Front misson Brockade

Misson-20 Sutrum Pinguin

 

10/15 0841時 ザーフトラ領内アラル海 

『・・・ようやくついたか。』

「ついたの?」

国連軍の輸送トレーラーが砂漠の真ん中で停止する。到着した場所はアラル海の湖底だったばしょであり、砂嵐のためか視界もあまり良くない。シエラはトレーラーがとまってようやく起きた用だが、ホカノメンバーはすでに起きている。

『行くぞ、シエラ。』

「わかったよ・・・」

頭が痛むが、先日食べたレーションの残りである眠気覚ましのガムを口に放り込んでシエラは部隊に合流する。さすがにホークス隊の本拠地を攻略するのにシュトゥルムピングィン、バーゲストなどの部隊だけでは足りずSASとOCU軍特殊部隊、ブラウネーベルも再び合流している。さらに国連軍の大型機動兵器や部隊も混ざり、拠点を攻略する準備は万端、といったところだ。

隊列を組み、国連軍部隊はキャリアーから降りて行軍する。砂塵は酷いが前日に施した対砂塵用の装備により大型機動兵器、ヴァンツァーともに問題なく行軍できた。

『あのでかい塔がホークス隊の本部か?ったく、一昔前のファンタジーじゃないんだぞ?』

ホークス隊の基地まで残り10kmを切ったとき巨大な塔を見上げながらフィリップがぼやく。砂嵐の中でもくっきりと見える巨大なシルエットをみてばかげているとも思ってしまう。巨大な建造物は迎撃設備や砲台を備えない限り単なる的でしかない。

しかし近づくにつれて、それは塔ではないことに国連軍の兵員すべてが気づいてしまう。窓も装飾も一切無い、真っ黒なシルエットは近づくにつれて煙突か、何かの砲身にも見えてきた。

『こちらルスラーン、バチツキー大統領から連絡があるそうだ。直接回線をつなぐ。』

ルスラーンが報告をすると同時に、ディスプレイにはバチツキー大統領の顔が映し出される。彼は深刻な状況をまくし立てるように説明する。

『諸君、緊急事態だ。今目の前にしている塔はザーフトラ軍が遺棄した戦略級兵器だ!しかも稼動状態にある!』

『何だって!?』

『160cm戦略級砲台、通称ヴルカーノだ。核砲弾や超高威力榴弾の発射が可能な戦略級兵器として配備する予定だったが完成度50%で遺棄され地下施設ごとザーフトラ軍が封印した。だがホークス隊が稼動状態にさせたんだ!』

兵員全員にどよめきが走ったとたんに無線が強制的にオーバーライドされ、ホークス隊司令官であるアフダルの顔が映し出される。

『国連軍の全部隊に告げる。我々はカスピ海のテロ行為については何もしていない。直ちに撤収せよ、さもなくば巨大な榴弾をバクーに見舞うことになる。』

『アフダル、貴様っ!!』

ゲオルギー元帥が机をたたきながら、怒りを顔全体にみなぎらせて怒鳴りつける。

『口封じのためにホークス隊を皆殺しにしようとしたようだがそうは行かんぞ、グリムニルとその一味達よ。そして哀れな国連軍に告ぐ。先遣隊を潰しロドリゴも葬って満足しただろう?早く撤収しなければ貴様らの司令部に榴弾をたたき込むぞ?』

口封じという言葉にカダールは引っかかったが、無線回線を入れるとアフダルに怒鳴りつける。

『潔白なら何故武器を持って交渉する!武装解除すれば処置は寛大にする、降伏しろ!』

『カダールか。メルケルとロドリゴを葬った礼をたっぷりとしなくてはなるまい。ホークス隊各機、すべての国連軍を始末しろ。』

『了解!』

ホークス隊基地の眼前にまで国連軍が接近すると、いきなり砂を掻き分けてサンドヴェイパー(※1)が背後から出現する。唐突の強襲にフィリップは驚いてしまう。

『嘘だろ、どうして後ろにヴァンツァーが!?』

同時にホークス隊のヴァンツァーが正面から接近、装甲車部隊も攻撃を開始する。

『国連軍諸君、猶予は1時間だ。それまでに決断を下すのだな。後貴様らの行動はUAVの一部をハッキングして見ている。幹部が1人でも逃げたら発砲するので、そのつもりで居ることだ。』

