Front mission Brockede
Mission-27 Pursuit battle
3/1 2310時 ベルドゾル近辺
『アゼルバイジャンの首都バクーで大規模な化学兵器テロが発生、死者は2000人以上と言われております。EC統合軍司令部の発表によりますと犯行グループはECやアフリカを拠点として活動していたテロ組織「グリムニル」が関係していると言われております。EC統合軍は治安回復および残党排除のために部隊を編成、現在バクーに向かっているとのことです。なお、この事件の主犯とされるモーガン・ベルナルドに加え、以下4名が新たに国際指名手配犯として登録されました。エヴグラーフ・ゲオルギー、ナザール・バリジニコフ、ハンナ・シュバイツァー、グレン・デュバル。繰り返します・・・』
『これで、うまく行くといいがな・・・』
ハーネルがニュースを聞いて、グリムニルの牽制くらいにはなるかなと思ってしまう。輸送ヘリはゲオルギーが失踪した地点に着陸し、彼等はその近辺を捜索している。しかし平地を探してもVTOL機が着陸した跡はない。
村の人も爆音こそ聞いたものの、突然のように消えたと同じような証言を繰り返すだけで決定的な証言はない。シュトゥルムピングィンはVTOL機が着陸した村や平地を中心に捜索している。
「にしても、まったく見つかる気配ないね・・・」
シエラがサーチライトを点灯させながら周囲を捜索するが、やはり夜間と言う事もあり発見は難しい。星明りのおかげで多少は明るいものの、暗いことにかわりはない。
『見つかる云々の前に、何を見つけるかわかんないんじゃあね。』
『愚痴言うなよ、レジーナ。ゲオルギーが何するかわかんないんだからな。』
アーヴィトがレジーナをたしなめる。一刻も早く見つけるためには捜索を行うほかないが手がかりはなかなかみつからない。するとハーネルが斜面に何かを発見する。
『・・・何だこれは?トンネルか?』
『ハーネル、どうした?』
カダールが110式陣陽のいる地点に到着すると、大きなトンネルがあり道路も整備されている。するとディートリッヒ中将から無線が入る。
『そうか・・・ゲオルギーもここを使ったのか。』
「え、このトンネルって何?」
『西部方面軍に物資を送るトンネルだ。2070年代から極秘で整備を続けナヒチェバンを通って・・・そうか!ナヒチェバン地区か・・・!』
ナヒチェバンはアゼルバイジャンの飛び地であり一応は国内と言うことになっている。アルメニア軍に対抗するための基地も建設されているためヴァンツァー部隊を隠すには絶好の場所だ。しかもアルメニア領空を飛ばなければ到着できないためシュトゥルムピングィンも迅速に展開出来ない。
『ナヒチェバンへのトンネルですか・・・革命のときにECからの物資を輸送するために?』
『そのとおりだ。西部方面軍に物資を供給していたのだ。ナヒチェバンからトルコに通じるトンネルもありECが大量の物資を搬入してくれた。』
カダールはなるほど、と納得する。するとリヴィエがトンネル内部をサーチして報告する。
『トンネル内部は直線です。もしかしたらですが、ソーンビルがこの内部に突入したとは考えられませんか?』
『んなこと・・・出来るわけないだろ?ゲオルギーは陸軍だしあのナザールがそんな優秀なパイロットとは思えないけどな・・・』
トンネルはかなり大きく、横幅も広いため確かにVTOL機が通れるだけの広さがある。だがそんなことは不可能だとアーヴィトが言うが出来るかもな、とハーネルはうなずく。
『ザーフトラ空軍は過去一度、アクロバット飛行でトンネルをくぐる真似をやった。突入角度さえしっかりしていれば後はオートパイロット、と言うことも可能だろう。A型デバイスを使うと言う手段もなくはないが。』
「とにかく、この奥に行ってみよう?きっと何かあるよ。』
