Front mission Brockede

Mission-22 Sand Storm

 

2096 1/29 クルスク資材集積センター 0841時

「・・・疲れたな。」

「あぁ、本当だ・・・」

ナミクはため息をつきながら周囲を見渡す。資材集積センターの資料をかき集めるだけかき集めて解析する作業で相当な時間を食ってしまったのだ。おかげで夜通し作業する羽目になり疲労はピークに達している。まだ雪も振っており、明るくなっているが寒さはまだ衰えていないようだ。

SASやフランス軍が必死に情報を解析し、また鉱石なども分析にかけてここにある資材がドイツへと密輸された証拠を確実なものにしているようだがシュトゥルムピングィンのメンバーは事件の経緯を殆ど知らないため疲れしか残っていない。

『そっちは大丈夫?』

「気にしなくても結構だ、シエラ。まさか可愛い女性に寒い所で力仕事をさせるわけには行かないだろ?」

軽口を叩きながらアーヴィトはシエラに答える。シエラとリヴィエはヴァンツァーでコンテナの搬出作業を行っていた。幾分かヴァンツァーの内部は暖房も効いている為暖かく、外で作業をするよりはマシと言える。ただしガストの武器腕では作業は出来ずシエラはSASのヴァリアントを借りて作業をしているのだが。

『ありがとな、アーヴィトにナミク。』

「いや、レジーナ・・・貴方は外でやるべきではないか。大体途中で居眠りしていただろうに・・・」

ナミクがそんな居眠りをする余裕まであるレジーナに不平をもらすが、レジーナはまったく気にしていないようsで笑って答える。

『アーヴィトの言うとおり女性には優しく、なんだろ?それにあたしは葉巻吸ってるから体力がなくってね。』

「吸うなよ!お前それでも軍人か!?」

本末転倒だろう、とナミクは突っ込んだがレジーナはそ知らぬ顔でコンテナを搬送する。するとカダールがシエラとリヴィエを呼び出す。

『シエラとリヴィエは来てくれ。一応司令部の中身も確認したい。』

『了解。』

それだけ言うと、カダールはストームから降りてセンターへと入る。シエラとリヴィエも自分のヴァンツァーから降りて、寒さに身を震わせながら暖房の効いた室内へと突入する。

階段を駆け上がり、司令室にはいるとSASの兵員が書類を引っ張り出して解析している。それを見てカダールは手を上げながら近づく。

「調子はどうだ?」

「あぁ、密輸に関する証拠資料はこれで最後だ。協力に感謝するよ。」

「密輸?」

シエラがどういうことなのだろうと思い、疑問符を投げかける。

「ドイツの商社と政府、そしてザーフトラ軍が協力して資源の密輸を考えたんだよ。多額の資金を得るためにな。ベネズエラも供給源にする予定だったらしいな。」

それだけ言うとSASの隊員は大量の書類を抱えて作戦司令室から退出する。しかしリヴィエは何かを感じたのか、パソコンをいじり始める。それを見て、シエラは震えながら声をかける。

「リヴィエ、帰ろうよ?ちょっと寒いよここ・・・」

「いえ・・・SASの人たちもこのパソコンはまだ調べてません。解析したらすぐ出ます。」

それだけ言うと、リヴィエはセーフモードでパソコンを起動させデータの取り出しを始める。カダールはどうしたんだ、と疑問符を抱いてしまう。

「SASの連中の言うとおりじゃないのか?」

「そんな小さい理由でザーフトラ軍が動きますか?仮にも第二次ハフマン紛争を手玉に取った面々がこの程度の理由で・・・やっぱり、データの改竄跡がありました。今修復するのでちょっと1人にしてください。」

「あぁ、解った。シエラ、外に出るぞ。」

うん、とうなずいてシエラとカダールは司令室から出る。廊下はザーフトラらしく暖房が完備されているが肌寒い事に変わりは無い。

「それよりシエラ、頭は本当に大丈夫か?傷口を見せてみろ。」

「うん、そうだね・・・」

不安げなカダールの様子を見て、シエラはそのまま包帯を取る。止血剤と包帯で出血は止まっているが傷跡を見てカダールは呆然としてしまう。

「お前、本当に大丈夫なのか!?頭の真ん中に・・・」

「そうなの?全然感じないけど・・・あ、痛さとか感じてるよ。」

右目の真上に銃弾の傷跡がありカダールは不安げに思ってしまうが、この位置で銃弾を受けて生きている人物はそうそういない。目だった傷害もなさそうだが、それがよりいっそうカダールを不安にさせる。

「・・・多分だが頭蓋骨で銃弾が砕けたのか・・・良かったな、シエラ。包帯は巻いとけ。」

「うん、隊長・・・?」

包帯を巻いているところに抱きつかれ、シエラは困惑した様子でカダールを見る。

「隊長、冗談きついよそーいうの・・・」

「誰が冗談だと言った?本気だ、シエラ。」

包帯を巻き終えたシエラは豆鉄砲でも食らったような顔をしてカダールを見つめる。表情や視線からは本気なんだと言うことがうかがい知れた。

「へぇ・・・じゃ、その証拠を見せてくれない?」

目をつぶってシエラは唇をすぼめる。途端にカダールは緊張しながらも顔を近づけるがいきなりリヴィエが扉を開いて出てくるが、カダールとシエラが抱き合っているのを見て呆然としてしまう。

「た、大変ですたい・・・ちょう・・・?」

「・・・リヴィエか。報告を頼む。」

カダールはほっと胸をなでおろしてリヴィエから報告を聴く。どこかシエラは不満げに頬を膨らませながらもリヴィエを見つめる。

「では報告を・・・隊長。シエラさん・・・とんでもない事が判明しました。悪いニュースともっと悪いニュースのどちらから聞きますか?」

「悪い方からだ。何が会った?」

「デュランダルが撃墜した大型機動兵器は遠隔操縦タイプであり主犯格のドイツ国防軍司令グレーザー准将はターミナルから逃亡しました。デムチェンコも一緒です。」

シエラは割りとどうでもよさそうに構えているがカダールはわかった、と真剣な表情でうなずく。

「もっと悪い方はどうなっている?」

「この基地からCAUに大量の軍事物資が搬送されています。おそらくですが戦争が始まるかもしれません。跡輸送機のフライトプランを見ると中南米諸国に大量の輸送機が派遣されています。ベネズエラに送った輸送機が大半ですが、コスタリカやニカラグア、そしてアルゼンチンにも。規模からして1個分隊程度ですが・・・」

