Front misson Blockade
Misson-21 Russian Wall
2096 1/28 アゼルバイジャン クローズドミリタリーエリア 0850時
「酷い有様だね、EC・・・開戦間近か?だって。」
休憩室で新聞を見ながらシエラはため息をつく。2週間前にドイツやポーランドが襲撃されたのはUSNではないかと言う噂が立ったすぐ後、USNと開戦する可能性もあるということでアゼルバイジャン軍もスペインへの出撃準備を整えている。
ECとの同盟を堅守しているアゼルバイジャンは断ることもできず、出撃準備を整えEC軍の特殊部隊の援護としてシュトゥルムピングィンを、そして予備兵力としてヴァンツァー部隊を展開させることが決定していた。そのためカダールは休憩室にシュトゥルムピングィンのメンバーを集め、EC本土行きの時を待っている。
「おそらくは戦争になるな。マデイラの奪還に俺達が投入か。」
「・・・あんなに仲良くしてたのにね。」
シエラは沈んだ口調でカダールに答える。ECは第一次、第二次ハフマン紛争、その間の大小問わない武力衝突「でOCUやUSNの仲介を務めている。USNとも、OCUとも良好な関係を結びザーフトラと敵対しているECだが今回の紛争を機にUSNとは敵対姿勢をとりザーフトラとの協調に乗り出そうとしていたのだ。
USN軍は地中海の第6艦隊をジブラルタル海峡経由で第2艦隊と合流させマデイラ島を襲撃、手中に収めている。EC軍はリスボンにECイタリア海軍、ECフランス海軍およびECイギリス海軍などの主力を結集させ大規模艦隊決戦がいつ発生してもおかしくない状況となった。
「・・・それが戦争だ。誰かが手を加えるだけで友好関係には皹が入る。」
冷淡にハーネルが答える。それに「嫌だねぇ」とうんざりしたような声をレジーナは立てる。
「やだねぇ、結局些細な事で戦争なんてねぇ・・・ECの哲学者が性悪説唱えてたらしいけど、信じてしまいそうだよ。なんたって連中が実践してるんだからね。」
「言いすぎじゃないか・・・?」
ナミクがレジーナをたしなめる。さすがにそこまでは悪くないと信じたいようだが今のECが行っている事を考えればそう思っても仕方ない。
ECドイツ首相であるフリードリヒ・カリウスが世論を喚起しUSN犯行説を一気に広めたためEC国内でもUSNとの衝突は避けられないという風潮が強まっている。明らかに戦争を仕掛けたいとしか思えないのだ。
「何にしても、カリウス首相が開戦に持っていったのは事実です。怪しいことは怪しいので調べたいのですが・・・」
「俺が責任を持つから調べてくれ。それとこいつらに警戒しろ・・・とECドイツ軍からの通達だ。」
カダールがホワイトボードに写真を貼り付ける。特徴的な都市迷彩で塗装され、剣のエンブレムをつけたヴァンツァーが撮影されている。シエラは見慣れないね、と言って疑問符を抱く。
「隊長、こいつら誰?」
「EC陸上新戦術研究機関、通称デュランダルだ。5年前の事件で揉めて以来指揮権や責任の所在が曖昧になったヴァンツァーの専門家チームだ。戦力を持っているということから暗躍しているらしい。」
「へぇ、あんまり強くなさそう。大体サッカー選手混ざってるし。」
続いてカダールが張り出した顔写真を見て、シエラは余裕を見せる。3年前にセリアAから引退したサッカー選手が混ざっているからだ。だがカダールは警戒しろとその余裕をいさめる。
「油断するな。ブラウネーベルの1個中隊を壊滅に追い込んだチームだからな。」
「あいつらを?なかなかやるな・・・」
素直にハーネルが感心してみせる。去年のホークス隊討伐戦では助けられたことも多くそれだけに簡単に壊滅に追い込まれたことが信じられない様子だ。
「指揮官が優秀なだけでしょう。後2番機とも言えるエルザ・・・彼女はシエラさんにも劣らないエースと言えます。そして情報運用能力、即応性も非常に高いことも彼らの強さの一因でしょう。後、ブラウネーベルやUSN艦隊相手に引かない無謀さも。」
「何にせよ、彼らとも交戦の危険性があるということだ。命令違反およびECドイツへのテロ疑惑から万一の際は排除しろ、と通達が来ている。」
了解、と全員が答え緊張した空気が漂う。敵軍は強大なUSNに加えデュランダルと言う詳細不明ながら他国の特殊部隊にも劣らない部隊とも戦う可能性が出てきたからだ。
「・・・勝てるかな?私達。あのデュランダルって連中にさ。」
「正直、五分五分と言うところでしょう。私達でも苦戦は免れません。ブラウネーベル1個中隊を倒した相手です、気を引き締めなければ・・・」
パソコンを打ちながらリヴィエはシエラに応答する。戦力分析をした限りでは本当に互角、一歩間違えば敗北しかねない相手なのだ。励ますようなことを言いたいが、気を引き締めなければ勝てる相手でもない。
言葉も発することができないほど重苦しい時間が流れるが、不意にアーヴィトが部屋の扉を突き破っては言ってくる。
「緊急通達だ!本日0930時を持って第2空挺連隊とシュトゥルムピングィンに出撃命令、目標はクルスク長城要塞だと・・・」
「何、どういうことだ・・・」
アーヴィトの報告に驚いたカダールはホワイトボードをどけてモニターの電源を入れる。それと同時に執務室の映像が映し出され、椅子に座ったゲオルギー元帥が状況説明を開始する。
「ECとUSNの緊張状態は緩和された。デュランダルが南米駐留のUSN軍兵士から得た情報を解析した結果、全てはザーフトラ軍の陰謀と言うことが判明したのだ。貴官らの目的はザーフトラに建造されたクルスク長城要塞の陽動攻撃だ。厳重に警備されたこの要塞を突破し、資材集積センターへの突破を援護するのが目的だ。」
「資材集積センター?何があるんですか、元帥。」
ハーネルが疑問符を抱くと、ゲオルギー元帥は疑問符に答えながら状況を説明する。
