Front mission Brockede

Mission-25 Betrayer

 

2098年 3/1 1221時 スムガイト クローズドミリタリーエリア 食堂

「さすがECドイツ軍のレーションはおいしいねぇ、ソーセージが特に。」

「またか・・・」

やっぱりか、と思いながらカダールはシエラの隣に座る。注文したのはトルコ料理らしく、一方のシエラは2097年度のドイツ軍レーションを食べている。毎月欠かさず軍用レーションのレポートをブログに掲載しているようだ。昼間の食堂はそれなりに人が多いものの、スムガイトには軍関係者用飲食店もありそこに食べに行くことも多い。

「明日は戦勝記念パレードだ、体調管理に気をつけるべきじゃないのか?」

「ん、だからスペツナズレーションをやめてドイツ軍にしたんだけど。」

あぁそうか、とカダールはうなずく。シエラなりに手堅く選んだつもりなのだろうがカダールはそのあたりが理解出来ない。

3/2は2094年の革命成功を記念して毎年パレードを行っている。軍楽隊を交えヴァンツァーや戦車、装甲車も混ざっての大行進であり新たに採用された新型兵器も披露される。そのため何万人という人が集まる一大行事となっている。無論解放の立役者であるシュトゥルムピングィンもパレードに参加するのだ。

「それに塗装も終ったよ?派手にしてるから。」

「・・・またやるつもりか?」

ハーネルもただ事ではない雰囲気を察知してカダールの真向かいの席に座る。注文したのはボルシチのようで、食べながら話を聞く。

「当たり前だよ?去年はチェックだったから今年はこれ。」

シエラがテーブルにクロスを広げる。白地に黄色や青で星や月などが描かれた、パーティにでも出るような塗装をしている。

「・・・待ってくれ、少しくらい俺の意見を聞いてくれ。お前やリヴィエやレジーナはいいだろう。第2小隊も乗り気だが・・・俺はどうなる。ナミクも去年は恥ずかしがっていたぞ・・・」

「嫌なのか?シエラのセンスが・・・」

「いや軍用機をこう飾り付けるのはどうかと・・・隊長、最近シエラの肩を持ちすぎじゃないのか?」

一瞬だけカダールがびくりと跳ね上がる。先ほどからレーションを食べ終えたシエラがカダールにくっついている所を見るとハーネルが愚痴りたくなるのも分かる。だがカダールはシエラの頭を抱き寄せながら否定する。

「軍務においては手を抜いていないつもりだがな。」

「・・・それは分かる。だがこれは・・・」

「別に合わせろとは言っていない。嫌ならお前とナミクと第3小隊、第4小隊の装甲車をペンギンカラーにしておくがそれでいいか?」

それもそれでハーネルは複雑な心境ではあった。同一小隊ならカラーリングを合わせたほうが見栄えもいいのは分かっていてもやはり恥ずかしいと言うのがありなかなか同意できない。

「・・・いい、全機そのカラーでいい。」

しばらく考えた末、ハーネルが折れてシエラは笑みを浮かべる。するとナミクが息を切らせながら食堂に走ってくる。

「どうした、ナミク?」

「隊長とシュトゥルムピングィンに元帥から召集命令が!大至急とのことです!」

了解、とうなずくとカダールは食べかけの料理を残し、シエラとハーネルをつれて作戦司令室へと向かう。ナミクも後からついてきて作戦司令室に入るとすでにレジーナとリヴィエも席についている。4人が入ったところで部屋の照明が落とされ、モニターにゲオルギー元帥の顔が写る。

『緊急事態だ。明日のパレード開催に合わせ政府軍の残党が爆破予告を出してきた。我々が情報を解析した結果、ミンガセビル湖南の山中に敵軍の拠点を確認した。かつて政府軍が使用していた補給基地であり、犯人はそこに立てこもっているようだ。』

「まだいたとはな・・・」

ハーネルが忌々しげに愚痴をこぼす。ザーフトラからの軍事支援を受けて政府軍の残党はアゼルバイジャン独立直後から近辺の村を襲撃するなど、少なくない被害を与えている。アゼルバイジャン軍も見過ごすはずはなく応戦しているものの政府軍残党は巧みなゲリラ作戦を取っている。

それでも追い詰めることには成功しており、シュトゥルムピングィンも幾度か拠点襲撃任務に参加している。パレードの前日に犯行声明を出して阻止したケースもあったが1度襲撃前に阻止した事もあった。

