Front misson Brockade

Misson-18 Next War

 

2094年 3/2 アゼルバイジャン領内スムガイト クローズドミリタリーエリア 1400時

『・・・先日3/1に戦争終結宣言が出され、アゼルバイジャンは独立とともにECへの加入を決定しました。国民も大半がECへの加盟に賛成していますが、同日に出されたナゴルノ・カラバフ地区のアルメニア割譲を条件にした講和に関して世論は賛否両論といったところです。続いては経済の・・・』

テレビでの放送を聴きながらカダール達シュトゥルムピングィンのメンバーはスムガイト基地の一室を片付けている。指揮権は陸軍元帥に昇格したエヴグラーフ・ゲオルギーが引き継ぎ部隊も6個中隊にまで拡大するためだ。戦力の欠けた第1小隊は新入りを受け入れることになっている。

「・・・リヴィエ、パソコンをいじるのは後にしてくれ。」

「わかってます。一応データのコピーなどを行ってからにしてくれますか?これは・・・」

データを小型の外付けデバイスに転送しているリヴィエを見て、カダールがたしなめるが彼女はもう少し待ってくださいと答える。

仕方ないなと思いながらカダールは落ちたガラクタを片付けてゆく。

「・・・そういえば、シエラ・・・レイブンの襲撃を受けて、どうして無事だった?」

カダールがふと疑問符を口に出す。第2小隊も壊滅に近い損害を受け、ジュリアスを失った相手によく無事だったなと思い返す。

「私の動きに似てたの。だから3機が散らばって包囲して攻撃を仕掛けたんだ。レジーナを囮に私とハーネルが挟撃して・・・そうしたらやっぱり私みたいにパニックになって対処できてなかったの。」

「・・・なるほどな。確かに訓練の時お前が見せた弱点だ。しかし、普通の無人機がそんなことで対応を後手にまわすとは思えないが・・・」

シエラの報告を聞き、カダールはさらに疑問符を抱く。ハーネルもその報告を聞き、何か思い当たる節があるようだが隠してしまう。

「ハーネル、何かかくしてないかい?」

「・・・いや、別に。」

レジーナに追求されるが、ハーネルは否定して搬出作業を続ける。まだ仮説であり、軽々しく口に出すべきでもないと思ったようだ。

すると、ハーネルと入れ違いでシュトゥルムピングィンの軍服を着た黒髪の人物が入ってくる。

「本日付で第1中隊直属第1小隊に配属になりましたナミク・アリエフです。」

新入りか、とカダールはうなずくと敬礼をしているナミクに対して敬礼を返す。

「・・・そうか、よろしく頼む。」

「よろしくね。私はシエラ。まぁ隊長は諸事情でブルーになってるから私が代わりに説明するよ。」

落ち込んでいるカダールに変わりシエラは明るく対応する。レジーナは敏感に相手の雰囲気が違うことを感じ取り、リヴィエにそっと耳打ちする。

「・・・あいつ、どこから来たんだい?」

「データによると北部方面軍でゲオルギー元帥の側近だったそうです。もっともヴァンツァーの技量は相当なもので私たちの邪魔にはならないでしょう。懸念する必要はなさそうですよ?」

なるほどねぇ、とレジーナは納得してみせる。エリート街道まっしぐら、と言った感じで少々自分と気質は違うらしい。それでもいずれは慣れるだろうと重い、そのまま書類なども整理する。

物置として使っていた部屋はすでに大半が片付けられ、メモなどはハーネルが保管することに決定したようだ。

「今日からここがお前の部屋だ。後はシエラやハーネルあたりに聞いてくれ。」

「了解です、少佐。」

早速ナミクは書類を置いてきたハーネルに部隊の概要などを聞いている。シエラはカダールをみて、まだジュリアスのことを引きずっているんじゃないかと思ってしまう。

「・・・隊長。もうナミクも来たんだから部隊のことに集中しようよ?」

「口で言うのは簡単だが、な・・・」

やはりジュリアスの事を引きずっているんだ、とシエラは確信するとカダールの背中を思いっきりたたく。思わずカダールは声を上げたが、シエラはため息をついてから励ます。

「ジュリアスの分までがんばらないとダメ。今の隊長を見てると絶対みんな落ち込んじゃうよ?」

「・・・わかった。少しずつだが直していこう。」

一安心したシエラは最後のダンボールを担ぎ上げる。カダールはまだジュリアスを失った傷がいえないながらも立ち上がり、退室する。

「ナミクさん、お待たせしましたね・・・後はお任せします。」

すべての荷物を搬送し終え、リヴィエが最後に一礼してから退室する。

 

2095年 9/20 カスピ海東部海上リグ 1328時

「・・・国防上、このリグに常駐の兵力が必須になります。もともと旧政府が国営企業のために有事の際は軍事基地としても利用できるようにしたものです。ザーフトラとの関係が悪化しカスピ海を隔ててにらみ合う今、ここの再軍備は必須です。」

「そうだな。それを理解したうえでこのリグの使い方を決めなくてはなるまい。あるいは国家に景気をつけるために増設も考えなくてはな。カスピ海中央部にも必須だ。」

ディートリッヒは部下の兵士とともにリグを視察している。国営企業に使わせリグに防衛用長射程SAMや対艦ミサイル、レーダーを増設するかカスピ海中央部に軍事用リグを増設するか迷っている。

カスピ海東部のリグはトルクメニスタンに近い。一応はザーフトラなのだが旧政府の国営企業が保有していたため引き続いてアゼルバイジャン政府が保有しているのだ。

「何にしてもザーフトラとの緊張は避けられんか。ECに加盟した上に元から国民の反ザーフトラ感情は根強い。取り除くのが無理としかいいようが無いがな・・・」

「まったくです。自分もザーフトラは仇敵と思っております。」

兵員に聞いてもこの有様なら緊張緩和など夢のまた夢だな、とディートリッヒはため息をつく。アイゼル首相はアルメニアとは手を結んでいるがザーフトラよりもECに接近しているため緊張は高まる一方だ。

ECは2084年のグルジア独立戦争を支援した上にアゼルバイジャンの独立にも相当食い込んでいる。目的はカスピ海から採掘される石油や合金素材でありこのパイプラインはグルジアとアゼルバイジャンを通っている。