「A型デバイス搭載と思われるヴァンツァーの拠点だ。ザーフトラ軍はここからECドイツに軍を送り込み、ポーランドまで行軍しECの新資源地帯への破壊工作を行いECとUSNを戦争一歩手前まで引きずり込んだのだ。全ては資源輸出を行うためと言う、なんともばかげた話だ。」
「・・・ずいぶんな話だな。」
祖国に対する失望からかハーネルはため息をつく。大量の人員などを消費してやることがこんな小さな理由だと言うことに腹立たしさまで感じているようだ。だがそんな気持ちを察せずシエラは笑みを浮かべながらザーフトラを小ばかにしたようにぼやく。
「連中ならやりかねないね。本当。」
「中尉の言うとおりだ。我々はこの計画を阻止すべく資材集積センターへの攻撃支援を行う。要塞攻略部隊の一員としてSAS指揮下に入りデルフォード大佐の作戦に従うこと、質問は?」
「ブラウネーベルはどうなったんだい?まさか全員裏切り者だから殺せ、って言うんじゃないだろうね?」
レジーナの表情が険しくなるが、ゲオルギー元帥は安心しろ、と前置きしてから答える。
「イベリアメガフロートの戦闘後、行方不明になっている。おそらくはUSN軍との戦闘で戦死したのだろう。
「そっか・・・やりきれないねぇ。」
ため息をついて、レジーナはしばらく死んだブラウネーベルの部隊長に黙祷する。ECを守るためにブラウネーベルに入った同胞の死を悼まずにはいられなかったのだ。もっとも彼らが行方不明になった経緯はこの時点では分かっていない。
その間にカダールがゲオルギー元帥と要塞攻略の詳細などを話し合うが、ハーネルが挙手をすると話しに割ってはいる。
「・・・俺は今回の戦いから降りる。」
「ハーネル、どういうことだ?」
突拍子も無い言葉にカダールは一瞬目を点にしていたが、言葉の意図を探ろうとする。
「家族が病気か?それとも・・・」
「・・・俺は祖国に弓を引きたくは無い。それだけのことだ。」
そのまま休憩室を立ち去るハーネルを見て、廊下に出たところでシエラが引き止める。その顔は疑問符に満ちており、信じられないといった様子でハーネルにまくし立てる。
「どうして!?ザーフトラ軍とも戦ったじゃない、それなのに今更戦えないって冗談じゃないよ!ハーネルがいないとうまく連携できないじゃない!」
「シュトゥルムピングィンも大きくなった・・・お前の意に沿う同僚など数多くいる。侵略してくる連中には戦おう。だがこちらから手を出したくは無い・・・」
シエラは疑問符を浮かべるが、やはりわけがわからずハーネルにつかみかかる。
「どういうこと!?」
「・・・相手が手を出してくれば戦う。右の頬を殴られたら相手の顔面をつぶすのが軍人だ。だが・・・ザーフトラは俺にとって祖国だ。お前だってアゼルバイジャンを攻めろと言われたらできるか?どうなんだ!?」
ようやく意図を理解して、自分でもできないと知ってシエラは手を離してしまう。するとカダールも息を切らせながら廊下を走ってハーネルに追いつく。ハーネルは申し訳なさそうに目を伏せる。
「隊長・・・申し訳ない。」
「・・・構わん。話は聞いた・・・いいか、絶対に基地に出たりするな。病気だからな、わかったな?」
短く答えると、カダールはシエラを手招きしてそのまま休憩室へと戻る。言葉の意図を察したのか、ハーネルは浮かんできた涙をぬぐい去り行く2人に敬礼する。
「・・・隊長・・・」
「泣くな。さっさと戻れ。適当な理由をつけて元帥に報告する。」
うなずくとハーネルはそのまま寮まで戻ってゆく。一方カダールはシエラをつれて廊下から戻ってくる。ハーネルを呼び戻しに行ったのかと思ったレジーナは冗談も交えて彼の行方を尋ねる。
「ハーネルはどうしたんだい?まさか臆病風に吹っ飛ばされたんじゃないだろうね、隊長。」
「それはないな、確か・・・」
カダールはハーネルが休んだ理由を思いつかず少し悩んでいると、シエラが助け舟を出す。
「私さ、レーション試食レポートをブログに載せてるんだけど・・・今日食ったのMREなんだよね。ほら、あの世界一まずいレーション。あれで食あたり起こしちゃったみたい。」
「・・・あれですか。」
リヴィエは何となく察した様子でうなずく。レーションは戦闘中に食べるため量が多く腹にたまりやすい。そのためシエラは時々暇な隊員を誘って試食レポートを手伝ってもらっている。
何度かシュトゥルムピングィンの隊員も協力しているが大半のレーションがまずいために具合が悪くなったケースも無くは無い。ことにUSNの標準レーションであるMREを食べた日には一部の隊員が体調を崩す有様だった。
ちなみに一番悲惨だったのはOCUレーションを始めて試食したとき、ハーネルがヴェジマイトをチョコソースと勘違いしてクラッカー全てに塗ったときだったのだがそれは別の話だ。
「しかしレーションは非常食だから食あたりは起こさないんじゃ・・・」
「あーあー、聞こえない聞こえない!だからそういうことでハーネルは休むの!」
ナミクが突っ込みを入れるがシエラはうまくかき消す。はぁ、とゲオルギー元帥はため息をつき胃腸炎一歩手前のような表情をしながらうなずいてみせる。
「・・・わかった。ただし成功させなければ責任は貴官にあるのだぞ?少佐。」
「もちろんです、元帥。アーヴィト、お前がハーネルの代わりを頼む。」
唐突にカダールから指名され、アーヴィトは驚き混乱してしまう。だがゲオルギー元帥は彼の意思など無視して了承する。
「ハーネルの代役を務められるなら誰でも構わん。任務を確実に遂行できれば経緯を問うことは無い。」
「元帥、まだやるとは・・・!」
アーヴィトが反論しようとしたが、シエラがそっと肩に腕をかけて笑みをうけべながら懇願する。
「お願い、私達のためにがんばってほしいの・・・ダメ?」
「いや、ちょっと・・・」
