Front mission Brockede

Mission-27 Slaughter

 

3/1 1554時 アゼルバイジャン中心街

「うわ、酷い有様・・・」

アゼルバイジャンの中心街にACH59が接近すると、町はあちこちから黒煙が上がり無残に破壊されている。地上にはグリムニルのエンブレムをつけたミュートスやフェザントが徘徊している。シエラはバクーの惨状をみて、うつむいてしまう。

『・・・早い所、連中を駆逐するぞ。隊長、指示を。』

『分かった。なるべくガスポッドの近くにまで接近してくれ。そこで降下する。』

『了解。』

カダールがパイロットに指示を出す。そのままACH59は高度を落とすと大通りに着陸。その間にシュトゥルムピングィンのヴァンツァーがヘリから降りる。数分遅れでスリングヘリから第2小隊のヴァンツァーも降下、着地する。快晴だと言うのに市街地に着陸すると煙で薄暗くなっている。

そのままACH59とスリングヘリは離陸しスムガイトへと帰還する。全員の降下を確認するとカダールはすぐに大通りに止まっているトラックに気づく。怪しげなポッドを搭載しているようだ。

『あのポッドがガスの発生源らしい、誰か操作して止めろ!』

『我々にお任せを。電子戦闘の訓練を受けています!』

第2小隊のクラスタシアがガスポッドに接近、ECMバックパックを操作してハッキングを開始する。するとグリムニルのミュートスやフェザントが突進してくる。アゼルバイジャン軍の塗装をしているがIFFは敵と判別している。

「クラスタシアを守らなきゃ!急いで!」

『了解です、何とか護衛します!』

リヴィエも応答するとシールドを構えながらクラヴィエを発砲。ミュートスもブラックスターを連射し応戦する。27mm銃弾がクラスタシアを掠めるが大半がシールドでカバーされ、そこにシエラがアールアッソーCで援護射撃を行う。

40mm銃弾を大量に受けてミュートスは爆発、その残骸を飛び越えてフェザントは弾幕を突っ切り、クラスタシアへと突撃する。

『・・・終わりだ。』

ハーネルがフェザントめがけジリーノを発砲。衝撃でフェザントが吹き飛ばされるがそこにアーヴィトがブラックスターを発砲。空中でフェザントが爆発する。するとクラスタシアのパイロットが明るい調子で報告する。

『ポッドの解除作業完了です!』

『後は友軍に任せよう。中将、指定座標に援軍を頼む。』

カダールは援軍を要請すると、すぐに部隊をまとめ次のポッドへと向かう。しばらくするとローター音が聞こえてくるが援軍到着を待たずにカダール達は次のガスポッドを停止させに南へと向かう。

『中佐、援軍を送ったが厄介な状況だ。テロリストは市街地中心部を制圧し南に向かっている。国会議事堂付近に第2師団所属の中隊が展開しているが突破されるのは時間の問題だ。化学兵器のポッドを停止させれば残敵をこちらで掃討する。迅速にポッドを停止させて第2師団の救援を頼む。』

『了解。行くぞ!』

簡潔に応答するとカダールは部隊を率いて南下、バクーの国会議事堂へと向かって行く。途上に化学兵器を噴射するポッドが存在するが、アゼルバイジャン軍迷彩のイーゲルツヴァイやグリレゼクス、シャカールなどが巡回している。取り残された味方かもしれない、と思ってアーヴィトが通信を入れる。

『・・・あいつ等、アゼルバイジャン軍の機体なのか?IFFは敵を示してるが・・・』

『だと思うけどね・・・ゲオルギーの奴、アゼルバイジャン軍のヴァンツァーに無人機を紛れ込ませやがった・・・』

レジーナがダブルコメットの照準を合わせると威嚇射撃目的に1発発砲。はずしたが全機が反応して向かってくる。すぐにレジーナは突進してくるイーゲルツヴァイめがけダブルコメットで狙撃。

重い発射音とともにイーゲルツヴァイの左腕が吹き飛ぶ。それでもイーゲルツヴァイは突進してくるがアーヴィトとシエラが十字砲火を浴びせてようやく沈黙する。

その後ろからシャカールがグレイブを発砲、建物の上にミュートスが2機出現しブラックスターを発砲する。

『ポッドを解除しろ!俺達が敵をひきつける!』

『了解!』

クラスタシアのパイロットに命令を出すとカダールはバズーカを連射。少々あてずっぽうに発射したが1発がミュートスの右腕に直撃、吹き飛ばしてしまう。

その隙にクラスタシアはポッドに接近し、ハッキングするとポッドの機能を停止させにかかる。その無防備なクラスタシアをシャカールが攻撃しようとするが、リヴィエがクラヴィエを発砲して阻止する。

