損傷させる。

『隙だらけですよ?戦術に対応するにはやはり忙しいと手が回らないようですね。』

『援護しろ!』

ナザールが指示を出すが、援護に向かおうとした69X式が胴体を徹甲弾に射抜かれて爆発する。続いて多数の榴弾が降り注ぎ直撃したヴァンツァーが破壊されたり爆風に巻き込まれていく。

『こっちをお留守にしていのかい?ナザール。』

レジーナが挑発的な笑みを浮かべながらライフルをインヴァイデッドの40mmガトリング砲に直撃させる。1基が破損し使用不能になるが残り3基のガトリング砲はハーネルを執拗に狙い続ける。

弾幕をよけながらハーネルはコベットを連射しつつインヴァイデッドに肉薄、脚部にロッドを直撃させる。シリンダーの一部を破損させたがインヴァイデッドは簡単に転倒するはずもなく砲塔を向けて応戦する。

『砕け散るがいい!』

猛烈な弾幕が110式陣陽の腕をかすめたが、それだけでショットガンを持った陣陽の腕が吹き飛ばされる。ハーネルは舌打ちしながらもハンドロッドを構え砲塔の動きを見ながらインヴァイデッドの周囲を回る。あんな銃撃を受ければ110式陣陽の装甲では歯が立たない。

リヴィエはイグチ82式を連射しハーネルを支援しつつ作戦を考える。戦闘車両はどこが一番脆いのか、それを考えた時にリヴィエはある結論を導き出す。

『ハーネルさん、上面部を狙うしかありません!』

「そこか。了解だ。迫撃砲を停止してクラヴィエで気をそらしてくれ。30秒あればいい。」

『りょ、了解です!』

いきなり時間を稼げといい、ハーネルはいったん距離を置く。其の間にリヴィエはクラヴィエを発砲、インヴァイデッドに銃撃を浴びせる。

『まずはお前から始末するとしよう、ノートゥングに組する小娘め・・・仲間が逃げたこの機は逃さんぞ?』

『ハーネルさんは逃げませんよ。絶対・・・』

『希望的観測に過ぎんな。お前は仲間をだまし続けた。見殺しにしても飽き足らないほどの背信行為をやってのけたのだ。信頼する相手がいると思っているのか?』

これまでに行った背信行為を思い返し、リヴィエが言葉に詰まってしまう。ナザールは其の隙に40mmガトリング砲塔を向ける。するといきなり98mm徹甲弾がインヴァイデッドの脚部に直撃し、発砲音でリヴィエが我にかえる。

『気にすんじゃないよ、リヴィエ!あたしは・・・仲間だと思ってるからな!』

『レジーナさん・・・感謝します。』

軽くレジーナに礼を言うと、リヴィエは射線から機体を回避させる。40mm銃弾がローラーダッシュで駆け抜けるクラスタシアを狙い、猛烈な勢いでコンクリートの床をえぐって行く。

リヴィエも回避行動を取りつつ弾幕を回避し、クラヴィエを発砲する。大型機動兵器に1本だけでは心もとない性能だが発砲を続けているとインヴァイデッドのロケットランチャーが発射される。

『・・・!』

無数のロケット砲弾がコンクリートに着弾、そのうち1発がクラスタシアの脚部に直撃し吹き飛ばしてしまう。インヴァイデッドはすぐにIRセンサーに視界を変更し、爆発で上がった煙の中に脚部を吹き飛ばされ、動けないクラスタシアを確認する。

『まずは1機・・・』

「あいにくだな。」

インヴァイデッドが後ろに砲塔を振り向こうとするが、その前にF-6ハンドロッドが砲塔上面部に突き刺さる。ハーネルがロッドを突き刺すと同時に電磁波を流し、内部から直接インヴァイデッドを損傷させる。