「私からもお願いします。頼れるのは貴方しかいません、アーヴィトさん。」
リヴィエもすがりつくようにアーヴィトの袖をつかむ。あぁもうと声をあげ、アーヴィトは観念したらしく敬礼する。
「ずるいですよ、少佐・・・了解です。第1小隊の一員として戦いましょう。」
「よし、シエラとともに前衛を頼む。細かいことは自分で判断しろ、いいな?」
了解、とアーヴィトがうなずくとカダールは改めて出撃命令を出す。
「総員戦闘配置、直ちに格納庫へ直行せよ!」
「了解!」
そのままシュトゥルムピングィン隊員は扉を開け、廊下を駆け抜けると格納庫へと到着する。アーヴィトは通信バックパックを搭載したシケイダ2に搭乗する。武装はグレイブMGとトゥームMG(※1)だ。
全員がヴァンツァーへの搭乗を終えると格納庫外に待機している輸送機へと移動を開始する。
クルスク長城要塞上空 1510時
「隊長、まだつかないの?」
秘匿通信回線でシエラはカダールと話し続け暇をつぶす。と言っても6時間近く輸送機に揺られていれば退屈もしてくる。
『もう少しだ、シエラ。安心しろ。』
「そっか・・・隊長、A型デバイスとか言ってたけど・・・私が行方不明になってたときと関係あるのかな?」
その言葉を聴いて、カダールは何か思い当たったらしくしばらく考え込む。なかなか応答の無いカダールにシエラは不安げに声をかける。
「・・・隊長?」
『どうして今まで気づかなかったんだ・・・ハフマン島、デバイス・・・そしてあの無人機とテロリストに偽装した連中!まず間違いない。PMOの時襲い掛かってきた連中はザーフトラ軍だ。』
「え、でもどうして!?PMO指揮してたのザーフトラじゃない・・・!」
突拍子も無い答えにシエラは混乱してしまう。カダールは良く聞け、と取り乱すシエラを落ち着かせる。
『ザーフトラ軍はPMOを指揮できる上にデバイス開発の主導権を握っていた。PMOのメンバーを今思い出したがザーフトラの衛星国出身の兵士がやけに多かった。ザーフトラ軍直属の兵士なんてそう多くなかったはずだ。』
「そっか、ザーフトラ軍があのヴァンツァーを操って・・・でもなんで?」
『第二次ハフマン紛争で優秀なマテリアル候補が浮上してきたからごっそりいただくつもりだったんだろう。そして自分たちの陰謀を知っているハフマンの魂を共通の敵にして軍事物資の供給を続けさせる。その上で優秀なデバイスをあちこちに売り込む。相当な利益になるだろうな。』
そっか、とシエラは納得してしまう。これだけの利益があればザーフトラはPMOを操ることに何のためらいも感じないだろう。
『・・・資源搬出センターのパソコンをリヴィエにハッキングさせられれば多少は何かつかめそうだな。」
「そうだね・・・でも気になるけど、何で私を解放したんだろ?」
『そういえば・・・』
B型デバイスを製造するには必ずマテリアルを殺す必要がある。このタイプで量産性がまったく効かないためザーフトラもあっさりと研究の放棄に関する条約を結んでいる。
兵器は性能も必要だが、何より量産できることが第一である。ワンオフの兵器では戦局に何の影響も及ぼすことはない。するとEC空軍の輸送機が合流し通信を入れてくる。
『そろそろザーフトラ領空だ、警戒しろよ?』
『久しぶりだな、フィリップ。元気か?』
フランス軍外人部隊第2落下連隊のエンブレムを見ただけでカダールはフィリップが参加していると見抜いたようだ。元気そうな声を聞きカダールは安心した様子だがフィリップはどうしたんだ、と疑問符を投げかける。
『4個小隊も送り込むつもりなのか?アゼルバイジャンは・・・』
『ストレラ製の大型機動兵器と護衛部隊だ。護衛部隊には最新型のヴァンツァーをあてがわれているからな。うちの上官が一度大規模要塞の攻略作戦を経験させたいと思ったらしい。』
提案したのはディートリッヒ中将であり、城砦攻略用の部隊を随伴させることを希望したのだ。ゲオルギー元帥も了承し、シュトゥルムピングィン第1小隊の他に陸軍の落下傘連隊から1個小隊を引き抜いている。護衛部隊はラヴァーンダ(※2)を使用し、空挺降下の訓練も受けた精鋭だ。
『まぁ何でもいいけどよ、足引っ張るんじゃねぇぞ?』
「お互い様だよ、フィリップ?」
フランス第2外人部隊は2個小隊を引き連れているが1個小隊は第4中隊から引き抜いてきた人員で要塞の設備破壊などを担当する工兵部隊だ。直接戦闘を経験しているのは第1中隊所属のフィリップの部隊くらいだろう。軽く3人が冗談を言い合っていると、指揮官であるデルフォード大佐から通信が入る。
『こちら第22SAS連隊所属のデルフォード大佐だ。貴官らには右翼を担当してもらう。フォルゴーレ旅団と我々の部隊は左翼に攻撃を仕掛ける。地形的に険しく大部隊の突入が難しい中央部にはデュランダルと我々の2個小隊が突撃を仕掛け、要塞の無力化を図る。要塞の制圧後、貴官らは要塞の防空網を全て無力化してもらいたい。クルスクのターミナルで合流する。質問は?』
『イギリス野郎の指揮下に入るなんて聞いてねぇがどういうことだ?』
不満げにフィリップが苦情を言うが、リヴィエが割って入りたしなめる。
『後で序列についての文句はいろいろと言えます。今は作戦に集中してください・・・ECが崩壊するかどうかの瀬戸際ですよ?』
『わーったよ・・・ったく。』
やっぱり因縁が深く絡んでいるな、とカダールは思ってしまう。イギリスとグランスはヴァンツァーの時代に入ってもメーカー同士でシェア争いを続けているほどだ。
しばらくフィリップは部下に愚痴を並べ立てていたが、作戦空域に到着するとようやくとめて無線を入れる。
『降下開始だ!要塞を落せ!』
『シュトゥルムピングィン、降下しろ!』
カダールの指示で輸送機から一斉にヴァンツァーと大型機動兵器が降下する。第2外人落下傘連隊も降下を開始、予定された要塞前へと降下する。
