Front misson Brockade

Misson-17 Capital decisive battle

 

3/1 0700時 ガラダー駐屯地

「・・・ようやくたどり着いたな。」

感慨深げにカダールは眼前に広がる首都バクーの摩天楼を眺める。2ヶ月前はここから逃げるようにしてトラックで逃亡を図ったが今度は攻略する番だ。

天候はあいにくの雪だがそれほど曇っているわけでもなく視界は良好。解放軍の部隊は北方と西方、南方から首都バクーを包囲しているが追い詰められた政府軍とザーフトラ軍も相当な戦力を集結させている。

「本当。何かじーんとくるね。」

シエラも双眼鏡で敵軍の様子を眺めながら答える。敵軍はザーフトラ製のヴァンツァーや無人兵器、そして政府軍標準装備のヴァンツァーで固められている。

自走砲や戦車、IFVに装甲車に戦闘ヘリなどありとあらゆる戦力をそろえている。政府軍は住民の大半を避難させ必要とあれば市街の半分以上を焼き払ってでも守備するつもりのようだ。

「あ、隊長・・・戦争が終わったらまた私たちも戦うの?」

「それはまだ分からんが、ECの動向しだいだな。俺達もここまで活躍してしまったんだ。このままECがほうっておくわけが無い。」

ふーん、とシエラはうなずいてみせる。特に問題にも思っていないらしく、戦うなら戦ってもいいと言う様子だ。

「・・・いいのか、シエラ。」

「隊長の命令に部下は従う、当然じゃない?それに私さ、隊長のこと本気で好きだから。」

ちらりとカダールはシエラを見つめるが、深い意味は無いだろうと思いまた双眼鏡をのぞく。

「いつも悪いな、シエラ。あちこちつき合わせて。」

平坦な口調のカダールにシエラは複雑そうな表情を浮かべるが、まぁいいかと気を取り直して答える。

「隊長は思いっきり私たちを振り回していいからね?そのとおりに動くから。それで誰か死んでも、うらむ人は居ないよ。」

「本当か?」

「当たり前。結局隊長を信じるって決めたのは私たちだから、ね。」

わかった、とカダールはうなずく。すると陣営に設置されたスピーカーからアイゼルの声が届く。

『解放軍諸君、ここまでの勇戦に感謝する。戦争はもうすぐ終結する。眼前の首都であり政府軍の要塞と化したバクーを陥落させることによりわれわれの祖国は奪還される。これが最終決戦となり、アゼルバイジャンには平和が戻るであろう。国民を巻き込み、血で血を洗う内戦を望むものは誰も居ない。祖国にとって、これが最後の戦争であることを切に願う。』

「まったくだね。何事もないといいんだけど・・・」

アルメニアとは領土でもめているし、政府軍の残党が何をするかも分からない。シエラは少し不安げになるがアイゼルの言葉には賛同できる。

解放軍側に犠牲は少ないといっても西部戦線や北部戦線では多くの難民も発生している。2ヶ月で1万人近くの難民が発生しているためこれ以上長引かせるのは得策ではない。

「何事も無いだろう。俺達はECでの活動も多くなるだろうけどな。アイゼルはナゴルノ・カラバフ地区をアルメニアとの共同領地宣言を行いこの方面の兵力を全軍撤収させるそうだ。」

「一大決心するものだね・・・でもよく納得させたよね?」

ナゴルノ・カラバフ地区は過去アゼルバイジャンとアルメニアの対立が続いた地区であり2015年までに何度か戦争が起こっている。アルメニアが実効支配した後ザーフトラに吸収されとりあえずは混乱が収まったもののアゼルバイジャンが独立すれば間違いなく紛争の火種になりうる場所だ。

アイゼルは先手を打ってアルメニアに使者を派遣、この地区を非武装地帯に認定。両国民の出入りを制限せず統治や法律をアルメニアに任せることで紛争を抑えようとしている。軍関係者の反対も「もともとロシアが勝手に決めた国境だからなくなったところで変わりはしない」と説得したという。

「いろいろ会ったらしいからな。今アイゼルが考えてることは勝った後のことだろう。インターゲーンの技術をつかったストレラ工廠のヴァンツァー技術、その関連企業を国内に作る計画もある。サカタインダストリィ関連企業からの技術顧問もすでに何人か契約しているという。」

「考えてるね。そのプランどおりにするために私たちもがんばらないと。」

カダールから聞いた範囲だけで判断すればアイゼル首相は国のことを真剣に考えているといえる。もっともそれだけかどうかは分からなかったがシエラに元気を与えるにはちょうど良かったようだ。

 

「・・・はい。了解です。シュトゥルムピングィンに残ります。」

リヴィエが無線を切って退屈そうにいすに座り込む。解放軍はそろそろ出撃してもいいはずだが何かを待っているらしく動く気配がない。

「リヴィエ、そこにいたのかい?」

「ええ。ちょっと用がありまして。」

無線機をポケットにしまい、リヴィエは笑みを見せてレジーナを出迎える。

「その無線、いったいどこに連絡してるのか気になるね。いつもいつも。」

はっと気づき、リヴィエはポケットを押さえるがレジーナはもうばれてると笑いながら答える。

「深い事情があるんです。解放軍の邪魔はしません、ですから見なかったことにしてくれませんか?」

「・・・そうはいうけど、テロリストと通じて武器の横流しなんてありえるからね。」

「私はそんな真似しませんよ。解放軍の武器に余裕はありませんし、中古品も多いですから流したところでそんなに高く売れませんし。そもそも・・・アゼルバイジャンを開放して貴方達に随伴する気持ちは本当ですよ。」