『き、貴様・・・!?何故・・・』

「十分な助走距離をつけなければ陣陽では上れなかったのでな・・・最後に1つだけ言って置いてやる。」

ハーネルがトリガーに力を込めると、一気にハンドロッドに付随する電磁波発生装置の出力を上げる。

「貴様ごときが・・・祖国の名を語るな。」

奥深くまでハンドロッドを突き刺し、抜けなくなるまで押し込む。電磁波の影響かそれともロッドに押しつぶされたのか分からないが、それっきりナザールは沈黙してしまう。

その途端にインヴァイデッドが爆発、爆風で陣陽が吹き飛ばされてしまう。

『ハーネルさん!?』

「なんとかな。ルスラーン、リヴィエと俺の機体を回収だ。あの2機もそろそろ限界だ。」

レジーナとアーヴィトは必死に無人機をおびき寄せ、猛攻を繰り返していたが無人機の数に圧倒されどんどん押し込まれている。ルスラーンは了解、と応答すると2機のヴァンツァーを投下する。

ハーネルとリヴィエがヴァンツァーから脱出すると、クラスタシアと陣陽をワイヤーでED-1Eが回収。そのまま撤収する。

『2人とも、幸運を祈る!必ず生きて返って来い、わかったな!?』

「了解だ、ルスラーン。」

ルスラーンに応援され、ハーネルはもちろんだと頷く。しばらくするとヴァジェとウィスクが投下され、パラシュートを開きながら地面に落下する。すぐにハーネルはヴァジェに乗り込み、バックパックに接続されたパラシュートを切断する。

リヴィエもウィスクに乗り込むと、無人ヴァンツァーは2機が稼動した瞬間に照準を向けてくる。リヴィエは煙を吹きあげているグリレゼクスとゼニスVを見てハーネルをせかす。

『突破して、レジーナさん達と合流しましょう!』

「もちろんだ。」

言葉少なくハーネルが頷くと、そのままヴァジェを突進させる。69X式がコッドSNを発砲(※1)するが弾幕を突っ切ってハーネルは近距離まで接近するとソウルバスターで殴りつける。

一撃で69X式が吹き飛ばされ、沈黙するとヴァジェの背後からモスがグレイアイを発砲しながら接近してくる。17.5mm銃弾の何発かがバックパックに着弾するが唐突にモスが沈黙する。

『邪魔ですよ、黙っていてください。』

リヴィエがアールドゥを発砲しながらモスに接近、モスは右腕に装備s他アヴェルラを構えるがシールドで弾き飛ばされ、リヴィエは至近距離でアールドゥを発砲。40mm銃弾に胴体を射抜かれたモスは爆発し木っ端微塵に吹き飛んでしまう。

『・・・あんた達、大丈夫かい?』

「無事だ。リヴィエは修復を頼む。俺が囮になる。」

レジーナに軽く答えると、そのままハーネルは押し寄せる無人機に単身突撃を開始する。リヴィエはバックパックでレジーナ機を修復しながらアールドゥを発砲し、デスマッツを撃退する。修復中でヴァンツァーを動かせないレジーナが、さりげなくリヴィエに話しかける。

『リヴィエ、本当に信頼してたんだな・・・あたしらの事も。』

『もちろんです・・・背中を預ける相手は裏切れません。貴方達はどう・・・なんですか?』

リヴィエは直接的な裏切りはしていないが背信行為もいくつかあり、自分が信用されていないんじゃないかと思い込んでいたようだ。するとアーヴィトがもういい、とリヴィエを気遣うように言う。

『別に俺達に被害も無いし、過去の話だからな。リヴィエはいつも修理とかして貰って助けられてるし・・・そういう奴を疑うなんてできるか?』

『そういうことさ。さ、あとは任せときな!』

グリレゼクスの修理が完了すると、レジーナは気合を入れなおしてダブルコメットを発砲する。砲身の加熱も気にせずに98mm徹甲弾を次々に敵機へと命中させていく。

突撃して来たモスが胴体を射抜かれて爆発し、続いてルフトローバーが突撃してくるが1発目で脚部を98mm弾が貫通。バランスを崩しルフトローバーはプラントの扉に衝突、爆発する。開けた地形であればスナイパーは最大限に力を発揮し、何倍もの敵に的確に98mm砲弾を叩き込んで行く。