同時刻 クルスク長城要塞内部
「司令、敵襲です!EC連合軍が当区画に襲撃を!」
司令室にいるドイツ風の禿頭の軍人とデムチェンコにザーフトラ軍兵士が報告する。あわてる必要はない、とデムチェンコは悠然と構えている。
「そうか、それで敵戦力の概要は?」
「当方右翼にSASおよびフォルゴーレがそれぞれ2個小隊、左翼にシュトゥルムピングィン、およびフランス軍の空挺部隊です!戦力規模は左翼に1個中隊が展開!」
大規模な攻勢にデムチェンコはほくそえむ。2年前の敗戦で何とか粛清は免れたもののクルスクという偏狭に飛ばされた雪辱を晴らすときが来たのだ。そんな千載一遇のチャンスを逃すはずもないが、なるべく心情を表に出さず冷静に部下へと命令する。
「左翼に大型機動兵器と2個中隊を分けろ。右翼に1個中隊を持ってあたれ。中央部は予備部隊を配置し警戒しろ。それと左翼は私が陣頭指揮を執る。」
「はっ!」
兵士がそのままきびすを返し通信室へと向かう。禿頭の軍人は指揮が気に入らないのか苦虫をつぶしたような顔をする。
「・・・中央部に戦力を分けるべきだ、デムチェンコ。」
「何?」
「予備はせいぜい3個分隊程度だろう。両翼の攻撃は攻勢を仕掛けているが中央部から目をそらすための陽動でもある。均等に戦力を分けろ。周囲の要塞からレール輸送(※3)で捻出させればいい。」
「博識だな。だが誰が来ると言うのだ?」
「デュランダルだ。先ほど連中の使う大型輸送機がロンドンを出立したと報告が入った。SASや各国軍の輸送機も作戦無しに突撃することはありえん。」
ふむ、とデムチェンコは素直に耳を傾ける。彼の軍事的手腕は知っており聞いても損はないと判断したらしくすぐに無線で連絡を入れる。数分もしないうちにクルスク区画にヴァンツァーの増援が送られてくる。
「2個中隊をそれぞれ区画に配備しろ。中央部にもだ、いいな?」
『了解、直ちに向かいます。』
防衛部隊の隊長が応答すると、歩哨がいきなり悲鳴のような声を上げる。
『ちゅ、中央部にSASとデュランダルが!応援を要請します!』
「今2個中隊を向かわせた。ランチャーも稼動させろ。」
『了解です!直ちに応戦します!』
落ち着いてデムチェンコが指示を出すと、内心で彼の読みに舌を巻きつつ声をかける。
「君の読みがあたったようだな、グレーザー准将。」
その言葉を聴いて、グレーザーは司令室を退出しようとする。背を向けているためデムチェンコには彼の表情は見えないが、うんざりした表情をしているようだ。
「私はターミナルの方へ行く。」
「逃げる必要はないだろう?ここは突破されない。」
長城要塞は防備の薄い中央部でもミサイルランチャーを配備、両翼には大型のロケットランチャーや砲台、ガンポートなどを多数配置しているため突破はできないだろうと思っている。だがグレーザーにはそんな自信こそ根拠がない、と今ここで断言してしまいたい様子だ。
過去、どんな城砦も無敵と言うことはありえない。この自信過剰な指揮官では突破されるだろうと予感しているのだ。
「逃げるのではない。奴等との決着をつける場所はここではないということだ。」
それだけ言い残し、グレーザーは退室する。残ったデムチェンコはすぐに左翼の部隊に指示を出す。この手でシュトゥルムピングィンを叩き潰す絶好の機会を逃すはずはなく、深呼吸をしてから部下に指示を出す。
「左翼は私が指揮を執る。右翼と中央は防備に徹しろ。」
『了解!』
『・・・とんでもないな。この城砦を突破するのか・・・』
ナミクがザーフトラ長城要塞の直前まで来て、その外観に圧倒されてしまう。多数の重ガトリング銃座やロケットランチャーが配備されている上にヴァンツァーや大型機動兵器も戦闘配置についている。しかもいくつもの区画に別れ1つずつ制圧しなければあがっていけないようになっている。
対するシュトゥルムピングィンは第1小隊と陸軍第1空挺旅団所属の小隊、そして14cm短砲身榴弾砲を搭載したSSV-92キート(※4)2機で編成されている。フランス軍外人部隊第2落下傘連隊は第1中隊所属の小隊と第4中隊所属の小隊が降下している。
「怖気ついた?ナミク。」
『そんなことは・・・ただ、普通に戦って突破できるのかと・・・』
正攻法で突破できそうにない要塞を見てナミクは気後れしてしまったらしい。シエラに冗談を飛ばされている彼を見てアーヴィトが励ます。
『1つずつ地道に片付ければいい。ナミク、見た目だけで逃げ腰になるな。』
『了解。何とかしましょうか・・・』
少しは気休めになったのかナミクは要塞を見据える。リヴィエも要塞を見てどこから攻め込むか悩んでいる様子だ。
『隊長、どこから攻め込みます?』
『ガンポートを徹底的につぶせ。リヴィエとシエラ、ハーネル・・・』
そこまで言って、カダールはハーネルがいないことに気づきあわてて訂正する。
『違った、アーヴィトは前線に向かえ。フィリップの部隊も支援に当たるはずだ。レジーナはガンポートを狙撃し行動不能にしろ。いいな?』
『了解、任せな。』
レジーナのグリレゼクスがひざを突き、ライフルを構える。ガンポートの射程外から一方的に攻撃するつもりのようだ。第1中隊所属のパボットもグレンツェを構える。
『発砲しろ!目標はガンポート、ミサイルや迫撃砲でヴァンツァーを狙え!』
フィリップが指示を出し、パボット2機とレジーナがガンポートを狙撃。45mm重ガトリング砲塔が沈黙した隙を狙いフィリップと部下3機が前進、シエラとアーヴィト、リヴィエも続く。彼らは通路沿いに進撃し最上部の司令部を目指す。
『ザーフトラ軍各機、撤退したものには死が待っていると思え!祖国に勝利を!EC軍に死を!』
『Ураааааааа!!』
