Front misson Brockade

Misson-19 Fall of HAWKS

 

10/14 1100時 カスピ海海上リグ

「・・・中将、ご無事で何よりです。」

ヴァンツァー格納庫でカダール達はディートリッヒ中将と再会する。先ほど国連軍の衛生兵から健康チェックを受けたが問題も無く、リグにとどまり戦局を見守ることにしたようだ。

「何、もっと苦しいときがあった。第1次ハフマン紛争の時は食糧供給も絶たれたまま戦わなくてはならなかったからな、食事があるだけマシだったよ。」

だいぶディートリッヒ中将はやせていたが、それでも元気に語りかけてきたためシュトゥルムピングィンのメンバーは安心した様子だ。

「・・・しかし、ホークス隊を殲滅するとはゲオルギーも大きく出たな。」

「テロリストだもんね・・・許せないんですよ、きっと。民間人への被害が出なかっただけまだいいですけど・・・」

明るいながらも、敬語に慣れていないためたどたどしくシエラが答える。ホークス隊は作業員などを倉庫に押し込め20日程度食料を与えて監禁したくらいで奇跡的に死者は出なかったようだ。

それでもテロ行為をしたという事実は変わらず、ゲオルギー元帥が国連軍に討伐を進言したらしい。これにザーフトラとCAUが乗る形で国連軍はホークス隊討伐を決定した。

「・・・ザーフトラが乗るとは予想外だな。自国の傭兵だろうに。」

ハーネルが今ひとつ納得できない様子で首を振るが、ナミクは状況を分析して冷静に答える。

「去年のサカタインダストリィ事件がらみだな。テロリストを討伐する姿勢を見せないと「またザーフトラはテロリストの肩を持つのか」といわれかねない。」

去年の紛争時、アゼルバイジャンの政府庁舎から発見された内部文書やデータからザーフトラがサカタインダストリィ事件に参加していた決定的な証拠が発見されメルディフスキー大統領は辞任を余儀なくされた。

他にもOCUやUSNの幹部数名が左遷や辞任、あるいは自殺するという事態に発展したためザーフトラとしては国際的な信用を取り戻すのに躍起になっているようだ。

「・・・なるほどな。だからこそ容赦も無いわけか。」

納得した様子でハーネルはうなずく。ザーフトラの行動がいちいち気になるようだ。

「各自、次の出撃まで待機してくれ。私はここで貴官らの無事を祈る。」

「了解です、中将。」

敬礼を全員が返すと、ディートリッヒ中将はそのままリグの制御室へと向かう。海上リグの制御室を臨時司令部として現在使っているため、そこにいればUAVなどの情報も入ってくる。

シュトゥルムピングィンの隊員はディートリッヒ中将を見送った後、それぞれ解散し出撃命令が下るまでリグで休息を取ることになった。

 

「ふふ、いっぱいもらったー。これはいいなぁ。」

「どうしたのさ、シエラ。」

大量の袋を抱えて喜んでいるシエラをみて、レジーナが話しかける。

「国連軍と聞いてね、レーションとかもらえるかなと相談したら売ってくれたの。これがOCUでしょ、これは日防軍でこっちはまずいと評判のUSNでさ・・・」

「あちこちのレーションねぇ。まったく、あんたが味オンチなのかあたしの味覚が麻痺したのかどっちかね・・・」

はぁ、とあきれた表情でレジーナはレーションの入った袋を見つめる。レジーナは軍の食料がそれほどおいしくないと思っているらしく普段からトニーズとかに出歩いて昼食や夕飯を食べているようだ。

毎日のようにレーションで過ごしているのはハーネルとシエラくらいだ。他は3食すべてというわけでもなく売店や食堂で食べていることも多い。

「ECイタリアのはかなりおいしいんだよ?フランスもいいし、EC軍正式採用のドイツは普通だけどソーセージがおいしくてさ、1食分どう?」

「いや、遠慮しとくよ。これから散々食わされそうだからね。」

そういってレジーナが後ろを見ると、ヘリで大量の戦闘糧食の箱が輸送ヘリから送られてくる。リグの食料はほとんど持ち去られており、リグの食料は国連軍のヘリで輸送することになっているようだ。