シエラがガストの右腕を掲げながら進んでいく。その後ろからカダール達も続き、トンネルへと入っていく。ちゃんとコンクリートで整備され、しっかりと照明も取り付けられている。
すると、照明がいっせいに点灯し昼間のように明るくなる。目の前にはレールが敷かれており貨物を搬送するための大型のカーゴが設置されている。
『これを使えば早く移動できるはずだ。行くぞ。』
「いいけど、とんでもないことにならないよね?」
相当なスピードが出そうだな、と思いながらシエラも乗り込む。
『・・・徒歩で行くべきだと思うが・・・』
『いまさらびびってんじゃないよ、ハーネル。』
レジーナにどつかれ、しぶしぶハーネルも乗り込む。アーヴィトも乗り込むが不安げな表情を崩すことはない。
『・・・なぁ、大丈夫なのか?』
『心配ありません。最高速度は400km/h近くで10秒で加速します。15分間のジェットコースターだと思えば問題ありませんし、いつもヘリがそれくらいの速度を出していますから。』
全員が乗ったのを確認してからリヴィエが最後に乗り込むと、シュナイダーが通信を入れる。
『トンネルのシステムをハッキングした。最高速度で突っ込むぞ。』
『了解、飛ばしてくれ。』
すると、いきなりカーゴが加速、15秒で最高速度に達する。機体内部の彼等にかかるGも半端なものではなく、苦痛に顔をゆがませる。
『と、飛ばしすぎです・・・!』
『・・・だから俺は嫌だと言ったんだ・・・!』
経験済みなのかハーネルは苛ついた口調で答える。シエラも同感、とうなずきながら必死に声を出す。
「あぁもう早く止まってよ・・・!やばいってこれ・・・!」
シュトゥルムピングィン全員が悲鳴を上げながら、カーゴはすさまじいスピードでトンネルを駆け抜けていく。
2340時 ナヒチェバン・ヴァンツァープラント
「思ったより早かったな、シュトゥルムピングィンは。」
司令室でナザールはモニターを見ながらうなずく。トンネルに設置した監視カメラが高速でトンネルを突っ走るカーゴを捉えていたのだ。シュトゥルムピングィンはすぐにもナヒチェバンのプラントを見つけるだろう。
「私の部下だ。こうでなくてはマテリアルにふさわしくないだろう?ナザール。」
「そうだな。私じきじきに出向くとしよう。デバイス機も相応の数が集まった、レイブンもある。」
ゲオルギーはその言葉に何の感情も抱かずにうなずく。不穏に思ったナザールは言葉をかける。
「どうした、うれしくないのか?」
「お前達の先に何がある、ナザール。この施設をOCUに移築しマテリアルも確保するつもりだろうが、その後は?強大な力を得てどうする?」
「どう転ぼうと構わんよ。」
何、とゲオルギーは険しい表情でたずね返す。
「私はA型デバイスを実用化できただけで十分でな。後は量産して世界中にばら撒かれればそれでいい。」
「研究者だな。お前は。」
失望したような口調でゲオルギーはつぶやく。グリムニルの誰にしても生存やその場しのぎの事しか口にせず何一つ野望と言うものを感じられない。
精神崩壊を引き起こしたと思われるメンバーも多いが、それが逆に好都合だった。ゲオルギーはこの様子なら気づかれないだろうとほくそえむ。
「私はそれ以外の何もないのでな。B型デバイスの極致である兵士の脳をそのまま使用したタイプ、そしてそれを利用したA型デバイスの実用化、量産化。やりたいことは全て終えた。研究者として満足だよ。」
「最終段階はシュトゥルムピングィンをデバイスで捕まえてマテリアル化することか?」
「そのとおりだ。熟練した兵士を数多く見てきたが、EC最高の特殊部隊は最高のマテリアルになるだろう。君の部下だが、異存はないかな?」
「捕まえられたらの話だ。」
わかった、とうなずくとナザールはヴァンツァー格納庫へと向かう。その一方でゲオルギーは無人機全体の管制を担当する。ヴァンツァー以外にも多数の通常兵器をA型デバイスに対応させており、VTOL機や装甲車でも制御可能だ。