デムチェンコからの命令を受け、ザーフトラ軍のヴァンツァーが一斉に突撃を開始する。搭乗員それぞれがУра(ウラー!)と叫びながら突貫する様子は壮観でもある。通路の
「そんなんでひるむ訳ないじゃない・・・!行くよ!」
シエラも果敢に前進しアールアッソーCで突撃してくるジラーニを迎撃する。ヴェスナーMGを連射しながらジラーニは突撃をかけるがリヴィエもクラヴィエを発砲、迎撃を受けて爆発する。
その直後にアバローナが到着、両肩のアークバレルを発射する。2機そろって坂の上から射撃をしてきたため、すぐにシエラとリヴィエは後退。フランス軍第1小隊も倉庫の影から応戦するが射程で負けているマシンガンではたいした損傷を与えられない。
しかもアバローナは両腕にシールドを搭載しているため並大抵の銃撃では傷すらつかないだろう。前衛部隊は立ち往生してしまう。
『ダメだ、身動きできない!』
「でも早く行かないとあいつらが来るよ!」
ジラーニやテラーンが群れを成してコンクリートで固められた通路を進撃してくる。接近戦を受けて立つかそれとも退却するか。シエラが迷ったときにキートが支援砲撃を開始する。アーヴィトが敵機の正確なデータを送信しているようだ。
『今座標を確認した。砲撃を開始する。』
14cm迫撃砲と12.7cm榴弾砲をキートが発砲、砲弾が次々にアバローナへと直撃する。大口径砲弾の直撃に装甲が砕けたところにマネージュがミサイルを発射。アバローナはミサイルが突き刺さり爆発する。
アバローナが残り1機になったところでフランス軍とシエラが通路に飛び出るとザーフトラ軍前衛と交戦を開始。至近距離でテラーンに20mm機銃とアールアッソーCを直撃させ破壊する。
「撃破!隊長は今どんな戦況!?」
『支援砲撃中だ!今ランチャーを破壊している。っと、今フランス軍から砲撃要請が入った、発射する!』
フランス軍第4中隊所属のタトゥーが最前線にでてPAP66を連射、ジラーニに対して弾幕で威嚇している間にミサイルが大量に降り注ぎザーフトラ軍前衛を壊滅状態に陥れる。
その隙を見てリヴィエとフランス軍前衛部隊がアバローナめがけ発砲、マシンガンの一斉射撃を受けてアバローナは爆発を起こす。
『こちら第1小隊、突破した!次に向かう。』
『了解、前進する!』
カダールが応答するとそのまま後続部隊も進撃、安全な場所からフランス軍第4中隊機のセンサー支援を頼りにミサイルを発射する。レジーナは前衛部隊に合流すべくバズーカを所持したラヴァーンダとともに前進する。
第2区画にレジーナ達の部隊が到着すると、すでにすさまじいほどの銃弾が前衛部隊めがけ発射されている。45mmガトリング砲をまともに受けてフランス軍のパボットが沈黙、残りは立ち往生を食らっている。
「レジーナ、早く何とかしてよ!ミサイルが当たらなくて・・・!」
『ったく、マーフィーって奴が言ったとおりだね・・・ハイテク機器は戦場で必ず壊れるって!』
まずレジーナが45mmガトリング砲めがけ狙撃し沈黙させてからAAF(アゼルバイジャン陸軍)が突撃。バズーカを発砲し手当たり次第に建物を破壊してゆく。すると敵機が第2区画へと集結し始める。
『シエラ、ジャミングされてミサイルが誘導できない!何とかできるか!?』
「ジュリア・・・リヴィエ、ジャミング源を特定できる!?」
一瞬だけシエラはジュリアスと言いかけてしまうが、すぐに言いなおしてリヴィエに支援を要請する。すぐに撃破しなければ劣勢に立たされるため、少々あせっているようだ。
『おそらく施設でしょう。どこかに設置型のジャマーがあるはずです。破壊しましょう・・・この戦力では相手をしきれません。』
ザーフトラ軍の大型機動兵器であるスヴィーニッツも2機、さらにテラーンDが4機も投入されている。重火器の援護抜きに突破することは不可能だろう。シエラは隠れながら銃撃し、ヴィーザフ・ロークを狙う。
20mm銃弾がヴィーザフ・ロークの頭部に直撃、センサー類が使用不能になるが次々と増援が到来し狙うまもなくザーフトラ軍が迫ってくる。
『一旦退け!畜生、ザーフトラお得意の人海戦術か!』
フィリップが悔しげにつぶやきつつ撤退を指示、クローニクとトヴェリMGを発砲し撤退支援をする。シエラも銃撃を敵機に浴びせ突撃して来たジラーニを撃破するが、猛烈な集中砲火を浴びせられる。
「嘘でしょ・・・!支援をしてよ!」
『待ってろ!今向かうぞ!』
シエラですら弱音を吐くほどの弾丸が浴びせられ、防弾性が高いはずのコンクリートの地面がめくれ上がり多数の弾痕が刻まれてゆく。それを見てアゼルバイジャン陸軍所属のキートが14cm砲を発砲、密集しているヴァンツァーに砲弾が着弾する。
爆発に2機ほどが巻き込まれ、戦闘不能になるのを見てザーフトラ軍のヴァンツァーは散会しつつ銃撃を続ける。その隙にレジーナが散会した敵機を狙撃する。
98mm徹甲弾が直撃したジラーニはエンジンブロックを貫通され一瞬で爆発。隙を狙いレジーナとアゼルバイジャン陸軍の部隊は1機ずつザーフトラ軍のヴァンツァーに集中砲火を浴びせ、撃破してゆく。
『いいぞ、もっと吹っ飛ばせ!』
アーヴィトが砲撃座標を指定しながら歓喜の声を上げる。次々に12.7cm砲弾や14cm榴弾砲が敵ヴァンツァーに炸裂し爆発を起こす。後退した隙を狙いフランス軍とシュトゥルムピングィンは反転攻勢を仕掛ける。
援護射撃を一旦停止し、キートもゆっくりと前進してゆく。カダールや第4中隊もキートに随伴して前線に向かうとテラーンDと前衛部隊が交戦している。
『誰か援護してくれ!ジャミング源の建物をサッチェルで破壊する!』
「了解、あんまり長く持たないから急いで!」
第4中隊兵員の救援要請を聞いて、シエラは真っ先に応答するとテラーンDめがけ猛烈な銃撃を浴びせる。フィリップも了解、と応答しトヴェリとクローニクで銃撃する。
『1人だけならそうもたないだろ?援護に来たぜ。』