「国連軍が使ってるのはドイツ軍だね。USN製はマズイしOCU製は人を選ぶって話だから・・・ドイツはお肉好きならお勧めだよ?」

「しかし前から食ってたみたいな口ぶりだね?その様子だと。」

「PMOの事前訓練の際に食べさせてもらったことがあったんだ。ブログに試食レポート載せたこともあったし。」

なるほどねぇ、とレジーナは納得する。するとシエラがレジーナの過去が気になったのかたずねる。

「そういえばレジーナはそのとき何やってたの?2090年当たりだけど。」

「あぁ、あたしね・・・トニーズで働いてたのさ。仕事にはしっくり来なかったけどね。」

しっくりこない表情でシエラは話を聞いている。今のレジーナが接客している姿など考えられないようだ。

「ぜんぜんイメージできないなぁ。」

「そーだろ?だから故郷にいったん帰ったところで蜂起するって話が持ち上がって。そんでヴァンツァーの操縦資格があったから乗ったのさ。その手の仕事につけるかと思ったけど、どこも採用してくれなくてね。」

シエラはそっちなら納得できるとうなずいてみせる。もっともレジーナにはミリタリーライセンスは無く後で軍が取り直したようなのだが。

「ヴァンツァーの仕事も結構人手がきついからね・・・あの当時ならなおさら。」

2094年あたりの経済状況を思い返し、シエラはため息をつく。相当な失業率や食糧不足によって不満が高まったからこそ革命が成功したともいえる。

今はだいぶ改善され、原油や最新型のヴァンツァーなども積極的に外国へと売り込みアゼルバイジャンの順調に経済は持ち直している。内戦を極力回避したアイゼル首相の戦略が成功したといえる。

「そうだったねぇ。しかしあのトレーラーで突貫した首相がうまくやるなんて今でも信じられないね。」

「まったく。あの時は本当、参ったよ・・・」

アゼルバイジャンの2ヶ月に渡る戦闘はすでにドキュメンタリーとして映画化までされている。その中でもアイゼル首相がトレーラーでヴァンツァーに突貫したエピソードは非常に有名なものになっている。

シエラは目の前で見ていただけに、感慨深げに声を漏らす。

 

「・・・」

「何をしているんですか、ハーネルさん。」

珍しくパソコンを操作しているハーネルを見て、リヴィエが疑問符を抱く。普段ならまったくそんなことはしないはずだが、ジュリアスのノートパソコンで何かを調べているようだ。

「どの勢力の機体か調べている・・・敵機はすべて無人機だ。」

びっくりした様子でリヴィエが画面を覗くと、戦闘中の画像が映し出される。第2小隊のメンバーが敵機を海に突き落としているシーンが映し出される。

ホークス隊の敵機が突き落とされたが、リヴィエはある場所に着目してようやくわかったようだ。

「・・・へりにつかまろうとしていませんね。どの機体も。」

「ああ。普通なら何とかして無事に助かろうと操作くらいはする。だがどの機体もそのまま落下しているし脱出した形跡も一切無い。さらに爆発の規模がやけに派手だったから国連軍の残骸も見せてもらったが・・・」

そのとき撮った画像をハーネルはリヴィエに見せる。爆発の度合いが非常に大きく、普通の銃撃を受けただけなのに大爆発している。

「無事だった間接部分から爆薬が見つかった。姿勢制御装置はよくあるヴァンツァーのものだったが・・・」

「つまり、間接毎に爆薬を仕込んだヴァンツァーを・・・確かにそんなものに人は乗り込もうと思いません。人材が貴重なPMCならなおさら、ですね・・・」

リヴィエは納得して、ようやく状況を飲み込めたようだ。

「ホークス隊には無人機の設備は無い、ですから誰かが・・・」

「その名前をかたった可能性もあるということだ。ヴァンツァーなどどこでも手に入る。」

「特殊な設備もありませんね。無線誘導システムの類も無い・・・まさか、あの時レイブンに乗せられていたデバイスが?」

ああ、とハーネルはうなずく。リヴィエはよくありませんねと思わずつぶやいてしまう。無線誘導ヴァンツァーと言うのは専用のバックパックを搭載するかあらかじめ誘導システムを内蔵したヴァンツァーが必要だ。

その点、無人兵器デバイスのアドバンテージは大きい。必要な設備は操縦席ブロックの内部だけに抑えられるためバックパックを使う必要も無く戦闘行動を取った際優位になるし普通のヴァンツァーを使用できるのも利点だ。さらに誘導ではなく自立兵器のためジャミングによるソフトキルや司令部を潰して行動不能に陥らせることも不可能だ。

「そうだな。あの時のと同じ兵器と見て間違いない。」

暗い表情でハーネルがうなずく。レイブンからデバイスは回収され、徹底的に分析にかけられたこともメルディフスキー失脚の一端を担っている。ザーフトラから輸入されたヴァンツァーに生体脳を使ったパーツがあると言う事実は、各国のマスコミを騒がせるには十分だったからだ。

ちなみに、自立兵器デバイスはマスコミや市民の間ではAutomatic bioneural Deviceの略称からA型デバイス、A.D.という略称も出てきている。

ほぼ同時期に大手リークサイトにOCU、USNの将官が記名された文書が投稿され、両大国もその事実を認めるしかなくなったがその文書の出所はアゼルバイジャン政府だとも言われている。