何なんだ、とカダールは疑問符を抱くとルスラーンが無線を入れてくる。緊急事態らしく、口調から焦りが伺える。

『こちらルスラーン、資材集積センターから南東に逃亡するBTR-84を確認した!今スリングヘリを向かわせた、すぐに連中を追撃してくれ!』

「了解だ、シエラ、急ぐぞ!リヴィエは先に!」

了解、とリヴィエがうなずくとシエラはカダールの肩をつかむ。

「5秒だけ待ってて、隊長。」

「5秒?一体何・・・んっ!?」

振り向いた瞬間、いきなり口付けをされカダールは目を見開いてしまう。シエラは満足げな表情を浮かべて走ってゆく。

「やっぱり、キスして置かないとね?」

「・・・お前と言う奴は。」

半ばあきれたような口調でカダールはつぶやくと、そのまま資材集積センターからでてストームに乗り込む。そして着陸したスリングヘリに機体を接続すると、離陸を開始する。

『隊長、何があったんだ!?』

「質問は後だ、アーヴィト!」

了解、と応答しアーヴィトはシケイダ2をスリングヘリに接続する。レジーナとナミクも機体を接続させ、準備完了と報告を入れる。それと同時にスリングヘリが離陸しBTR-84が向かった南西へと離陸する。

 

ポグチャル北西部 0940時

『わ、私だ・・・』

BTR-84の後部座席に座りながらグレーザーは通信を入れる。フランスのシャンパーニュ地方にいる仲間へ連絡を取るつもりのようだ。BTR-84は農村地帯を通り抜け南東へと向かっている。

『生きていたか、グレーザー。』

『資源ターミナルを奪われた。私は逃走して、ようやく無線を・・・』

『そんな事は知っている。』

無線の相手は失望した様子で、冷淡に答える。グレーザーは疲弊した様子で、さらに言葉を続ける。

『お前はどこにいるんだ?』

『目の前にデュランダルがいる。』

すでにデュランダルはECの領空へと突入、シャンパーニュ地方で部隊を降下させEC議会本部へと向かっている。ザーフトラ軍の空挺部隊がEC議会本部のあるパリに向かっているという情報を得たためだ。それをこともなげに無線の相手は報告する。彼らもシャンパーニュ地方に展開し、デュランダルを待ちうけている。

『何だと・・・まだECを出ていなかったのか!?す、すぐにECから出ろ。奴らを相手にするな!』

ECにいれば、無線の相手も危険にさらされることは間違いない。グレーザーとしてはここで内通者を使わず後の作戦のために温存しておきたいようだ。

『断る。お前の命令に従う理由はない。』

『ヴァグナー。今はやめておけ・・・チャンスを待つのだ。時間をかけて再起をはかるんだ!次こそは・・・次こそは奴らごときに邪魔できないような計画を建ててやる!』

デュランダルの活躍によりUSN、EC両国間を戦争に引きずり込む計画は中断されてしまい全てはザーフトラの仕業と言うことが判明している。ブラウネーベル隊はザーフトラに内通していたがその事はECに知れ渡っておらず、グレーザーは隠蔽すれば何とかなると考えたのだ。

しかし、ヴァグナーは無情とも言える一言を突きつける。

『貴様のような負け犬の言い訳に付き合うつもりは無い。私は彼らと戦って確かめたい事があるだけだ。』

『確かめたい事!?それはなんだ!』

『ヴァグナー、通信を終わる。』

無線をきろうとするヴァグナーを必死にグレーザーは引き止めようとするが、ヴァグナーは完全に無視する。

『ま、待てヴァグナー!ザーフトラに戻れ!もう一度作戦をやり直そう、今度は必ず成功する!ヴァグナー!』

説得もむなしく、ヴァグナーは無言で通信を切る。するとヘリのローター音が聞こえてくる。

『全力で振り切るのでつかまっててください!合流ポイントはすぐ近くです!』

「た、頼むぞ!」

後部座席に同乗しているデムチェンコは落ち着かない様子で兵士に指示を出す。しかし装甲車では振り切れるはずも無く、スリングヘリは一気に距離を詰める。

 

「あーあ、必死だよあいつら・・・」

余裕を見せながらシエラは上空から装甲車を発見し笑みをこぼす。どうあがいてもスリングヘリから振り切れるはずも無い。追い越して取り囲んでしまえばこちらのものである。

『速度をつけて降下する。転倒するなよ?』

「あのさ、誰に口聴いてるか解ってる?シュトゥルムピングィンだよ、こんな程度で転ぶわけ無いじゃない、降下して。」

『了解。ロックをはずす!』

パイロットの指示でスリングヘリのロックがはずされ、シュトゥルムピングィンは降下すると積もった粉雪を巻き上げるように着地。カダールがバズーカ砲を突きつける。

『おとなしく降伏しろ、グレーザー!』

「降伏しないと痛い目に会うよ?ね?」

シエラが照準をあわせ、BTR-84目がけ発砲する。銃弾は装甲車のタイヤを貫通し走行不能に陥らせてしまう。それを見てアーヴィトが怒鳴りつける

『ちょっと待てよシエラ!中の人が死んだらどうするんだよ!?』

「あんなの威嚇射撃にも入らないよ。ほら、次は砲塔狙うよ?解ったらさっさと白旗をあげな?」

アールアッソーCの銃口を突きつけシエラはグレーザーに降伏勧告を行うがまったく応答が無い。するとヘリのローター音が聞こえてくる。

『EC軍の回収ヘリか?』

『・・・いや、ナミク・・・CAU製のヘリだ、こっちに向かってきている。』

何、とナミクが視線を空に向けるとスリングヘリが接近してくる。CAU製のヘリであり1機は空だが残りの4機は全てのラックにヴァンツァーを引っ掛けている。見通しがいいため相当な距離からでも判別が可能だ。