心外です、とリヴィエはため息をつく。レジーナは悪かったねと謝ると素直にリヴィエはうなずく。

「それより、備えは万全なんですか?レジーナさん。」

「当たり前さ。機体もしっかりと交換してきた。」

レジーナが振り向くと、グリレゼクスがその場にたたずんでいる。ライフルはストレラ工廠製のタブルコメット(※1)に換装され、かなり火力が増強されている。

「ストレラ製のライフルですか・・・実物を見るのは初めてですね。」

「あぁ、これで政府軍の連中もぶち抜いてやるよ。一撃でね。」

新しいライフルと機体が配備されたためかレジーナは自信満々に答える。リヴィエもこれなら大丈夫だろうと一安心してグリレゼクスを眺める。

胴体下半分と脚部前面および内側を白く塗装。両腕外側と頭部、胴体上半分を黒く塗装し脚部設置面を黄色に塗装したシュトゥルムピングィンカラーに塗装されている。

「ペンギンのカラーリング、何かなれましたね。こうしてみると意外と格好いいですし。」

「まぁね。しっかしハーネルもよくこんなイメージ思いつくねぇ。」

目を点にしてリヴィエはレジーナを見る。てっきりこのカラーリングはジュリアスかシエラが思いついたものだとばかり思っていた。

「ハーネルさんが?また・・・」

「意外な才能だろ?まぁあいつが言うには「昔の騎士は文化や教養に精通していた。今の軍人ができなくてどうする」とか言ってたけどねぇ。」

リヴィエはなるほど、と納得する。するとハーネルが2人を呼ぶ。

「どうしたんですか?ハーネルさん。」

「出撃命令だ。解放軍が避難民を無事に救出したと報告が入った。俺たちも行くぞ。」

了解、とリヴィエはうなずくと110式陣陽へと乗り込む。カダールとシエラ、ジュリアスの機体も合流しそのままバクーへと向かう。

後ろに多数の解放軍ヴァンツァーや戦車、装甲車も続く。

 

0840時 バクー総司令部

「戦局はどうなっている!」

「は、現在互角の様相を見せております。しかし包囲されたわが軍は士気が低く・・・」

「ええい!役立たずばかりかわが軍の兵員は!」

デムチェンコはアゼルバイジャン開放同盟軍に攻め立てられ、司令部で1人苛ついている。他の指揮官は苛つくどころではなく、崩壊寸前の政府軍と本国からの増援部隊を指揮するのに手一杯で作戦司令部にいるのは数名の将校のみだ。

「苦戦しておいでだな。司令官。」

「ナザール、お前の無人機でも敵わないのか!?あのペンギンどもだけでも潰せればいい!せめて私が負った屈辱を連中に味合わせればそれでいいのだ!」

ふむ、とナザールはデムチェンコの必死な様子を見て少しだけ考え込む。その後ですぐに無線機で連絡を入れる。

「司令官、ペンギンの位置を特定してくれんかね?そこに無人機を向かわせる。私の最高傑作だ。」

「頼む、何とかしてくれ!連中さえいなければバクーは持ちこたえられる!」

そんな幻想はあるまい、とナザールはのど元まででかかった言葉を押しとどめる。データを取る手助けをしてくれるのだから、下手に機嫌を損ねることもないだろうと思ったのだ。

 

同時刻 バクー市街地

『あと少しです、隊長!総司令部である議事堂まで突破できれば解放軍の勝利です!』

リヴィエがクラヴィエを発砲しながら報告する。シュトゥルムピングィンは20thゾーンで激しい戦闘を繰り広げているが政府軍の数も多く前進できない。

それでも1機ずつ撃破し、確実に前進はしているのだがシュトゥルムピングィンを食い止めるために大型機動兵器まで投入している。シーキングが88mm砲を発砲し家屋を壊しながら向かってくる。

「あと少し、か・・・この戦力でそういえる余裕があるとはな。シエラ、友軍部隊は?」

『今合流したよ!ちょっと手間取ったけど・・・』

解放軍のガストやシケイダ、ツィカーデが合流し前進を開始する。シエラが増援が合流したと報告を入れるとカダールはホーネットを掲げて指示を出す。

「シュトゥルムピングィン、友軍部隊と協力して敵部隊を掃討し前進せよ!」

『了解!』

友軍機が合流するのを確認してからストームとガストが進撃。その後ろから友軍ガストや友軍シケイダが随伴する。粗末な建物を壁にしながら解放軍は政府軍の67式やザーフトラ軍のジラーニ相手に銃撃戦を開始する。