ポーランド新資源地帯があるとは言えECは資源枯渇だけは避けたいと思っているらしい。だから躍起になってパイプラインを通しているこの2カ国の協力を求めたのだろう。トルコのEC加盟も結局はそこに行き着く。

「まぁ、敵としてであったときにその敵愾心を全部解き放つのは勝手だが面と向かって観光客にそんなことは言うなよ。それを守れればいい。」

「はっ!」

兵士が敬礼を返すと、ローター音が聞こえてくる。双眼鏡で確認すると大量のヴァンツァーを吊り下げたスリングヘリが近づいてくる。

「・・・何ですか、あのヘリ・・・」

北から飛来するヘリをみて兵士は疑問符に思うが、ディートリッヒは直ぐに敵機だと判断する。この広いカスピ海上空を南に飛ぶのは明らかに敵機しかいない。

「敵機来襲だ!総員退避、繰り返す、総員退避しろ!」

無線機を片手にディートリッヒは全員に怒鳴りつけると、早速軍本部に連絡を入れる。

「本営に通達、海上リグに敵機が襲来した!保有戦力は無く襲撃されたら降伏するほか無い!」

『何、リグに敵機・・・!?スクランブルだ、AF84を準備しろ!後ペンギンにも召集だ!中将をなんとしても守りきれ!』

オペレーターは大慌てであちこちの部隊に召集をかけるが海上リグにヘリが迫るほうが早くヘリからヴァンツァーが降下する。

リグ外部で作業をしていた作業員はヴァンツァーを見るなり室内に退避し、中には大慌てで海に飛び込んでしまう者までいた。

「な、何故ヴァンツァーが!?」

「・・・何故ここにホークス隊が!避難しろ!」

「は、はい!」

ディートリッヒは室内へと退避するが、ヴァンツァーのシルエットや塗装を一目見て何故ここにいるのかと疑問符を抱いてしまう。一傭兵部隊がこのような暴挙を起こすのは依頼だろうがザーフトラにしては乱暴すぎるし巡航ミサイル数機で片が着く話だ。

息を切らせながら室内に入るが、外部にいるゼニスは発砲する様子も無くただ周囲を回って警戒行動を繰り返している。作業員どころか、アゼルバイジャン軍の兵士を見ても発砲せず定期的にルートを歩行しながら哨戒している。

「何が目的だ・・・!?」

「中将、完璧に包囲されています。脱出は出来そうにありません。」

わかっている、とディートリッヒは答え無線機から応援を待つ。しばらくするとAF84ティフォンが上空を通過するが敵ヴァンツァーは対空ミサイルを発射する。

何とかAF84はミサイルを振り切って撤退する。この様子だと状況が解決するのに時間がかかりそうだとディートリッヒは思ってしまう。しばらくすると輸送ヘリが到着しホークス隊と思しき兵員が降りてくる。

「・・・捕虜になるしか道は無いようだ。」

「中将、それはあまりにも・・・」

「あの完全武装の兵士を全員倒すことは不可能だ。彼らもいきなり殺すつもりはないようだ、おとなしくしたほうがいい。」

兵員が30名ほど入ってくるのを見て、ディートリッヒは仕方ないなと降伏を決断する。守備兵と呼べるだけの兵力は無く、国営企業が雇った警備会社はショットガンやサブマシンガンしかなく突撃銃で武装した兵士には勝てないからだ。

 

同時刻 スムガイト クローズミリタリーエリア

「緊急召集だ!作戦室に集合!」

先ほどまで平穏を保っていた軍事基地がとたんに忙しくなり、内戦があった時と同じようなあわただしさに変わっていく。シエラはカダールに召集を受けて作戦室に到着する。

そこにはもう5人がそろっており第2中隊長に就任したアーヴィトも部下をそろえて待っていた。シエラはごめんねと軽く謝ってから椅子に座ると元帥であり直属の指揮官であるゲオルギーがモニター越しに状況を説明する。

『先ほど海上リグ2基からの連絡が途絶えたの報告が中将自ら入った。海上リグは東部に4箇所、西部に2箇所存在しているがCAUとザーフトラのリグも同様な事態に陥っているようだ。』

「どちらも同時に!?どういうことなんだい!?」

カスピ海南部のリグ群はCAUイランの管轄であり、北部はザーフトラが所有している。その全てがいきなり武装勢力に占領されたようだ。思わずレジーナは復唱して、疑問符を抱いてしまう。

『中将はすでに人質にとられたらしい。他のリグも同様の状況だが、今のところ犠牲者は出ていない。ほぼ全員が拘束されているがリグ内部には相応の食料が備蓄されている。テロリストが出し惜しみさえしなければ無事だろう。』

「敵の目的は?」

『不明だ。今のところ何の要求も無い。』

はぁ、とため息をついてリヴィエはパソコンを操作しながらUAVの画像を確認する。敵戦力はヴァンツァーと戦闘ヘリ、そしてレーダーとSAM兼用の装甲車両でありヴァンツァーはメインの司令リグを占拠している。しかし数はかなり多く今にもあふれかえりそうなほどだ。

しかし、リヴィエはその姿を見て息を呑む。濃い黄色の塗装とエンブレムは間違いなくホークス隊のものだ。

「・・・ホークス隊です、この敵軍は。」

『そのとおりだ。ホークス隊がリグ全てを占拠したものと思われる。』

「では雇い主は誰なんです?彼らはPMCです、莫大な報酬が約束されているはず。ですがUAVの画像ではザーフトラ軍のリグも制圧しています。一体どの勢力が何のために?」

リヴィエの疑問にもゲオルギーは答えられず、首を振って否定する。

『まだわからん。現在調査中だ。』

そうですか、とリヴィエは短く答えるとゲオルギーは画面に状況を映し出す。カスピ海の地図でありリグすべてにホークス隊のエンブレムをかたどったチップが配置されている。

『現在はEC本国からブラウネーベルを含む特殊部隊を呼ぶように手配しているが、それでも2基のリグをカバーするほどでしかない。シュトゥルムピングィンは空挺訓練を行ったメンバーは1個中隊分だ。それとCAUからも特殊部隊「ビーシュ」(※1)を送り込むようだが、数が足りないな。』