『CAUのヘリが迷子にでもなるわけないし、まさかとは思うけど・・・』

『嫌な予感しかしないぞ、戦闘準備を整えろ。ルスラーン、聞こえるか?』

カダールがルスラーンに無線を入れるが応答が無い。変わりにEC軍司令部が応答する。中年の男性の声でありECの軍司令部から無線をかけているようだ。

『こちらEC軍司令部、シュトゥルムピングィン、状況は?』

『現在CAU機と思われる輸送ヘリがザーフトラ領内に侵入、我が隊に接近している。UAVで詳細なデータを求む。後、グレーザーらが搭乗している装甲車を確認した。回収部隊を要請する。』

『了解だ。戦闘が終わり次第回収する。現在ECの首脳会議が開催されるところだ。グレーザーをなるべく早く捕らえてほしい。そうすれば議会で犯人を追及できる。』

何、とカダールは疑問符を抱く。確かザーフトラの空挺部隊が接近していると情報が入ったのだ。カダールが疑問符を口にする前に、驚愕の表情を浮かべながらリヴィエがオペレーターに詰め寄る。

『どういうことですか!?ザーフトラ軍の空挺部隊が迫っているときに・・・』

『デュランダルとSAS、そしてフランス軍外人部隊が彼らを撃退するようだ。現在フランス正規軍はマデイラとドイツ領内の警備にあたっているため手が足りない。そんな心配をするより、貴官らは軍務を全うしてくれ。』

これまで行われたドイツ襲撃、そしてマデイラ島をUSNに攻撃させたのはEC議会場を襲撃させるためにECフランス軍の戦力を分散させる狙いもあったようだ。リヴィエが不安げな表情を浮かべるがシエラが変わりに通信を入れる。

「そんなことより、あの連中が妨害してきたらどうするの!?」

『排除しろ。いかなる国籍であろうともグレーザー准将を生かして引っ張り出すのだ。口封じのために殺されることも、奪われることも許さん、いいな?』

「了解。じゃあ何とかしないとね・・・」

スリングヘリからヴァンツァーが投下され、そのまま撤退する。1機だけ空域にとどまり、回収まで待機するつもりのようだ。すると敵軍が無線を入れてくる。

『シュトゥルムピングィンに告ぐ、お前達を包囲した。直ちに装甲車と人員を引き渡せ、さもなくば実力で排除する。』

『生意気な連中だ。包囲した程度で動じると思っているらしい。』

カダールが鼻で笑って見せると、レジーナは威嚇射撃のつもりでダブルコメットを発砲する。98mm徹甲弾がヴァンツァー近くの地面に直撃し、高い土ぼこりを上げる。

『そういうことは撃破してから言いな。それとも何、あたしらの部隊を見てビビったんじゃない?』

『同感だな。』

アーヴィトも乾いた笑いを見せると、いきなり敵機もライフルを発砲する。砲弾はストームの真正面の地面に着弾し、土ぼこりを上げる。

『減らず口もそこまでだ、恨みは無いが排除する。』

『敵軍の解析が完了した、CAUシリア陸軍第12空挺連隊だ!連中、本気で排除してくるぞ!』

UAVの画像がコンソールに映し出される。CAU軍の国籍マークが確認できるうえ機体もシャムシールやディルアと言ったCAU製ヴァンツァーが主力だ。中にはマドレ製のエリミナル(※1)も混ざっている。

『こっちが排除するまでさ、行くよ!』

レジーナが今度は狙いを定めてダブルコメットを発砲。突進してくるシャムシールに98mm徹甲弾が直撃。装甲の薄いシャムシールを砲弾は貫通し後続のエリミナルの腕を吹き飛ばす。

エンジンブロックを貫通され、シャムシールは倒れたまま機能停止してしまう。その残骸を飛び越えてエリミナルと別のシャムシールがローラーダッシュをかけて突撃してくる。

『応戦準備、来るぞ!』

マシンガンの射程に入るとシャムシールはベラ・ラフマMG(※2)を連射しながら突撃してくる。シエラは落ち着いてアールアッソーCを発砲、真正面のシャムシールに銃撃を浴びせる。

多少の銃弾を受けながらもシャムシールはストームへと突撃、霧島51式を発砲するがカダールはシールドで散弾をはじくとアーヴィトがカバーに入る。

『悪かったな?』

近距離でグレイブMGとトゥームMGを連射され、シャムシールは大量の銃弾を受けて沈黙する。アーヴィトは続いて突進してくるエリミナルにもマシンガンを連射。

リヴィエも便乗してクラヴィエを発砲。すさまじいほどの弾幕を浴びてエリミナルは脚部を破損。ローラーダッシュの勢いを殺せず転倒しそのまま転がって行く。

『ばらばらに突撃するな、一斉にかかれ!』

CAU軍の司令官が檄を飛ばし、一斉にヴァンツァーが向かってくる。カルドがガトリング砲を連射してくるがナミクがフェザント武器腕からミサイルを発射。真正面からミサイルが直撃しフェザントは爆発、腕や胴体が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

するとディルアが配置につきサンオウルを発射する。2発のミサイルがガスト目がけ発射されるがナミクがECMで弾道を狂わせる。

「さんきゅ!行くよ!」

シエラは胴体だけ動かすと20mm機銃を突撃してくるカルドめがけ射撃する。その隙に別のカルドが突撃しガトリング砲で猛烈な射撃を仕掛けてくる。

『周囲から来るよ!』

レジーナは全員に警告を促しながらダブルコメットを発砲。大口径の徹甲弾はカルドの正面装甲をいともたやすく貫通する。

カルドは重要な機器を貫通されて沈黙。尋常に戦ってもかなわないと判断したのかCAU軍は取り囲むようにして進撃してくる。

「冗談じゃないよ・・・!」

『こちらも部隊を多方面に向けて応戦しろ!』

カダールが指示を飛ばし、すぐにシエラは北からの敵機に対応する。ディルアがサンオウルを発射するがすぐにシエラが横に跳躍して回避。アールアッソーCを連射しながら前進する。