シエラは射線を確保するため、もろい建物の屋根に上がるがガストの重みで建物が崩れてしまう。

「気をつけろ!その建物はヴァンツァーが乗ると崩れるぞ!」

『もうちょっと早く言ってよ!』

あきらめてシエラは狭い道へと突入、道を封鎖している67式と銃撃戦を開始する。カダールは頑丈なトニーズのの屋根に上がり、バズーカを発射する。

67式が10cm砲弾の至近弾を食らったところに20mm銃弾が叩き込まれ爆発する。するとルスラーンが無線を入れてくる。

『敵機に増援部隊が到着した。アバローナを中心とした砲撃部隊だ!』

『ここで、だと・・・!?』

住宅密集地でよりによって出会いたくない部隊と出会ってしまったためか、ハーネルは舌打ちしてしまう。ザーフトラ軍なら住宅ごとロケットランチャーやモーターカノンで焼き払う戦術も使うはずだ。

アバローナの武装もイグチ82式とグロムと明らかにこの周辺を巻き込む武装だ。ハーネルはルスラーンに無線を入れる。

『ルスラーン、住居を破壊するため空爆を要請する!このままではなぶり殺しだ!』

『却下する。我々が住宅を破壊するわけには行かない。我々は市街地を空爆するわけには行かない。』

『ふざけるな!グレネードで集中砲火を食らえば俺たちでも持たないぞ!』

そういいつつ、ハーネルはザーフトラ軍のジラーニに突撃しハンドロッドで殴りかかる。ジラーニはアゴーニで受け止めEMPを稼動させると、すかさずジュリアスがカバーに入りEMPを無効化する。

同時にジュリアスはグレネードランチャーを発射。大口径の砲弾が直撃しジラーニが体制を崩したところにハーネルがビュジェを発砲。ジラーニは爆発する。

『来るぞ、迫撃砲だ!』

アバローナがモーターカノンを発砲。多数の迫撃砲弾が住宅街に着弾し友軍機を爆発に巻き込んでいく。ハーネルは再び前進しようとするが政府軍の67式が4機向かってくる。

『数に任せて防御するつもりです!早急に突破しないと!』

リヴィエの報告を聞いて、友軍ガストやツィカーデが前線に火力を集中させる。だが政府軍の67式は次から次へと増援を送り込みアバローナが67式を巻き込みながら砲撃する。

カダールはミサイルをロックオンしてアバローナを集中放火しているが装甲が分厚く、的確にミサイルや砲弾を回避するため有効な一撃を与えられない。まずいと思ったのかカダールは必死にルスラーンへと呼びかける。

「ルスラーン、空爆を要請する!ヘリだけでも回してくれ!このままでは突破できない!」

『だが・・・いや、貴官らが生き残ることが最優先だ。アバローナから離れろ!空爆を要請した!』

ルスラーンの報告から数秒も経たないうちにAF84が飛来。誘導爆弾を投下する。アバローナに誘導爆弾が直撃し、大爆発を起こす。

友軍部隊から歓声があがるが、シエラは目もくれずシーキングに狙いを定めている。レジーナとカダールもシーキングを目標に設定する。

「後はシーキング(※2)と護衛を始末しろ!」

『了解、行くよ!』

レジーナがダブルコメットを発射。シーキングを護衛しているヴィーザフに98mm砲弾が直撃。一撃でヴィーザフの胴体が爆発する。強力なライフルの破壊力にレジーナは息を呑むが、深呼吸をしてから次の目標を狙う。

シエラとハーネルは近づいてシーキングに攻撃を仕掛ける。38mm機銃でシーキングは応戦するがシエラとハーネルの動きに追随できず38mm銃弾はあらぬ方向に着弾する。

友軍シケイダやツィカーデは護衛についている105式やジラーニに攻撃。シーキングは護衛のないままシュトゥルムピングィンの猛攻を受け煙を吹いている。しかしあっさりしすぎだとカダールはいぶかしがる。

「妙にあっさりとシーキングが前線に出てきたな・・・ルスラーン、戦闘区域の熱源をスキャンしてほしい。あとレーダー反応と合わせてくれると助かる。」

『了解。少し時間がかかる。』

『隊長、どうかしたの?』

シーキングに銃撃を加えながら、シエラはカダールに無線を入れる。大型機動兵器相手に攻撃をしながらルスラーンに無線を入れる余裕にシエラは相変わらずだなぁ、と感心する。

攻撃を一手に引き受ける「囮」でありエースであるシエラがいてこそカダールは落ち着いて指揮を取れる。それを分かっているからシエラはシーキングに絶え間ない銃撃を浴びせ続ける。

「周囲にも警戒しておけ。何かいるかもしれない。」

『おっけー、でも何かいるかな?見た感じいないと思うけど。大体いたら迫撃砲なんてぶち込まないよ?』

シエラの言うとおり、味方がいたらアバローナもやたらに迫撃砲をぶち込まないはずではある。だがザーフトラ軍は自軍以外なら容赦なく迫撃砲をぶち込む真似くらいはするだろう。

カダールは何かいると思って周囲を警戒しているとルスラーンが連絡を入れてくる。

『包囲されてるぞ!市街地各所にヴァンツァー多数、ホークス隊だ!』

『罠にかかったな。網にかかったペンギンを狩れ!』

その途端にホークス隊ヴァンツァーが光学迷彩を解き攻撃を開始する。メルケルの部隊でありニーガスからパラントに乗り換えてライフルは強力なファイアバードを搭載している。