『無人機に言っても無駄でしょうけど・・・邪魔しないでください。』

37mm銃弾を次々に食らったシャカールはショットガンの射程に接近する前に炎上するが、いきなり搭載していたEMPポッドを稼動させる。途端にクラスタシアがシステムダウンしてしまう。

『どうした!?』

『き、機体がシステムダウンしました!ポッドは停止できましたが、行動不能です!』

まずいな、とカダールは舌打ちする。迅速な行動が必要だが友軍機をシステムダウンから回復させている時間すら惜しい。すぐに無線でディートリッヒ中将に連絡を取る。

『中将、援軍を要請します。ポッドの護衛に必要です。1機行動不能のため迅速に願えますか?』

『了解、今向かわせている。それと厄介なニュースを伝えなければならん。ルスラーン、UAVの画像を転送してくれ。』

ディートリッヒ中将に命令され、ルスラーンがUAVからの画像をディスプレイに表示させる。そこには大型機動兵器2機と護衛のヴァンツァーが複数存在する。

「ポッドは無いみたいだけど・・・?」

『連中がグリムニルの指揮を執っている。どちらかの大型機動兵器に乗り込んでいるのがおそらく連中の指揮官だろう。後はスーリヤ製のウシャスMk1(※1)とゼニスSN、護衛のヴァンツァーが待機している。ミュートスやラヴァーンダが多数だ。』

なるほどね、とシエラが戦力規模を把握して納得する。大型機動兵器はSSV-92キートとSSV-96カサトゥカ(※2)であり、おそらくカサトゥカの方に敵司令官が搭乗しているのだろう。

「こいつ等を無力化するの?」

『その前にポッドが近くにあるはずだ。それも停止させてもらいたい。終った後はわが軍の輸送機から対抗化学薬品(※3)をばら撒く。貴官等は大型機動兵器を撃破してくれ。連中の機体は無人機だ。指令が途絶えれば連携した作戦行動は取れないだろう。』

「おっけー、中将。任せといて!」

シエラはあっさりと指示を受け取り、そのまま部隊の先頭に立ってガスポッドへと向かう。するとリヴィエが連絡を入れてくる。

『私がポッドをハッキングします。シュナイダーに回線をつなぐのでしばらく待っていてください!』

『分かった、リヴィエを護衛しろ!』

すぐにカダールが指示を出すが、ウシャスMk1とゼニスSNがアゼルバイジャン軍塗装のラヴァーンダを引き連れて突撃してくる。すると敵軍の無線が混線してくる。

『・・・シュトゥルムピングィンを確認。ベルナルド、指示を。』

『排除しろ。まったく、ゲオルギーも部下を鍛えすぎだ。小国の軍がここまでデバイス機と張り合うなど・・・』

女性の声は了解、と応答する。それと同時にウシャスMk1が突撃、霧島58式とステイトを同時に連射しながら接近してくる。

「へぇ・・・」

シエラは興味深そうな笑みを見せながら突撃、20mm機銃とアールアッソーCを発射する。近距離で散弾と大量の銃弾が交錯するが掠めるだけで直撃しない。

その間にシュトゥルムピングィンはラヴァーンダとゼニスSNを撃破に向かう。青いゼニスSNはイグチ502式を発砲するがカダールがシールドで防ぎ、ホーネットを発砲。

砲弾を軽々とゼニスSNが回避するとローラーダッシュを仕掛け、移動しながらイグチ502式を発砲する。88mm砲弾が正確に命中。アーヴィト機の右腕が吹き飛ばされてしまう。すさまじい技量にアーヴィトが舌を巻く。

『なんっつー奴だ・・・!』

『・・・アーヴィト、俺が始末する。』

ハーネルが無言で青いゼニスに接近。ゼニスSNもライフルを発砲するが近距離でハーネルは回避しジリーノを発砲する。多数の散弾がショットシェルから拡散するが、ゼニスSNが横に回避しわずかに掠めるにとどまる。

その隙にアーヴィトもブラックスターを発砲するがありえないほどの反応速度でゼニスSNが回避、反転しイグチ502式を発砲する。狙いはそれほど正確でもなく、ゼニスVの頭部を掠めるだけで済んだ。