電動鋸のような発射音とともに何百発もの40mm銃弾が浴びせかけられる。それでもディルアはミサイルを発射しようとするが大量の銃弾に間接部が破損。転倒し戦闘不能になる。

『CAU軍、戦意衰えません・・・全滅させるしかありませんね。』

『最初からそうするほか無いだろう・・・行くぞ。』

敵を殲滅するのは当然だ、という口調でナミクはスフィンクスの25mm機銃を発砲する。近距離にまで迫っていたエリミナルは弾幕にひるまずに突進、ナックルを突き出す。

フェザント武器腕に直撃しミサイルハッチが破損、ミサイルの一部が使用不能になるがナミクは構わずにミサイルを発射。近距離でミサイルが直撃しエリミナルは真後ろに吹き飛ばされ、爆発する。

『ナミク、大丈夫か!?』

『ミサイル武器腕を破損した。だがまだいける・・・アーヴィト、それより敵機を捌け!』

アーヴィトがナミクに気を向けた一瞬の隙にシャムシールが近距離まで接近。霧島51式を発砲する。

『ちっ・・・!』

至近距離で散弾が直撃、シケイダ2は右腕とともにグレイブMGも破損してしまう。吹き飛んだ右腕の先端部から火花を散らしながらもシケイダ2がトゥームMGを構える。

『アーヴィトさん!?』

『リヴィエ、俺とナミクで食い止めるから安心してくれ!』

そういいながらアーヴィトはトゥームMGを連射してシャムシールを牽制する。その隙にナミクが25mm機銃を発射。的確にシャムシールに着弾させたところにスフィンクスを発砲する。

10cm砲弾が着弾し、シャムシールは爆発を引き起こす。木っ端微塵に吹き飛んだシャムシールにひるむことなく指揮官機と思われる重武装のカルドがガトリング砲と25mm機銃を連射しながら突撃してくる。指揮官であるカダールをしとめようと言うのだろう。

『こうなったら俺が決着をつけてくれる!突撃しろ!』

『これで打ち止めだ、気を引き締めろ!』

「りょーかい!」

すぐにシエラがアールアッソーCで迎撃。しかしカルドは銃弾を受けつつも30mmガトリング砲で集中砲火を浴びせかける。

「わっ、ちょっとやばっ・・・!」

シエラは弾幕を回避しつつ射撃を加えるがカルドの狙いはストームであり30mmガトリング砲と25mm機銃で猛攻を仕掛ける。カダールはすぐにシールドで防ぐが大量の銃弾を受けてシールドが破損してしまう。

『・・・まずいぞ・・・!』

『カダール、貴様さえ倒せば終わりだ!』

シールドが無くなった隙を見計らい、カルドは大量の銃弾を発射しようとするが真横から衝撃を受けて吹き飛ばされる。リヴィエが真横からシールドで殴りつけたのだ。

隙を逃さずカダールはバズーカを発砲。カルドに直撃弾を与え爆発させる。しかしパイロットは寸前で脱出したようだ。シエラはその相手に銃を突きつける。布で顔を覆った民兵風の男性はかなわないと思ったのか手を上げて降伏する。

『さて、聞きたい事がある・・・CAU軍は何故この作戦に参加している。その理由を言え。』

『答えると思うのか?貴様らECに・・・』

カダールはCAU軍の部隊長が降伏し無い様子をみるとリヴィエに指示を出す。

『リヴィエ、脱出した他のパイロットに発砲しろ。』

『了解です。』

淡々と答えるリヴィエを見て、部隊長はあわてたらしく声を荒げる。

『貴様らそれでも軍人か!?無抵抗の相手を撃つつもりか!?』

『そうだな。貴様が答えると言うなら命令を撤回する。』

『わかった、速く撤回してくれ!』

ホーネットを真上に掲げ、カダールが合図をするとリヴィエはクラヴィエを収める。シエラは20mm機銃を突きつけながら部隊長に尋ねる。

「それじゃあどうしてここにきたのか言ってもらわないとね。」

『目的はグレーザーの回収だ。』

「え、グレーザー・・・?」

予想外の答えにシエラは目を丸くする。これにはカダールも面食らったらしくいぶかしげな表情でたずねる。

『どういうことだ。グレーザーを保護するだと?』

『我がCAUにとっての英雄だからな。』

なぞめいた言葉を発する司令官にいらだったのか、レジーナはライフルの銃口を司令官に突きつける。

『とりあえず隠してる事全部話しな。グレーザーとあんたらの関係、そしてザーフトラが何をやらかそうとしてる可ね。』

『わかった。いいだろう・・・今回の新資源地帯襲撃やUSN軍襲撃は全て計画されていたことだ。』

『そんな事はわかってるんだよ!』

いらだった様子でレジーナは詰め寄るが、部隊長は違うなと首を振って冷静に答える。

『それはザーフトラがEC向けに用意したカバーストーリーだ。そんな小さな利益のために軍を動かすほどザーフトラも落ちぶれてはいない。本当の目的はUSNの弱体化だ。そのためにはUSNの領地に火種をばら撒きそれを実行に移すきっかけが必要だったのだ。ベネズエラなどを空挺基地に選んだのはただ単にUSN領内でカムフラージュしやすいから、といった理由でも無い。』

「・・・ちょっと待ってよ。USNがベネズエラに戦力を集めたらあちこち手薄になるんじゃ・・・」

『それが狙いだ。ベネズエラを攻撃目標にさせてUSN軍の駐留基地から戦力を捻出させる事が目標でな。ディアズ州知事には中南米連合の盟主と言う地位を約束して徹底抗戦を行わせた。』

『中南米・・・連合だと!?』

アーヴィトはその言葉を聴いて絶句する。確かに反USNの気風は強い州が中南米に数多くあるのだがこれまで武装勢力の反乱でしかなくまとまった戦力として動く事は無かったのだ。しかしこの武装勢力同士が連携を組んで軍事行動を起こしたらUSNの秩序が崩壊しかねない。