「だとしたらとんでもなく厄介ですね。どの勢力が作ったかなんてわかりませんよ?」

「そうだな・・・一切証拠を残すことも無いとは、な。」

2人はまだ証拠が足りない、という結論に達してしまう。A型デバイスに使用されているのは培養脳でありそういったパーツを作るのは多少大きめの医療機関なら可能だからだ。他の機材もどこでも製造できるもので、素人のハーネルたちに調べようは無い。

「とにかく、今後の戦闘で何かわかることも多いでしょう。ハーネルさん、情報をお願いします。」

「わかった・・・期待に沿うかどうかはわからんが。」

黙々とパソコンを打ち続けるハーネルを見て、ふとリヴィエは疑問を口にする。

「パソコンなんて、扱えたんですか?」

「去年、必死に練習した。ジュリアスが残したデバイスのレポートが書きかけだった。だから完成させようと思ってな。」

はぁ、とリヴィエはうなずいてみせる。義理堅いハーネルのことだから、ジュリアスの意志を引き継ごうと思ったのだろう。その姿勢には思わずリヴィエも感心してしまう。

「・・・ハーネルさん、本当に貴方は・・・」

「気にするな。」

言葉短くハーネルは返答すると、さらに情報を集めるため各国のサイトをあさり始める。リヴィエも負けていられないとばかりに手当たり次第にA型デバイス関連の資料を集める。

 

「・・・」

「隊長、ここに?」

リグ外周部の通路にカダールは1人たたずんでいるが、そこにナミクが来て話しかける。快晴だが風が心地よく、すでに秋だと言うことを感じさせてくれる。

「ナミク、そろそろ時間か?」

「残り10分でブリーフィングです、隊長。」

「わかった。」

うなずくがカダールはその場から動こうとしない。その様子にナミクはどうしたのかと思う。

「隊長、何か準備くらいは・・・」

「大丈夫だ、問題ない。」

了解、とナミクはうなずくとカダールはため息をついて足場のふちに座る。危ないと思いながらもナミクはカダールにたずねる。

「・・・何か、物思いにふけっていたようですが。」

「なんでもない。ただここにおいることが不釣合いに思えたまでだ。」

悲しげな表情をしてカダールが物思いにふける。不釣合い、という言葉が気にかかるのかナミクは踏み込んでたずねる。

「不釣合い?隊長はアゼルバイジャン解放の英雄なのに何故・・・」

「PMOの時にシエラを助けられず、ジュリアスも去年の紛争で死なせた。第2小隊のメンバーも数多くの死傷者が出たからな・・・英雄と言われようと、事実に変わりはない。」

そうでしたね、とナミクはうなずく。部隊長として責任を痛感しているらしい。ヴァンツァーでの死傷率はかなり低い(※1)ために、余計に責任を痛感しているのだろう。

するとフィリップも外周通路に出てきて、カダールの隣に座る。

「意外だな。あのペンギンの隊長が過去を引きずってるとは。」

「何を言いたい?」

軽い調子で話すフィリップの様子を見て、カダールが眉をしかめる。

「死んだ奴は死にたくないとは思ってても自分の意思で戦場に向かったんだ。そして戦場に行けば必ず死者が出る。指揮をミスしたわけでもないだろう?」

「・・・ああ。」

「だったら気にするなよ。運が悪かっただけだ・・・戦争は誰かしら死んでいくものだ。どうあがいたって、結果は受け止めるしかない。自分のミスでなければなおさらだ。」

そうかもな、とカダールはうつむきながら返答する。フィリップの言うことは間違いではなく、カダールはいつも最善だと信じる指揮を執っている。だからこそ悩みも深いのだが。

「・・・フィリップ、何故俺を気にかける?」

「さてな。ただあんた達は世界中でも英雄だ。特に俺達に対抗して無理やり連合体を形成したOCU、USN、ザーフトラなどに苦しめられてる連中にな。」

「何・・・?」

カダールは思わず目を点にして話を聞く。フィリップは乗ってきたな、と笑みを浮かべて話を続ける。

「アゼルバイジャンはECの支援があったとはいえ小国に連合体を選ぶ、あるいは独立できるという選択肢を与えるきっかけになったんだよ。今中南米では親米政府へのデモが起こっているし、CAUは国内世論がUSNとの全面戦争を望む方向にまとまっている。OCUでも一部の国家で反乱を起こそうという機運が高まっているしな。」