ハーネルは心強いと思いながらソウルバスターでモスを殴りつけ、一撃で吹き飛ばしてしまう。そしてステイトを接近して来たシャカールに付きつけ、至近距離で発砲しながらも浮かない表情をしてしまう。

「・・・持つか?」

カダールとシエラがどれだけの敵戦力に遭遇するか分からないが、それまでに補給して何とか持たなければいけない。ECの特殊部隊に補給も回す必要がある、と言う事を考えると弾薬切れが一番の敵かもしれないとハーネルは危機感を抱く。

EC特殊部隊も撃破されたと言う報告が次々と届いている。ハーネルは不安に思いながらもステイトを発砲し、敵機を見据える。

 

0115時 ヴァンツァープラント機械室

『待っていたぞ、カダール。それにシエラも。』

「ゲオルギー・・・!」

カダールとシエラがそれぞれのヴァンツァーを部屋に進めると照明が点灯し、2個小隊のヴァンツァーが待ち構えている。中央に大型のヴァンツァーであるレクリーズ級(※2)が待ち構えている。自然と怒りからかカダールの声は強まるが、シエラはいつもどおりの口調でたずねる。

『無人機じゃないんだね。味方は。』

『その通りだ。最後に頼れるのは人だからな。軍人が信じられるのはこの目で見た強さだけだ。』

ゲオルギーは落ち着き払った声で答える。まったく罪悪感も何も感じない口調にカダールの怒りは増していく。

「何故テロを起こした。こんな無人プラントまで作って祖国を攻撃した理由はなんだ!?」

『祖国を守るために必要な犠牲だ。』

「ふざけるな、何故こんな事をして守れる!?」

理由が分からず、カダールはゲオルギーに食って掛かるが平然とゲオルギーは答える。ブリーフィングの時のような口調だ。

『グリムニルはOCU軍の依頼を受けて無人兵器のテスト環境を作る必要があった。OCU軍は第二次ハフマン紛争で受けた傷を何とかするために戦力の早急な拡大が必要だったが、傭兵を正規軍で雇うことが禁止された。本来なら戦力拡張をしなければならない時期にこれではどうしようもない。そこでOCU軍は無人機に目をつけた。』

『それが・・・A型デバイス?』

『もう1つ、フェンリルという衛星誘導システムだ。だがどちらも一長一短がある。A型デバイスは以前のB型デバイス事件で印象が悪くなっているから開発も極秘裏に進めなければならない。それにマテリアルの確保も最重要課題だ。フェンリルは本来のハッキング用衛星というプランに無人機誘導と言う秘匿性を消すような要素を詰め込んだために能力的に疑問符が残る上、一部のヴァンツァーにしか利用できない。そこで性能を確かめ比較する必要があったのだ。ストレラ工廠のプラントはそれに使うためのヴァンツァーを量産していた。』

「インターゲーンはOCUのダミー企業か・・・」

根深い陰謀を聞いてカダールは怒りを一瞬だけ忘れながら聞いてしまう。秘匿回線で合図をしながら、声のトーンを押さえてゲオルギーの話を聞く。

『その通りだ。第一次ハフマン紛争でOCUオーストラリアの兵器工場が空爆され、生産ラインが止まったと言う事態が起こったのを契機に設立された。本来は有事の際に備え紛争が起こってもいいようにヴァンツァーメーカーの体裁をとり外部でOCUヴァンツァーを生産。中立国旗を立てて安全に前線に移送するために設立されたものだ。業務提携をできる企業でも無いから業務を実際に行う必要もあった。ミュートスやシャカール、今のストレラで使われている兵器はそのときに開発されたものだ。だが第二次ハフマン紛争では制空権を互角まで持ち込めるようになって必要なくなり、シュネッケに手を出して倒産させこの計画につなげたのだ。パテントの切れたヴァンツァーなら何処で量産しようと勝手だからな。』