何せUSNは20世紀から中南米諸国を裏庭として扱っていたのだ。親米の政府高官などをうまく大統領や首相にして独裁政権を見て見ぬふりをしてきた。USNはまとまった軍事力を運用できないと言う事でたかをくくっていたのだからここでまとまった武装蜂起が起きて独立国になると大変な事になる。

『その通りだ。予想外に公正ベネズエラが奮戦して政権を担ったが問題ない。彼らはベネズエラを一旦は中立国として独立させ緩衝地域にさせる。そしてUSN軍と中南米連合双方に対して領空を軍事飛行禁止区域に設定する魂胆だ。すでに数名の政治将校を派遣し武装勢力同士を連携させている。』

『それがCAUと何の関係が?』

『戦力を分散させてくれるのだよ。我々の宿敵を倒す邪魔は少ないほうがいい。』

その言葉にピンときたリヴィエが、納得した様子で声を上げる。

『・・・イスラエル相手にですか!』

『その通りだ。2050年代から大イスラエル構想などという馬鹿げた計画を起こしレバノンや祖国シリアに軍事侵攻を行いイスラエルは領土を拡張して行った。我々は統制の取れないままずるずると戦線を押し下げられシリアも西半分が制圧されてしまったのだ。連中のバックにはUSNの第2艦隊がいる。だがこいつらを引っ張り出せればいかようにも出来るのだよ。』

そこまで言われ、なるほど、とカダールは納得してしまう。

『USNの地中海艦隊を引きずり出すにはECとの戦争が不可欠。少なくとも極度の緊張状態に保っておく必要がある。だからECとUSNの戦争を引き起こさせようとしたわけか・・・それはいいが、マデイラ攻略に第2艦隊は向かったが・・・すぐ引き返してくるぞ。』

『心配は無用だ。第2艦隊を見送った後で我がCAUの廃棄予定の輸送船をジブラルタル海峡に並べて一斉に撃沈させた。そこで悠々と宣戦布告をするのだよ。明日な。』

『・・・あの事件にそんな裏まで。道理で死者が出なかったわけです・・・』

リヴィエが感心したのかそれともあきれたのか、疲れたような声を出して頭を抱える。ここまで大規模に計画が進行していた事に驚きを隠せなかった、と言うこともあるだろう。

『大量の石油を炎上させておけば掃海に相当な時間がかかる。まして大量の輸送船を爆破したとなればなおさらな。』

『ECの連中は関係ないだろ!?何でそんな事を・・・!』

『関係無いとは言わせんぞ。USNの地中海艦隊に軍港を貸していたのは誰だ?貴様らだって侵略者の片棒を知らぬうちに担いでいたわけからな。』

アーヴィトの怒りにも部隊長は余裕を崩さずに答える。事が重大すぎてカダールはどうするべきか呆然としていたが部隊長の言葉で現実に引き戻される。

『それで、俺をどうするつもりだ?』

『さっさと行け。貴様に用は無い・・・生きて祖国まで逃げ帰ればいい。』

『恩に着るよ。』

あっさりとカダールはCAUの部隊長を見逃してしまう。部隊長は部下をまとめて待機していたスリングヘリの場所まで走って行く。ナミクはどうしてだ、とカダールに詰め寄る。

『先ほどの話を聞けばECにも甚大な被害をもたらしたんだ、それをどうして見逃したんです、隊長!?』

『・・・俺達と同じだ。あのCAUの連中も。』

『同じ?』

ナミクが同じと言う言葉に引っかかるが、カダールは仕方ないな、とつぶやいてから説明する。

『あいつの国も半分以上をイスラエルに占拠されたわけだ。俺は連中の卑劣なやり口は知っている。占領地の井戸をかれさせ農作物を全て廃棄した上にそこの土地を荒らすだけ荒らし挙句の果てに住民を隔離する。(※3)俺達もザーフトラに組み込まれていたときはそれほどでも無いが悲惨だったはずだ。』

ほぼ全員がアゼルバイジャン解放同盟出身のため、政府軍の酷さは身にしみてわかっている。しかしそれでもカダールの言うようにインフラをめちゃくちゃにして住民を根こそぎ絶滅させるか隔離させるような事はしていない。

「うん、あれより酷い状況なんだよね・・・」

『だったら多少の手助けをしてやりたい・・・と思うのが普通じゃ無いか?ナミク、お前も政府軍のひどさを忘れたわけでも無いだろう・・・あれより酷いんだぞ?奴は優秀だ、生きていたらイスラエル軍も相当な痛手を負うと思わないか?』

「・・・隊長、ひどいなぁ。」

などとシエラが苦笑してしまう。だがそれくらいしてやりたい気分は嫌と言うほどわかる。これほど危険な国家を野放しにしてきたツケを味あわせてやらなければならないとは思っている。

『それくらい酷い連中だから何をされてもいい・・・とは言わない。だが何の報いも無しに存続しているのが許せ無いだけだ。ナミク、別にECの司令部に知らせようが何しようが構わん。』

しばらく黙ってしまうが、ナミクはあの政府軍が引き起こした事態より酷い事を察すると首を振る。

『報告しませんよ・・・隊長。あんな目に会っている連中を見捨てるわけには。』

ナミクの同意を得て、ぐっとレジーナはこぶしを握り締めるがふと気づいてBTR-84の方を振り向くとライフルの銃口で装甲車をつつく。

『で、殊勝に待っていたあんたは降伏するってことでいいのかい?』

『それでいい。私の作戦は多少のトラブルがあったとしても主要な目標は完遂できた。敗軍の将はそれらしく振舞おうでは無いか。なぁ、デムチェンコ。』

『た、助けてくれ!私はまだ死にたくはない!』

おびえた声を上げるデムチェンコに対し、グレーザーは悠然と構えている。もうやる事は全てやりつくしたといった満足げな表情を浮かべている。するとEC軍スリングヘリのローター音が聞こえる。