「それは喜んでいいことか?」

複雑な表情でカダールはフィリップに尋ねるが、もちろんさとフィリップはうなずくと写真を取り出す。中南米でのデモ隊が掲げているのはアルゼンチンに生息するペンギンの旗だ。プラカードには「アゼルバイジャンのペンギンに続け」とスペイン語で書かれている。

「ああ。あんた達が自由の戦士だ、解放を約束してくれるんだ・・・って評判になっている。小国に希望を与えたんだ、俺たちよりは誇らしく振舞っても問題ないと思うけどな。」

「そうか・・・」

そんなに影響が大きかったのか、とカダールは思ってしまう。ただ部下を見捨てたくなく、シエラも戻っていたから吹っ切れて多少でも国がよくなるのならばと思っての行動でまさか勝って、しかも自分達が英雄扱いされるなど思っても見なかったのだ。

「隊長、時間です。そろそろ・・・」

「そうだったな。行くとしよう。フィリップ、何か悪いな。」

ナミクに促され、カダールは立ち上がるとフィリップに礼を言う。

「気にするなよ。まぁ悩みの70%は周囲が見えないことに起因するんだとさ。」

なるほどな、とカダールは納得してうなずきナミクをつれて格納庫へと向かう。海上リグにはブリーフィングルームのような設備が無いため、ヴァンツァー内部でブリーフィングを行うことになっている。

全員が乗り込んだことをカダールが確認すると、ディスプレイに国連軍が本部として使用しているアゼルバイジャン軍総司令部の作戦室が見える。ゲオルギー元帥がプロジェクターを背に作戦を説明し始める。

『作戦を説明する。アラル海にあるホークス隊本拠地を攻撃する作戦だ。道中のSAMサイトを回避するためカザフスタンからは陸路で進撃することとなる。ヘリでカザフスタンのウミルザクまで輸送し、そこからは直線で目指すこととなる。作戦にはバーゲスト、およびフランス軍外人部隊第2落下傘連隊が共同で作戦を行う。』

『事前にSAMサイトは潰せないの?』

一応シエラはたずねてみるが、ザーフトラ軍総司令官を兼任する大統領のキリル・バチツキーが複雑そうな表情をしながら首を振ってみせる。

『SAMサイトは我がザーフトラが製作した最新型だがすでに何者かにハッキングされ制御不能になっている。下手に突破しようとすればミサイルのスチームローラーで跡形も無く消えてしまうだろう。』

『さすがは大火力主義だねぇ・・・』

レジーナが皮肉りつつ苦笑する。ヴァンツァー全盛の時代になりFCSの簡略化などによりだいぶミサイル1発あたりの値段が落ちたのだが、それをスチームローラーというだけの弾幕を張れるだけ配備することに対する皮肉だろう。するとゲオルギー元帥が話をさえぎってブリーフィングを続ける。

『無駄話はそこまでだ。敵戦力はホークス隊の主力ヴァンツァーと近隣の民兵部隊になる。ホークス隊が民兵を雇い入れて戦力を増強させているようだな。ヴァンツァーと基地攻略用のガベル級(※2)2機も混ざっている。民兵はとにかくホークス隊は精鋭ぞろいだ、油断するな。』

『油断するな、と言うのは私達も入るんですか?元帥。』

そんなわけありません、とリヴィエが自信ありげに笑みを浮かべる。ゲオルギー元帥はうなずくと説明を続ける。

『そうだったな。では、作戦の説明を終了する。質問は?』

『アフダルはどうすればいい?元帥。』

ハーネルが質問をぶつける。ホークス隊の首謀者アフダルは捕虜にするべきか、それとも即射殺するべきか確認を取っておく必要があるからだ。

『私としてはすぐにでも銃殺してほしいが、国連軍の意向は今回のテロに関わったメンバーを捕らえろということだ。状況に応じて対応しろ。他に質問は?』

『いや、それならいい。』

捕虜を取る必要なしという事を言わなくてハーネルは一安心した様子だ。質問が無いことを確認したゲオルギー中将は画面めがけ指を指し毅然とした声をだす。

『国連軍の一員として恥じない行動を期待する。シュトゥルムピングィン、出撃せよ!』

「了解、全機出撃せよ!」

外郭通路に設置されたヘリポートに国連軍のスリングヘリが到着しており、シュトゥルムピングィン機はスリングヘリに装着されるとそのまま離陸する。今回の作戦はUSN軍バーゲストとフランス軍第2落下傘連隊が所属する作戦であり、陸路で目指すことになっている。

 