『マジかよ・・・!』

『アーヴィト、レジーナとラヴァーンダを始末しろ!』

カダールが命令を出した瞬間、ラヴァーンダが仰角を高く取りカーディナルを発射。多数のロケット砲弾が降り注ぎ爆風で視界が利かなくなる。

その一瞬の隙にハーネルはアゴーニを振りかざすが、すでにゼニスSNは距離をとり、後退しつつイグチ502式を発砲する。反応が遅れてしまいジラーニは回避もままならず次々に砲弾が炸裂、重要区画を吹き飛ばされ転倒してしまう。

『ハーネル、大丈夫か!?』

『戦闘不能だ。脱出する。』

ハーネルが脱出レバーに手を欠けようとした瞬間、すぐにレジーナが制止する。

『ハーネル!化学兵器がばら撒かれてるんだ、出たら死んでしまうよ!』

『ちっ・・・!』

ぎりぎりでハーネルは脱出を思いとどまり、舌打ちをする。後少し力をかけていれば脱出してしまうところだったのだ。するとカダールは機を返し、ゼニスSNへと突貫する。無謀だと思ったのか、リヴィエがカダールに呼びかける。

『隊長!?』

『レジーナはラヴァーンダを排除しろ!アーヴィトはレジーナの支援に廻れ、俺が相手をする!』

了解、と短く応答を返しアーヴィトはラヴァーンダの攻撃に向かう。一瞥するとカダールはゼニスSNをロックオンしトリガーを引く。

プラヴァーM2が発射されるがゼニスSNがフレアーを射出して回避、反撃にイグチ502式を発砲する。すぐにカダールはシールドを構えるが砲弾はストームを掠め、頭部に直撃するが目だったエラーは無い。

『・・・やれやれだな。』

無事に済んだのが奇跡だとカダールが思っているとゼニスSNがイグチ502式を片手保持、左腕にステイトを装着し接近戦を挑んでくる。おそらくカダールの武装が遠距離戦闘に向いていると判断し、武装を変えてきたのだろう。

劣勢だと思いながらカダールはシールドを構える。可能ならショットガンをしのぎ、盾で痛烈な一撃を加えてやろうと思ったが相手がそんな隙を見せるはずも無い事は良く分かっている。ゼニスSNはカダールが迷っている間に、一気にローラーダッシュで距離をつめにかかる。

『来たか・・・!』

カダールがシールドを構えた瞬間、ゼニスSNが背後から爆風を受けて吹っ飛ばされてくる。隙を見逃さず、カダールはシールドでゼニスSNをぶん殴り、それからホーネットを発砲。

ゼロ距離に近い状況で砲弾を胴体に直撃され、ゼニスSNは転倒してしまう。その真上を多数のアゼルバイジャン軍のC-71シゴーニュ(※4)輸送機が通過し、緑色の対抗化学薬品をばら撒く。

『無事ですか、隊長?』

リヴィエがワイルドビークを直撃させ、ゼニスSNをふっ飛ばしたようだ。ほっとカダールが胸をなでおろす一方、ガストとウシャスMk1はボロボロになりながらローラーダッシュで移動し、銃火器を連射しあう。銃弾が次々に装甲版をかすめ、抉り取っていく。

「・・・やるじゃん。」

『貴方こそ。』

それがシエラの率直な感想だった。人と同じような滑らかな動きを見せているがそれはたいした脅威でもない。戦闘に対する直感や反射神経の良さにシエラはつい笑みをこぼす。これほどの相手はハーネルくらいしか出会った事が無いのだ。

「ま、後一歩で勝てないかな?私、めっちゃ強いし。」

『何?』

ウシャスに乗る女性は怪訝そうな声を上げると、シエラはいったん距離を置いて真正面にウシャスを捕捉する。意図を察したか、察しないか分からないがウシャスも反転すると、ショットガンを構えガストに銃口を向ける。

一瞬だけ2機が沈黙すると、上空に黒い影が翻り轟音が鳴り響く。それと同時に2機が交錯し至近距離で全火器の銃弾を叩き込む。2機がすれ違った時にはガストの機銃武器腕は破損していたが、ウシャスは火花を散らして倒れる。

『シエラさん、無事ですか!?』

「ま、何とかね・・・」

リヴィエから無線が入り、シエラは疲れた様子で答える。緊張から開放されたため一息つくが、ガストの武器腕が破損しアールアッソーCも修理が必要なほど被弾していた。

『こちらルスラーン、予備機を投下する。すぐ乗り換えてくれ。化学兵器の中和を確認したから、その区域なら外に出ても大丈夫だ。』

「さんきゅ、ルスラーン!」

ED-1Eアービレーターの機尾ハッチが開き、上空からヴァンツァーを2機投下する。シエラのはまったく同じ機体構成でありマシンガンとショットガンの武器腕を左右反対にした程度だ。ハーネル機はリヴィエの使用していた110式陣陽を使用。コベットとキーンセイバーを装備している。