『それをストレラに分捕られたわけ?』

シエラに痛い所をつかれたのかゲオルギーは渋い顔で答える。

『ノートゥングがとるように仕向けたのだ。私は北部方面でやることがあったから静止もできずいつの間にか分捕られていた。グリムニルの連中はこの事態に怒りアイゼル首相を誘拐、プラント引渡しを飲ませる予定だった・・・が失敗だ。元から私も失敗させるよう仕向けたのだがな。』

『どうして・・・仲間じゃ?』

率直な疑問符をシエラが浮かべると、ゲオルギーは怒りをにじませながら否定する。

『不気味なテロリストと同志だと?そんなものではない。私が開放同盟軍の武器調達を行っていた頃に協力してそのまま仲間になったが、祖国を食い破られる恐れがあったからだ。だが無人機開発計画を見て気が変わった。このテロのドサクサにまぎれて主導権を握るべきだとな。』

「何を言っている・・・?」

『A型デバイスの秘密を知っているものを口封じしてしまえばデバイスは祖国だけのものとなる。ECに頼ることも無く、我々は祖国の完全な独立ができるとな・・・』

そこまで言われ、カダールはようやく思い当たる事態に気づく。

「アフダルをナミクが殺したのも、デムチェンコが心臓発作で倒れたのも貴様の差し金か!それだけじゃない、祖国の連続ヴァンツァー襲撃事件も・・・!」

『その2つの任務を結びつけたことは賢明だな、カダール。もっともヴァンツァー襲撃事件は私が画策したが・・・連中は粛清する必要があった。警察もマフィアも・・・旧来からの政治家も癒着が酷かった。だからマフィアどもは北部戦線に回して粛清し、連中と繋がっていた政治家や警察は粛清した。無人機を使ってな。』

おぞましい計画にも、それを平然と話すゲオルギーにもシエラは恐怖を感じてしまう。いつも部下を気遣ってくれた元帥はもう消えてしまったと実感してしまう。

『デムチェンコは取調室で毒殺しアフダルは粛清するようにナミクに頼んでおいた。グリムニルの研究員もここにいたようだが・・・彼等も今頃は仲間と一緒に旧交を温めている頃だろう。』

「そこまでして無人機をアゼルバイジャンが独占しなくてはならないのか!?」

『その必要がある。北はザーフトラ、西にアルメニアと我々の仇敵に常に脅かされている状況だ。イランも何をするか解からん。その状況で軍事力をそろえるには無人機しかない。同志のチェチェンを開放し、アルメニアとザーフトラのカフカス方面軍を叩き潰すにはな!』

カダールは何となくゲオルギーの構想が理解できた気がした。チェチェンを開放させてカフカス方面軍にぶつけ、アルメニアを全力で葬り去る計画だ。アルメニア軍にはカダールやシエラにもいい思い出こそ無いがゲオルギーの計画には賛同する気は無い。

『ゲオルギーさ・・・革命でさえ結構人が死んだんだよ?それを何?もっと犠牲増やそうっての!?アルメニア軍はそりゃあ私だってあんまりいい思いしないけど、戦争吹っ掛けるなんて酷いよ!』

『理想論だな。そんな甘い心がけで祖国を守れると思っているのか!?我々は軍人だ、血塗られた道を行くことくらい分かっているだろう!』

激しい口調でまくし立てられ、シエラは黙り込んでしまうがカダールは違うと否定する。

「俺達のやってくるとは確かに戦争で相手を殺す覚悟を持つことだ。だが自分からわざわざ多くの犠牲を出す道を選ぶつもりは無い。アイゼル首相が周辺各国の緊張を解こうとしているときにお前は・・・」