それだけ言うとアフダルは通信をきる。カダールがまだ何か言おうとした途端、SAS所属のシケイダが悲鳴のような声で救援要請を送る。

『こちら第2分隊、サンドヴェイパーに襲われて身動きが取れない!支援を!』

『いいか、後方の部隊をさっさと始末しろ!レジーナとナミクは手当たり次第にホークス隊本隊を迎撃、シエラとハーネル、リヴィエは奇襲部隊の排除に当たれ!後第2分隊は大型機動兵器を前衛部隊排除に回し、他のヴァンツァーで奇襲部隊を排除しろ、いいな!?』

声を荒げてカダールが指示を出す。すると「了解」と威勢のいい返事を響かせながらティルデン級大型機動兵器は護衛用の機銃で応戦しながら13cm砲で応戦し、護衛のハスキーS型がグレイブを発砲してサンドヴェイパーと応戦する。

『・・・相当な数だ。』

「怖気つく前にさっさとやっちゃおう!やられてる!」

ハーネルがシエラの言葉を聴いてSAS第2分隊を見るとサンドヴェイパーの集中砲火を受けてハスキーSが爆発を起こしているのが見える。もう1機も無数の銃弾を受けて無力化されている。

その側面からシエラが突貫し、20mm機銃とアールアッソーCを発砲する。対応が遅れたサンドヴェイパーは外部装甲を40mm銃弾によって貫通され炎上する。

『シエラ、左から来るぞ!』

カダールの無線を聞き、すぐにシエラはバックステップを行う。目の前を徹甲弾が通り過ぎるが、肝を冷やす間もなくシエラはアールアッソーCで応戦する。

ライフルを発砲した101式試製強盾に40mm銃弾が直撃、ひるんだ隙を見逃さずハーネルがアゴーニで一撃を加える。真上からアゴーニを食らった試製強盾は頭部から操縦席まで潰され、地面に伏す。

「さんきゅ、隊長!ハーネルもね!」

『視界が利かない、不意打ちや長距離射撃に気を付けろ。』

ハーネルがシエラに注意しながらレーダーをのぞく。ホークス隊に国連軍は押し捲られ、すでにSAS第1小隊が壊滅状態に陥いり兵員が退却している。

第2小隊は必死に大型機動兵器と護衛部隊が応戦している。カダール達もこの乱戦に突貫し、側面からサンドヴェイパーを攻撃する。

『助けに来たぞ!』

『ペンギン達か!?感謝する、数が多すぎて対応しきれない!』

ウォーラスやゼリアに囲まれ、SAS第2小隊は集中砲火を受けている。その隙を狙い、真っ先にリヴィエがゼリアにクラヴィエを発砲する。

背後からバックパックに銃撃を受けて、ゼリアは振り向くがシエラも射撃を開始、大量の銃弾を受けてゼリアは爆発を起こす。

ホークス隊のウォーラスが振り向き、レオソシアルを発砲するがリヴィエがシールドで銃弾を防ぐ。その隙にカダールはミサイルを発射。4発のミサイルがウォーラスの胴体に直撃し炎上する。

『敵機・・・どうだ、撃破したか?ルスラーン、どうなんだ?』

『良くわからん。砂嵐でUAVの観測は不可能だ!』

冗談だろ、とカダールがため息をつく。だが敵はうまく連携をとり国連軍を挟み撃ちにしている。無線からは絶え間なく救援要請と悲鳴が聞こえてくるが勿論空軍の救援は不可能で、支援に回れるほどの余力はない。

たちまちカダールとリヴィエ、ハーネルもウォーラスやゼリアに包囲されてしまう。ホークス隊はナミクやレジーナなどを無視して国連軍の本隊に集結し集中砲火を浴びせている。国連軍の被害はかなり出ているようだ。

『ナミクとレジーナは国連軍を支援しろ!俺は突撃する!』

『了解、直ちに向かいます!』

砂嵐が次第に収まってくると視界がクリアになり、ようやく目視照準が可能になる。しかしカダールとシエラはUAV画像をみて愕然としてしまう。

国連軍のヴァンツァーが半数も撃破され、残りも必死に応戦しているが次々に撃破されていく。ホークス隊の戦力も減ってはいるが、挟み撃ちの状況は変わっていない。

「隊長、ちょっとやばい!ホークス隊がでかいの送ってきたし!」

『大型機動兵器か?データリンクに映せ!』

「了解!」

シエラが画像を転送し、カダールは何があったのかを確認する。ホークス隊が大型機動兵器を繰り出し集中砲火を浴びせていたようだ。必死にシエラも40mm機銃で応戦しているが時間稼ぎ程度にしかなっていない。