「1箇所に降下できるのは2個小隊だ。2つのリグを1個中隊が担当するにしてもEC陸軍が保有するヴァンツァーの空挺部隊はそう多くない。せいぜい8個中隊程度しか派遣できないだろう。対するホークス隊の降下兵力は多い。西側リグは1個中隊で制圧できるが、東側リグは軍事要塞に近い。投入した兵力も多い、早々手出しはできないぞ。」

カダールが真剣な表情で全員に意見を求めるが、誰も反論できない。SAMサイトもある以上通常の輸送ヘリではアウトレンジで撃墜されてしまうだろう。さらに他国が出し抜いて部隊を繰り出せばリグを爆破したり人質を殺してしまう恐れもある。

「私達だけでやっちゃだめなの?いつもみたいに。」

「・・・無理だ。シュトゥルムピングィンは2個中隊あるがそれでも残りのリグがある。復興中のアゼルバイジャンだ、リグを1基でも失えば重大な損失になる。人質も無事ではすまないだろう。まして、突出して俺たちが独断で部隊を動かしたせいで他国のリグを破壊されたらCAUからの経済支援も打ち切られる。」

気楽な様子なシエラも、ハーネルの言葉を聴いて悩んでしまう。するとモニターの向こう側でゲオルギーがアイゼルと場所を交代する。思わずカダールが敬礼してしまうが、同時に疑問符も抱く。」

「首相?」

『私の権限で今回の作戦の指揮権を移します。今回の作戦、国連軍に一任しようと思いますが。』

「国連に?」

共同体になってからすっかり鳴りを潜めてしまった国連を利用し、アイゼルは共通の指令系統を得ようという案を考えたようだ。それにレジーナが皮肉交じりに首を振る。

「無理じゃ・・・ないですかね。国連は20世紀から大国の大義名分って扱いにされてきた、いまさら何もできるとは思えないですがね。」

『ですがザーフトラとECを同時に動かす術は国連以外に無いでしょう。PMOはサカタインダストリィ事件と、メレディフスキーの辞任により解散しました。それにリグに空挺強襲を仕掛ける部隊も貸し出してくれるはずです。』

アイゼルの言葉ももっともであり、同じ指揮系統の元で動かなければ自国のリグも危うくなる。そして何よりも第二次ハフマン紛争以降ヴァンツァーの特殊部隊が増えたが、その腕前を世界に知らしめたいという思惑もある。

「・・・しかし、他国の干渉を許すことにもつながりませんか?」

『その点については私は折衝を行います。もし不穏な動きを見せたら世界最強の特殊部隊を敵に回すと。』

「世界最強・・・それが、我々のことで?」

ナミクの言葉に、アイゼルはもちろんですと返事をする。大風呂敷を広げたなとカダールは思ったが、そういわれること事態は悪くない気分もした。

『無論、貴方達にはそれに見合う活躍を期待しています。国連軍の話はなるべく早くまとめます。話がまとまり次第、出撃体制を整えてください。以上、今日は解散しますがスクランブルがかかり次第』

「了解!」

全員が敬礼をして。作戦室から退出する。シュトゥルムピングィンはこの後休憩のため各自自由行動となるがナミクがシエラに話しかけてくる。

「どうしたの?」

「・・・いや、祖国を蹂躙されたのに何もできないってのがきついんだ。我々なら何とかできると思ってるんだけどな・・・」

なるほどねぇ、とシエラはうなずいてみせる。確かにどうこうできる状況ではない気もしてならない。だが隊長の命令でありアゼルバイジャンのためを思えば軽々しく動くことは不可能だ。

「やめなよ、ナミク。私達なら勝てるかもしれないけど万全を期して動かないと。私は隊長がダメだと言うならダメなんだなって思うよ。」

「そうか?シュトゥルムピングィンほどの作戦遂行能力さえあれば単独でもできなくは無いと思うのだけどな。」

今まで数多くの武勇伝をゲオルギーから聞かされてきたナミクとしては、ここで躊躇するシュトゥルムピングィンが理解できないらしく出撃しないことに首をかしげる。

「隊長が無理だって言うんだから無理でしょ。私もよくわからないけど、首相も話をまとめるまで待てといったわけなんだから・・・」

シエラが隊長であるカダールを信頼しきっていることはナミクにもよくわかった。少々不満げだが、ナミクは意見を下げてそのまま歩調を速める。

 

「・・・」

『そういえばあんた、ザーフトラに一度も帰らなかったね?』

ハーネルはジラーニの操縦席でレジーナと会話を交わす。去年の戦争で相当な損傷を受けたジービュに換わり政府軍の格納庫にあったジラーニをハーネルが使用しているのだが使い勝手は良好らしく今でも乗っている。武装はアゴーニとジリーノを装備している。

先ほどもシミュレーターでレジーナと模擬戦闘を行ったところだ。結果は引き分けに終わったらしく、一息つきながらハーネルは返答する。

「帰る理由も無いからな。アゼルバイジャン軍の一員としてここに残る。」

『いいのかい?ザーフトラと戦うことになっても。』

「・・・守るなら問題は無い。」

へぇ、とレジーナは意外そうな表情でハーネルを見る。彼のことだからひと段落したらザーフトラ軍に戻って戦うのではないかと思っていたのだ。しかし条件をつけたことが気になってレジーナは踏み込んでたずねる。

『どうして守るなら問題ないっての?』

「いかなる理由があろうと侵略はやるべきことではない。それに攻めるには攻めるなりの理由が必要だ。今の俺は祖国相手に自分から戦う覚悟は無い。だがここにはここで守るべきものがある。それを奪おうとするなら戦うが、な。」

なるほどね、とレジーナはうなずいてみせる。アゼルバイジャンとザーフトラ、どちらも天秤にかけることができない様子をみて、意地悪な質問をしたかなと申し訳なさそうな表情をしてしまう。