『講和などまやかしだ。いずれ破れる物に気を使ってどうする?ならば先に脅威を潰すまでだ。』

冷徹な口調でゲオルギーは答える。そうするしかないと本当に考えているらしい。

「だとしてもだ。さっきから何だ?潰すだの粛清だ・・・そこで人が死んでいるのが分かってないのか?あんたは違ったはずだ。兵士1人ずつを気遣う、世界でもまれに見るいい将軍だったはずだ。」

『敵に情けをかける必要があるのか?』

「それは無いが、民間人の犠牲を考えたのか?無人機が何をするか分からないお前でもないはずだ。無人機は民間人ですら平然と殺し、邪魔であれば住民が避難している建物すら破壊する。だが何よりも・・・将軍や元帥といった連中を狂わせて戦争に躊躇いを感じなくさせる。今のお前のようにな、ゲオルギー。」

軽く笑うと、ゲオルギーは挑発的にたずねる。

『ならばどうするという?たった2機で計画を止めるとでもいうのか?』

「当然だ。アゼルバイジャン共和国の名に置いてお前を討伐する。国家反逆罪、殺人罪、軍装備品の私的流用、テロリストとの内通・・・文句は言えまい。」

カダールはホーネットの砲口をレクリーズへと向ける。シエラももちろん、と頷き20mm機銃の銃口を向ける。

『当然。さっさとやっちゃおうよ。救いようの無いバカに何言っても無駄だしさ。』

『なるほど、躊躇はしないようだ。だがここにシエラがいるとしたらどうなる?』

ふとカダールは砲口をおろし、その言葉の意味を一瞬で理解する。シエラは何で?と疑問符を抱いてしまう。

「・・・B型デバイスか・・・!」

『ご名答だ。しかし良い部下を持ったな?カダール。これほどいいデバイスは無いとナザールも賞賛していたぞ。』

『・・・黙って。』

カダールが驚くほどの冷たい声でシエラはつぶやくと、アールアッソーCをレクリーズめがけ発砲する。何発か命中するが、たいした損傷は与えていない。

『散々私をもてあそんでさ、おまけにこんなバカな計画に使って・・・覚悟できてるよね、ゲオルギー。』

『覚悟?2機で2個小隊に挑むなど発狂したのか?』

『アーヴィトと20機くらい撃破したんだから、隊長とならもっといけるよ・・・ね?』

笑みを見せながらシエラが問いかけると、もちろんだとカダールも答える。シエラと一緒ならこの程度の敵軍は一瞬で壊滅できるだろうと考えたのだ。

「当然だ。シエラ、全員を無力化するぞ。祖国を・・・アゼルバイジャンをゲオルギーに渡すな!」

『了解!』

先頭に立つヴァンツァーにカダールがホーネットを発砲、それを合図として両軍のヴァンツァーが突撃を開始する。

 

続く

 

(※1)
本作では通常腕タイプの65式を65X式と呼称する。この系譜も同じ。

(※2)
ディアブル・アビオニクス製大型ヴァンツァー、以下設定

第二次ハフマン紛争後、USN軍ではレイブンと同等の機体を量産する事に着目した。DA社はUSN軍からの要求に答えるためニルバーナ機関の技術者を引き抜きレイブン開発のノウハウを生かす事で開発期間を短縮することに成功した。そのため一部の機構はレイブンから流用している。S型デバイスへ対応しているとも言われているが詳細は不明。ただし大型ヴァンツァーでありながら機動力はかなり高く、ヴァンツァーとほぼ同じ動きや感覚での操縦が可能。ハードポイントが頑丈なためバズーカやライフルなどを片手で運用可能。専用に開発された両手保持の15.2cmライフル砲を装備している。ただし肩の武装は大型化が難しく(迫撃砲やミサイル、ロケットは既存のコンポーネントを流用している)既存の武装を組み合わせる必要がある。
USN軍に2096年に正式採用。2098年時には指揮官機として20機が就役しているが生産に手間がかかる構造でありコストも高いため配備数は年に10機程度でしかない。また輸出もいくらか行われている。

 

inserted by FC2 system