早速リヴィエは破損したガストから脱出、梯子を上って補充されたガストに乗り込む。破損したガストは輸送機に回収され、そのまま2機とも回収するとED-1Eは飛び去っていく。

「おっけー・・・ハーネルとか無事?今合流するよ。」

『無事だ。シエラも早く来てくれ。黒幕とご対面だ。』

了解、と応答するとシエラはそのまま本隊に合流しに向かう。瓦礫だらけの大通りを抜けてシュトゥルムピングィンに合流するとそのまま前進する。すでにアーヴィトのゼニスVは補修が完了し、腕はラヴァーンダのパーツを分捕って使用している。

すると、前方の交差点に大型機動兵器を確認した。SSV-92キートとSSV-96カサトゥカであり護衛にラヴァーンダやミュートスが随伴している。途端にカサトゥカがロケットランチャーと15cm砲を発砲する。

『前進しろ!』

「了解!」

ローラーダッシュで6機が砲火を突っ切り、榴弾の爆発やロケット砲弾を回避しつつ前進しはっきりとカサトゥカが視認出来る距離まで接近する。3階建ての建物と同等の高さを持つ敵機は15cm榴弾砲の連装砲塔をシュトゥルムピングィンに向けていた。

『無謀すぎるが、すさまじい戦闘技術だな。グレンやハンナで止められなかったのも納得が行く。これでデバイスを搭載していないとは信じられんな。』

『・・・モーガン・ベルナルド・・・!』

無線の相手に対して、リヴィエが怒りに身を震わせながら名前を言う。シエラはその名前を聞いて、ストレラ工廠のプラントでリヴィエに追い詰められて投身自殺した相手だとすぐ分かった。

「あれ?あいつ死んだんじゃなかったっけ?目の前で身投げしちゃった・・・」

『影武者がたくさんいる・・・シエラさん、以前そういいましたよね?』

あぁ、とシエラがうなずこうとしたがその前にモーガンが苦笑しながら語り始める。

『ノートゥングですらその程度しか分かっていないとは・・・あの時追い詰めたのは単なる不運でしかなかったようだな。』

『何故その事を!?』

『後で考えてみたまえ。あるいは今盗聴している上官にでも聞いてみるのもいいかもしれんな。』

リヴィエが舌打ちすると、モーガンはすでに興味がうせたのかシエラに語りかける。

『しかし・・・ガストのパイロットか。デバイスを使わずに単独でハンナを撃破するとは。だが、それにも限界はある。』

「は?どーいうこと?」

『我々はS型デバイスによってヴァンツァーと機体を接続している。操縦と言う概念を持たない我々を前に、どこまで出来るか見ものだな。』

ふーん、とシエラは鼻で笑ったように笑みをこぼす。ずるいな、とは思ったがそれならハンナの見せた滑らかな動きも納得がいく。シエラは20mm機銃の銃口をカサトゥカに向け、確信に満ちた声で反論する。

「逆じゃない?逆。操縦って概念があるから強いの。」

『何?』

「自分の手足みたいに扱ってもどっか見落とす事って多いんだよねー・・・けどさ、私は違う。大好きだから操縦できるし扱いこなせる。愛情もって使ってるから何がよくて何がダメかはっきりと分かる。ただ自分の体みたいに動かせるあんた達とは違うの。愛着も心構えも、何もかも違うんだからさ。」

今の武装を理想系とするシエラの言葉にシュトゥルムピングィンの皆が納得するほかなかった。するとハーネルが不適に笑みを浮かべながら挑発する。

『お前こそ、人体と違う兵器で何が出来る?ヴァンツァーは多少なりとも人に近いだろう・・・だが、鈍重な人型とも離れた兵器では実力など発揮出来まい。もったいないものだな・・・中将かゲオルギーならまだマシなものを。』

『言ってくれる。まぁ、我々の計画や理想についてノートゥングの手先に話すつもりなど無い。実力を持って排除しておくとしよう。』

モーガンが語り終えるとカサトゥカから15cm砲弾が発射される。徹甲榴弾を使用しての直接射撃を行ってきたがすぐにシエラは回避、カサトゥカに突進する。

するとキートがシエラの正面に躍り出て40mm機銃を発砲する。すぐにシエラが回避すると、反撃に75mmショットガンを発砲。的が大きいため散弾がすべて直撃するが、たいした損傷はないようだ。