『難儀だねぇ、あんたも・・・祖国も、ここも捨てられないって。悪かったよ、変なこと聞いて。』

「いや、いい。俺も今の立場を明白にすることが出来た。」

それだけ言うと、ハーネルは次のシミュレーションを開始する。レジーナもそれに参加するらしく、すい終わった葉巻を灰皿に捨てて新しい葉巻を吸い始める。

「・・・ところで、機内に灰皿をいつつけた?」

『ん、まぁ整備員が「操縦席を灰だらけにされたらかなわん」と言ってジャリドの時つけてくれたのさ。空気清浄機もNBC防御用エアコンを改造してね。』

「・・・なるほどな。」

徹底しているな、とハーネルは感心する。ヴァンツァーの内部で酒を飲むのは多くザーフトラのパイロットでも4割はウォッカを飲んでから出撃していたがタバコはそうそういなかった。

閉塞的なヴァンツァーの構造上煙を外に出すのが難しく、灰皿を置くスペースにも苦労する上にヤニが精密機器の敵だから仕方ないのだが。

「俺はもう少し訓練する。お前は?」

『ちょっとその辺ぶらついてくるよ。』

それだけ言うとレジーナは無線を切ってヴァンツァーから降りる。ハーネルはシミュレーターを稼動させ、もう一度最初から敵機を出して訓練を続ける。

 

2345時 クローズドミリタリーエリア 休憩室

「・・・で、俺とシエラを呼んで何の話だ、リヴィエ。」

夜半遅くにリヴィエに呼び出され、カダールとシエラはパソコンを持っているリヴィエを見つけると隣に座る。暗いが外の眺めを楽しめる対爆風ガラスの外に星空が見える。

9/25に国連軍も編成され、いつ出撃するかという緊張で眠れず2人は眠い様子も見せず、おとなしくリヴィエの話を聞く。

「そうだよ、リヴィエってばホークス隊の戦術とか集めてたんじゃなかった?」

「その過程で見つけたUAVの戦闘記録です。北部戦線でのゲオルギー元帥の活躍ですが疑問符も沸いてきました。」

冷静にリヴィエは戦闘記録のデータを見せる。映し出されていたのはヴァンツァー同士が交戦する映像だが民兵部隊を前線に出して解放軍はなるべく後方からの支援に徹している様子が見える。場所はハチマス郊外であり1ヵ月半の間ザーフトラ軍の攻撃を食い止めたハチマス攻防戦のあった場所だろう。

「これは普通の映像だよ?民兵が前に出すぎるなんてよくあるじゃん?」

シエラが笑いながら答えるが、続く映像を見て言葉を失ってしまう。民兵部隊が崩壊し逃亡しようとしたところで解放軍のヴァンツァーが民兵部隊に発砲したのだ。

「・・・北部戦線で元帥は督戦隊による戦術を行っていたんです。」

「ザーフトラの軍では良く教えることじゃないのか?民兵なら・・・」

カダールがある程度元帥の立場もわかるといい、擁護しようとするがリヴィエは首を振る。

「この民兵部隊、地元の有力なマフィアを雇ったものなんです。民兵部隊といってもレジーナさんやジュリアスさんのように苦しい生活から抜け出したいと思って戦った人物も居れば、このように自分たちの利権を解放軍に守ってもらうために戦ったメンバーも多いです。が・・・調べたら北部方面の解放軍は非情すぎる戦術を行っています。この督戦隊の映像は数多くあります。」

「・・・ひどいね。でも元帥がこんなことをするなんて。」

信じられない、とシエラは続けようとしたが言葉をさえぎってリヴィエは話を続ける。

「これが続く映像です。何とか民兵部隊は政府軍およびホークス隊を追い返しましたが・・・」

カダールとシエラが動画に注目すると、民兵部隊が帰還しようとしたところを解放軍が次々に発砲。ヴァンツァーを撃破していく。

「バカな!?編集か・・・あるいは何かの間違いじゃないのか!?」

「私が手に入れたのはルスラーンの同僚から直接仕入れたマスターテープをコピーしたんです。私も最初目を疑いましたよ。何故かこのとき、友軍である民兵部隊を次々に撃破し脱出した搭乗員も射殺しています。」

シエラは状況が飲み込めず、ただ無言のまま画面を食い入るように見つめている。解放軍は民兵部隊も殲滅したあと、意気揚々とハチマスに戻っていく。信じられないと思いながらも、カダールはリヴィエにたずねる。

「・・・俺にこの映像を見せてどうするつもりだ、リヴィエ。」

「私は隊長に正確な判断をして欲しいだけです。編集ソフトを使ったかどうかはルスラーンに聞けばわかるはずですし、その隊員から録音した音声もあります。」

リヴィエはそのままポケットからレコーダーを出すと、再生する。そこには空中管制機のオペレーターとリヴィエのやり取りが録音されていた。

『・・・この動画、本当に編集ではないんですか?友軍を撃つなんてありえません・・・』

『私も一瞬疑いました・・・け、けどこれは事実だし、上官にも打ち明けたら隠しておけって言われて・・・』

『無理に見せるまねをして申し訳ありませんでした。ホークス隊を調べるというために・・・私はこのことを言わないと約束します。それと、下手に映像を公開するのは危険です。持っておいてください。』

『は、はい。だ、大丈夫ですよね?リヴィエ少尉・・・このことがわかったら貴方も・・・』

『私が一番安全な場所に居ます。貴方こそご無事で。』

ここで音声が途切れている。オペレーターの声からして本当におびえていることはカダールやシエラにもはっきりとわかった。

「・・・そ、それじゃ私達はいつ後ろから撃たれてもおかしくないってこと?」

「ですね。ゲオルギー元帥が関わっていないことを祈りたいですが、エンブレムは解放軍で統制も取れた部隊、間違いなく元帥の部隊です。民兵部隊と多くのヴァンツァーと兵員を消しておいて彼がこの事態を知らないはずはありません。」

シエラは振るえがとまらなかったが、カダールは静かに深呼吸をして映像をもう一度見る。編集などは確かになくUAVの映像に間違いはないようだ。右下の時間を示すカウンターは正確に時間を刻んでいるため、この部分を加工するのも難しいだろう。

「・・・リヴィエ、お前仲間を疑えと?それも元帥だぞ・・・!?北部方面の押さえがなかったら革命は成功しなかった。それに元帥は祖国のことを思う立派な人物だ、俺達を打つなど・・・!」