2355時 ナヒチェバン市内
「・・・死ぬかと思った。」
トンネルはナヒチェバンの市街近くにまで通じており、シュトゥルムピングィンは難なく市街地に入る事が出来た。シエラははきそうなのをこらえて無線を入れる。
『・・・二度と乗るまいと決めていたが・・・』
『あたしもあんなのはごめんだね・・・』
ハーネルとレジーナも愚痴をこぼしながら随伴する。リヴィエはまだ平然としているがカダールとアーヴィトは喋る気力すらないようだ。
『それより、ナヒチェバン地区ではテロを受けたのと同時刻に全市民が避難しているようです。私達の襲撃を予想していると見て間違いないでしょうね。』
リヴィエが通信記録をハッキングして市街地の状況を調べる。どうやら敵は市街地戦も辞さないようだ。するとVTOL機の爆音が聞こえてくる。ストレラ製VTOL戦闘攻撃機であるソーンビルだ。
『そうらしいな、リヴィエ。全機、戦闘態勢をとれ!ルスラーン、敵戦力は!?』
『ヴァンツァーが2個小隊およびアゼルバイジャンで採用予定の新型戦車と装甲車が複数!VTOL戦闘機も多い、気をつけろ!』
その言葉と同時にソーンビルが急接近しながら機首に搭載した30mm機銃を発砲してくる。リヴィエはシールドで攻撃を防ぐと同時に.クラヴィエを発砲する。
しかしソーンビルは対空砲火を突っ切る。煙こそ吹いているが頑丈で少々の事では撃墜出来そうにない。
『あの硬さは何なんだよ!?あんなんVTOL攻撃機じゃなくて空飛ぶトーチカだ!』
『落ち着け、攻撃すれば撃破出来る!奴も無傷ではない!』
アーヴィトがソーンビルの硬さに舌を巻くがハーネルが冷静さを保つように指示を出す。するとその隙にSAV89(※1)が30mmガトリング砲を連射しながら接近してくる。
銃弾を掠めながらもハーネルは何とか回避しつつ、真上からF-6ハンドロッドを振り下ろす。装甲車は真っ二つに破損し、爆発を起こすとソーンビルが再び接近してくる。
『邪魔だ!』
ハーネルは声を荒げながら霧島58式を発砲。散弾が直撃しソーンビルは操縦不能に成ると民家に墜落する。その隙にヴァンツァー部隊が襲い掛かってくる。狭い通りにアルカードとフェザントが展開、アルカードがイーグレットを発射する。
ロケット砲弾をカダールは回避、反撃にプラヴァーを発射する。ミサイルがアルカードに直撃し右腕を吹き飛ばしてしまう。するとわき道からミュートスが突撃してくる。
「私に任せて!」
シエラが20mm機銃とアールアッソーCを発砲。真正面からミュートスを迎撃する。ミュートスも反撃に出ようと下がなすすべなく大量の銃弾を受けて沈黙、倒れてしまう。
その後ろからフェザントがミュートスの残骸を飛び越え、ラストステイクを突き出してくる。すぐにシエラがバックステップで回避し、至近距離で76mmショットガンを発砲。衝撃を受けたフェザントは後方に吹き飛ばされる。すると今まで通ってきた通りからもヴァンツァーが向かってくる。
アゼルバイジャン軍塗装のイーゲルツヴァイやデーゲンが混ざっているが、おそらくゲオルギーが調達したものだろうと言うことは容易に想像がつく。
『数が多い!何機居るんだ!?』
アーヴィトがジュアリーとブラックスターを発砲し突進してくるデーゲンを迎撃する。リヴィエも援護に加わり、デーゲンを一瞬で木っ端微塵に粉砕する。そこにソーンビルが飛来しロケットランチャーを発射する。
砲弾は直撃しなかったが地面に着弾、コンクリート片を巻き上げる。爆風である程度損傷を負ったものの戦闘は可能でリヴィエがクラヴィエで対空射撃するものの命中していない。
『市外北西部のプラントから次々に増援が出撃している!これだけの数をどうするつもりなんだ・・・!?』