『よくやった、これより回収する。』

「ちゃんと私達の事は伝えてよ?シュトゥルムピングィンがグレーザーを確保したって。」

『了解だ。覚えていたらノランド首相にも伝えるとしよう。』

スリングヘリはそのままBTR-84の上面部に電磁石を接続するとそのまま吊り下げて飛び去る。残されたシュトゥルムピングィンにもスリングヘリが到着し、帰還する事となった。

 

スムガイト・クローズドミリタリーエリア 1814時

「ふむ・・・」

医務室にて70台の白髪の軍医はCTスキャンの画像やレントゲン写真などを持ってくるとそれをボードに張ってシエラとカダールに説明する。どこか軍医は奇妙そうな表情でシエラを見ている。

「何かわかったので?先生。」

「いや、銃弾は検査の前に摘出した。CTに引っかかるからな。それでわかった事なのだが・・・彼女の頭蓋は人工の物質だ。」

目を丸くして、2人は顔を見合わせると驚いた様子で互いの表情を見る。その後カダールが軍医に向き直ると真剣な表情でたずねる。

「どういうことだ?」

「おそらく人工頭蓋を移植されたようだな。素材によっては頑丈な金属を使うから銃弾をはじくことも不可能ではない。」

その言葉を聴いてシエラは呆然としてしまう。カダールは冷静に事実を受け止めると、さらに立ち言った質問をぶつける。

「手術の内容などはわかりますか?」

「ふむ・・・1つ言えるのは神経の接続を再生治療ではなく電子プラグを解して行われていることだ。まるで何かの電子機器を直接使ったように見受けられたが、な。後遺症なども無いしこのプラグは手術用に調整されている。特に問題は無いだろう。頭の怪我は何週間かすれば治るが、ここに来るような無茶は控えるべきではないかな?」

「おっしゃるとおりです。言葉もありません。」

シエラもしゅんとした様子でうなずくと、軍医はまぁ大丈夫だと落ち着かせるように穏やかな声で語りかける。

「とりあえず、今の所健康状態は良好だ。何かあったらまた来なさい。」

カダールはうなずくと、シエラをつれて廊下から休憩室の端に座る。シエラはうつむいたままで首を振ってしまう。軍医から告げられたことはまず間違いなくシエラの脳が何かされた・・・あるいはデバイスをそのまま移植されたかもしれないと言う事を示していたのだ。

「隊長・・・今の私って本当に自分なの・・・?本当は私、あの時死んだんじゃ・・・」

「・・・」

「隊長、ねぇ・・・怖いよ、何か言ってよ!私このまま操られて、基地の破壊工作とか・・・」

おびえた様子でシエラはカダールへと詰め寄る。するとカダールはそのままシエラを力強く抱きしめる。

「たい・・ちょう・・・?」

「・・・7年前の事がかかわったのはまず間違いない・・・けど、シエラ・・・・俺にはお前の求める答えなんて用意できそうに無い。大丈夫だとか・・・けど、俺ができる範囲で、必ずシエラを止める。もし何か会ったら必ず、な。」

か細い腕でシエラもがっちりとカダールを抱き返す。軍人らしからぬ弱い力だが、カダールにとっては何よりも暖かく、しっかりとした存在に感じられた。シエラは嬉しかったのか、涙までこぼしてカダールの胸元に顔を押し付ける。

「本当に・・・止めて?絶対だよ?」

「当たり前だ・・・何かあったら、な。そうなってもいいように、ずっと傍に居る。それはダメか?」

「ダメじゃないよ、お願い・・・!」

わかった、とうなずきカダールはやさしくシエラの背中を撫でる。目をそっと閉じてシエラはカダールに身を任せてしまう。とりあえず落ち着かせようと思い、カダールはとりあえず自分の部屋に招く事にする。

「・・・わかった、とりあえず今日はゆっくりと寝ようか。」

「うん、そうする・・・!」

そっとカダールはシエラを抱き寄せると、2人でシエラの部屋へと歩き去ってゆく。遠征の疲労もあったが、寝る前に何をしたかは言わずもがな・・・というところだろうか。

 

同時刻 作戦会議室

『関係なかったのか?あのデバイスとは・・・』

「えぇ、しかし本当に大変な事になりました・・・まさかザーフトラがまた戦争を引き起こすとは。それも、第二次ハフマン紛争より深刻な大規模戦争を・・・」

『これは予想外だな。活動資金も戦争の準備で抑えられてしまう・・・われわれの予測も甘かったな。資源輸出をもくろんだ軍事行動だと思っていたらこのざまだ。』

無線の相手はいらだっている。この苛立ちをどこにぶつけるべきかわからないため、自然と口調も強くなってしまう。リヴィエは平静を保ちながら応答する。無人の会議室でリヴィエはいすに座りヘッドセットに付随した無線機で連絡を取る。

「それでどうするんですか?USNは民主党のクリフト政権の再選は難しいと言われています。おそらく共和党のフレッチャー上院議員が政権を取って・・・そうなれば両面軍事行動を起こすと言いかねません。」

『そうだな。こちらでも調査したがCAU軍は確かにイランとイラクでの緊張状態こそあっても経済発展もあるし軍備はかなり増強されている。中南米からの報告ではザーフトラ軍は有力な各地方の武装勢力に将校を派遣してニカラグアのNFSLN(※4)を中心とした組織だった軍勢になっている。USNの工業力があるとは言え、苦戦は免れまい。』

「・・・ですがどうします?武装勢力側を崩壊させることは難しいですし、独立してもらったほうが後々のためです。」

状況は最悪であり、無線の相手はどうすべきか考え込んでしまう。すると別の人物が何かを報告するのが無線越しに聞こえてくる。しばらく報告を聞いた後、無線の相手はリヴィエに命令を伝える。

『リヴィエ、中南米に飛んでくれ。グリムニルが拠点を構えているからその掃討任務に当たってほしい。連中はUSN正規軍も動かして我々を妨害してくるだろう。その任務が終わったらシュトゥルムピングィンに戻ってほしい。』

「中南米となれば掃討にかなりかかりそうですが怪しまれないで居られる期間は1年程度ですよ?休暇と言う事にすれば何とか出られますが・・・」

『それだけでいい。戦力を減らして後は中南米連合の部隊に叩かせればいい。どう考えてもグリムニルより中南米連合の方が土地勘がある。主力軍とUSN部隊で出てくる部隊を叩けば良いだろう。』