『ふざけやがって・・・!ノチェブランカ(※2)だと!?』

『パニックはよそでやりな、ナミク!どんな相手でも倒せば鉄くずさ!』

レジーナがナミクを怒鳴りつけながらダブルコメットで狙撃する。ノチェブランカは25cm砲を発砲して国連軍に支援射撃を加えるがレジーナの射撃を感知すると1台がレジーナに砲口を向ける。

轟音とともに25cm砲を発射するが、そのまま回避するとダブルコメットを発砲。ノチェブランカの正面装甲に98mm弾が直撃したが、たいしたダメージを受けていない。

『レジーナ、協力するぞ!』

ナミクもノチェブランカをロックオンする。ミサイルはトップアタックモードを指定し8発すべてをそのモードで発射する。ミサイルは薄いはずの上面装甲に直撃するがノチェブランカは平然と25cm砲から徹甲榴弾を発射

すぐにナミクが着弾点から退避すると同時に25cm砲弾が炸裂。爆風を受けてガナドールは損傷を受けるが、あわてずにナミクはスフィンクスを発砲する。

10cm砲弾がノチェブランカの側面部に直撃し、穴の開いた側面装甲からノチェブランカは煙を拭き上げる。

『ナミク、やるじゃないか!後で英雄と呼んでやるよ。』

喜びを隠せずにレジーナがノチェブランカを狙撃する。側面の爆裂孔から砲弾が内部に直撃、ノチェブランカは中央から爆発し、真っ二つにへし折れてしまう。

『すまないな、レジーナ。』

『まぁ言うだけならただだからねぇ。』

いたずらっぽく笑みを浮かべながらレジーナはライフルを発射する。ノチェブランカを片付けている間にシエラはウォーラスやサンドヴェイパーを1機ずつ掃討して行く。

『支援は来ないのか!?』

「こっちも数が足りないよ!何とかしてってば・・・!」

シエラはウォーラスに銃撃を浴びせながらECフランス軍兵士へと必死に答える。その途端に背後から銃撃を受け右の20mm機銃が破損してしまう。

カバーにハーネルが入り、近距離でジリーノを発射しウォーラスを撃破する。

『シエラ、大丈夫か?』

「カバーお願い・・・!」

リヴィエはカダールとともにノチェブランカと戦っているため、修理に向かう事は出来ない。ハーネルがシエラの背後をカバーしながらジリーノを発砲しゼリアと交戦する。そんな中、シエラは珍しく弱音を吐きながらルスラーンに交信を求める。

「ルスラーン、今どんな状況!?増援とかないの!?」

『国連軍が援軍を送っているが到着は10分後だ。それよりアフダルは30分後にあの砲台を発射すると通告している!発射されたらバクー周辺は廃墟と化すぞ!』

10分間持ちこたえられるかどうか、シエラは不安げに思いながらもアールアッソーCの照準を101式試製強盾へと向け発砲する。ゲパルトアハトを狙っていた試製強盾は40mm砲弾の直撃を受けて爆発する。

ルスラーンの必死さからシエラは本気でアフダルがアゼルバイジャンを壊滅させようとしている事を直感した。しかしどうしてアゼルバイジャンにこだわるのかがまだ解らない。

『考え事をするな。背後を預かっているのはいいが背後から撃たれるハメになるのは願い下げだ。』

「ごめんごめん!」

ハーネルがアゴーニでゼリアを殴り飛ばしながらシエラに注意する。シエラもあやまりながらアールアッソーCを発砲。サンドヴェイパーに40mm銃弾が炸裂する。

レオスタンDでサンドヴェイパーも応戦しようとするがその前にシエラが接近し20mm機銃を発射。胴体に何十発もの銃弾を受けてサンドヴェイパーが沈黙する。

『そろそろ止めを刺すとしよう。本隊、進撃せよ。』

『ホークス隊の本隊が進撃を開始!連中、俺達を殲滅するつもりだ!』

フィリップの通信を聞いてシエラもレーダーを確認するとノチェブランカとウォーラスやワイルドゴートに囲まれた重装備の本隊が国連軍に接近してくる。司令官であるアフダルは鋼陽(※3)型大型機動兵器に乗り込んで居るようだ。