『隊長、メルケルの部隊が到着しました!指示を!』

「やはりいたか・・・!」

リヴィエに促されてもカダールはどうするべきか迷ってしまう。シーキングは中破しているがまだ主要火器が無事であり放置することはできない。だがファイアバードの集中砲火を連続で受け続ければ1分と持たないだろう。

友軍部隊はといえば数に任せて押し寄せてくる政府軍の対応に必死だ。するとアラートが鳴り響く。ロックオンされたと重いすぐにカダールがシールドを向けると70mm弾(※3)が直撃。何とかシールドが持ちこたえる。

「友軍を餌にするとは、随分と卑劣なやり方だな。助けようとは思わなかったのか?」

『目標は貴様らだ、ペンギン・・・最高の懸賞金もあるが、貴様らさえ倒せば解放軍の戦意を落とせる。ガラザ要塞やアリャート会戦での戦果は他の部隊とは比べ物にならん。そんな獲物だ、何を犠牲にしようとも仕留める。』

侮蔑するような口調でカダールは語りかけるが、メルケルの返答はそっけないものだ。するとレーダーをみてカダールは微笑する。

「仲間を犠牲にすると重要な局面で見捨てられるぞ。お前が犠牲になったら仕留められないだろう?」

『何を・・・!』

メルケルがファイアバードを発砲しようとした途端、いきなりバズーカの発砲音が響く。11.4cm砲弾だと判断したメルケルはすぐに回避しつつ照準を合わせると同じペンギンカラーのギザがバズーカを向けている。

『こちら第2小隊、援護する。ホークス隊は任せろ。』

「トフィクか!?助かった!」

シュトゥルムピングィンの第2小隊が到着、メルケルの部隊と交戦を開始する。予想もしなかった増援にメルケルは悔しげに舌打ちするが、冷静に指示を出す。

『シュトゥルムピングィン、増えていたとはな・・・迎撃に徹しろ!』

メルケル隊とトフィクの部隊が交戦している間にカダールはシーキングに狙いを定める。照準を合わせてホーネットとプラヴァーを発射、10cm砲弾とミサイルがシーキングに直撃する。

バランスを崩したところにレジーナが88mm速射砲めがけライフルを発砲。98mm砲弾がシーキングの砲身を破損させる。不幸なことにシエラ機に対して猛攻を仕掛けている最中に直撃したため砲身から大爆発を起こしてしまう。

『さんきゅ、レジーナ!』

『さ、後は乱入してきた連中をぶっ潰すよ!』

シーキングを撃破したシエラはパラントへと突撃を開始する。あわててパラントはライフルを発射するが、あっさりと回避され逆に40mm銃弾の弾幕を受ける。

さらに友軍イーゲルツヴァイが接近してショットガンを連射。パラントはなすすべなく弾痕から炎を吹きあげ沈黙する。

『ナイスキル!やるじゃん!』

『いや、あんたとの共同撃墜だ。さすがはシュトゥルムピングィンの2番機だな。』

へへっ、とシエラは照れた様子でディスプレイに映し出された友軍兵士に笑みを返す。そして別のパラントにアールアッソーCを発砲する。

カダールはその隙に指揮官機であるメルケルのパラントめがけホーネットを発射する。パラントは狙撃機らしからぬ反応速度で屋根から屋根に飛び移るとファイアバードを発砲。

すぐにカダールは後退して回避しつつミサイルを発射するが、パラントは建物の影に隠れて回避する。建物が乱立しているためレーダーは利かない。直感だけでどこにパラントが移動したか確かめなければならない。

「・・・さて、どうするか。」

カダールは思案するが、10秒もたたずに右側を向いて無線を入れる。するとパラントが建物の上に飛び上がるのが確認できた。

すかさずカダールはホーネットを発射。10cm砲弾がパラントの乗っている建物に直撃し崩落する。立ち上がる前にカダールはプラヴァーを発射するがいきなり無線からメルケルの高笑いが聞こえる。ミサイルは確実にパラントを捕らえたが、メルケルの機体は別にいるようだ。

『読みをはずしたな、カダール!』

ストームが背後を向くとメルケルのパラントがファイアバードの銃口を向けるのを確認した。それでもカダールは余裕を崩さず、狙いをつける。

メルケルが勝利を確認してトリガーを引こうとした途端、大口径の砲弾が直撃しファイアバードが爆発する。続けてカダールの10cm砲弾が直撃しパラントが爆発を起こす。

『な・・・何故だ!?』

「仲間を大事にする奴は、最後の最後で仲間が助けてくれる。作戦の犠牲にした仲間に詫びながら眠れ。」

『・・・ペンギンども・・・ホークス隊は絶対貴様・・を・・・!』

その言葉を最後にパラントが大爆発を起こし、木っ端微塵に吹き飛ぶ。隊長が戦死したのを見てホークス隊のヴァンツァーは後退。解放軍の増援としてガンシップが到着し政府軍も追い詰められていく。

数分もしないうちに友軍部隊によって政府軍は追い散らされ、解放軍は20thゾーンを制圧する。すると輸送ヘリがコンテナとWASを投下して過ぎ去っていく。

『こちらルスラーン、後は首都の中枢部を抑えるのみとなった。補給が終わり次第、進撃せよ。』

「了解。全機燃料および弾薬を補給して次に備えろ。」

解放軍のヴァンツァーや装甲車がコンテナに近づき、弾薬の補給を開始する。同時に投下されたWASが友軍機の損傷を修復していく。

同時にコンテナ側からアームが伸びて、自動的にヴァンツァーへと弾薬を補給する。政府軍は首都中枢部にて徹底抗戦の構えを見せているが、西部方面軍も合流し戦力的にはほとんど互角だ。