ルスラーンも驚くほどの数のヴァンツァーが出撃しシュトゥルムピングィンへと向かっている。ナヒチェバン市街は道が複雑で一点に戦力を集中させにくいのが唯一の救いでせいぜい8機から10機程度の火力を集中させることしか出来ない。
しかしシエラの弾薬バックパックもいずれは弾薬が尽きる。ルスラーンも航空支援を行いたいがソーンビルの数が増えており下手に捕捉されれば撃墜されかねない。ED-1Eはミサイルも回避できるほど機動力に優れてはいるが、機体に負荷がかかるため何度もそんな急旋回を行えるはずがない。
『ゲオルギーは戦争をやらかすつもりだろう・・・アルメニアかザーフトラか、どちらかは分からんが・・・!』
カダールは苦しげに答えながらホーネットを発砲。ブラックスターを発砲してくるミュートスに砲弾を直撃させ沈黙させる。その間にアルカードがグロウタスクを発砲。
ストームの左腕に80mm徹甲弾が直撃、一撃でプラヴァーとシールドごと吹っ飛ばされてしまう。
「隊長!?」
『機体は無事だ、応戦しろ!きりがなくても戦い続けろ!』
気遣うシエラに対し、普段どおりカダールが答えるとホーネットを発砲。10cm砲弾がアルカードの胴体に直撃し爆発を起こす。
胴体に大きな穴を空けてアルカードは沈黙する。続いてカダールはもう1発ホーネットを発砲。ミサイルの射撃準備をしていたアルカードに直撃し大破炎上させる。
「きりがなくてもね・・・まぁそうなっちゃうよね。」
増援は来る気配もない。それでも限界まで戦い続けようとシエラは心に決めてトリガーを引く。接近し打撃機構で一撃を加えようとしたデーゲンに散弾が命中、吹っ飛ばされ転倒したところにアールアッソーCを発砲。容赦なく沈黙させる。
『無茶な命令だ。あてはあるのか隊長!?』
『今はない!』
カダールがそういうのだからまずないだろうとハーネルは納得する。死に場所かもしれないと一瞬だけ考えるがまったく口に出さずコベットを発砲。接近戦を挑んできたシャカールをひるませた隙にF-5ハンドロッドで一撃を加える。
装甲の薄いシャカールはロッドで胴体をたたき折られ爆発。するとアーヴィトがハーネルのカバーに入りミュートスめがけジュアリーを発砲する。
『・・・ハーネル。やばくないか?撤収を進言した方が・・・』
『いまさら無駄だ。それに撤退をするつもりもない。』
『けど、やばいだろこの状況・・・!』
レーダーには数え切れないほどにまで敵機が増えており、ソーンビルもロケットランチャーや30mm機銃で攻撃を加えてくる。リヴィエがクラヴィエを発砲し追い払い、時に撃墜しているものの次から次へと敵機は押し寄せてくる。
アーヴィトが弱音を吐くのも無理ない状況だったが、ハーネルは黙れと一喝する。
『1人でも勝利を疑えばそこに隙が生まれる。お前が欠ければ崩壊につながるのは解かっているな・・・!シュトゥルムピングィンの一員なら戦え!息絶えるまでトリガーを引いて敵機を1機でも多く道連れにしろ!』
『・・・あぁ!』
声を荒げるハーネルを見てアーヴィトもトリガーを引き続ける。しかしブラックスターが連続発射に耐え切れず爆発してしまう。
『ちょ・・・!』
『アーヴィトさん、これを!』
リヴィエのクラスタシアが敵機から奪い取ったモストロ3SZを投げて渡す。すぐにアーヴィトは行動に移り空いた左腕にモストロ3SZを取らせると射撃を続ける。弾幕に突っ込んだミュートスが一瞬で頭部を吹き飛ばされ炎上する。
『弾薬切れです!シエラさん!』
「了解、ちょっと待ってな!」
すぐにシエラが後退するとバックパックを稼動。小型のバックパックからアームが伸びると37mm銃弾をクラヴィエに装填して行く。その間にもシエラは射撃を続行し、弾幕を形成する。
しかし背面側は隙だらけでありバックパックをねらい、シャカールがイグチ702式を発砲しようとするが一瞬で爆発してしまう。
『後ろは任せな、リヴィエ!』