サンドヴェイパーを何とか撃退したが国連軍の被害が甚大であり、ウォーラスやゼリアも接近してくる。まさにとどめの一撃を加えるために進撃しているようだ。

45%の戦力を喪失しながらも国連軍はホークス隊本隊と交戦を開始する。ノチェブランカとティルデンが砲撃戦を繰り広げている隙を狙い鋼陽へとシュトゥルムピングィンが突撃する。

『突撃しろ、指揮官を倒して敵の降伏を誘う!』

『了解だ、俺達が援護する!行くぞお前ら!フランス軍の意地を見せろ!』

フィリップの部隊がシュトゥルムピングィンに続き、ウォーラスやゼリアと交戦する。その隙を縫ってシュトゥルムピングィンは鋼陽へと突撃、レジーナが鋼陽のタレットめがけ狙撃する。

98mm徹甲弾が25mm機銃タレットに直撃、爆発を起こし左前方部の射界に隙間ができる。その隙を狙いシエラとハーネルが鋼陽へと接近する。

『シュトゥルムピングィンか。私を口封じしようとするのだろう?だがそういうわけにもいかんな。』

「何言ってるのさ?倒すってことは同じだけどね・・・!」

疑問符を抱きながらも、シエラは20mm機銃とアールアッソーCを発射する。アフダルも応戦し、後部57mmショットガン連装砲塔で応戦するが、あっさりとシエラは回避する。

『すると、哀れだな貴様らも・・・奴のいいように使われているだけか。英雄には程遠いな。』

『何だと!?』

哀れむようなアフダルの口調に神経を逆撫でされたのか、ナミクは怒りを抑えきれずスフィンクスを連続で発砲する。次々に徹甲榴弾が鋼陽へと直撃するが、損傷は軽微であり鋼陽は依然として顕在だ。

『ただ道具のように扱われるのは兵士でしかない。兵士は世界に掃いて捨てるほどいるからな。』

車体を旋回させ、鋼陽は15cm砲をガナドールめがけ発砲する。すぐにナミクは回避しつつ、フェザントを発射する。ミサイルは榴弾砲に直撃するがそれほどの損傷はない。

『貴様!』

『ナミク、落ち着きな!目隠しして撃ったほうがまだマシだよ!』

98mm徹甲弾がガナドールのすぐ脇をかすめ、57mm連装ショットガンに直撃するがたいしたダメージも無く、ショットガン砲台はシエラやハーネルに猛烈な攻撃を仕掛ける。

散弾が直撃しジラーニの頭部が吹き飛ばされてしまい、シエラが悲鳴のような声でハーネルに通信を入れる。

「ハーネル、大丈夫!?」

『戦闘継続に問題はない。距離をとるぞ。』

ヴァンツァーの頭部が吹き飛ばされてもハーネルは冷静に対応し、後退しつつジリーノを発砲する。しかし近接防御をがっちりと固めた機体では効果も薄く、25mm機銃からの集中砲火も受けている。

『シエラとハーネルは一旦下がれ!俺達が何とかする!』

「了解!」

銃撃を行いながらシエラは後退、ハーネルの撤退を援護する。その間にナミクは深呼吸をして気分を落ち着かせると、照準を会わせトリガーを浅く引く。

下手に撃てばバズーカの残弾に響くし、反動で狙いをつけるのに時間がかかる。ナミクはいったん落ち着いて鋼陽の動きに集中する。砲塔の動きは素早いが本体はそうはやくなく、狙いを定めるのは容易だった。

『アフダル、覚悟してもらおう!』

ナミクがスフィンクスを発砲、砲弾は57mm砲塔の基部に直撃し砲塔の動きが停止する。有効な近接防御手段を失った鋼陽にシエラとハーネルは再び突撃。リヴィエもシールドを構えながらクラヴィエを発砲しつつ接近する。

『いいぞナミク!あの砲台さえつぶせば無力化したも同然だ!』

接近してゆく友軍を見てカダールはナミクを賞賛し、ホーネットを発砲する。大口径の砲弾がキャタピラへと直撃し爆発を起こす。続いてナミクもスフィンクスを発砲し火力をキャタピラへと集中させる。