「トフィク、助かった。」

補給しつつ、カダールはギザへと視線を向けて礼を言う。

『ありがたく思っているなら酒の一杯でもおごってくれ。』

「当たり前だ。終わったら昔常連だった店に案内する。」

かすかにトフィクが微笑する姿をモニターで確認し、カダールは補給作業を続けつつ周辺の監視を続ける。敵軍は戦力を再編成するために攻勢を控えているらしく、解放軍は順調に補給作業を終えていく。

 

バクー司令部 1045時

『20thゾーンから政府軍退却!7thマイクロリージョンも解放軍に制圧されました!このままでは押し切られます!』

「何をしている!我がザーフトラのヴァンツァーは世界最高峰だぞ!何故負ける!」

デムチェンコは必死に部下を叱咤激励しながら指揮を執り続けるが、質量共に優れる解放軍に戦線を縮小するしかなくなっていた。主力である政府軍の戦意が低くホークス隊やザーフトラ軍は数が少なく焼け石に水の状態だった。

「我々は撤収するぞ、デムチェンコ司令。」

「なっ!?アフダル、一体どういうことだ!」

ザーフトラ軍のIDカードを投げ捨て、ホークス隊司令官のアフダルは部屋から出ようとする。それを青ざめた表情でデムチェンコが引き止める。

「負け戦に付き合うほど暇じゃない。メルケルも死んだ、これ以上ここにいればあのペンギンにすべてを失ってしまうだろうな。そうなっては貴官らからもらった報酬では割に合わん。」

「報酬ならもっと出す!だから踏みとどまってくれ!」

なりふりかまわず引きとめようとするデムチェンコに対し、アフダルは冷たい視線で彼を一瞥すると振り払う。

「これもビジネスだ。貴様らと心中は御免だ。貴様の首を解放軍に持っていかないだけありがたく思え。」

「ま、待ってくれ!」

退室したアフダルをデムチェンコは見送るしかなかったが、もういいと気を取り直し無線の前に戻る。他の将校は呆然としたまま何も出来なかったが、デムチェンコの鋭い視線を受けてすぐに仕事へと戻る。するとナザールが部屋に入り悠然とデムチェンコにたずねる。

「司令、ペンギン達の居場所は特定できたか?」

「ああ。20thゾーンから直接議事堂を狙うようだ。確実にやってくれるな?」

「さてな。私の無人兵器も完璧ではない。だが少なくとも1機は確実に葬ってくれるだろう。最強のヴァンツァーに最強のパイロットを組み合わせたのだからな。」

不敵な笑みを浮かべながらナザールは答える。デムチェンコは状況を解っているのかと八つ当たりしたくもなったが今は彼の無人兵器が頼みの綱でもあり、うかつな返答は出来なかった。

「それで、無人兵器は稼動できるか?」

「IFFのセットが完了した。希望とあればいつでも投入できる。」

「すぐに稼動させろ。ファウンテン・スクウェアとエンターテイメントセンター付近に展開させ待機だ。敵軍を見つけ次第発砲するようにな。ザーフトラ軍も随行させる。」

了解だ、とナザールは答えると無人兵器のセッティングをするため退室する。残ったデムチェンコと数名の将校はなんとしてもバクーを死守し本国の援軍が来るまで持ちこたえることに全精力を傾けていた。

 

ファウンテン・スクウェア 同時刻

「後一歩だ。」

粉雪が舞い散る灰色の空に浮かび上がる議事堂を見てカダールが西武方面軍、南部方面軍の先頭に立ち部隊に声をかける。

綺麗に区画整備された幹線道路に敵ヴァンツァー部隊が展開している。ザーフトラ軍の新型が多くアルカードやフェザントといった機体も混ざっている。

『解ってるよ、そんなこと。ここを突破して歩兵部隊を突入させれば戦争が終わる・・・んだよね。』

シエラが簡単に状況を説明し、敵軍が襲い掛かってくるか解放軍が突撃するそのときを待っている。

『・・・ああ。さっさと終わらせちまおう。こんな内戦なんてもう二度とやりたくないし、ザーフトラの支配ももう勘弁してほしいからね。』

レジーナもライフルを構え、真剣な口調で答える。その間にジュリアスは敵機を解析し、データを出す。

『敵機は無人兵器およびザーフトラ軍で構成されてるな。腰抜けの政府軍とは全然違う厄介な連中だ。先ほどの政府軍みたいに数だけそろえたってわけでもないからな・・・どうするか。』

不安げにジュリアスが状況を説明するが、ハーネルはまったくとため息をつきながら答える。

『敵が誰であろうと倒すだけだ、ジュリアス。ここに来て逃げ腰か?』

『そんなわけは・・・』

『だったら突撃するぞ。それとも、俺が後ろについてショットガンを撃たなかったら進めないか?』

軽いハーネルの冗談にジュリアスは参ったな、と答える。するとリヴィエが敵軍の動向を見て無線を入れる。

『敵機、進軍を開始しました。隊長、ご指示を。』

「シュトゥルムピングィン各機、突撃せよ!」

敵軍の前進と同時に解放軍ヴァンツァーも進軍を開始。解放軍のツェーダーがガルヴァドスを一斉に発射する。シュトゥルムピングィンのヴァンツァーはは真っ先に突撃しジュリアスは前進しながらミサイルを発射。