わかりました、とリヴィエはうなずく。しかし、どこか沈んだ口調になっている事は自分でも気づいていない。それに気づいた無線の相手が気遣うそぶりを見せる。

『大丈夫か?』

「大丈夫です・・・彼らは仲間ですが、貴方達への忠誠が第一ですから。この世界と連合体の秩序のため・・・最初に交わした誓いは忘れて居ません。」

『ならいい。待っているぞ。』

そのままヘッドセットの無線をきると、リヴィエは一息つく。シュトゥルムピングィンの仲間は本当に背中を預けるに値した仲間であり、どこまでも信頼できる。「彼ら」の部隊も将校や幹部は信頼できるものの、末端はほとんど上層部の資金を使った傭兵であり戦友と言える存在はほとんど居ない。

だから、1年と言う少々長い期間はなれるのは辛い気もしたが・・・いずれ別れを告げなければならない相手だと言い聞かせ、立ち上がる。

「・・・また戻ってくるんですからね。当然。」

「どういうことだい?戻るなんて。」

後ろから声がして、はっとリヴィエが振り向くとレジーナが真後ろに立っていた。それに驚く様子も無くリヴィエは表情ひとつ変えずに答える。

「USNブラジルに戻って親戚の手伝いをしてほしいと頼まれましてね。1年ほど休暇をもらいたいのです。」

「そんな事ならいいけどさ。リヴィエ・・・あんたが心配なんだよ。なぁ、隠してるならあたしだけに言ってほしいけど・・・作戦中にちょくちょく無線で話している相手は誰なんだい?」

リヴィエは一瞬だけ眉をしかめるが、表情を戻すとはっきりと答える。

「言うことはできません。言ったとしても・・・一笑に付すでしょう。」

「言ってみな。笑うのはあたしだからね。」

わかりました、と表情を曇らせながらリヴィエは話す決心をした。レジーナは何度も自分に接触しておりもう隠し切れないと思ったのだろう。

「共同体の影となって脅威を排除する組織がある・・・と言ったらあなたは信じますか?レジーナさん。」

「いきなりなんだい?」

突拍子も無い話にレジーナは目を丸くするが、興味があるらしく身を乗り出して話に聞き入る。

「共同体の時代になり反動勢力やテロリストもまとまってきました・・・私はそれを排除する組織に入っているんです。超国家間で情報を共有し、現在の世界すべてを崩壊させかねない要因を持つものを・・・です。」

「・・・中南米連合を止めに行くつもりかい?」

あまり感心しない様子でレジーナは目を細めてリヴィエを見つめる。明日にも宣戦布告しようとする中南米連合を止めに行くのではないか・・・と考えてしまったようだ。そんな予測を打ち消すかのように、リヴィエは苦笑しながら答える。

「違いますよ。USNは中南米諸国に対して真綿で首を絞めて作った共同体ですから瓦解して当然です。ザーフトラが最悪のタイミングでCAUと中南米に反乱を起こさせただけですし、不干渉で行きますよ。ただ、その地域にグリムニルというテロ組織が潜伏しているんです。中南米連合と彼らの関係を絶っておかなくてはなりません。」

「なるほどねぇ・・・グリムニルっつーと、ストレラ工場の元の持ち主だっけか?」

えぇ、とリヴィエはうなずいてみせる。シュトクルムピングィンのメンバーにとっては印象深い相手であり多数の無人ヴァンツァーを保有していた敵であり今ではそっくり生産ラインを奪い主要の工場として運用している。

「そうですね。全世界に根を張るテロリストです・・・目的が不明であり全世界でテロ攻撃を続けている以上、根絶する必要があります。A型デバイスをものとした今では最大級の脅威です。」

「あの無人機たちか・・・ちょっと聞きたいがどういう構造してんだい?B型デバイスってそんなに量産できないから各国も研究技術の廃棄に同意したはず・・・」

えぇ、とリヴィエはうなずいて見せるが抜け道があるといい説明してみせる。

「だいたい脳の記憶容量は10TB程度です。この程度ならある程度増強されたサーバーでデータの保管が可能ですし、現在であればデータ書き込みも数分以内に完了させることも可能です。つまり理論上ですがすべてのデータさえ移植できれば無限にコピーすることが可能なんですよ。」

「コピーする先はどうするのさ?脳なんて早々用意できるわけが・・・」

「できますよ。再生治療技術を応用した脳の人工的な複製技術です。もともとB型デバイスの初期型は人工培養された脳を使用していたのですから。」

納得した様子でレジーナは短く声を漏らす。そしてリヴィエは興が乗ってきたのか説明を続ける。

「そしてこれは体も用意してやれば兵士の増産が可能になります。優秀な兵士の情報を入れた脳から何らかの外部通信可能なデバイスを脳に埋め込んでコピーすればいいんです。もっとも誰かモデルケースでも無ければそんな事はやらないでしょうけど・・・できるとしたら自立無人兵器なんかより数段危険な事になります。無尽蔵に兵士を繰り出せるという事はその国は絶対に戦争に負けませんから。物量作戦で何もかも行えばいいんです。中南米の混乱をよそにプラントでも建設されては・・・大変な事になります。」

はぁ、とレジーナはイメージが沸かないのかうなって見せるがなかなか怖いとも思ってしまう。もし無限に兵士を繰り出せるとしたら絶対に勝てる気がしない。

「・・・んじゃあ、そういう計画を止めに行くんだろ?がんばりなよ。」

「えぇ、隊長にはまだ知らせないでください・・・シエラさんにも。もし今A型デバイスのことを知ったら協力してほしいというでしょう。隊長はジュリアスさんを失った直接の原因として倒したいという思いも強いでしょうし、シエラさんは自分の声がしたヴァンツァーの謎を解き明かしたいと思うでしょうし。私も彼らに協力を打診してシュトゥルムピングィンと連携を取れるようにしたいとは思っています。」