「ありがと、フィリップ!」
礼を言いながらシエラは76mm砲弾を回避しつつテラーンDめがけ射撃を続ける。40mm銃弾がバイザーを貫通し内部で爆発、テラーンDの動きが鈍る。
そこにフィリップがミサイルを発射。テラーンDの右腕にミサイルが直撃し大規模な爆発を起こす。76mm砲弾に引火したらしくテラーンDの右腕は跡形も無く吹き飛んでいた。胴体にも火災が発生し、パニックを起こしたのかテラーンDの搭乗員は脱出する。
「お、ラッキー!」
『シエラ、まだ来るぞ!』
アーヴィトが大声でシエラに警告する。撃破したのとは別のテラーンDは工兵部隊を無視してシエラとフィリップに集中砲火を浴びせる。
引き寄せがうまく行っていることに内心ほくそえむが、必死にシエラは76mm砲弾を回避し続ける。装甲が薄いガストでは直撃弾を食らえば一撃で吹き飛ばされてしまうだろう。反撃を開始した他の隊もテラーンDに足止めを食らわされている。
途端にシエラのガストが一撃を暗い吹き飛ばされる。76mm砲弾が脚部に命中、一瞬で脚部を吹き飛ばされ行動不能に追い込まれる。
「う、嘘!」
必死にシエラは20mm機銃とアールアッソーCを連射するが、テラーンDの正面装甲に当たっても貫通しない。しかも転倒しているため仰角を変えることも出来ず、バイザーを狙う手段は使えない。
テラーンDは76mm速射砲でフィリップのテラーンをあしらいながら、76mm砲をシエラへと向ける。ライフリングまではっきり見えるほどの至近距離に突きつけられ、すぐにシエラは脱出レバーに手をかけようとする・・・もっとも、この距離では間に合うかどうかは分からないのだが。
『今爆薬を仕掛けた、爆破する!』
爆薬を仕掛け終わったと無線機から報告が入り、それと同時に建物が爆発する。テラーンDが一瞬爆発した建物を向いた隙にミサイルが多数直撃。側面から直撃したミサイルはテラーンDの装甲を貫通し爆発する。
『シエラ、無事か・・・!?』
「隊長、ありがと・・・!」
巨大なヴァンツァーが倒れ、カダールが近くまで来てようやくシエラは一安心する。だが予断を許さない状況には変わりなくカダールはアーヴィトに無線を入れる。
『アーヴィト、司令部にサルベージを要請しろ!リヴィエはアーヴィトを援護しろ、俺はシエラを護衛する!』
『了解!聞こえたかルスラーン、支援を要請する!』
無線バックパックを使用しアーヴィトはルスラーンへと支援要請を行う。その間にリヴィエはクラヴィエを発砲、弾幕を張ってヴィーザフ・ロークを追い払う。
『こちらルスラーン、了解した。直ちにサルベージに入る。シエラ中尉、直ちに脱出しろ。』
「了解!」
冷静な口調でルスラーンが指示を出すとシエラはハッチをこじ開けてガストの胴体から降りる。司会が開けると同時にすさまじいほどの轟音が鳴り響くのがはっきりと感じられた。
銃撃の音はマイクやパイロットの負担軽減のためにかなりボリュームを抑えている。だから実際に聞けば鼓膜が破裂しそうなほどの轟音でシエラは思わず耳をふさいでしまうが・・・途端に強い衝撃が走りシエラは後ろに倒れる。砲弾の破片を受けたのか、狙撃されたのか分からないがシエラは額から血を流している。それをみてカダールは無線機で呼びかける。
『おい、シエラ・・・!どうしたんだ、大丈夫か!?』
「大丈夫、これくらいどうってことないよ・・・痛かったけど・・・!」
頭に何かが直撃し、視界も赤くなるが何事もないようにシエラは応答すると、痛みに目をしかめながらも止血処理をする。パイロットスーツのポーチにある救急セットを取り出すと、袋を破いてから止血剤を飲みガーゼで血を拭いて包帯を頭に巻く。一応後で具合が悪くなるか帰国したら医者に見てもらおうと思いつつシエラは予備機を待つ。
まもなくED-1Eアービレーターが上空に到達するとカーゴからワイヤーをたらす。先端が電磁石になっており損傷したガストに先端部を接着させるとそのまま引き上げる。それと同時に予備機のガストを投下する。シエラのセットアップ機体そのものであり大まかな部分と武装は変更されていない。
『サルベージを完了した。中尉、無茶だけはしないでくれ。機体は高いが何より中尉は大事な存在だ、いいな?』
「了解、わかってるよ!」
元気にシエラは答えると、前屈状態で着地したガストへと乗り込む。そしてシステムを稼動させるとジョイスティックを握り締めペダルを踏み込む。
『大丈夫かい?シエラ。無言の帰宅なんてごめんだからね。』
「わーってるよ、レジーナ!私は大丈夫だから!」
あんまり心配されてシエラも意らついたのか、感情をぶつけるようにヴィーザフへと猛攻を仕掛ける。大量の20mm銃弾と40mm銃弾を浴びせられヴィーザフは一瞬で爆発する。
『燃えてるねぇ・・・あんまり突っ走って、落とし穴にかかんなよ?』
レジーナは一応シエラに釘をさしておくと、正確にアバローナを補足してダブルコメットを発射する。ロケットランチャーの予備弾薬に98mm砲弾が直撃し爆発する。次々にアゼルバイジャン軍のラヴァーンダやフランス軍のマネージュ、クラブサンがミサイルを発射。
センサー誘導されたミサイルは今までの苦戦が嘘のようにテラーンDを破壊してゆく。スヴィーニッツも孤軍奮闘するが、シエラとリヴィエが集中砲火を浴びせているところにナミクがスフィンクスを発砲。操縦席に直撃弾を受けてスヴィーニッツは沈黙する。
『ば、バカな・・・全滅だと!?』
『左翼だけではなく他の区画もEC軍に突破されました、中央部の部隊は資源ターミナルへと進撃しています!』
混線模様の無線から敵軍の通信が聞こえてくる。大型機動兵器とテラーンDを失った事によりザーフトラ軍は戦意を喪失し各個撃破されてしまう。脱出したパイロットは散り散りになって要塞内部へと逃げ込む。