『政府軍残党の補給基地の設計図は以下のとおりだ。VTOL輸送機の滑走路がありここに資材を下ろしていたのだろう。ここを制圧されれば連中には大きな痛手となるだろう。作戦は補給基地に空挺部隊を投下して制圧する。参加するのは第1小隊および第4小隊、第5小隊の3個小隊だ、質問は?』

「元帥、どうしてこの補給基地から発信されたと分かったのです?」

リヴィエが質問をぶつけると、ゲオルギー元帥はこともなげに答える。

『我々の情報局が位置を解析した。必要ならソースも提示する。他には?』

「・・・元帥、1個小隊で十分ではないでしょうか。基地の規模からするとヴァンツァーは10機程度ですし、対空システムはトラックに搭載したTA-22が1台と固定式45mm機銃1基程度です。」

カダールも疑問符を投げかけるが、ゲオルギー元帥は無理に押し通す。

『私が必要と判断したのだ。それ以上の理由は必要あるまい・・・他に何か?』

「いえ、特には。」

違和感を感じながらもカダールがうなずくと、ゲオルギー元帥は作戦指示を出す。

『これで作戦会議を終了する。諸君等の健闘に期待する。』

メンバー全員が立ち上がると、早速格納庫に向かう。するとシエラがカダールに話しかける。

「おかしくない?そんな小規模な基地にヴァンツァーを向かわせるなんて。」

「新設された部隊の教導任務もかねている話です。気にする事もないと思うのですが。」

ナミクが横から口を挟む。第4小隊、第5小隊は2097年に新設されたシュトゥルムピングィンの小隊でありディートリッヒ中将の元鍛えられている。だが特殊作戦への単独投入はいまだなく、サポートにとどまっている。

「なら、隊長の俺に何故言わない?ナミク、おかしくないか?」

「言い忘れか他の理由か、どっちにしても俺には分かりかねます。」

そうか、とカダールはうなずくと格納庫に到着、ストームに乗り込む。腑に落ちない点はあるが、単なる政府軍残党の掃討作戦であり問題はないと判断する。いくら小規模な武装勢力に情報を流したところでたいした事は出来ないと判断したのだ。

だが、何か起こるかもしれないと思いストームに乗り込みながらカダールは他の隊員に警戒を促す。

「今回の作戦は敵の戦力が増えている可能性もある。ザーフトラやアルメニアの増援にも警戒しろ、いいな?」

『了解。』

全員から応答が帰ってくる野に安心し、カダールは部隊を率いて滑走路へと向かう。ACH59へと乗り込み、他の隊員も乗り込んだのを確認するとACH59は離陸する。復帰したリヴィエがクラスタシアに搭乗、クラヴィエとワイルドビーク、クラヴィエと言った武装を搭載している以外特に部隊の機体は変わっていない。

 

1410時 ミンガセビル南山中

『補給基地を発見・・・ヴァンツァー部隊も展開しています。』

快晴の元、ACH59のパイロットが機内のカダール達に報告する。10機程度のヴァンツァーとTA-22対空砲が展開しているが教習着陸なら問題ないとカダールは判断し、指示を下す。

「制圧射撃を行え。その後で降下する。第4、第5小隊は第1小隊に続け!」

『了解!』

各小隊の隊長から応答が来てカダールは安心する。ACH59の後ろにスリングヘリ4機が続き、完全武装でペンギン塗装のヴァンツァーをぶら下げている。

まずTA-22が反応。補給基地建屋上部の45mm機銃も反応し対空砲火を浴びせるが数が少ないため脅威にもならない。訓練どおりパイロットはフレアーでミサイルを回避、対空砲火を切り抜け安全な降下ポイントに接近する。

『おろします、幸運を!』

ACH59もガトリング砲で応戦し、TA-22を一瞬で破壊する。他のヴァンツァーも対空砲火を浴びせてくるがすぐにシュトゥルムピングィン第1小隊は降下を完了。そのままACH59はガトリング砲での射撃を行う。

105式や69式が集結、カダール機に集中砲火を浴びせてくるがすぐにレジーナが応戦、ダブルコメットを105式めがけ発砲する。

98mm徹甲弾が105式の胴体を貫通、沈黙させるとすぐにシエラが69式に接近、至近距離で75mmショットガンを発砲する。

『隊長に近づかないでよ!』

近距離で散弾が直撃し69式は大破炎上する。第4小隊と第5小隊も着陸すると政府軍残党と交戦を開始。猛烈な勢いで政府軍残党のヴァンツァーをなぎ払っていく。

『連中、気合入ってるな・・・』

『見とれるな、ナミク。』

第4小隊の活躍に見とれているナミクを注意しながら、ハーネルは政府軍残党のクイントに接近戦を挑む。クイントは霧島58式を発砲するがハーネルが発砲の瞬間を見て回避。散弾はジラーニをわずかに掠めた程度に終る。