『元帥に銃を向けるのか?シエラ。それとシュトゥルムピングィン。』

『ゲオルギー・・・何故こんな真似をした!?』

キートに搭乗しているゲオルギーが普段の調子で無線を入れてくる。反逆者を階級で呼ぶ道理はなく、カダールは呼び捨てでゲオルギーを呼びつける。

『今、お前達に語ることは何もない。私には私の理想があるのでな。』

40mm機銃をキートが発砲するが、シエラは機銃を回避しつつアームめがけショットガンとアールアッソーCを発射する。近距離でアームに散弾と40mm銃弾が炸裂しアームが吹き飛ばされる。

「でもさ、無茶しないほうがいいよ?指揮官は指揮官らしくしてないとね・・・?」

『あたしもそう思うね。ゲオルギー・・・失望したよ。』

レジーナがダブルコメットの照準を合わせるが、ラヴァーンダがソウルバスターで殴りかかってくる。すぐにレジーナが回避行動をとると近距離で照準もつけずにライフルを発砲する。

ラヴァーンダの分厚い正面装甲に98mm砲弾が食い込むが貫通せず、右腕を吹き飛ばすのみに終る。その間にラヴァーンダはスカルバスターで殴りつけ、グリレゼクスを吹き飛ばす。

『レジーナ!?』

『気にすんな、ハーネル!あたしが処理する!』

そうは言ったものの、レジーナは結構強い相手だと思ってしまう。判断力が冷静で動きが遅いはずのラヴァーンダにしては敏捷で一気に距離を詰めてくる。肩に搭載したコルヴォ(※5)から散弾を連射してくるが、レジーナはその回避に手一杯で反撃できない。

そうしている間にもグリレゼクスは散弾を受けて火花を散らしている。見ていられないと思ったのかハーネルが加勢に入る。

『レジーナ、支援する!』

真横からハーネルが突貫、ラヴァーンダにF-5ハンドロッドを振りかざす。ロッドの衝撃と電磁波を受けたラヴァーンダが一瞬だけ機能を止め、そこにレジーナがダブルコメットを発砲する。

98mm徹甲弾が至近距離からラヴァーンダの胴体に直撃、エンジンブロックを貫通し爆発してしまう。

『ったく、無人機の癖に・・・!ハーネル、悪いね。』

『気にするな・・・無人機はエース級のデバイスを組み込んでいるはずだ。苦戦しても仕方ない。』

レジーナが軽く礼を言うと、ハーネルは軽く慰めつつ険しい表情を浮かべる。おそらくアフリカや東欧で集めてきたエース級のパイロットをA型デバイスに仕立てて量産した物を組み込んだのだろう。だとしたら第2師団の手に負える敵ではない。

その間にミュートスが110式陣陽の近くにまで迫り、アヴェルラを発砲するがハーネルは何とか回避。その隙にレジーナがダブルコメットでミュートスの脚部を狙撃する。

間接部分を98mm徹甲弾が貫通し破壊。ハーネルは遠慮なくコベットを近距離で発砲する。ミュートスが沈黙し、ハーネルは一安心すると友軍の状況を確認する。シエラとカダールがキートと交戦しアーヴィトとリヴィエが必死に無人機を食い止めているのがはっきりと見える。

『・・・あんたには失望した、ゲオルギー。よりによって自国民の大量虐殺に手を貸すなんてな・・・!』

『深い理由があってのことだ・・・といっても、お前は聞く耳を持たないだろう。互いの責務を果たせばいい。』

『何をしたか分かってるのか・・・!?』

淡々と喋るゲオルギーにカダールは怒りを募らせる。シエラも黙って聞き流すことはできなかった。

「そうだよ!元帥なのになんでこんなことに手を貸してるの!?」

『今言うつもりはない。役目を果たして見せろ・・・!』

話しても無駄だと思ったシエラはキートに猛烈な射撃を浴びせる。カダールもホーネットを発砲、キートの側面に直撃するが分厚い装甲に阻まれ貫通しない。

しかしキートの攻撃手段であるアームを破壊し、胴体固定式の12.7cm砲を残して無力化する。カダールはバズーカをキートに突きつける。

『降伏しろ、攻撃手段は奪った。』

『そうも行かないのではないか?忠告しておくがな。』

ゲオルギーが不適に笑みを浮かべた途端、後ろのカサトゥカが15cm砲を発砲。すばやくカダールとシエラが回避行動をとり、カサトゥカに向き直る。

『戦場で後ろを向くとは随分と余裕だな。』

「科学者崩れに負ける気がしないからね。いくらデバイスで強化したって、付け焼刃じゃあどうしようもないよ?」

余裕を見せながらシエラはモーガンが搭乗するカサトゥカにアールアッソーCと20mm機銃を連射する。カサトゥカの15cm砲に銃弾が直撃するがアームの40mm機銃でカサトゥカが応戦する。