猛攻を受けて前部右のキャタピラは破壊。動きが鈍った隙にシエラとハーネル、リヴィエが突撃しハーネルが25mmの機銃タレットをアゴーニで殴りつけて破壊する。

『後少しだ!』

ハーネルが声を荒げてジリーノを至近距離で鋼陽めがけ発砲する。右後部のキャタピラに散弾が直撃しリヴィエやシエラも猛攻をかける。

大量の銃弾を受けてキャタピラが破壊され、鋼陽は行動不能に陥ってしまう。最後にシエラが鋼陽に飛び乗ると通信機器の入ったレドームめがけ至近距離で銃弾を浴びせ、木っ端微塵にする。

「終わったよ、アフダル。部下と自分の命が惜しかったら降伏しな?」

鋼陽のカメラに見せ付けるようにシエラが20mm機銃を突きつける。参ったなとアフダルは声を出すと通信回線を開く。

『さすがは国連軍、いやシュトゥルムピングィンか。我々がかなわなかったのもうなずけるな。』

『アフダル、賢明なお前ならどうすべきかわかるだろう?国連軍の後詰も到着した、もう終わりだ。』

指揮官機を撃破されホークス隊は次々に降伏する。ヴルカーノにも国連軍のヴァンツァー部隊が向かい梱包爆薬(※4)を仕掛けに向かう。シュトゥルムピングィンは鋼陽を包囲し銃を突きつける。

『そうらしいな、ペンギン・・・お前らをスカウトできていれば良かったものを。』

「あいにくだけど私たち、お金じゃ動かないよ?アゼルバイジャンのために動いてるんだから。」

そうだったな、とアフダルは苦笑し周囲を見渡す。ホークス隊の投降した姿にも動じず、不適に笑みを浮かべている。

『さて・・・国連軍よ、保護してもらおうか。私は降伏する。』

『・・・貴様!』

悠然とした口調にいらだったのか、いきなりナミクが鋼陽めがけバズーカを発砲する。至近距離で砲弾が炸裂し操縦席が一撃で大破してしまう。

まだ発砲しようとするナミクをカダールが静止し、ナミクを怒鳴りつける。

『何故発砲した、ナミク!降伏した相手めがけ発砲する軍人がいるのか!?』

『隊長は憎くないんですか!?奴はアゼルバイジャンの国民を人質にとってなんとも思わなかったんですよ!』

『国連軍としての立場を忘れたのか貴様は!』

激しくナミクも言い返し、そのまま言い争いにまで発展してしまう。すぐにルスラーンが通信回線をカットしようとしたが、その前にフィリップがカダールをなだめるために通信に割り込む。

『まぁ待てよカダール。しゃーないだろ?』

『だが奴を生かしておけば何か聞けたかも知れないだろう・・・それに降伏した相手を撃つなどどうかしてる!』

『そりゃあそうだけどな、誰だっていらだってるに決まってるだろ?巨大な砲台を自国に向けられたんだ。カダール、あんたほど強くない奴がほとんどなんだよ。』

フィリップの言葉が響いたのか、カダールは黙りこくってしまう。シエラは険悪な空気を察したのか、空気を替えようと明るく振舞う。

「とりあえず、勝ったんだから喜ぼうよ、ね?ホークス隊吹っ飛ばしたんだから!」

『まぁ、ね。怒鳴るのは後でもできるから基地でやりませんか?隊長。』

レジーナにも言われ、カダールは短く「了解」と言って通信を切る。数分後には「ヴルカーノ」は梱包爆薬を設置され大爆発を起こしながら砂に埋もれてゆく。

国連軍の兵員が歓声を上げ、時にはヴァンツァーで「万歳」やウェーブまで行っている中シュトゥルムピングィンは重い空気を漂わせたっま、トレーラーへと乗り込む。ルスラーンは作戦終了の通達を全員に出す。

『こちらルスラーン、作戦を完了。帰還せよ。』

 

スムガイト クローズドミリタリーエリア 1951時

「・・・」

難しい顔をしながら1人カダールは宿舎の自室で悩んでいる。ナミクをきつくしかりつけすぎたのか、あるいは祖国に対して自分が何も責任を果たせて居ないのかと自責の念に駆られている。LED電球で照らされた室内は明るいが、彼の心とは正反対と言えた。

そんな空気が立ち込める部屋に、無遠慮にシエラが入ってくる。両手に金属製のカップを持っており、テーブルの上にそれをおく。

「隊長、レモネードもって来たよ?」

「悪いな。」

テーブルに置かれたレモネードをカダールが一口飲む。微妙に甘ったるいところを見るとレーションのあまりものを回収して淹れたことはすぐにわかった。だが香りが上品なため、カダールは愛飲している。