レジーナがダブルコメットを発砲。98mm砲弾で次々に敵機を射抜いていく。胴体や脚部を貫通され次々に沈黙して行くがソーンビルが脅威を排除しようと急降下爆撃を仕掛けてくる。
真上から500kg爆弾2発が落下、幸いにも外れたが至近弾を受けてグリレゼクスが吹き飛ばされる。転倒した隙にソーンビルが30mm機銃の狙いをつける。
『レジーナさん!』
補給を終えたリヴィエは早速クラヴィエを発砲。37mm銃弾がソーンビルの主翼をもぎ取り撃墜する。レジーナは何とか機体を起こすと再びダブルコメットを発砲しながらリヴィエに礼を言う。
『助かったよ、リヴィエ。』
『いまさら何ですか?仲間なんですから・・・気にしないでください。』
冷静にリヴィエは答えつつ他のメンバーが気にかけて居ない対空射撃を敢行する。ソーンビルを撃墜できなくても攻撃進路上に弾幕を形成し回避行動を取らせるだけでも十分な効果がある。
『まったく・・・』
レジーナも素直に礼を受け取ればいいのに、と思いながらSAV-89を狙撃、一瞬で沈黙させる。もうシュトゥルムピングィンは何機の敵機を葬ったか解からないほど撃破したが、プラントから次々にヴァンツァーが沸いて出てくる。そう表現するのがもっともなほど数が多いのだ。
当然損傷するし弾薬の消耗も早い。しかし補充する暇などないほど敵も攻め込んでくる。シエラも必死に銃撃を続けるが、アールアッソーCの銃身がオーバーヒートを起こし緊急冷却を開始してしまう。安全装置が働いているため射撃は不可能だ。シエラはトリガーを何度も引くが反応せず、苛立ってしまう。
「ちょっと・・・!」
20mm機銃と76mmショットガンは弾薬補充中であり動かせない。その隙にソーンビルがガストの真正面から爆弾を投下しようと接近してくる。スティックを握り、シエラが爆弾を回避しようとした瞬間一瞬でソーンビルが爆発してしまう。
「・・・え?」
『エグレットよりシュトゥルムピングィン、待たせたな!』
AF84戦闘機が次々に飛来、機動力に劣るソーンビルを軽々と駆逐した後爆装した機体が次々に対地ミサイルや爆弾を投下。航空支援を受けて敵戦力が一気に吹き飛ばされてしまう。
その後を追うようにスリングヘリが到着、EC軍のヴァンツァーを次々に投下して行く。
『ったく、1個師団規模の軍勢に6機だけで突撃するなんていい度胸してるじゃねぇか・・・相変わらずな。』
「フィリップ!?」
聞き覚えのある声を聞いてシエラは思わず目を潤ませてしまう。早速マネージュがクローニクと胴体のガトリングを発砲しミュートスを沈黙させる。
「俺だけじゃあない、ブラウネーベルやSASとかEC中の空挺部隊があるだけ出撃要請を受けて今降下している!俺達が敵戦力を引き寄せる、お前達はプラントを無力化しろ!」
『感謝する・・・だが、誰がこんな真似を?』
EC統合軍司令部が迅速に動いた事にカダールは疑問符を抱くが、すぐに解消された。
『EC軍の今出撃できる空挺連隊全てに俺達が出撃命令を送ってやった。一方的に協力させたままだと悪いからな。』
『シュナイダーか・・・粋な真似を。』
ハーネルが微笑すると、次から次に輸送機やスリングヘリが飛来する。イタリア軍フォルゴーレ旅団やイギリスのSASなども混ざっている。
『アロー1よりEC軍司令部へ、目標を視認した。降下する。』
ED-1アービレーターも飛来、そこからゼニスやヴァリアントなどが降下すると猛烈な射撃を無人機に浴びせていく。デュランダルまでシュナイダーは戦闘に引っ張り込んだようだ。
『早く行けよ、シュトゥルムピングィン。予想外の増援にゲオルギーは逃亡の準備を始めている。決着をつけなきゃならないのはお前達だろ?』
『そうだったな・・・敵を突破しろ、俺に続け!』
シュナイダーに言われ、カダールが突撃指示を出す。乱戦の中をシュトゥルムピングィンは突っ切り、市街北西のプラントへと向かっていく。