大量の銃弾が弾幕を形成しガストが飲み込まれていくが、すぐにカダールが40mm機銃めがけプラヴァーを発射。銃身に直撃し40mm機銃が捻じ曲がってしまう。シエラは隙を突いてショットガンを発砲。カサトゥカの15cm砲に散弾が直撃、一瞬で爆発し砲台を1基無力化する。

『あまり無茶をするなよ。科学者崩れとバカにするのも良いが機体の火力は侮れん。』

「わかってるよ・・・あんなに激しいなんて聞いてないし。」

40mm銃弾を何発か受けてもガストは大丈夫そうであり、シエラは頬を膨らませながら答える。するとルスラーンが無線を入れてくる。

『こちらルスラーン、カサトゥカから離れろ!空爆を行う!』

「了解!」

カサトゥカの15cm砲をいくつか破壊出来たため対空火力が弱まっている。その隙を突き、ED-1Eが大量の爆弾を搭載し飛来する。シエラとカダールが離れると大量の500kg爆弾(※6)が降り注ぎカサトゥカに直撃する。

500kgもの重い爆弾が装甲版に突き刺さり、その状態でいっせいに爆発する。15cm砲やロケットランチャーの予備弾薬にまで引火し大爆発を引き起こす。カサトゥカが沈黙したのを見て、カダールはホーネットをカサトゥカの操縦席へと向ける。

『投降しろ、モーガン。聞きたい事が山ほどある。』

『そうもいかんな。我々としては任務を果たした、もうこの体にこだわる理由もない。』

途端にカサトゥカの操縦席が爆発、モーガンは自爆してしまったようだ。カダールは忌々しげに舌打ちをする。

『・・・また、自爆したんですね。』

無人機を掃討したリヴィエがカサトゥカをみてため息混じりにつぶやく。第2師団もようやく敵軍を突破し市街中心部を確保するため進軍している。後はシュトゥルムピングィンではなくても出来る仕事だ。

『こちらルスラーン、SSV-92キートを発見したが搭乗員はいない。ゲオルギーは今捜索中だ。』

『逃げたのか・・・だとしてもどこに?』

逃げ場所があるのか、とカダールは疑問符を抱く。もしかしたら廃棄されている基地などがあるかもしれないと思い、ルスラーンに一応連絡を取る。

『放棄された軍事基地などに不穏な動きはないか?』

『現在、UAVで監視している。もしゲオルギーが来たらそこにすぐ部隊を向かわせられるよう手はずを整えている。シュトゥルムピングィンの5個小隊が待機中だ。』

やはりそんな単純な場所に逃げる訳はない。もし逃げたとしても彼等に後始末を任せれば良い話である。すると首都防衛隊から無線がはいる。

『バクーから西に逃げるソーンビルVTOL機(※6)を確認しました、現在追跡しています!』

『西・・・アルメニアか?』

まさか連中と通じていたのか?とカダールは疑問符を抱くが仇敵であるアルメニアに身売りしてテロを行う人物でもない、とは感じていた。それならグリムニルが関わる意味もないし、ゲオルギーが亡命先に選ぶならアルメニア軍もどこかで領空侵犯をしてソーンビルと合流しようとするはずだ。

『アルメニア軍に動きはない。連中とは無関係だろう。』

『だとすると逃亡先はどこだ?ルスラーン、UAVで追跡を頼む。』

『もうしている。今輸送ヘリがそちらに向かっているはずだ、合流して後を追ってくれ。』

了解、とカダールがうなずくと着陸地点にシュトゥルムピングィン全機を集める。一息つきながら、シエラは用意していたドイツ製のチョコレートを食べる。レーションから抜いておいた物だろう。