反撃にハーネルがジリーノを発砲。大口径の散弾が直撃した所にアゴーニを叩き込みクイントを沈黙させる。

『しかしまぁ、オーバーキルもいいとこだねぇ・・・あたしら相手にこんな程度じゃあ。』

『そうですね・・・』

リヴィエは不穏な空気を感じながらも、ワイルドビークを発射する。12cm砲弾がレーザーガイドで誘導され、ワイルドゴート上面部の装甲を貫通、一瞬で爆発する。爆風と破片で周囲に展開していた101式試製強盾が損傷すると、隙を見てシエラとハーネルが突貫する。

2機の試製強盾がイグチ502式を発砲するが命中せず、シエラが20mm機銃で試製強盾めがけ発砲。大量の銃弾を受けた101式試製強盾が爆発する。

第4小隊、第5小隊と交戦していた69式も木っ端微塵に破壊されている。ようやくカダールは終ったと思い無線を入れる。

「作戦完了、帰還する。」

『何かオーバーキルすぎて面白くないね。教導任務兼ねてると言ってもさ。』

シエラがそんな不平をもらすと、いきなりアラートが響く。何かと思ってディスプレイを見るとナミクのガナドールが銃口を向けている。

『何さナミク、つまんないからって冗談はやめてくれる?』

『これは冗談ではない、本気だ。』

『・・・え?』

すぐにシエラが振り向くと、シュトゥルムピングィンの第4小隊および第5小隊がいっせいに銃口や砲口を向けている。シケイダ2やグリレゼクス、ガストにクラスタシアと言った見慣れた機体がいきなり敵に廻ったのだ。

『どういうことだ、ナミク・・・冗談では済まされんぞ?』

『残念ながら我々は本気だ。第1小隊メンバーの貴官等を拘束する。おとなしく従わないなら実力で排除する。』

突然の勧告にカダール達はすぐ臨戦態勢を敷いて待ち構える。ナミクは不敵な笑みを崩さず、銃口を向けている。

『・・・やはり元帥が・・・!』

『やはりって・・・リヴィエ、何か?』

突然でた元帥の名前にレジーナが戸惑うが、リヴィエは珍しく語気を強めて答える。

『以前、北部戦線の戦闘を見て味方を射殺している場面を発見したのですけどね・・・でもそう考えればつじつまが会います。元帥が何らかの要因で私たちを抹殺しようとしていたのも。ですが貴方が裏切り者とは予想外でしたよ・・・まさかとは思いましたけどね。』

『ほう・・・?』

『貴方の機体は最初に腕と脚部を狙撃され損傷した・・・そこからおかしいと思うべきでした。ヴァンツァーに対して先制攻撃するなら胴体を狙うのが鉄則ですからね。武装勢力と通じて、わざと損傷させて戦闘不能になったのでしょう?』

読まれていたか、とナミクは笑いそのまま第4小隊および第5小隊で第1小隊のメンバーを包囲する。カダール達は基地の片隅に追いやられてしまう。

『そのとおりだ。』

『最低な真似して・・・何が狙いだ!?あんた達、裏切ってただですむと思ってるのかい!?』

『無駄だな。後ろにいるのはA型デバイス機だ。本物の小隊はスムガイトに監禁している。』

ちくしょう、とレジーナが吐きすてる。するとヘリのローター音が聞こえてくる。ナミクは勝ち誇ったかのように命令を下す。

『時間だ。10秒以内に投降しなければ敵とみなし排除しろ。』

無言のままA型デバイス搭載のガストが接近、銃口を向ける。もちろんただでやられるはずもなくカダール達も銃口を向けて応戦準備にはいる。

『降伏しないのか?この数、それも精鋭を相手に・・・』

精鋭相手に包囲されても動じないカダールを見て、ナミクは疑問符を投げかける。

「1人頭3機ちょっと・・・俺たちの戦歴を見ていれば分かるはずだ。殲滅出来ない数ではない、とな。」

『そういうこと。私がいるからね・・・ナミク、つまらない裏切りを後悔させてあげる。いい見せしめだからね。』

シエラも自信満々に答えると、やはりなと納得してナミクは指示を出す。

『そういう答えだと思ってたよ、残念ながら・・・行け!』

ナミクが指示を出した途端、輸送ヘリからヴァンツァーが降下する。通信バックパックを搭載したゼニスV(※1)とガストが1機、クラスタシアが2機でいずれもペンギンカラーの機体だ。