3/3 0039時 ナヒチェバン無人機製造施設
『・・・素晴らしいの一言に尽きるな。EC中の特殊部隊が私の作品と戦っている。いいデータになりそうだ・・・』
「ふん・・・」
やっぱり敵に回した相手はシュトゥルムピングィンだけではなくEC全軍と言うことに成っていると知り、ゲオルギーは特に何の感情も抱かずにいた。ナザールの歓喜の声すら無視している。
当然ヴァンツァーに限りはあるが製造プラントで密造していたヴァンツァーは相当な数でありまだ余裕はある。すでに労働者であるトルコやカフカス方面からの難民は避難させている。ゲオルギーは最後の仕上げをするべきだと思い、研究室へと入る。
グリムニルから派遣された技師が何人もいて、資料をかき集めてバッグに押し込んでいる。いずれもA型デバイスに精通した優秀な科学者だ。その1人がゲオルギーに話しかけてくる。
「避難するのか?」
「少し踏みとどまれ。ECの特殊部隊など物量で押せる。我々の圧倒的な物量は解かっているはずだ。」
「だったら何故労働者を避難させた?今も稼動させ続ければ何百機かは加勢させられ・・・」
科学者の言葉はそこで途絶えてしまう。ゲオルギーが至近距離で拳銃を発砲していたのだ。科学者は腹部から血を流して倒れこむ。冷淡にゲオルギーは無線で部下に連絡する。
「全員を射殺しろ。予定通りにな。」
『了解。』
ゲオルギーの部下は指示を承諾する。その言葉を聴いて、先ほどゲオルギーに撃たれた科学者がゲオルギーの足元にすがりついてくる。
「な、何故だ・・・!我々が居なければ・・・」
「もうその必要はない。グリムニルには感謝しておく。」
ゲオルギーは科学者を振り払うと部屋を出て行く。空けっぱなしのドアからグリムニルに所属していた科学者の悲鳴と突撃銃の銃声が聞こえてきたが、一瞥もせずに彼はヴァンツァー格納庫へと向かう。
同時刻 プラント入り口
『・・・行くぞ。』
プラントの手前で投下されたコンテナ物資を使い修理や補給を終えたシュトゥルムピングィンは広大なプラントの敷地へと入る。稼動状態のヴァンツァーが数多くレーダーに映るが襲い掛かってくる気配がない。
レーダーはひときわ大きな大型機動兵器であるインヴァイデッド級(※2)を捕捉し、巨大なフリップをレーダー画面へと映す。
「了解、隊長。」
シエラもうなずくと進軍して行く。プラントに武装は無いガヴァンツァーが稼動し次々に出撃して行くのが見える。ソノヴァンツァーはナヒチェバンへと向かっていく。そこでインヴァイデッドのパイロットから通信が入る。
『待っていたぞ、シュトゥルムピングィン諸君。』
『ナザール・バリジニコフ・・・あんたか。』
カダールはナザールの事を知っている。ランカランに逃亡する手助けをしてくれた人物でありシエラにも見覚えのある人物だ。
『その通りだ・・・実験は成功だな。特にシエラはな。』
「は、私?」
きょとんとした顔でシエラがたずね返すと、ナザールは満足げに答える。
『その通りだ。いいデバイスになった上に第二段階の実験も大成功だ。まったく、驚かされる・・・デバイスもなしにこれほどヴァンツァーを操れる者はそうそう居ない。だから有効活用してもらったのだよ・・・私の手でな。』
『シエラに何をした、貴様!』
『カダール、君には感謝してもらいたい物だな。脳を切り取ったシエラにデバイスを移植、シエラのデータを全て移植して復活させたのだ。もっとも脱走されたのは予想外だったがな。』
カダールは言葉を失うほかなかった。そんな残酷な真似をシエラにされていると言うヒントはいくつかあったのにまったく気づけなかったのだ。リヴィエが変わりに、強い口調で詰め寄る。
『なんて酷い真似をするんですか・・・!』
『人には未知の領域が多い。知るには犠牲が必要だ。人は毒物と食料を分けるところから犠牲が始まった。何かを得るためには犠牲なくしては知る事は出来ないのだよ。B型デバイスもそうだ、君達が犠牲を恐れ20年も実用化できなかったものを我々は5年で実用化できたぞ?』