『わ、私は要塞を放棄する!後は任せたぞ!』
『司令官・・・!?くっ、全軍要塞を捨てて後退しろ!残った兵士は無理せず降伏するんだ、いいな!』
増援を送り込む事も出来ず、EC軍の進撃に泡を食ったのか司令官は尻尾を巻いて退散する。残った兵士も戦意喪失し、兵装システムを時間稼ぎのために稼動させて撤退する。
司令部前の45mmガトリング砲台がEC軍へと集中砲火を浴びせるがカダールとナミクがバズーカを発砲。一瞬で砲台を無力化すると司令部前を制圧する。しかしヴァンツァー用のトンネルは閉鎖され奥へは進めない。
『こちらシュトゥルムピングィン、司令部を制圧した!』
『デルフォードだ。貴官らの働きに経緯と感謝を表する。わが隊は資材センターへと進撃しているがそちらはどうだ?』
『トンネルが閉鎖されている。空爆か大量の爆薬を使わないと進撃は出来ないだろう。突破するのは時間がかかる・・・大佐、合流を待つべきではないか?』
『いや、今時間を与えては証拠を全て消されてしまう。我々だけで突破する。』
SASとデュランダルの連合部隊でデルフォード大佐は突破を試みるらしい。フィリップがやれやれ、とか愚痴りながらため息をつく。
『まぁ、せーぜーがんばってくれや。自爆しても知らねぇからな?』
『気遣いは無用だ。進撃せよ!』
そのままSASとデュランダルは資材集積センターに突撃、右翼のフォルゴーレ旅団も同じようにトンネルを閉鎖され突破できないようだ。
『・・・ナミクさん。一緒に来てもらえますか?司令部からハッキングすればゲートを開放できるかもしれません。』
『あぁ、了解。』
ナミクを誘い、リヴィエは操縦席からG74C突撃銃を取り出すとそのまま司令部に入ってゆく。不安げな表情を浮かべながらナミクもリヴィエの後に続き、司令部へと姿を消す。その後ろから第4中隊所属の小隊も司令部に突入する。
『シエラ、怪我は本当に大丈夫なのか?』
唐突に、しかしトーンを落しカダールはシエラにたずねる。大丈夫だよ、とシエラは笑みを見せて答える。
「頭痛とかしないし、心配しないでよ?血も止まったし帰ったら消毒してもらえば。」
『なら・・・いいんだけどな。』
黒く血が固まった包帯を巻いているシエラを見て、カダールは不安げな表情をしてしまう。口では大丈夫か、と納得しているようだがシエラにははっきりと心配しているのがわかる。
「帰ったら絶対医者に見てもらうから、ね?安心してよ。」
不安をなだめるように、シエラは元気を見せる。カダールはようやく表情を緩めるが、不安は払拭しきれずにいる。
『隊長、秘匿回線で通話頼めるかい?』
『ん?あぁ。』
レジーナから秘匿通信を依頼され、カダールは通信モードを切り替える。
『・・・よかった。リヴィエのことなんだけどさ。』
『リヴィエがどうした。』
『不審な動きしてんだ。紛争中からどっかに無線をかけてたけど他の部隊に同僚がいると思って気にしてなかった。けど作戦中にしょっちゅうどっかに通信を入れてるらしくてね。』
何、とカダールは真剣な表情をしてレジーナの話を聴く。シュトゥルムピングィンだけではなく軍隊全てに言えるが作戦中に別勢力に通信している場合はその内容を事細かに報告しなければならない。情報漏洩を防ぐためにプライベートの通信を全て禁止している軍もある。
そしてカダールには情報漏洩と聴いて思い当たるところがあった。去年10月のホークス隊討伐戦で敵部隊が降下地点で待ち伏せしていたことだ。
『・・・レジーナ、リヴィエには言ったのか?』
『紛争中は注意したけど、怪しくて本人には言えないね。かと言って今除隊させてもやばいんじゃないかと思ってさ。ルスラーンが変な無線には気づくはずじゃないか。それをどうして気づかないか隠し通してるか・・・ってね。』
それもそうだ、とカダールは納得するとリヴィエの行動を思い返す。やけにゲオルギー元帥の行動を注意していたりと不審な点は目立つが、逆にそこまで念入りに偽装工作を行う人物が何故注意したのか、と言うことも気になってしまう。
『レジーナ、ルスラーンにだけ報告して背後関係を洗うよう相談する。』
『元帥には知らせないのかい?』
『わけあって・・・な。今はシエラと仲間以外信用できん。』
それだけ言って、カダールは秘匿通信を解除する。シエラは頬を膨らませながら通信を入れてくる。
「一体何を話してたの?秘密?」
『たいした事でもない。それより周囲警戒を怠るな。』
「りょーかい。」
明るいシエラの返事に笑みをこぼしつつカダールはシエラに周囲の警戒を命じる。時々その能天気さが時々カダールにはうらやましく見えてしまう。
「すぐにハッキングして進路を確保しろ!イギリス野朗に手柄を全部持ってかれるぞ!」
フランス軍部隊長の怒号が薄暗い司令部に響き、仏外人部隊第4中隊所属の兵員は要塞のシステムを乗っ取ろうと資料などをかき集めている。緊急用のコード(※5)を発動したため基地の電源は落ち、ゲートも開放できない。しかし下手に空爆をすれば落盤を起こし二度と通過できなくなる。
そのため、フランス軍兵士はヴァンツァーからケーブルを延ばし扉の電源システムとパソコンに接続して一部の電力を回復させつつハッキングを行っている。
「ナミクさん、私は他の所を見てきますね。」
「了解した、残党も控えているかもしれないから気をつけて。」
念のためナミクは注意を促すと、わかってますよとリヴィエは簡単に答え司令室へと向かう。扉を開けると、ここも書類などが散乱しているがリヴィエは迷わず壁にかけられた絵をはずす。
壁に埋め込まれた金庫があり、リヴィエはそれを携帯のカメラに映し無線機で連絡を入れる。
「・・・リヴィエです、今金庫を発見しました。開け方は分かりますか?」
『よくやった。今解析中だ。』
無線の相手は感情を表さずに答える。いつもこんな調子のためにリヴィエは慣れており、パスワードが送られてくるとすぐにリヴィエはボタンを押す。