1411時 ザーフトラ領内ウミルザク 市街中心部

「こちらカダール、ブラック1聞こえるか?」

『ああ、しかしお前のような若造があの特殊部隊を率いているとはな。』

スリングヘリでカスピ海を輸送されている間、カダールがバーゲストの隊長であるヘクター・レイノルズに通信を入れる。

「人手不足だからこっちも贅沢は言ってられなくてな。ベテランを選べるほどじゃあない。USNはどうなんだ?」

『興味のある奴が1人いる。後はS型ばかりで特技が度忘れの連中でな。』

はは、とカダールがジョークに笑ってみせる。S型デバイスによる記憶障害はそれなりに深刻なケースが多く時には作戦遂行も不可能になるほどの廃人になった人もいるらしい。

『あんまりかわいそうなこと言ってやるなよ、レイノルズ。あいつらだって命がけだったんだぜ?』

『だがな、時には聞き間違いまでする奴がいるんだぞ?これがまた酷くてな・・・上官に説明したら何て言ったと思う?「S型だからしょうがない」の一点張りだ。あれなら新兵の方がまだ使えるくらいだ。』

フィリップも通信に割って入ってくるが、レイノルズはため息をついて愚痴をこぼしてくる。するとハーネルが気になったのか通信を入れる。

『レイノルズ少佐・・・まさか、スコッチ飲んでいたりしませんか?』

『それがどうかしたか?』

マジかよ、とフィリップがぼやいてしまう。いくらワイン好きでも作戦中に飲むほどの暴挙を犯すつもりは無い。だが目の前でそんなことをやっている奴がいるのだ。

『分解剤飲めよ、レイノルズ!死ぬぞ!』

『別にたいしたことではないと思いますが。スコッチくらい。ザーフトラ軍ではウォッカを飲んで出撃するなど日常茶飯事です、フィリップ少佐。』

目を点にしてフィリップはあきれたように声を漏らす。ハーネルの言葉を聴いてそんな連中がよく世界最強を自負していられるなとぼやいてしまう。

『日防軍でも先発隊は日本酒を飲みますし、普通ですよ?』

『・・・お前らと話していると俺の感覚がおかしくなってきそうだ。』

リヴィエにも事例を述べられ、フィリップはあきれて何を言おうとしたのかを忘れてしまう。するとシエラが笑みを浮かべてレイノルズにたずねる。

『お酒はいいんですけどね、レイノルズさん。戦闘中に転んでも助けないからね?』

『バカ言うな。転んだりするわけ無いだろう。』

『・・・あー、ちょっといいか。』

ルスラーンが咳払いをして、ようやく一同がまともに話を聞く姿勢になる。さすがに国連軍の内情がこんなものでは示しがつかないと思ったのだろう。

『それぞれの上官に聞かせにくい話は後回しにして、報告が入った。今ホークス隊が本拠地として使っている区域にザーフトラ軍が戦略級兵器を放置していたようだ。各自警戒せよ。』

『戦略級兵器だって?詳細は?』

気になるらしく、レジーナが身を乗り出してたずねるがルスラーンは残念そうに首を振る。

『万一使用状態にあった場合に報告しろと言われている。とにかく警戒しろ、としか言えない。』

『了解・・・ったく、何ひた隠しにしてんだか。』

葉巻をくわえながらレジーナが毒づく。レイノルズはレジーナが葉巻を吸っている光景を目の当たりにして、何か感心したようにつぶやく。

『ヴァンツァーで葉巻か・・・ずいぶんと時代は進歩したものだな。』

『それより警報が鳴っている・・・どうしたんだ?』

ナミクが気づいたように声を漏らす。すでにウミルザクの上空付近に差し掛かっているが地上付近に敵機が集結している。ホークス隊ではない砂漠迷彩の敵機だ。

『民兵部隊の戦車だ。しかし何故ここに・・・』

『4番機、ミサイルだ!回避しろ!』

ルスラーンが悲鳴のような声で叫ぶと同時にスリングヘリの4番機にミサイルが直撃、爆発してしまう。搭乗員脱出も確認できずバーゲスト隊の4機がまとめて落下していく。

『移動式SAM(※3)だと!?』

「すぐ高度を落とせ!ヴァンツァーを下ろさないと空中でやられるぞ!」

カダールが指示を出すとすぐにスリングヘリが降下を開始するが再び対空ミサイルが発射され、今度は6番機に直撃してしまう。必死に6番機のパイロットが無線を入れる。

『メイデイメイデイメイデイ!攻撃を受けた、脱出する!』

ローターを飛ばしてパイロットがパラシュートで脱出するがヴァンツァーはなすすべなく落下してしまう。無事に着地しても衝撃に耐え切れず、戦闘不能になっている可能性が高い。