『無事か、カダール!?』

「アーヴィト・・・後で事情は聞く、敵機を殲滅するぞ!」

『了解!』

4機の増援を得てすぐにシュトゥルムピングィンは反撃に転じる。ナミクは予想外の増援に驚きを隠しきれていない。

『どうしてここに・・・!?』

『ディートリッヒ中将が座標を教えてくれてな。ナミク、残念だったな?』

『くっ、押し込め!数ではこちらが多い!』

あわてているものの、正確にナミクがフェザントを発射するがリヴィエがシールドで受け止め、防ぎきる。リヴィエはワイルドビークで反撃しようとするがシケイダ2がソウルバスターで殴りかかってくる。

『邪魔です!』

すばやく機体を回避させ、逆襲にリヴィエはシールドで殴りつけクラヴィエを至近距離で発砲する。シケイダ2は一瞬でボロボロになり、爆薬に引火して爆発する。

ガスト2機がリヴィエへと接近するが、シエラがすばやくカバーに入る。

『あんた達にペンギンカラー、重すぎるんじゃないの?』

至近距離でシエラは76mmショットガンを発砲。1機目のガストを真正面から破壊するとすぐに振り向き20mm機銃とアールアッソーCを発射。一瞬でガストは炎上し爆発する。

『そうだな・・・隊長、ナミクをどうするかは任せる。俺たちは露払いをさせてもらおう。』

「ハーネル・・・悪いな。」

そういいながらカダールはホーネットを発砲。ハーネルと交戦中のクラスタシアに直撃し爆発させる。クラスタシアを振り切ったハーネルはカダールにライフルを向けるグリレゼクスに突進する。

『・・・そういうわけだ。邪魔をするな。』

無人機に語りかけながらハーネルはアゴーニでグリレゼクスをなぎ払う。転倒したグリレゼクスめがけハーネルはロッドを突き刺し、沈黙させる。すると側面からシケイダ2が銃撃してくる。

『・・・小ざかしい・・・!』

『任せな!』

レジーナのグリレゼクスがかがむと、ダブルコメットを発砲。98mm徹甲弾がシケイダ2の腕を貫通させグレイブごと右腕を吹き飛ばす。すかさずハーネルが反撃、ジリーノを発砲し沈黙させる。

すぐにレジーナは次の目標であるツェーダーを狙う。ライフルの照準をロケットランチャーへと合わせて発砲。ランチャーの予備弾薬が貫通されツェーダーは右腕を吹き飛ばされる。

そこにカダールがプラヴァーを発射。高威力のミサイルが直撃したツェーダーは転倒し、爆発する。

『ナミク・・・後は貴様だけだ。分かっているな?』

『・・・アーヴィトがいても戦力差は2倍なのに何故ひっくり返せる・・・!?何故だ・・・!』

アーヴィトがブラックスターとジュアリーを発砲しクラスタシアを撃破する。その間にカダールはナミクへと詰め寄っていく。

「どれだけ甘く見ていたんだ?この程度の無人機で倒せると思っていたのか?4年もともに行動してその程度に思われていたとは心外だ。100機は連れてくるんだったな。」

『く・・・お前さえ倒せば!』

ガナドールがスフィンクスを発砲するが、狙いがそれてしまう。カダールはすかさず反撃に出てホーネットを発射。スフィンクス武器腕を吹き飛ばすと間髪いれずに接近。シールドでフェザント武器腕を殴りつけると至近距離でミサイルを発射。

すべてミサイル弾薬に直撃し、フェザント武器腕が吹き飛ばされる。胴体に砲口を突きつけ、カダールはナミクを問いただす。

「お前に指示を出したのはゲオルギー元帥か・・・!?だとしたら何故だ!」

『・・・元帥は最初から俺を送り込んだ。お前達をしたっていたが怖くもあったんだ。万一に備え監視する。そしていざと言うときは元帥の命令を最優先にする。この無人機も元帥が用意したものだ。』

無人機を用意した、と言う言葉を聞きカダールはすべての情報が1つにつながった事を確信した。

「グリムニルと手を組んだのか・・・元帥の目的は何だ!?俺達を拘束すると言うことは、デバイス関連か!?」

『そのとおりだ。シュトゥルムピングィンの排除と同時にマテリアルの確保、それが目的だったんだよ・・・今やお前たちはECでも有数の実力を持つ部隊だ。やっぱり・・・俺なんかの手に終える連中じゃなかった・・・』