『あ、貴方は・・・!!』
ノートゥングの技師まで馬鹿にしたような態度を取られ、リヴィエは感情に任せてワイルドビークを発射する。砲弾がインヴァイデッドの真正面で爆発する。その間にシエラはカダールに無線を入れる。
「ね、隊長。」
『・・・何だ?』
「あいつ無視してさっさとプラントに突撃しない?こいつ、きっとゲオルギーのために時間稼ぎしてると思う。」
あぁ、とカダールも納得する。確かにプラントを放置すれば無人ヴァンツァーも増え続け、EC軍の特殊部隊も危うくなる。ここで手間取れば犠牲が大きくなることは相手も分かっているはずだ。
『そうだな・・・リヴィエ、ワイルドビークに煙幕弾を装填しろ大型機動兵器をすり抜けてプラントを制圧する。奴と戦うのはその後でも遅くない。』
『解かりました。』
リヴィエが納得すると、カダールは突撃の合図を出す。それと同時にリヴィエがワイルドビークを発射。インヴァンデッドに煙幕弾が炸裂し敵機の視界を奪う。その隙にシュトゥルムピングィンは大型機動兵器の脇をすり抜け、プラントへと向かって行く。
プラント入り口に到着し、真っ先にカダールとシエラがゲートをくぐる。が、その背後からヴァンツァーが多数接近してくる。プラントに入るのを食い止めようというのだろう。
「迎撃するよ、ハーネル!」
『その必要はない。』
すぐにハーネルが踏みとどまるとゲートを閉鎖してしまう。一瞬でゲートは閉じたがリヴィエやハーネル達も外部に取り残されてしまう。カダールは声を荒げてハーネルに指示を出す。
『何をしているハーネル!ゲートを開けろ!』
『断る。ここで誰かが食い止めなければ無人機はプラント内部にも向かってくる。隊長とシエラだけでも中枢を破壊すればそれで終りだ。』
『それならお前も死ぬぞ!誰でもいい、ゲートを開けろ!』
カダールが声を荒げて指示を出すが、リヴィエが真っ先に拒否する。
『ハーネルさんの言うとおりです。ゲートを閉鎖して破壊しても無人機はヴァンツァーの火力を集中して破壊するでしょう。ならば私達が食い止めるのが一番いい方法だと思います。』
『まぁ、な。それに死ぬなんて思っちゃあいない。隊長・・・貴方なら無人機のプラントを止めるくらいたやすい、違いますか?』
信頼しているとアーヴィトに言われ、カダールは黙り込むがきびすを返してプラントの中枢部へと突撃する。シエラもそれに随伴し、中枢部へと向かう。
「いいけどさ・・・生還したら覚悟しといてよ?」
『あぁ、覚悟して置くよ!』
レジーナが軽い調子で答え、その後に無数の発砲音が鳴り響く。無線はそこで途切れたが、おそらく戦闘に集中するために意図的に切ったのだろう。一息ついた後、シエラは不安げにカダールにたずねる。
「隊長。さっさと切り上げれば・・・生きてるよね?ハーネル達。」
『当然だ。が・・・それほど余裕はないぞ。急ごう。』
「おっけー、行こう!」
時間もないため、ローラーダッシュを欠けて2機はプラント中央部へと向かう。するとカダールが高速で機体を滑らせながらたずねる。
『お前・・・何も気にしていないのか?ナザールにあんな事をされて。』
「うーん、寝てる間に何もかも済まされちゃったからね・・・だいぶ思い出してきた。ロングリバース島に開業予定のホテルに監禁されてたの。」
『なるほど、な。』
ロングリバース島は比較的大きく、自然が豊富だったためそこに大規模なホテルを建設使用としたのも分からなくもない。もっとも2071年の紛争で建設が中断、それ以降ロングリバース島はPMO管轄下に置かれ放棄された施設を改造して捕虜収容所兼実験施設として使っていたらしい。
シエラが監禁されていた間のことを思い出したと聞き、カダールは食い入るように聞く。