『こっちの動きが読まれている!国連軍の誰かが情報を漏らしたのか!?』

『余計なことを今考えるな、フィリップ!戦闘だ!』

スリングヘリがヴァンツァーを投下すると同時に撤収する。ウミルザクの製油所に国連軍の部隊が投下されるがホークス隊や民兵部隊のカルドやクイントが包囲する。

『あっちゃー・・・待ち伏せされてたみたい。』

ため息をつきながらシエラが周囲を確認するが、その前にクイントやベローチェ戦車(※4)が突貫してくる。レイノルズのレクシスがアイビスを発砲、向かってくるクイントを一撃で破壊する。

『敵軍もいきなり挟撃はしないはずだ、落ち着いて応戦しろ!』

「シュトゥルムピングィン各機、正面の敵に火力を集中させろ!」

それだけ命令するとカダールもプラヴァーを発射。突撃しながらガトリングを発砲するベローチェにミサイルが直撃しベローチェは爆発する。

すぐにシエラとリヴィエが前に出るとマシンガンを発射し弾幕を張るが、敵機の後ろにある燃料タンクに銃弾が炸裂する。貫通した銃弾は燃料に引火、巨大な火柱を吹き上げる。

『さ、さすがにちょっとやばいんじゃないかな・・・?』

シエラもあまりの爆発の大きさに言葉を失う。周囲のヴァンツァーがまとめて木っ端微塵に吹き飛んだり炎上している。

『燃料タンクの破壊を最小限にしてくれ、とザーフトラの大統領がわめいているぞ?』

『だって、邪魔だしぶっ壊したほうがいいじゃん!』

ディートリッヒ中将が無線連絡でたしなめるが、シエラはお構いなしにアールアッソーCを連射する。レオスタンを発砲しようとしたウォーラスは無数の40mm銃弾を受けて沈黙する。

その間にワイルドゴートがカナリーを発射。すばやくナミクがカバーに入りECMでミサイルをはずすがミサイルは燃料タンクに直撃、爆発する。

『なんてことを・・・!そんなことをすれば海が汚染されるぞ!』

『海だけの問題じゃないです、中将!』

リヴィエが突っ込みながら、クラヴィエを発砲する。37mm銃弾はしっかりとベローチェに直撃し爆発を引き起こす。燃料タンクの火災に恐れをなしたのか民兵部隊は逃亡を図っているが、ホークス隊は果敢に突撃してくる。

『敵だが、ほめたい気分だな・・・こんな場所に果敢に突撃してくるとは。』

フィリップのマネージュが30mmガトリング砲を連射。接近してくるシンティラを迎撃している間にフランス軍のグロップがクローニクを発砲、シンティラを撃墜する。

その間にストライフがジュアリーを発砲しながら前進してくるが、ハーネルがカバーに入りジリーノを発砲しながらローラーダッシュで接近する。

ストライフが気をとられた瞬間にハーネルが足元からロッドですくい上げる。ストライフが転倒したところに至近距離からハーネルがジリーノを発砲。至近距離で散弾を受けたストライフは爆発する。

『ちっ、時間稼ぎのつもりが・・・てめぇらが混じってるのかよ。』

「ロドリゴか、久しいな?」

1年ぶりに出会った宿敵との再会にカダールは余裕を見せている一方、ロドリゴは半ばあきらめた口調でキーンセイバーを向ける。

『あぁ、久しぶりだな。ったく、あの時首相に助けてもらったてめぇらが英雄扱いか・・・あの時見たいにぶっ飛ばしてやる、覚悟しな?』

『そうは行かないよ?今度こそはね。』

シエラは20mm機銃をイーゲルアインスに向け発砲。ロドリゴはすぐにシールドで銃弾を防ぐとガストめがけ突撃する。アールアッソーCも交えシエラは弾幕を張るがロドリゴは難なく突破しキーンセイバーを振り上げる。

すぐにカダールがカバーに入り、シールドを構えキーンセイバーを受け止めるがすかさずロドリゴがシールドで殴りつける。ストームが吹き飛ばされ、後ろの燃料タンクに衝突してしまう。

『隊長!?』

『相変わらずしっくりこねぇ動きしやがるなぁ?ったく・・・気に入らねぇ。そんな動きで英雄気取りか。』

シエラはカダールが無事かどうか不安に思いながらトリガーを引く。銃弾を回避しながらロドリゴが接近してくるが、シエラはバックステップで回避しつつ銃弾を浴びせる。するとストームが起き上がる。

『俺は無事だ。シエラも気をつけろ!』

『隊長、援護しに来たよ!』

レジーナがカダールの危機を聞いて駆けつけ、ダブルコメットを発砲する。突然の敵機にもあわてずロドリゴはシールドを構えるが、98mm徹甲弾が貫通しイーゲルアインスの頭部を吹き飛ばしてしまう。