両腕を吹き飛ばされたガナドールは立ち続けており、ナミクもまだ無事な様子だ。カダールは爆発しないだろうな、と不安に思いながら尋問を続ける。他の隊員は無人機を順調に駆逐して行く。

「今になって何故排除する!?」

『それは直接会って確かめるんだな・・・隊長、やっぱり強かったな・・・・・・』

その言葉を聞いた途端、いきなりガナドールが大爆発を起こす。カダールはすぐにシールドを構え爆風から期待を守るがコンソールを思いっきりぶん殴る。

「ナミク・・・自爆なんかしやがって・・・!」

一瞬だけカダールには計器類をいじるナミクの姿が見えたが、おそらく自爆スイッチを押したのだろう。隊員をこんな形で失う事になるとは思わなかったらしく、悔しさのあまり壁まで殴りつける。

『・・・元帥を裏切れなかったのか。結局・・・』

ハーネルが納得したようにつぶやくと、輸送ヘリのパイロットが通信を入れる。機を停止させていたが何があったか飲み込めていない様子だ。

『・・・な、何があったんだ?中佐・・・それに大尉まで・・・』

「すぐヘリをスムガイトまで戻せ!アーヴィト・・・助けてもらった上に悪いが、ナミクの代わりを頼めるか?」

ヘリのパイロットに指示を出しながら、カダールはアーヴィトに頼み込む。すると彼は当然だ、とうなずく。

『1人欠けた状態でやるのもあれだからな・・・了解。隊長と呼ばせてもらいますよ。』

「わかった、シエラ、全員無事か!?」

『うん、無事!』

シエラの元気な声を聞いて、ほっと胸をなでおろすとカダールはすぐに指示を下す。

「すぐにスムガイトまで戻る!ヘリに乗り込め!」

『了解です。』

リヴィエも応答すると、そのままACH59にシュトゥルムピングィンが乗り込む。随伴して来たアーヴィトの部下も再びスリングヘリへと乗り込み、離陸する。するとハーネルが通信妨害を解除し、民間放送をスピーカーに流す。

『何してるんだい?ハーネル。』

『俺たちがどういう扱いになっているか知る必要がある。もしかしたら国際指名手配犯になっている可能性もあるからな。』

ハーネルが周波数を合わせると無線からラジオの音声が聞こえてくる。しかしラジオが放送する状況は彼等の想像を絶するものだった。

『今入ってきた情報によりますと、アゼルバイジャンの首都バクーが武装勢力による攻撃を受けているようです。犯人は不明、犠牲者はすでに100名を超えています。』

「ハーネル、ACC(アゼルバイジャン共同放送)に周波数を合わせろ!」

了解、と指示をこなしハーネルが周波数を合わせると爆音や銃声が鳴り響いている。そんな状況下で記者が報道を続けている。

『こちらリトエフです!あちこちから火の手が上がり、テロリストは化学兵器も使っています!すでに大多数が死傷、アゼルバイジャンの首都守備隊も撃破されています!私は現在、パラダイスバーガーの店内から報道していますが情報がつかめず、外も危険なため取材が出来ません!ですが数多くの民間人が倒れており建物や車が炎上し、焦げ臭いにおいが漂っています!』

『首都でテロ!?何だって突然攻撃なんか・・・!』

レジーナが呆然としていると、リヴィエが思わずうつむき首を振ってしまう。

『・・・最悪の状況です。おそらくグリムニルが襲撃してきたのでしょう。』

『何故そうなる!?狙いは俺達なら何で・・・!』

アーヴィトが無線越しに強く詰め寄るが、リヴィエは首を振って分かりませんと答える。

『もしかして、だけど・・・私達を拘束するのってマテリアル確保以外にこっちの襲撃を気づかせないためだったんじゃないの?うまく行けばいいし、まずくいっても往復1時間以上かかる場所に追いやれば鎮圧させるにも時間がかかるから・・・』