前進してくるシャカールに直撃し、爆発を起こす。ジュリアスは撃破したシャカールに注目して疑問符を投げかける。

『どうしてあの機体が敵軍に!?』

『無人機の工場がザーフトラ国内にもあるのでしょう。おそらくは、ですが。』

リヴィエは冷静に答えつつイグチ82式を発射。大口径の砲弾が地面に直撃し爆風が無人機を巻き込む。それでもアルカードやジラーニが接近してくるがレジーナがダブルコメットを発砲。

先鋒のジラーニを貫き爆発を起こし、その脇をシエラが突撃。接近しながらアルカードに銃撃を浴びせる。

『シュトゥルムピングィンに遅れるな!俺たちも続け!』

友軍のイーゲルツヴァイが突撃し、フェザントめがけショットガンを連射する。散弾が直撃し、バランスを崩したフェザントにカダールがプラヴァーを発射する。

ミサイルが直撃しフェザントが沈黙すると、その脇を解放軍のシケイダが通り抜け突撃を仕掛ける。ハーネルもシケイダに随伴し、弾幕を突破しジラーニに殴りかかる。

ハンドロッドを胴体に受けたジラーニが沈黙すると、横からアルカードがクレイジーハマーで殴りかかってくる。

『ちっ、厄介なのが・・・!』

『危ないです、ハーネルさん!』

すかさずリヴィエがシールドでクレイジーハマーを受け止めると至近距離でクラヴィエを発砲。アルカードがひるんだ隙にシールドで殴りアルカードを吹っ飛ばす。

吹っ飛んだアルカードに見向きもせず、リヴィエは淡々と友軍シケイダをバックパックで修理していく。

『礼は後回しだ。敵を頼む。』

『解ってます。』

冷静なやり取りをハーネルとリヴィエはかわし、前面のヴァンツァーに専念する。ジュリアスのグロップも前線に出ると、ヴェスペA4とヴァンパイアMGを連射しながら敵機に突貫する。

グレネード弾の直撃を受けたジラーニが爆発する。後方からアバローナがミサイルを発射するが、ジャミングに阻まれミサイルはあさっての方角へと飛び去っていく。

『そんなミサイルで大丈夫か?』

冗談交じりにジュリアスは応えると、ミサイルを発射したアバローナが98mm徹甲弾を受けて腕を吹き飛ばされる。さらにもう1発が操縦席を貫通し、沈黙してしまう。

『敵機撃墜!』

『隊長、敵大型ヴァンツァーが接近中!ファウンテンスクウェア南方から2機!』

シエラの報告を聞き、とっさにカダールは南方から迫ってくる機体に目を向ける。両腕に武器腕を搭載した黒い大型ヴァンツァーが迫ってくる。

『嘘だろ・・・な、何でこんなところに・・・!?』

「11式レイブン!?」

ジュリアスとカダールは驚愕以外の反応を見せることが出来なかった。世界最強とも名高いサカタインダストリィ、ドミトーリの共同製品であるレイブンが迫ってきているのだ。

『あんなのが何さ、隊長!さっさと始末しちゃおうよ!』

「シエラ、甘く見るな!敵機の性能は非常に高い!」

余裕を見せるシエラにカダールは警戒を促すが、それを受け流すように彼女は余裕を崩さない。

『それが何?世界最強のヴァンツァーと戦う世界最高峰の特殊部隊、そうじゃなかったら面白くないじゃない!』

『同感だ。早急に始末して敵の戦意をくじくぞ。第2小隊に正面を任せて俺達はレイブンをたたく。』

接近戦に自信があるハーネルでも敵の戦力を認めているのを聞いて、カダールは安心して指示を出す。この小隊なら絶対負けることはない。シエラとハーネルの様子を見て確実に撃破出来ると感じたようだ。

「第1小隊はレイブンの迎撃に当たれ!油断をするな、敵機はあのレイブンだ!」

『そんなことは知ってるよ、隊長!』

『続け!伝説は俺達だけで十分だ!』

レジーナがダブルコメットを発砲。ジュリアスも叫びながらヴァンパイアからミサイルを発射する。テイブンはライフルの砲弾を回避、ミサイルをチャフでかわすと武器腕の57mm速射砲を連射しながらグリレゼクスに突撃する。

『最後の決戦くらい、安らかに終わらせてもらえますか・・・!?』

57mm砲弾をリヴィエがシールドで受け止め、クラヴィエを発砲する。37mm銃弾は確かに命中しているがレイブンはひるむことなく応戦する。

ハーネルはもう1機のレイブンをおびき寄せ、他のメンバーが火力を集中できるように行動している。レイブンがリヴィエに発砲しようとするが、カダールが先にレイブンへと照準を合わせる。