ロックを解除すると自動的に扉が開く。リヴィエはその中にあるディスクと書類をかき集めると用意しておいたバッグの中に詰め込む。
『後は任務が終わったら解析する。その後は好きにして構わん。』
「了解です。ではこれで・・・」
通信をきると、リヴィエは携帯をしまってバッグを抱えながら非と目に付かないように110式陣陽へと戻ってゆく。そしてこっそりと機体に書類を隠すが無線でレジーナに呼びとめられる。
『何やってるんだい?リヴィエ。』
「レジーナさん?その、必要な機材を取りに来たんです。けど持って来てなかったんですよ・・・」
などと苦笑しながら、リヴィエはごまかし無線をきるとそのまま立ち去る。何かを隠そうとすると必ずレジーナに発見されているような気がしてリヴィエはため息をつくが、自分の「仕事」を今他の隊員に知られるわけには行かないのだ。
何も分かっていないだろうとたかをくくりつつ司令部に戻ると照明と一部の暖房が復旧しておりある程度寒さが和らいでいる。フランス軍は必死にコードを解析し解読し半分ほどが終了しているようだ。どれくらい進んでいるのかが気になってリヴィエはパソコンを操作している兵士に話を聞く。
「うまく行きそうですか?」
「安心しろ。もうすぐ終わる。よし、今ウィルスを投入した・・・少し待てばコードが分かるからゲートのスイッチを稼動させてくれ。」
きょとんとした表情を見せてリヴィエは短く声を上げる。まさか自分が何か命令されるとは思っても見なかったのだ。
「え?」
「聞こえなかったか?制御室に行ってゲートを開放しろって言ったんだ。無線で合図するから頼むぞ?」
「あ・・・はい。」
命令を理解すると、リヴィエはすぐに制御室へと向かう。廊下を通り抜け、極寒の空気を感じながらゲート脇の制御室にはいる。コンクリートで固められており、内部は簡単な基盤が配置されている。スイッチが点灯しているためリヴィエはどれを操作すべきかすぐに判断できた。
「今ゲートを開放します。少々お待ちを・・・」
『本当か!?』
スイッチをリヴィエが押し込むと、鈍い音を立ててトンネルをふさいでいるゲートが開放される。
『リヴィエ、良くやった!すぐヴァンツァーに戻れ、資材集積場へと向かうぞ!』
「了解、向かいます。」
ぐっとこぶしを握りしめ、カダールが嬉しげに無線をいれる。リヴィエは落ち着いて応答すると、110式陣陽へと乗り込む。フランス軍も戻ってくるとヴァンツァーに乗り込み、資材集積センターの奥へと突撃を開始する。
続く
(※1)
センダー製軽量MG。以下解説。重装機体が保持する命中精度の高い火器というコンセプトの元にセンダー社で開発された小型MG。23mm銃弾を使用し連射速度は速いものの優れた反動抑制機構を備え命中精度は比較的高く作られている。ただしその分銃身を延長しているため軽量級のMGとしてはややかさばり、重くなっている。
ヴァリアントやツェーダーなどの護衛火器として採用されたケースが多い。グレイブを一回り小型化したデザインを持ちアクセサリーパーツはグレイブと同じ物を使用できる。またフレームや内部部品の一部にグレイブとの互換性がある。
中小国では主力火器として使っているケースが多い。また高い連射速度をカバーするためマガジンは大型のタイプを使用している。(※2)
ストレラ製重装砲撃機。型番はSSV-95。エボルヴに出てきたISVプロトタイプがベース。以下解説。インターゲーンのプロトタイプをストレラ工廠で完成させた重装砲撃機。もともとはホバー脚部を使っていたがストレラ工廠の機材では耐久性や出力に問題がありキャタピラ脚部へと設計を変更している。
無骨なデザインを持ち、その外見どおり出力や防弾性能に優れている。直線的な外見は生産性にも優れ、この手の機体としては安価に調達可能となっている。しかし機動力は本来想定していない脚部を使用した上にストレラ工廠の技術力もあいまってかなり悪い。
砂塵防護用フィルターや冷却機能、対低温装備なども充実しているため局地戦闘に強く、無改造でグルジアやCAUなどに輸出、数多く使用されている。またアゼルバイジャン水上部隊用に2096年初頭にはホバー脚部の開発を再開した。(2098年に実用化。)(※3)
4thのカーゴレールをそのまま要塞にも配置したもの。要塞に配置したヴァンツァーをすばやく展開させることが可能であり長城要塞の弱点である戦力の分散を補う形となっている。爆撃を避けるため地下に設置されている。(※4)
ストレラ製大型機動兵器。以下解説。ストレラ工廠が既存の生産ラインを使い製造している大型機動兵器。同社製のWASを大型化した形状をとっており構造もいくつかの共通点がある。キートとはロシア語で「鯨」を意味する。
操縦席下部のアームはいくつかのパーツと換装可能。40mm機銃やロケットランチャーなどの換装が可能でありストレラ製のオリジナルとして14cm迫撃砲も装備可能。成型炸薬弾と榴弾の撃ちわけを可能とする。胴体にはEC規格の12.7cm砲を搭載しているがオリジナルの設計図には無い32mm機銃を両サイドに搭載し自衛火力も保有する。
換装可能なアームや高い攻撃力が評価されCAUやECイタリアなどに採用されている。構造は単純だが、それゆえに故障が少ない名機として一定の評価を得ている。(※5)
軍事基地が陥落する際に発動させるコードであり、基地によって何をするかは異なる。自爆したりEMPで電子機器を全て破損させたりとその要塞を使用不可能にする方法が取られる。長城要塞ではカーゴラインの停止と要塞門の閉鎖であり1箇所を突破してもすぐに他の管区から増援を送り分断するシステム。同時に電子システムも特殊なプロテクトコードで遮断され基地機能を一時的に停止させる。