「・・・何とかなったね。」

『まったくだ。』

誰ともないシエラのつぶやきにアーヴィトが答える。心底疲れた様子でありグリムニルを撃退出来たことに安堵の息を漏らす。

『・・・だが、悲惨なことになったな。復興するのも難しそうだ。』

ハーネルがバクーの惨状を見て、不安げに声を上げる。ヴァンツァーでも相当な破壊活動が行われ議事堂には傷こそなかったものの各種省庁などのダメージは深刻だ。復興するには相当な時間がかかるだろう。

『巻き込んだのは我々だ。救援物資が円滑に届くよう我々からも支援する。』

『シュナイダー・・・驚かすな。』

突然無線に割り込んできたシュナイダーにハーネルが驚いてしまう。軽く笑いながら悪かったな、とシュナイダーが謝ると冷静な口調に切り替えて話す。

『それよりもゲオルギーのVTOL機を用意した奴はナザール・バリジニコフだ。奴もバクーにいてこっそり無人機のデータを取っていたらしい。奴も同乗しているはずだ。』

「おっけー。そういえばさ、あの有人機操縦してたエース2人って誰?」

シエラが強かった2人のことをたずねると、あっさりとシュナイダーが話す。

『あぁ・・・お前が戦ったのはハンナ・シュバイツァー。もとECオーストリア陸軍所属でバルカン半島の紛争に巻き込まれて行方不明になったエースだ。もう1人はグレン・デュバル。OCU軍のエースとして数多くの戦果を上げたがPMO活動中に敵味方構わず殲滅し、そのまま行方不明・・・どちらも生身のままグリムニルにいるようだな。』

「エースねぇ・・・納得。」

相討ち寸前にまで持っていったのだからシエラも納得するほかなかった。

『今、国際指名手配犯にこの4名の名前を登録するよう本部に依頼した。明日には連中も指名手配されることになるだろう。モーガン・ベルナルドの写真なども合成したから、動きを制約出来るはずだ。』

国際指名手配犯となれば彼等の動きも制約される。カダールもとりあえずは安心しているとまた無線で割り込んで通信を入れてくる人物がいる。今年で任期を終えるアイゼル首相だ。

『シュトゥルムピングィンの皆さん・・・感謝します。我々は何とか無事でした。』

『首相も無事で何よりです。閣僚は?』

『何とか議員や職員も含めて地下シェルターに隠れられたようです。今、ディートリッヒ中将に臨時の指揮権を与え陸軍全軍を統括させています。今後の指揮は彼が執りますが、異存は?』

『特にないです・・・首相。必ずゲオルギーを捕らえます。』

『えぇ、期待しています。シュトゥルムピングィン皆にも、幸運を。』

それだけ言うとアイゼル首相は無線を切る。結構忙しいのだな、とシエラが思うとシュナイダーが話を続ける。ちょうど輸送ヘリも到着し、そのまま乗り込む途中にも話を続けていく。

『グリムニルの搬入経路はまったく不明だが、国外から搬入されたのではないらしい。カスピ海やザーフトラから搬入された物資は全て民間企業のもので特にゲオルギーと関連するものはなかったな。』

『ってことは、国内?ありえないって・・・変なプラントを建造していたらあたし達の耳に入ってくるはずじゃないか。極秘裏に建造するなんて・・・』

レジーナがそんなことはない、と言うとルスラーンがあわてたようすで連絡を入れる。

『ゲオルギー機が消えた!』

『消えた!?そんなはずはないだろ、どこに行ったんだ!?』

アーヴィトが声を荒げるが、ルスラーンが頭を抱えながら答える。

『ベルトゾル付近の山中で消息を絶った。今、消息を絶った地点をUAVで捜索しているが依然として行方不明だ。』

『口封じのために撃墜されたかもね・・・ったく。』

レジーナがやりきれないような口調で答えるが、シエラは違うと首を振る。

「あのゲオルギーに限ってそんな、すぐあきらめるようなことはないしそうなった場合の手段も考えてるよ。絶対ね・・・きっと。」

『とりあえずベルトゾル付近を捜索するぞ。そこに向かってくれ。』

了解、とパイロットは応答するとカダールの指示に従いヘリを離陸させる。一定の高度をとるとヘリはアゼルバイジャン南西部のベルトゾルへと向かう。

 

 

続く

 