「誰1人欠けたくないんでな。さっさと終わらせてもらう。」

カダールがトリガーを引き、轟音と共に10cm砲弾が発射される。大口径砲弾はしっかりとレイブンの胴体に直撃して爆発するが、レイブンは平然と射撃を続けてくる。

『そんな・・・砲弾を直撃して生き残ってるなんて!?』

リヴィエは驚きながらもクラヴィエで応戦する。ここで射撃をとめれば確実に死が待っているため、驚きながらもトリガーとスティックを動かす手を止めない。

『世界最強を名乗るだけはあるんだよ。日本とザーフトラの技術を結集した複合装甲と火器、そして圧倒的な反応速度と機動力。世界最強のヴァンツァーは甘くないさ・・・』

弱音を吐きながらもジュリアスはミサイルを発射するが、レイブンはミサイルを回避してグロップへと砲口を向ける。するとカダールがバズーカを発砲する。

「弱音を吐くな、ジュリアス!最強だが撃破できなくもないだろう!?」

『・・・ええ。ハンスも撃破できたんですから。』

「それだけで十分だ。行くぞ!」

1発目の砲弾はレイブンに回避され、企業の看板を破壊してしまうがカダールは続けて2発目を発砲。レイブンに10cm砲弾が直撃するが平然とレイブンは射撃を続ける。

『化け物ですか・・・!?バズーカ砲弾の直撃を受けてたっているなんて・・・!』

リヴィエは驚きながらも57mm砲弾をシールドで防ぎ、クラヴィエで応戦する。シエラも20mm機銃とアールアッソーCで銃撃を浴びせるがレイブンは猛烈な弾幕の中からでも平然と射撃をしてくる。

『リヴィエ、弱気になっちゃだめだよ?あいつだって被弾して、無傷ってわけでもないんだから・・・とどめ、さしてやろうよ。ね?』

『・・・空爆支援を要請したほうがいいと思いますが。』

冷静にリヴィエは状況を見てから答える。確かにレイブン相手なら空爆すればそれでいいのだろうが、シエラは首を横に振る。

『あれじゃあ57mm砲で航空機が先にやられるよ!私たちしか対応できない!』

『そうですね、確かに・・・』

小型艦艇に搭載する57mm速射砲なら対空砲として十分な破壊力を持ち、超音速機やヘリではあっさりと撃墜されてしまう。シエラの指摘にリヴィエは納得し、銃撃を再開する。

シエラはハーネルが近づいてくるのを見て、そっと無線を送ってから接近する。ハーネルも意図をわかっているらしくシエラに接近する。

『何をするつもりですか!?』

『リヴィエ、レジーナはレイヴンに照準を合わせろ。見ていればわかる。』

挟み込むようにレイブンが展開、ほぼ同時に57mm速射砲を発砲する。それと同時にハーネルとシエラが回避行動を取る。

57mm弾が直撃し片方のレイブンは炎上、もう片方は体勢を立て直し銃撃を続けようとするが98mm砲弾が直撃、さらにミサイルとバズーカの猛攻を受けて爆発する。

「・・・何とかやったな。」

強敵を退けて、カダールが一息つくとトフィクの第2小隊も合流する。ファウンテン・スクウェアの敵はある程度撃破した様子だ。

『カダール、ある程度落ち着いたので合流した。解放軍は無人機を掃討し議事堂へと向かっている、俺たちも急ぐべきだ。』

「了解だ。今すぐ・・・」

突撃命令を発しようとした瞬間、リヴィエが悲鳴をあげるように報告する。

『て、敵機がこちらを包囲!レイブン4機です!近くの友軍機が・・・』

「どうした、リヴィエ!友軍がどうした!?」

『全滅です、隊長・・・レイブン、なおも進撃。われわれを狙っております。隊長、ご指示を。』

暗い声でリヴィエが報告するが、カダールは落ち着いて指示を出す。

「レイブンの火力で十字砲火を受けることは避けたい。散会し、3機ずつで応戦せよ!リヴィエとジュリアスは続け!シエラは分隊を任せる、トフィクは自由に敵機へと対応せよ!」

『了解だ。任せろ。』

『了解!』

トフィクは第2小隊をつれてレイブンへと突撃を開始、シエラはハーネルとレジーナを随伴させて別のレイブンへと突撃する。残ったカダールはリヴィエとジュリアスを連れて大通りでレイブンを迎撃するべく構える。

しばらくして、レイブンがレーダーに映る。画像を拡大すると、武器腕タイプであり右腕を掲げながら接近してくるのがはっきりとわかった。

「・・・あの動き、まさか・・・いや、そんなはずはない、何故・・・」

『隊長、攻撃指示を!』

どこかで見た動きにカダールは驚きを隠せなかったが、首を振るとすぐに指示を出す。

「応戦して敵機を食い止めろ!敵を無力化するんだ!」

『了解、発砲します!』

リヴィエは必死にクラヴィエを発砲、ジュリアスもヴェスペA4とヴァンパイアを連射するがレイブンは57mm砲を連射してくる。真っ先に狙われたのはジュリアスのグロップだった。

『ダメだ、脱出・・・』

「ジュリアス!?おい、応答しろ!!」

グロップの操縦席に57mm砲弾が直撃、煙を噴き上げて転倒してしまう。続いてリヴィエの110式陣陽も狙われる。リヴィエはシールドで防御するが57mm砲弾の直撃でシールドが真っ二つに破壊、直撃を受けて転倒する。