「ですがありえるんです。督戦隊を使った程度のこととはわけが違うんです、隊長。彼らは明白な意思があって最後まで戦った戦友をためらいもなく殺したんです。外道とも言える所業をした相手を信じるのはかまいません、ですが隊長は皆の命を預かる大事な立場にあります。」

冷静に話を進められ、カダールは黙ってしまう。するとシエラが質問をぶつける。

「何で私まで呼んだの?隊長の問題なのに・・・」

「貴方は意外と義理堅いですから隊長の命令で秘密にしてくれます。それに何でも首を突っ込むタイプですから、いわないと下手に動かれてごたごたを起こしかねません。なら今のうちに伝えるべきことを伝えておこうと思ったんです。」

はぁ、とシエラが微妙そうな返事をするのに対し、リヴィエは淡々と言葉を続けていく。

「それに、隊長が好きなら切り離されて秘密を抱えられるのも嫌でしょう?」

「・・・は!?リヴィエ、そんなんじゃないって!何考えてるの!?」

唐突に指摘されてシエラが爆発しそうなほど赤面してしまう。カダールも初耳だな、と言うとシエラに近づく。

「意外だな。よりにもよって俺か。」

「そーじゃない!リヴィエ、何でいきなりそんなことを言うの!?」

「私は端的に事実を述べたまでです。それに、否定したいなら感情に出すべきではありませんよ。」

やれやれ、とリヴィエはため息をつく。シエラはかなり動揺しておりそれだけでリヴィエの言葉があたっていると示しているようなものだ。

「とにかく、他の隊員にも内緒でお願いします。下手に口外できない事態です。もしこの事実を知ったと元帥にわかっただけで・・・」

「この民兵と同じ運命をたどるか・・・」

真剣にカダールがうなずくと、いきなりのように警報が鳴り響く。出撃準備らしく早速3人は格納庫へと向かい、ヴァンツァーへと乗り込む。シエラがガストを稼動させるとディスプレイにゲオルギー元帥の顔が映る。

『たった今、国連軍が出撃を決定した。貴官らはディートリッヒ中将が拉致されたトルクメニスタン沿岸部のリグを制圧してもらう。今回の作戦はEC軍イギリスSAS司令のデルフォード大佐指揮下の部隊、およびブラウネーベルとフランス外人部隊第2落下傘連隊が参戦する。』

『豪華な顔ぶれだな。EC屈指の部隊と一緒にやるわけか。』

『むしろそうしなければ対応不可能というべきだ。リグを見てくれ。』

カダールが少し誇らしげな顔をして言うが、ゲオルギーは首を振ってリグの姿を見せる。先日よりもヴァンツァーが増えており、対空戦車であるBTA79(※2)が多数配備されている。さらに戦闘ヘリであるAAH44CEも哨戒しているようだ。

「ちょ、何か増えてない・・・?」

戦力が増えているのを見てシエラはびっくりしてしまう。リグはすでに要塞と化しており攻めるにも一筋縄ではいかないだろう。

『敵軍は海路を使ってヴァンツァーや兵器を搬入した。カザフスタンから出航した輸送船が部隊を補充したらしい。船籍はザーフトラ国籍で使用者はPMCホークス隊だった。国連軍の目的はホークス隊討伐、および本拠地の徹底的な壊滅だ。首謀者であるアフダル・マカルディンは生死を問わない。必ず拘束しろ。』

『・・・穏やかではないな。』

『祖国を蹂躙したテロリストには当然の報いだ。シュトゥルムピングィンは2個小隊でリグを攻略せよ。リグ西部から突入し、テロリストを殲滅せよ。』

そうだな、とハーネルはうなずいてみせる。人質は今のところ全員が無事だがいつまでも無事で居られるかどうかはわかるはずもない。もし1人でも殺傷していたらテロリストは惨殺しても飽き足りないくらいだ。

『了解です、元帥。1人残らず殲滅します。』

ナミクが静かに答えるが、カダールは首を振って気持ちを抑えろとたしなめる。

『ナミク、俺も連中は憎いが今は抑えろ。先走った奴から戦場で死んでいくんだ、わかるな?』

『わかってますよ、隊長・・・』

しぶしぶナミクがうなずくと、ゲオルギーは話を続ける。

『作戦は簡単だ。SAMサイトを航空部隊で潰し突入、敵機を殲滅し次の作戦に備える。夜間空挺降下には敵の反撃も想定される。対空砲火には気をつけろ。』

「元帥、海に落ちちゃったらどうする?救助とかは?」

冗談交じりにシエラが質問すると、ため息をついてゲオルギーはまじめに返す。

『貴官らが海に沈むのをのんびり眺めるとしよう。いや、一部始終を撮影して動画サイトに流すか?』

「りょーかい。がんばりますね。」

先ほどとは一変して、まじめな様子でシエラはうなずく。落ちたら助けられないということははっきりとわかったためだ。敵に制空権を取られていれば救出するわけにも行かないだろう。

『一応聞きますが、他の区域の担当はどうなっているんですか?』

『北部のリグはザーフトラとOCUが担当する。バクー側のリグはUSNが担当、南部はCAUだ。』

『USN・・・』

そう聞いて、リヴィエは少し嫌そうな顔をする。するとナミクは大丈夫だ、と落ち着かせるように語り掛ける。

『あいつらは空母からの出撃だ。アゼルバイジャンの基地は使わない・・・ところで、何か因縁があるのか?』

『多少ありましてね。でも気にしないでください。』

落ち着いた調子を取り戻すと、リヴィエは周囲を見渡す。ナミクの機体はガナドール(※3)でECMバックパックを搭載。片腕にスフィンクスを、もう片腕はフェザント2ミサイル腕を装着している。他の機体は去年の内戦から様変わりしていない。

ただし特徴的な塗装であるペンギンカラーは明確な規定が加わり統制が取れたものとなっている。ヴァンツァーの左肩につけられた青と緑と赤のラインがが正規軍であるということを示している。以前は政府軍機につけられていたものだが、今では彼らが正式な軍であり国旗を背負う立場にある。

『ディートリッヒ中将の事もある、必ず成功させて人質を救出しろ。以上だ。』

『了解!』

全員が返答すると、指示通りシュトゥルムピングィンのヴァンツァーがACH59へと乗り込む。アーヴィトが指揮する第2小隊は別のACH59に乗り込む。OCUから4機を追加発注し整備部品も届いたためシュトゥルムピングィン全部隊を輸送することが可能になったのだ。