(※1)
エボルブに出演したアナクマをベースにしたヴァンツァー。というよりこっちが原型。以下解説。

スーリヤ工業が始めて開発したヴァンツァー。2096年に民間土木用として開発されたもののテスト段階で高い踏破性能と敏捷さを持ち、テスト結果をみた幹部やテストパイロットから「もしかしたら軍事転用も可能では?」という声が上がった。そこで軍事用の合金で機体を再設計。軍事用として不安視された間接部分の補強を行い実戦テストに投入すると優秀な結果を残した。
早速量産し、ラオス・カンボジア独立戦争に投入されると相当な戦果をあげたため一躍有名となった。ベースが民間用のため操縦席周りの防護性能に若干不安を残すものの機動力が高く、命中精度も平均程度を備える軽装前衛機として仕上がっている。もともと土木作業用のため多少の砂塵や泥にも強い。民間のラインとほぼ同じ設計のため生産コストも安く、第三国を中心に採用が増えている。

(※2)
2に登場したビスミラー。以下設定。

ストレラ工廠が2096年に開発した超大型機動兵器。15cm砲や40mm機銃、ロケットランチャーで武装しており師団規模の移動司令部としての役目を果たす。ホバー駆動で移動するため湖面や砂漠でも難なく移動可能。プロトタイプの設計図から不明箇所を抜き、通信機能を増強した上で移動作戦司令室の機能を備え付けた。大型でコストも高いが火力や装甲もすさまじく、また電子戦機能も非常に強力な物となっている。しかしいくら装甲が硬いと言っても近距離で15cm榴弾砲は取り回しが悪く、40mm機銃頼みの自衛火力のため接近戦では真価を発揮せず師団の火力支援こそが本来の使い道と言える。
アゼルバイジャン国内の機体は大規模テロの際に略奪された1機がシュトゥルムピングィンと交戦、破壊されている。CAU圏内にも輸出されており、高評価を得ている。名前はロシア語で「シャチ」の意。

(※3)
化学兵器と反応する薬品であり、これを散布する事により短時間で化学兵器を無力化することが可能となる。

(※4)
アエロクローネ製輸送機 以下設定。

2071年に設計された85tの貨物を輸送可能なアエロクローネ製輸送機。中型のクラスに入る輸送機でありヴァンツァーを2機搬送可能。ただし貨物スペースの都合上ヴァンツァーを寝かせて輸送する必要があり空挺投下は不可能となっている。戦車やIFV、装甲車をはじめとした輸送が主な任務で人員や空挺用ユニット装着の装甲車なら空挺投下も可能。しかし、それよりも貨物運送を主眼に置いた設計であり旧世代の輸送機と外観は変わっていない。ターボファンエンジン2基で飛行し、燃費やSTOL性能に優れている。信頼性も高いため、2100年代に入っても多数がアップデートを施され運用されている。

(※5)
バレストロ製オートキャノンっぽいもの。以下解説。

バレストロ社が開発したオートキャノンに近い性質を持つ大口径ショットガン。76mmの口径を持ち連射速度にも優れるショットガンであり連射が可能となっている。銃身下部にレーザーサイトを搭載、ハードポイントの基部にターンテーブルを備えレーザーサイトと連動して動くようになっている。捕捉範囲は広いものの取り回しを良くするため砲身を切り詰めている。そのため射程距離は短く、近距離での格闘戦に使用する補助武器として運用される。重量もかなりあるが、最適な射程距離で連射した場合重装砲撃機でもただではすまない。
変り種の武装として注目されており、他国の76mmショットガン用弾薬も使用可能なため一部の個人や武装勢力が性能比較用に購入している。しかしまだ正規軍への採用はない。

(※6)
無誘導で普通の徹甲榴弾の爆弾である。いつの時代も安くて威力がある爆弾の需要はなくなることはない。

(※7)
ストレラ製VTOL攻撃機。以下設定。

ストレラ工廠で開発されたVTOL攻撃機。無人操縦を前提としているため操縦席ブロックを分厚い装甲で覆っているが有人操縦も可能でありヴァンツァーのディスプレイと同じ要領で複数のカメラを使い操縦席スクリーンに外の景色を投影する。複座のため2人が乗り込む事が可能。ヴァンツァーの対空砲火に耐えうるだけの装甲をほぼ全体に施され、エンジンは2基搭載されているが1基だけでも飛行が可能なように設計されている。超音速性能はあるが同世代の戦闘機に比べ機動力で劣る。30mm機銃を標準装備するほか各種のMULS-P規格に対応したハードポイントを備えている。このためヴァンツァー用のロケットランチャーやミサイルなどを搭載可能であり、対空ミサイルを装備しての戦闘ヘリや戦闘攻撃機の駆逐、爆弾を搭載しての爆撃も可能。しかし空戦には向いていないため近接攻撃支援のみでの運用が望ましいとされる。アゼルバイジャン空軍に60機近くが納入された。

inserted by FC2 system