『な・・・!?』

『今構えたのは鍋の蓋かい?ずいぶんともろいねぇ。』

分厚い複合装甲の鋼板をいとも簡単に徹甲弾が貫通したことにロドリゴは驚きを隠せない様子だ。大抵のヴァンツァーは頭部に設置されたメインカメラが破壊されると、自動的にサブの複合センサー画像にディスプレイが切り替わる。ただしその切り替えには数秒の時間がかかる。

カダールとシエラがイーゲルアインスを戦闘不能に追い込むのには十分な時間だった。ストームの10cm徹甲弾が右腕を吹き飛ばし、シエラは間接部に20mm機銃を集中砲火しイーゲルアインスの脚部を破損させる。

複合センサーに切り替わる頃にはすでにイーゲルアインスは片膝の状態になっており、立つことも不可能になっていた。悔しげにロドリゴがカダールの機体をにらみつけ、吐き捨てる。

『・・・冗談じゃねぇ、また仲間か・・・畜生・・・!』

「そりゃあそうだ、俺はあまり強くないから仲間に頼りきりだ。悪かったな、弱い指揮官が英雄で。」

戦闘不能と判断し、カダールは止めを刺さず放置してホークス隊の掃討に入る。指揮官を失ったホークス隊は逃げ腰であり、発砲しながら後退するそぶりを見せている。

その隙を逃さずバーゲスト隊とシュトゥルムピングィンは追撃。ホークス隊を駆逐していく。まだ稼動状態にあるロドリゴ機をみて、レジーナがカダールにたずねる。

『隊長、あいつはほうっておくのかい?ゾンビみたいにあたしらの目の前に出られても困るんだけど・・・』

「放っておけ。無抵抗の敵軍を殺すのは国連軍として恥ずべき行為だ。違うか?」

カダールがたしなめつつトリガーを引き、プラヴァーを敵ヴァンツァーめがけ発射する。レジーナはため息をつきながら思わず愚痴ってしまう。

『国連軍もやりにくいねぇ・・・縛られてばっかりで。』

『敵に集中しろ、レジーナ。完全に無力化し切れていない。』

ハーネルがレジーナをたしなめながらバーゲスト隊のブリザイアとともに突貫する。

『わーってるよ!今行く!』

友軍を見捨てるわけにもいかず、レジーナは苛立ちも隠さずに返答するとダブルコメットを発砲する。撤退支援をしているワイルドゴートに98mm徹甲弾が直撃するが平然とワイルドゴートはイーグレットを発射しながら撤収する。

敵軍が反撃に出ないだろうと考えたカダールはそのままルスラーンに無線を入れる。

「戦域を掃討した。補給物資とWASの支援を頼む。後高速で地上を移動できるトレーラーも必要だ。」

『了解、国連軍からすぐに届くと通信が入っている。ホークス隊の撤退先はUAVで観測するが、SAMが多すぎて迂回するのは苦労する。アラル海までのデータは簡単に入らないからそのつもりで居てくれ。』

やれやれ、とカダールはため息をつく。高高度まで届きUAVも撃墜できるためUAVもSAMの射程から逃げるように行動しなければならない。だから先のデータが入りにくいのは解るがホークス隊に時間は与えたくない。

数分たってからWASと補給物資が輸送機から投下され、ヴァンツァーの修理に入る。ホークス隊兵員の一部は投降したがロドリゴや彼の部下は逃亡したようだ。カダールもヴァンツァーから降りて一息つくとシエラも降りて近づいてくる。

「終わったけどさ・・・隊長、何かこっちの動きが読まれて無い?アフダルって奴がかなり頭切れるのかもしれないけどさ・・・」

「情報漏れもありえそうだ。数多くの人員がかかわっているしザーフトラ軍が特に怪しい。」

ザーフトラ領内ゆえにホークス隊の内通者が居るのではないか、とカダールは推測する。現にザーフトラ衛星国ではホークス隊に軍事教練を任せていたこともあるため、うかつに信用は出来ない。

「だよねぇ、本当・・・ザーフトラ軍の兵士とか国連軍に結構出入りしてるし。」

「あぁ・・・」

難しい戦争になるな、とカダールはため息をつく。内通者の居る戦争ほど厄介なものは無い。逆に言えば去年のクーデターは内通者も多数いて政府軍の動向が丸見えだからまともに戦えたのもあった。

シエラもカダールの険しい表情を見ると、そっと胸元をたたく。

「大丈夫、隊長には私がついてる。どういう状況でも必ず守るからね?」

「頼もしいな。いつもお前に助けられてばかりだが・・・」

男性としてそれでいいのか、とカダールは時々疑問符を抱くこともあるがヴァンツァーの操縦技量に関しては自分よりシエラの方が上である。守られるのは仕方ないだろうと納得している。