ローター音を秋の暗闇に響かせながら、世界一勇猛なペンギンを乗せてACH59は離陸する。

 

10/14 0412時 カスピ海洋上リグ内部

「・・・連中、いったい何なんですか?我々を閉じ込めてますが食料だけは与えて・・・」

「よくわからんな。やけに食料の気前はいいが・・・」

ディートリッヒは作業員や護衛の兵士と一緒にリグ下層部へと押し込められていた。見張りの兵士はある程度の行動の自由を認めていて、食料も気前よく全員に配給していた。

その代わり兵員の口は堅く、見張りの兵士に話しかけても無視されることがほとんどで一切の動揺も示さない。隙もないため相当訓練された兵員ということだけは彼にもわかった。

「・・・ちょっといいか。先ほどから兵士の動きがあわただしいが何かあったのか?」

「何?」

作業員の言葉を聴いてディートリッヒが耳を澄ますと、ローター音が聞こえる。ヘリがこちらに接近していると言うことははっきりとわかった。内心では飛び上がりたいほど感動したディートリッヒだが、口には出さず皆に落ち着くよう指示を出す。

「いいか、リグの真上で戦闘がある。アゼルバイジャンの兵士が来るまで落ち着いているんだ、いいな?間違っても外に出たりはするな。」

「りょ、了解。」

兵士がうなずき、他の作業員もうなずいたり返答する。すると1人の作業員が不安げに尋ねてくる。

「な、なぁ。このリグは無事なんだよな?」

「大丈夫だ、問題ない。」

確信を持ってディートリッヒは答える。作業員もそれを聞いて一安心したのか、その場に座り込んだり壁に寄りかかる。だいぶ疲れた様子が顔に浮かんでおり、待遇はいいとは言っても精神的に参っているようだ。

 

同時刻 海上リグ上面部

「敵対空砲、排除!いつでもいける!」

『降下するぞ、ヘリをリグにつけろ!砲手はガトリングで敵機にプレッシャーを与えるんだ!』

カダールが指示を出し、ACH59はリグ南部に降下する。対空高射砲をAF84で潰した隙にヘリが接近、ガトリング砲で着地地点のヴァンツァーを追い払う。

猛烈な弾幕を浴びてホークス隊のウォーラスが後退した隙を突き、ACH59からガストが降下。続いてストームとジラーニが降下に成功する。グリレゼクスとガナドール、110式陣陽も無事降下を終えると他の部隊からも通信が入る。

『こちらヴァグナー・・・応答せよ。』

『シュトゥルムピングィンのカダールだ、部隊が降下を終えた、そちらはどうだ?』

『問題ない、予定通り作戦を開始する。』

ブラウネーベルも降下に成功し、別方面から交戦を開始する。降下した部分はリグ外延部の通路であり入り口手前と四隅にヘリポートがある。だがそれらを結ぶのはヴァンツァー2機が通れるほどの通路でしかない。

ヴァグナーの部隊は東部に着陸。南東部ヘリポートにシュトゥルムピングィンが降下しホークス隊のヴァンツァーが集まってくる。

『ヴァンツァーを近づけるな、ここで迎え撃て!』

ナミクがそういうと、通路を向かってくるシンティラめがけスフィンクスを発砲する。10cm砲弾が直撃したシンティラは吹き飛ばされ、通路から落下してしまう。

シエラは早速通路に出ると片っ端から向かってくるゼニスに銃撃を浴びせる。退避することもできず次々に銃弾を浴びて、さらにレジーナが狙撃して支援を行い向かってくるゼニスやシンティラを片っ端から撃破する。

「ナミク、張り切ってるねぇ。」

落ち着いて敵機に銃撃を浴びせながらシエラがナミクを見てつぶやく。シュトゥルムピングィンとしてははじめての実戦のためか、張り切っているのがわかる。

『こちらフランス軍第2落下傘連隊隊長のフィリップだ、敵機が多すぎる!救援を!』

『シエラ、俺に続け!他はヘリポートを確保しろ!』

救援要請を聞いて、すぐにカダールがバズーカを発砲する。ウォーラスに砲弾が直撃、落下していくのを見ながらカダールとシエラは突撃する。敵ヴァンツァーの合間をすり抜けながらフランス軍空挺部隊を救援に向かう。

フランス軍のタトゥーCが集中砲火を浴びて爆発する。残っているのは指揮官機のマネージュとペレグリンが2機、パボット2のみでありマネージュは両腕が破損しながらも胴体のガトリング砲で必死に応戦している。

「うわ・・・めちゃくちゃやばくない?」

『早く助けるぞ!』

リグ内部の格納庫に大型機動兵器が居るらしく、それを相手にフランス軍が銃撃戦を繰り広げている。カダールとシエラが乱入すると、思わずシエラが息を呑む。2脚の大型機動兵器が猛烈な弾幕を張っているのだ。

「・・・こんなの、どこから輸送したの!?」

『ルスラーン、敵機の詳細を頼む!』

格納庫ふちに隠れ、カダールは敵機の情報をルスラーンに要請する。カダールの見た映像を元に、ルスラーンが解析すると情報を提供する。

『敵機はアルゲム(※4)級だ!気をつけろ、速射砲を食らうと木っ端微塵に吹き飛ばされるぞ!』

「ありがたい話、どうもね!フランス軍は援護して、隊長はアルゲムに火力を集中して!」

それだけ言うと、シエラは銃撃を浴びせながらローラーダッシュを仕掛けアルゲムに突撃する。アルゲムの注意がガストに向いた隙を狙い、フランス軍とカダールがいっせいに射撃を行う。

クローニクやジュヴェを側面から受けて右の速射砲が破損するが、アルゲムは後退しながら57mm速射砲でフランス軍に応戦する。カダールのストームとパボット2がシールドで防ぎながらグロップ2機がクローニクを発砲しつつ接近する。