『おそらくは、な・・・』

シエラの意見にハーネルも同意する。おそらく適当に遠目の政府軍残党拠点を攻撃させれば時間稼ぎになると思ったのだろう。そしてナミクを使えばさらに時間を稼げる。

「リヴィエ、シュナイダーに連絡しろ!俺は中将に連絡を取る!」

『わかりました!』

カダールが檄を飛ばすと、シュナイダーがすぐに通信回線を開いてくる。突然の事態に驚きを隠せないようだ。

『・・・大変な事態になった。我々の水面下でゲオルギーがこんな真似をするとはな・・・奴は秘密裏に行動するのが得意だった。政府軍同様、我々までだまされてしまったようだ。』

「それより敵戦力はグリムニルで間違いないのか!?」

『あぁ、現在飛んでいるUAVの画像からして間違いない。アゼルバイジャン軍も苦戦しているぞ。敵戦力は大型機動兵器を含む2個中隊だ。ザーフトラから輸送艦にまぎれて入国したらしい。元帥の権力で手を回せば、国境警備も役に立つまい・・・グリムニルは市街地中心部で化学兵器のポッドを稼動させ、多数の死傷者を出している。』

カダールは頭を抱えてしまう。もう少し早く気づけたのではないか、と自分を責めてしまう。するとシエラがもしかしたら、と思ってシュナイダーにたずねる。

『中将に連絡は取れない?スムガイトの基地にいると思うんだけど。』

「分かった。今通信回線をつないだぞ。」

シュナイダーが通信回線を接続すると、ディートリッヒ中将から無線が入ってくる。

『無事か!?』

「中将・・・何とか無事でしたよ。ナミクが裏切ったものの戦闘続行は可能です。指示願えますか?」

疲れた様子でカダールが答えると、ディートリッヒ中将はほっと胸をなでおろす。

『疲れているようだが・・・頼む。市街地の中心部に降下して化学兵器を止めてもらいたい。グリムニルは大型のポッドを使用しあちこちに化学兵器を散布している。ヴァンツァーでそのポッドを停止させるのが任務だ。敵戦力が出現した場合は早急に排除せよ。』

「了解、直ちに向かいます。」

命令を受け取ると、カダールは通信回線を閉じてメンバー全員に無線を入れる。その口調は真剣そのものだ。

「シュトゥルムピングィン各機へ・・・良く聞け。アゼルバイジャンの革命、ホークス隊やザーフトラ軍との戦闘、数えればきりが無いほどの戦場で常に最前線に立ってきた。お前たち5人はその厳しい戦闘を潜り抜け、生き残った精鋭だ。今、我々の首都が化学兵器により汚染され、無数のテロリストが破壊活動を続けている。援軍の到着は期待できない、絶望的な状況下だ。』

そこでいったんカダールは言葉を止め、深く深呼吸してから話を続ける。

『だからこそ我々が行かなければならない。俺達はシュトゥルムピングィンだ、どういう連中が相手でも一歩も遅れを取った事が無い。仲間を見捨てた事も、絶望的な状況を目の前にして退いた事もない!部隊の死力を尽くし、首都を奪還せよ・・・以上だ!』

『了解!』

全員からの応答を確認し、ACH59はバクーへと向かう。絶望的な状況下ではあるものの、逃亡しようと言い出す人物は誰もいなかった。

 

続く

 

(※1)
これまでとぜんぜん違う設定なので追記。つかヒストリカ資料分もまとめておく。ちなみに2089の外見をベースとしている。105式の設定とゼニスVの設定が干渉するためうまく折衝した(と思いたい)。

第二次ハフマン紛争後期にジェイドメタル・ライマンが支援機市場の参入を狙い製作した機体。ジンクシリーズはき動力不足から砲撃機としての運用が多く、より前線で活動できる支援機はサカタインダストリィの独壇場であったためOCU御用達の最大手メーカーとしてはプライドにかけてもこの市場に食い入る必要があった。
設計時間短縮のためゼニスをベースとして装甲版を平面で構成し生産コストを抑えると同時にスペースを確保、ここに大出力のエンジンを組み込んだ。単なる改修型ではなくアクチュエイターやフレームも新規設計され、最大限のパフォーマンスを発揮できるようにしている。
完成した機体は当時の水準を大幅に超えた大出力とゼニスシリーズから引き継いだ機動力を持ちOCU軍が正式な支援機として採用した。機動力が高く、前衛機も支援機もこなせるため大量に発注、各国の基地へと配備され完全にサカタインダストリィとの商戦に勝利した。
2097年度にイグチ製の105式改をOCU陸防軍が採用したため支援機からはずされたがOCU海防軍がこれを下取りしてシケイダ2の代替機として採用した。基本設計は非常に優秀であり、OCU諸国軍では2020年度以降も継続して使用し続けた国家もあったという。

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