「それでさ、何を悩んでたの?」

「あぁ、ナミクを見て思うところがあった。」

レモネードを飲んで少し落ち着いたのか、カダールは素直にシエラへと悩みを打ち明ける。単純にシエラはあのことだとおもってうなずく。

「ナミクはあれくらい言わないとダメだって。いくらなんでも独走しちゃあ・・・」

「それは少し悩みの種だがもう1つある。俺は愛国心とかそういうものが薄いのか?」

意外な質問にシエラはカダールの瞳をじっと見る。本当に悩んでいると見せるとシエラは明るい様子で笑い飛ばしてしまう。

「お前、大事な話してるのに笑うか?」

「ごめんごめん、でもそんなことどうだって良いじゃない。どんなことのために戦っても、何を守るとか何がにくいとかじゃなくって、誰が敵で誰が味方かはっきりしてればいいの。」

カダールはそうか、と軽くうなずき一息つく。単純だが要点をついている彼女の答えに少し安心したようだ。

「誰が敵で誰が味方、か。」

「そうそう。とやかく言う奴なんて気にしないで隊長は隊長でいればいいの。私達は今の隊長だからがんばれるんだから、ね?」

了解、とカダールはうなずく。少しだけ元気が出たのか落ち着いた表情でレモネードを飲み干す。少々甘ったるいがレモンの風味が口の中に広がった。

 

「・・・」

ため息をついてナミクは基地の外を眺める。休憩室の大きな窓からは輸送機用の滑走路と夜空がはっきりと見えるがどこかさびしげだ。ハーネルがそんな様子を見ると、隣に座る。

「・・・今日の事か。許容はできんが・・・仕方ないとは思う。」

「あんたに何がわかるんだよ、ハーネル・・・」

顔を背けて、いじけているナミクを見てハーネルはぽん、と肩に手を置く。

「突き放すのは勝手だ。だが・・・抱え込むことになるぞ。」

「抱え込む?」

「・・・あぁ、毎晩のように悪夢にうなされ何にもぶつけられないまま苛ついた状態が続く・・・言いたいことがあれば、今のうちに言っておけ。」

しばらくナミクは黙ってしまうが、その後堰を切ったように大声で怒鳴り始める。

「・・・何でハーネルも隊長も平然としてられたんだよ・・・!アフダルにアゼルバイジャンを吹っ飛ばされかけたのに、どうして・・・」

「俺たちは軍人だ・・・降伏した奴を撃つことはできない。お前もそれはわかっているだろう・・・耐えることも必要だ。状況を考えれば撃つべきでは無かったのはわかるだろう・・・」

説得するような口調でハーネルが語りかけ、ナミクも黙って聞く。

「・・・私情を押さえ込むのは難しいだろう。だが状況を考えて行動しろ。隊長はいつもそうしている。」

「・・・わかった、ハーネル・・・」

沈んだ様子でナミクが答える。どこか納得いかないが無理に自分を納得させようとしている様子だ。ハーネルはもういいだろうと思い立ち上がるとその場を後にして、後の判断をナミクへと任せる。

「・・・何か話してたのかい?ハーネル。」

「あぁ、少しな。」

葉巻を売店で購入してきたレジーナが、通りかかったハーネルに声をかける。少し気にかかったようだ。

「しっかし元帥もよくやるよね。あたし達のために奔走してくれるなんて。」

「あぁ・・・」

国連軍が解散するのはホークス隊の構成員を処理した後だが、シュトゥルムピングィンはゲオルギー元帥のとりなしによって一切の処罰を回避できたのだ。

レジーナは素直に感謝しているようだがハーネルはどうも腑に落ちないらしい。上層部がわざわざ自分たちのために何かをするのは裏があるのが常だからだ。その様子を見てレジーナは声をかける。

「納得いかなそうだね?ハーネル。」

「・・・なんでもない、気にするな。」

短く答えるとハーネルはそのまま部屋へ足早に立ち去ってゆく。レジーナはハーネルがいないのを確認してから葉巻に火をつけて吸いながら自室へと戻る。もちろんどこかしこで喫煙していいはずがないが、レジーナは誰にも見つからなければいいだろうと考えているようだ。

 