アルゲムは被弾しながらもパボット2めがけ速射砲を発砲。頭部が破損しその後で集中して被弾しパボット2が爆発する。

『畜生、アルゲムめ!』

『ひるむな!』

フィリップがガトリング砲を連射しながら部下に前進を促す。パボット2から乗員が脱出したのを確認してカダールはバズーカを発砲。

10cm砲弾が脚部に直撃、体勢が崩れたところにフランス軍が包囲して射撃。操縦席を的確に爆破して沈黙させる。リグ格納庫内部でフィリップがカダールに礼を言う。

『感謝する・・・カダールか。』

『そうだ。両腕を破損しているようだが大丈夫か?』

『この程度で挫ける我々ではない。戦える武器がある限り前進する。幸運を祈る。』

満身創痍ながら部下を引き連れてフィリップの隊は敵軍に向かい始める。するとシエラ達の所にも他の隊員が合流する。格納庫内部はかなり広くBTA79やウォーラスが待ち構えている。

『外は制圧しました。しかし・・・これだけの戦力を有しているなんて、ホークス隊も相当なものですね。』

「本当だねぇ・・・まったく、こんな暇なことに使うならもっとやることがあるんじゃないの?」

皮肉るように言いながらシエラはウォーラスめがけ銃撃を浴びせる。それに同意するようにレジーナもうなずく。

『まったくさ。さっさとカザフスタンに帰りな!』

ダブルコメットをレジーナが発砲。98mm徹甲弾が直撃しウォーラスは沈黙してしまう。その後ろからワイルドゴートがミサイルを発砲するが、リヴィエがシールドでカバーしナミクがフェザントを発射。

ミサイルが2発連続で直撃しワイルドゴートがひるむと、その隙にハーネルが突貫。アゴーニをワイルドゴートの足元に振るう。

『一瞬だ、悪く思うな。』

転倒したワイルドゴートめがけジラーニはロッドの先端をワイルドゴートの操縦席めがけ突き刺す。ワイルドゴートはそのまま爆発するとBTA79対空戦車が10cm速射砲を発射する。

真っ先にナミクが回避し反撃にスフィンクスを発砲。10cm砲弾が直撃しBTA79は大破炎上する。

『敵機を撃破・・・隊長、SASが後退してきます。』

『どうした?』

ナミクの報告を聞き、カダールが北側の入り口を見るとガストとヴァリアントが2機ずつ後退してくる。その後ろからホークス隊のウォーラスとゼリアが突撃してくる。

『敵軍が多すぎる!格納庫で迎え撃つぞ!』

『こちらブラウネーベル、格納庫に到着する。少し待て。』

イギリス軍のガストが後退しながらウォーラスに射撃していると、ブラウネーベルが到着し猛烈な援護射撃を浴びせる。ゲパルトアハトから銃撃を受けてウォーラスは木っ端微塵に吹き飛ばされる。

「うわっ、すご・・・」

シエラが絶句するほどの威力を見せたツィーゲMG(※5)を構え、ゲパルトアハトは入ってくるウォーラスやシンティラを次々に撃破していく。

『感謝する、ヴァグナー。俺達だけでは・・・』

『無駄話は後だ。』

話を途中でさえぎり、ヴァグナーはツィーゲMGを連射する。大挙してなだれ込んできたホークス隊のヴァンツァーは次々に88mm砲弾に貫かれ、次々に爆発する。

『どうした、シエラ。俺達も・・・』

固まってしまったシエラをみて、カダールが早く行くぞと促すが彼女は恍惚の表情を浮かべてツィーゲMGを見ている。

「あのマシンガン、ほしいなぁ・・・連射力凄いし、ものすごい威力だし・・・」

『シエラ、早く行きますよ!』

シールドで殴られて、ごめんごめんとシエラが申し訳なさそうに謝ると別の入り口から入ってくるウォーラスに銃撃を浴びせる。40mm銃弾と20mm銃弾が直撃し、ウォーラスはレオスタンを発砲できずに爆発する。

その後ろからシンティラやラットマウントも突入してくるがリヴィエとナミクがマシンガンで弾幕を形成する。ラットマウントは装甲に任せて突貫しつつ37mm機銃を連射する。

『ちっ、かなり硬い!』

ナミクがスフィンクスを発砲するが、ラットマウントは砲弾をはじき返しながら37mm機銃を連射し続ける。ガナドールに37mm銃弾が直撃し、いったんナミクは物陰に隠れる。

その間にラットマウントがもう1台突入、37mm機銃を連射する。フランス軍のグロップがクローニクで応戦するがラットマウントに損傷すら与えられない。フランス軍兵士がラットマウントの装甲の分厚さに驚愕してしまう。

『なんて硬さだ、銃弾が貫通しない!』

『任せろ!』

シールドで銃弾を防ぎながらカダールが至近距離まで接近すると、銃口をラットマウントに押し付けてバズーカを発射する。ゼロ距離からの砲弾を防ぐことはできず、ラットマウントは爆発する。

もう1機のラットマウントは37mm機銃を発射。グロップが大口径銃弾を受けて爆発する。ハーネルも突撃しようとしたがシンティラに突撃を阻まれラットマウントに攻撃を仕掛けられない。

『畜生、また1機やられた!』

『ナミク、重火器で援護しろ!』

了解、とナミクは答えるとフェザントを8発動時に発射する。ミサイルがラットマウントに直撃するが、まだ戦闘続行が可能らしくラットマウントは37mm機銃を連射する。

その隙を突き、カダールがラットマウントの右側面からホーネットを発射する。1発で腕が吹き飛び、2発目が側面からラットマウントを貫通、大爆発を引き起こす。

『敵機撃破!次だ!』

「あいつらさえ居なかったら簡単だよ!」

ラットマウントを撃破すると、すぐにシエラが20mm機銃を連射。ウォーラスは何十発もの銃弾をまとめて叩き込まれ爆発する。シンティラはジラーニと交戦した後でロッドが直撃して火花を散らしている。