「だいぶ思考とか記憶がはっきりしてきた時には監禁されてるってことは理解出来たの。で、すぐ出ようと思ったけど見回りがいる。だから見回りを確実に倒すためにまずモップを手に入れて背後からぶん殴ったの。」
『ほうほう・・・』
「で、一撃で倒れたから服とかを奪って兵士は掃除用具箱に突っ込んで・・・とりあえず戦力もないと不安だから服を着てヴァンツァーのありかを探したら倉庫にあったの。ちょうど私好みの65式が。後は兵士の持っていたIDカードで稼動させてそのまま脱出したんだけど結構な数に追いかけられて・・・とりあえず全部殲滅して・・・」
やっぱりか、とカダールは苦笑してしまう。武器腕ヴァンツァーにシエラを乗せた敵がうかつだったとしかいえない。シエラは少し楽しげに状況を説明する。
「で、偶然乗った機体が隊長の機体だったからボイスコマンドで指示が出せたの。無人ヴァンツァーも稼動したから装甲車両もヘリも片っ端から撃ち落として、港にも敵戦力がいたけどそいつらも倒して・・・後はヴァンツァーを機能停止させて、ボートで逃げて眠ったの。起きたらフォートモーナスに漂着してたってわけ。」
『お前・・・大変だったな。』
これだけで軽く映画がとれそうだな、とカダールは思ってしまう。シエラはどうって事ないよ、といつもの明るい調子で答える。
「こうして生きてるだけでも嬉しいし、隊長にも再会できたから・・・とにかくいきなり顔合わせされてああいうこと言われてもぴんとこないしなぁ・・・」
自分とシエラだけでプラントを止めに行ってよかったのかもしれない、とカダールは思ってしまう。場違いなほどシエラはいつもどおりの調子であり、逆にカダールは怒りに我を忘れそうになるほどでまっとうに指揮を執れる状況でもない。
なら2人で組んで手当たり次第敵機を撃破するほうがいい。そうすれば余計な事も考えずに敵機の撃破に専念できるからだ。
『だが、ゲオルギーのやったことは許せないだろう?行くぞ、シエラ。』
「もちろん。あいつを止めないとね・・・」
ペンギンカラーの2機はガストを前にしてプラント内部を進んで行く、ノートゥングからプラント内部の地図をダウンロードし、その地図どおりに動力部を目指して歩いていく。
続く
(※1)
ストレラ製装甲車。以下設定。ストレラ製装甲車89年型(Strela Armor Vehicle)の頭文字をとったのがSAV-89である。哨戒用の装甲車だが砲塔タレットを2つ持ち重武装が可能。初期型は30mm機銃2基を搭載していたが砲塔を2つ搭載する意味合いも薄く前部を照準装置兼観測装置、後部に武装を搭載する配置が一般的となった。30mmガトリング砲を装備するが仰角を高くとる事も可能であり対装甲車両や対空目標の射撃に使用される。ストレラ工廠のプラントを接収した際には多数が完成しており、後にストレラ工廠が対空ミサイルや対戦車ミサイル、迫撃砲を搭載したバリエーションを発表した。アゼルバイジャン陸軍に210台が納入され、輸出も盛んに行われている。
(※2)
ディアブル・アビオニクス製大型機動兵器。以下解説。2091年にOCUのグランド・ガンボート計画によって配備された大型機動兵器に対抗するために製造された機体。開発途中、アゼルバイジャン1月革命が発生しその戦訓も取りいれたためロールアウトは2095年にまでずれ込んでいる。最初は18cm砲を搭載する予定だったが1月革命でヴァンツァー駆逐機と呼べる大型機動兵器が活躍を見せた事から40mmガトリング砲を4連装、上部の可動式砲台に搭載している。4脚型の大型機動兵器であり15cm迫撃砲とロケットランチャーで火力支援も可能なように製造している。本格的な実戦投入は中南米連合独立戦争時からであり森に潜むヴァンツァーを圧倒的な弾幕で軽々と撃破していった事から「棺桶職人」の愛称までもらっている。EC軍にもいくつかが納入された。