「いいの。隊長は指揮に専念するとうまく行くんだから。」

「・・・解った。」

無理やり納得させられた気もしないでもないが、カダールはうなずいてみせる。

 

「・・・ちっ、部下ともはぐれたか・・・」

ロドリゴはただ1人、国連軍の哨戒範囲から振り切りウミルザクの路地に隠れこんでいる。ここなら誰も来ないだろう、と一息つく。

しかし、数分もしないうちに完全武装の兵員が路地に乗り込んできて突撃銃を構える。おとなしくロドリゴは両手を上げてハンドガンを手放す。すると科学者風の人物が前に出てきてロドリゴの体をしげしげと見つめる。

「いい状態だ。これなら使えるな。」

「何・・・」

言葉を続けるまもなく、ロドリゴは力なく崩れ落ちてしまう。科学者・・・ナザールの手にはスタンガンが握られており、それを首筋に当てたようだ。何の感情も抱かずにナザールは命令を出し、兵員も応じる。

「つれてゆけ。デバイスを量産できるだけ仕立て上げなければなるまい。」

「了解。」

兵員がそのまま気絶しているロドリゴを連行する。この後はどうなるのか、などと言うことは誰もが想像がつくことではあるが彼らは口にも出さないし、助けようとする気も無い。

ナザールにとって、彼はどれだけいいデバイスになるか・・・それだけしか興味は無い。

「ホークス隊でも最高のエース、どれだけの戦力を発揮できるのやら・・・」

兵員とともにナザールはロドリゴをつれて、テクニカルへと乗り込み市街地の外へと消えて行く・・・

 

続く

 

(※1)
操縦席ブロックを直接射出する脱出システムであり、このブロックも完全密閉式のためかなり生存性能は高めだと推測できる。またこのブロックは共通規格(多分)なので機体を交換しても慣れ親しんだ操縦席のまま、と言うことも理論的には不可能ではないだろう。
A型デバイスはこの区画にプログラムを組み込んだ培養脳を接続、通信機器なども備え自立兵器として運用できるようにしている。

(※2)
設定も無いので追記。ちなみにこちらはFMOシーキングの外見であり作中のシーキングは1st仕様。

シーキングの発展型。胴体周りを多少太くしてアビオニクス類を入れるスペースを増量させている。重量は増加したが劣化した分を強力な新型エンジンで埋め合わせ踏破性能、機動力を維持している。
武装はタレット搭載の37mm連装機銃に加え、旋回砲塔に搭載した15.5cm砲であり同軸に37mm機銃を搭載している。砲塔側面にはロケットランチャーも備え、非装甲目標や歩兵をまとめてなぎ払える。シーキングとは違い機動力のある歩行戦車という意味合いが強くより長距離での戦闘遂行能力を高めている。被弾投影面積の大きさは機動力で補うのがコンセプトとなっている。
NHW計画にも参加する予定だったようだが、サカタインダストリィの混乱によって頓挫している。イグチも93式金剛をNHW計画に提出しガベルは余剰機体としてあちこちに売却された。
しかし性能自体は悪くなく、ザーフトラやOCUでは高い火力を買われ追加発注が行われている。

(※3)
こちらも設定を。

TA-22対空車両
イグチ社が開発した簡易型地対空車両。補給車両として開発されたT-22の設計を継承しており完全な防盾装備の操縦席を持つ2基の37mm機銃とルフトアドラー対空ミサイルを装備する。
安価でありミサイルの信管を調節しての対地攻撃も可能、さらに対空機銃の移動しながらの発射も可能なため汎用性が高く、数多くの武装勢力で使用されている。戦闘ヘリの天敵ともいえる存在。T-22で装備されていた助手席の武装タレットは廃止され、広域捜索レーダーが設置されている。
37mm機銃の水平射撃で軽装甲車両やIFV、ヴァンツァーとの交戦も可能なのだが装甲はそれほど厚くもなく機動力も低めのためヴァンツァーを相手取るのは自殺行為とも言える。

(※4)
バザルトのホバー戦車。設定を。

バザルト・ベローチェ
WW2に設計されたカルロ・ベローチェの運用思想をベースに現代風にアレンジした高速軽戦車。武装はバザルト製24mmガトリング砲のみでありこれを固定砲塔に取り付けている。ホバー駆動であり姿勢も低く砂漠地帯や湖面、湿地帯での運用が可能である。非常に高い速度を持つ。
武装も単純で非常にコストも安いため武装勢力や民兵部隊からの顧客も多い。装甲はIFVと同程度でしかないが機動力ではIFVを上回り、旋回速度も優れている。仰角を高く取ることも可能なので対空射撃も可能となっている。しかしホバー駆動の弊害で物資などの牽引は不可能となっている。

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