『・・・デバイスの情報は?』

「ダメです。頼みのアフダルは粛清されました。こちら側にも「連中」の仲間がいます。」

『わかった。国連軍に手を回して尋問は我々の手で行う。これ以上「連中」に粛清されるのもかなわんからな。リヴィエ、他の捕虜は情報を聞き出すまでなんとしても生かしておけ。』

「了解です・・・司令。」

通信を終えると、リヴィエはパソコンを閉じて部屋の電気を消す・・・

 

続く

 

 

(※1)
あまり設定も無いので追記

ガストを改造した砂漠戦闘モデル。ガストの各部分を耐熱装甲で囲み、さらに稼動部も覆うことにより砂塵の進入を阻止している。それに伴いフレームとエンジンを強化している。このため肩に強力な重火器をターボバックパックなしで搭載することが可能となっている。
増加装甲のおかげで防御性能も増しており、バイザーは半透明の特殊な素材で覆うことにより地中潜行時にも対応できる。
ターボバックパックをかねた地中行動用のバックパックを搭載することにより砂地に限るが潜行したり、飛び出しての強襲も可能。しかし20mm機銃はサイズと重量の兼ね合いのためにオリジナルより銃身を切り詰めている。このため単体での火力はそれほど優れた物とは言えず、装甲を追加した分機動力も劣化している。ただし装甲は増加しているのでゼニス並みの耐久力を持つ。

(※2)
マドレ製大型機動兵器。以下説明。

無限軌道の上に25cm単装砲を搭載した、駆逐戦車型の大型機動兵器。4つの無限軌道によって走行し、25cm砲以外にも30mm機銃のタレットが2基前後に搭載されている。ザーフトラ長城要塞に端を発した超大型要塞の建造を受けて、ECやCAUが「要塞攻略用の大型自走砲台が必要」と言う事で建造された。他にもこのプランはセンダーやシュネッケ、トローなどにも注文されている。
マドレ社が開発したタイプはかなりの大型だが、既存の自走砲以上の火力とある程度の自衛性能を兼ね備えた優秀な火力支援型大型機動兵器として完成した。しかし構造や性質上踏破性能に関してはそれほどいいわけでもない。山岳地帯の多い第二次ハフマン紛争では使い物にならず代わりに大型列車砲が準備された。
CAU軍は旧式化した自走砲の代替として発注している。

(※3)
霧島重工製大型機動兵器。以下説明。

グランド・ガンボート構想に基づいて製作された大型機動兵器。対ヴァンツァー性能と司令部機能の集約に特化した機体であり大火力の運用という点はあまり考慮されては居ない。
鋼練と同様のシャーシに25mm機銃タレットを4隅に配置。中央部固定砲台に15cm榴弾砲を搭載。後部に57mmショットガン連装砲塔を取り付けており各距離の戦闘に対応できる。他はこれといった特徴も無く、強力なECCM機能などを備えている程度。これまでにないコンセプトの大型機動兵器にOCU軍も困惑し初期段階の選定で候補から除外された。日防軍や他のOCU各国にも数機を売り込む事には成功し、カンボジア・ラオス騒乱では指揮車両として以外にも市街地戦闘にも有用なことが判明した。CAU軍なども何機かを購入し、指揮車両として運用している。ただし大型起動兵器としては少々火力に欠ける存在だが、弾薬を非常に多く搭載しており他の機体への供給が可能である。また通信機器の他に砲撃、空爆用の座標確定装置も組み込まれているため航空支援や砲撃支援、またはそれらの観測機ともなりえる。将来的には予備弾薬庫を廃してCWDSの搭載を行う予定。

(※4)
もちろんヴァンツァー用の梱包爆薬。FM5で出てきたコンテナをそのままイメージすればわかりやすい。赤コンテナの10倍の破壊力を持ちトラップに使ったり航空支援や巡航ミサイルの使えない地域にある施設や砲台の破壊に使用される。巡航ミサイルの直撃に耐えうる施設でもこの爆薬には耐えることができないとされる。ただし狙撃などされたら当然吹き飛んでしまうので戦闘中の運用は難しい。弾薬補給バックパック(アイテムバックパック)のセットに入っている場合もあり、こちらはアサルトの機動力を生かし大型機動兵器や砲台に接着すれば多大な効果を発揮できる。サッチェルチャージやサッチェルと呼ぶこともある。劣勢になると梱包爆薬をもったヴァンツァーが敵機に突撃することもある。

 

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