そうだねぇ、とレジーナはうなずく。来年まで事実を隠しておくべきだといつの間にか自分の意見が傾いている事に驚きを隠せなかったが一応の筋は通っている。それにリヴィエも仲間であり、信じたいという気持ちは強い。

「わかった。けど休む理由はちゃんと自分で言いな?」

「感謝します、レジーナさん。」

そのままリヴィエは頭を下げると自室へと戻っていく。レジーナは周囲を振り向くとライターに火をつけて葉巻を吸い始める。空調が効いている部屋は少なく、喫煙室は男性が多いためあまりなじめないのだ。

「そういうことがあったとはねぇ・・・まぁ、だからいつもありえないことばかり起こっていても説明はつくけどさ。」

レジーナはリヴィエの話を思い返し、壮大だがありえなくは無いと感じてしまう。大体国家規模のテロリストと言う時点でありえない話なのだから、何があってもおかしくは無いと感じてしまう。

 

翌日 スムガイト・クローズドミリタリーエリア待機室 0918時

「・・・やつの言葉は真実だったようだ。」

ロッカーが壁に並び中央にベンチがある日当たりのいい待機室、その真ん中に設置されたベンチに座りながらハーネルは新聞を読んでいる。この場にいるのはカダールとハーネルだけでありナミクはヴァンツァー格納庫で訓練に向かっている。レジーナは葉巻を吸うためにどこかに行ってしまった。

そんな時、カダールはハーネルが差し出した新聞を見てなるほど、とうなずいてみせる。中南米連合がUSNからの独立を表明している。またCAU軍がイスラエルへと宣戦布告、占領地域であるレバノンへと軍を進めていることも報道されている。

「ああ・・・そうだな。」

「そういえばシエラはどうした?」

いつもカダールにくっついているのに、とハーネルは思ったようだがカダールは口をつぐんでしまう。なるほど、とハーネルは察すると声を小さくして話しかける。

「・・・任務に差支えがない程度に・・・わかっているな?」

「わかっている。少し激しくしすぎたな・・・」

などとカダールがつぶやくと、リヴィエが控えめに扉を開き入ってくる。手に書類を持ってくるとそのままカダールに差し出す。

「隊長、休暇を願いたいのですが・・・1年ほど。」

「わかった、司令に出しておく。少しさびしくなるな。」

平然と答えつつもさびしそうな表情をするカダールを見て、リヴィエは胸に突き刺さるような痛みを覚えてしまう。しかしやらなくてはならない任務があるのだと言い聞かせ、平静を保つ。しかし声は震えており、こみ上げてくる感情を押さえつけることはできない。

「・・・えぇ、でも必ず帰ってきます。必ずですから。」

「頼む、リヴィエ。」

もちろんです、とリヴィエは答えるとそのまま待機室を後にする。ハーネルは新聞を見ながらカダールに疑問符を投げかける。

「引き止めないのか?」

「リヴィエも自分で考えたことだ。俺がいちいち干渉することもない。あいつにはあいつの考えがあって動いているんだ。それを阻むことはできない。」

そうか、とハーネルはうなずいてみせる。そして相変わらず甘いと一抹の不安を抱えてしまう。ハーネルはリヴィエがどこかに通信したり作戦行動中に別のことをしたり、ハッキングがかなりできることに疑念を抱いているのだ。そんな彼女を簡単に信用していいのか、と口元まででかかったがその言葉を飲み込む。

下手に疑念を持ってもどうしようもない。確証がないのに疑念を抱けば部隊内の不和を生み内部分裂してしまう可能性すらある。しかしハーネルの疑念はナミクやほかのシュトゥルムピングィン隊員にも伝播していくこととなる。

 

続く

 

 

(※1)
マドレ製ヴァンツァー 以下解説

銃火器の製造が多いマドレ社が自社開発したヴァンツァー。バザルト社からアクチュエイターのライセンスを買い取りそれをベースに自社開発を行っている。
徹底した低コスト路線を貫く機体でありなるべく予算のかかるアクチュエイターを減らし装甲を強化している。エンジンもなるべく出力を抑えた小型のタイプを使い被弾投影面積を抑えている。機動力はそれなりに確保できたものの余剰出力が小さく腕部分のアクチュエイターも減らされたため銃火器は「一応もてる程度」の性能でしか無い。
ほぼ格闘専用と言っても過言では無いヴァンツァーであり操縦性能に優れてはいる。しかしそのコストパフォーマンスが最大限評価され武装勢力や早急に軍備を整える必要があったCAUが購入している。

(※2)
CAU製マシンガン。以下解説。

マドレ社の技術をベースとしてRA社が開発したマシンガン。他国の標準的な口径である25mm弾を使用、平均的な威力を持つ。
生産性が高く安価だが同世代のマシンガンより重量がかさむ。その分頑丈で保持した時の安定感があり命中精度は若干高くなっている。またグレイブのアクセサリーパーツなども搭載可能。カルドの胴体にも自衛火器として搭載されている。
CAU軍の主力火器として使われているが武装勢力や民兵部隊の使用も多く、また補給が容易になる事から中東方面に駐留するUSN軍も使用しているケースがある。

(※3)
事実です。本当に今やってます。

(※4)
ネオ・サンディニスタ(新サンディニスタ民族解放戦線)。中南米ニカラグアを拠点とする武装勢力でありUSNがニカラグアを接収した際政権側になびかなかった軍と政府関係者、住民が連携して抵抗運動を起こした組織。がちがちの反USN組織であり結束は非常に固い。一時はUSNの圧倒的な軍事力で壊滅状態に陥ったが2080年代のハフマン危機中に勢力を盛り返しニカラグア中にネットワークを敷いている。コロンビアの自由の星やベネズエラのディアズ州知事や公正ベネズエラとつながっておりザーフトラ軍の協力を得て南米の武装勢力をまとめる立場についた。中南米戦争では主戦力としてUSN軍と戦闘する。ちなみにサンディニスタとはかつて米軍やニカラグアの親米独裁者と戦った英雄アウグスト・サンディーノ将軍に由来する。

inserted by FC2 system