『こちら第2小隊、外壁からの増援はない。作戦成功だ。』

『了解、作戦終了。』

ホークス隊ヴァンツァーをすべて無力化し、EC連合軍は海上リグの制圧を完了した。ルスラーンのUAV画像からも敵軍は増援を送る気配もなく、順調に作戦が終了した。

『他のリグも制圧完了と報告が入った。作戦は大成功だ・・・っと、国連からテロ部隊であるホークス隊の討伐命令が出たようだ。ゲオルギー元帥が各国に訴えたようだな。』

「・・・じゃあホークス隊を討伐するんだ。」

シエラがため息をついて、やだなぁとつぶやく。国連軍はテロリストの殲滅を決定したため、当分基地に帰還できそうにないからだ。

『殲滅戦ねぇ・・・やってらんないね。』

『だが、祖国に土足で踏み入ったテロリストを始末する絶好の機会だ。』

レジーナはもういいと疲れた表情で答えたのに対し、ナミクはホークス隊を殲滅できる好機とあって意気込んでいるようだ。

『・・・テロリストになった以上仕方ないな。ホークス隊もこうなることを覚悟で行ったのだろう。』

やれやれ、と思ってハーネルがため息をつく。少なくとも利益占有といった小さな目的で後先考えない行動を行う連中ではないことはわかっている。周囲の態度が冷めているのをみて、ナミクが誰ともなくたずねる。

『・・・どうして浮かない顔をしているんだ?』

『去年の戦争で私達と戦った敵軍です。腕前もよく、統率が取れていた彼らが何故こんな暴挙に出たのか戸惑っているんですよ。』

『なるほど、な・・・悪かった。』

素直にナミクが謝ると、発砲音が聞こえルスラーンがいきなり大声を上げて叫び始める。何事かと思ってカダールが無線を入れる。

『どうした、ルスラーン!』

『ば、バーゲストとストライクワイバーンズが内戦はじめたぞ!おい、USNのオペレーター、起きてるのか!?』

ルスラーンが取り乱した様子でUSN軍に通信を入れるが、相手のオペレーターは落ち着いた様子で答える。モニターにはストライクワイバーンズの司令官がバーゲストの隊長めがけ発砲しているシーンが映し出されている。

『落ち着けよ。あれはいつものことだ。』

『いつもって、拳銃をぶっ放してるぞ!』

『本気だったら対戦車ミサイルも持ち出す連中だ。とにかく心配ご苦労様。安心してくれ。』

はぁ、とルスラーンはため息をついて通信を終了する。カダールとシエラもモニターで一部始終を見ていたらしく、怖いなとか思ってしまう。シエラはばかばかしいのか、苦笑しながらカダールにたずねる。

「・・・隊長。USNってバカばっかり集まってない・・・?」

『それは禁句だ。』

無礼すぎるぞ、とカダールはシエラをたしなめながらも国連軍迷彩のヘリが到着するのを見届ける。大量の補給物資が送られてくる野を見て、カダールはこれからさらに激しい戦闘が待ち受けていると予感する。

 

続く

 

 

 

(※1)
CAUの特殊部隊。夜間用都市迷彩にトリカブトのエンブレムをつけた機体が特徴的。名前はアラビア語のトリカブトに由来する。2個中隊の戦力を保有し数多くの特殊作戦を成功させている。正式名称はCAU陸軍第65特殊作戦連隊所属第7中隊。

(※2)
ヴェルダ社の開発した対空戦車。同社の開発したアークバレル型25mmガトリング砲と対空10.5cm速射砲を組み合わせた砲塔を持つ。ヴァンツァーの重装備化により対空戦車の意義が危ぶまれてきたため「ヴァンツァーには搭載できないものを搭載する」というコンセプトでこの速射砲を搭載したとされる。100発/分の発射速度を持ち非常に対空目標に対して有効。特に霧島重工製音響センサーと熱源感知装置の複合FCSはステルス機にも有効であり第二次ハフマン紛争では主力戦車部隊の防空網を担当した。ある程度大型のミサイルなら迎撃も可能。また速射砲は対地射撃も可能であり砲弾の時限信管を稼動させなければ徹甲榴弾としても使用可能。汎用性は高く評価されOCU諸国で採用されている。

(※3)
リムアーズ社製中量級砲撃機。以下設定

2091年にリムアーズ社が開発した中量級砲撃機。同社初のフルセットヴァンツァーであり自社製の重量級火器を扱うことを前提としている。比較的アームの命中精度も高くバズーカやグレネードランチャーの発砲にも適している。ただし出力を稼ぐために軽量の装甲版を使用しているため耐久性はそれほどでもない。USNアルゼンチンに採用されているが、中南米の武装勢力に大量に供給されている。中南米での運用を念頭においているため操縦席ブロックに除湿機と冷暖房を装備。登坂能力も非常に高くさらに簡単なオプションで浮上しての渡河も可能となっている。アルゼンチン軍のデモンストレーションでは水に浮きながら重火器を発射するガナドールの姿も確認された。ちなみに意味はスペイン語で「勝利」の意味。

(※4)
精密な設定がまったくないので加筆。

ホープライズ社が2070年に設計を完了した大型機動兵器。比較的高い機動力と57mm速射砲の高火力から数多くが生産され第1次ハフマン紛争に試作機が投入、第2次ハフマン紛争では拠点防衛用や侵攻用として使用された。紛争以降、指揮官機としての大型機動兵器が求められるようになるとアビオニクス類を一新して再び生産。NHW計画に投入された。トライアルには合格しなかったものの中南米諸国やECトルコ、グルジア、さらにはPMCなどにも供給されている。元から踏破性能が非常に高く、また武装もある程度の換装が効く。ちなみに原型のグラスター級はイグチ製のコンピューターを搭載している。これは2脚を制御するためのシステムが同社では未成熟だったためメタルワーカープロジェクトで失敗した姿勢制御システムをベースに共同で開発したため。

(※5)
本当に武器の1つから細かい設定が必要なので設定。

第二次ハフマン紛争時、最高の威力を誇ったセミオートライフルのツィーゲにフルオート機構を追加したタイプ。本来は反動制御や腕の耐久性を見るための実験武装だったがゲパルトシリーズに搭載するマシンガンが必要、ということで配備された。
88mm口径の速射砲であり元から艦艇に搭載された対空速射砲を改造したのがツィーゲだったため簡単に改装が終了しとんでもない威力を発揮する。しかし反動を押さえ込める機種も限られ、レイブンですら連続発射に絶えうるものではないと判断されてしまう。元がライフルのためにセンサー類を内臓したままであり、命中精度という面では非常に高い。

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