同時に10cm砲弾がレイブンに直撃、一旦レイブンは建物の陰に隠れる。

『隊長、すみません・・・脱出装置が故障、脱出できません。ジュリアス機の修理も・・・』

「リヴィエ、友軍が来るまで持ちこたえろ。俺がついている。」

威嚇にカダールはミサイルを発射、レイブンが隠れている場所にミサイルは着弾する。ダメージなど期待しておらず、単に威嚇しているだけだ。

『ダメです!私にかまわないでください、私は・・・!』

「俺の部下だ。ジュリアスもお前も死ぬべき場所はここではない。俺が命をかけてでもお前たちを脱出させる。リヴィエ、お前は脱出するかバックパックの修復機能を使え!」

『・・・はい、今すぐ!』

モニター越しにリヴィエが端末を操作しているのが見える。どうやらバックパックの再起動を行っているらしい。カダールは1発ずつプラヴァーを発射するが、弾薬はそう多く持たず弾切れを起こしてしまう。

見計らったようにレイブンが建物を飛び越しつつ、57mm速射砲を発射する。目標は唯一まともに稼動するヴァンツァーであるカダールのストームだ。

「吹き飛べ、吹き飛びやがれ!俺の部下を殺って、ただで帰れると思うな!!」

トリガーを引き、カダールはレイブンへと砲弾を発射するが次々にレイブンは回避しつつ両腕の57mm速射砲で応戦してくる。

リヴィエを守るためにカダールはその場を動けず、被弾しながらもホーネットを連射するが57mm砲弾が直撃しホーネットが破損してしまう。

「こんなときに・・・!」

最後の戦闘手段はシールドしかない。カダールはプラヴァーを投棄しシールドを構える。レイブンも速射砲を向け、今まさに発砲しようとする。

『・・・隊長・・・・します・・・!』

「!?」

唐突にジュリアス機のEMPが稼動、レイブンが動作を停止してしまう。一瞬だけジュリアスの無線が聞こえたカダールは戸惑ったが、リヴィエの110式陣陽が修復を終えて立ち上がるとホーネットも修理する。

『隊長、レイブンに止めを!』

「勿論だ!」

至近距離でカダールはバズーカを発射。リヴィエもクラヴィエを発砲する。動けないレイブンに大口径の砲弾が直撃し、胴体から大爆発を起こす。

『・・・戦闘・・不能・・・・』

「・・・何?」

シエラの声が聞こえた気がして、すぐにカダールはデータリンクを調べるがシエラの機体は順調にレイブンを追い詰め撃破したらしい。それより重大な問題があることを思い出しカダールはジュリアス機に近づく。

「ジュリアス、しっかりしろ!ジュリアス!」

『・・・隊長・・・』

モニターに傷まみれのジュリアスの映像が映し出される。リヴィエはすぐに機体のハッチをこじ開けようとするが変形しているのかあかない。リヴィエは司令部に衛生兵を要請しながらジュリアスに呼びかける。

『ジュリアスさん、今衛生兵を呼びます!』

『・・・もう無理だ。すぐに死ぬことくらい分ってるんだよ・・・』

カダールも一目見て、すぐに助からないと分ってしまった。操縦席ブロックを貫通した弾丸の破片が心臓や内臓に食い込み大量に出血している。衛生兵もまだ到着する気配を見せない。

「まだ助かる、あきらめるな・・・諦めるなよ、ジュリアス!」

『・・・いい隊長に出会えて幸せです・・・あの言葉、間違いじゃなかったですね・・・世界最高の、特殊部隊って・・・』

アリャート会戦の時、全員を激励するために言った言葉をカダールは思い返し、涙交じりに呼びかける。

「ああ、最高の特殊部隊だ!だけどな、それは誰1人激戦で欠けたことのない部隊だからだ・・・だから死ぬなジュリアス!俺の命令なく死ぬな・・・!」

『・・・やっぱり隊長だ。策士の癖に・・・無謀な命令ばかりして、感情に動かされて・・・でも、俺はそういうの・・・悪くないと・・・』

笑みを見せながらジュリアスは必死に言葉をつむぐが、時々咳き込んでしまう。操縦席のカメラに血が飛び散り、視界が悪くなる。

「もうしゃべるな!今に衛生兵が来る、だからそれまで・・・!」

必死にカダールはジュリアスへと呼びかけるが、すでにジュリアスからの応答が途絶え彼を移していたカメラも砂嵐に包まれる。そして数秒もしないうちにグロップが爆発、炎上してしまう。

『ジュリアスさん!』

「・・・ジュリアスっ・・・!」

数分後、シエラ達が合流し司令部から戦車回収車も到着する。グロップに大量の水と消火剤が浴びせられ何とか鎮火するが、ジュリアスが無事で済むわけないと言うことは全員がわかっていた。

『・・・隊長。ジュリアスは死んだの?』

いやな予感が当たらないでほしい、と願いつつシエラがたずねるはカダールは重い口調で答える。

「・・・ああ、そうだ。」

『・・・そうだったんだね。無線を聞いて、まさかとは思ったけど・・・』

今まで何事も無く無線で話し合っていた戦友がいなくなったことにシエラはまだ実感がわいていない。ハーネルは黙ったまま、ただ黙祷をささげている。するとルスラーンが重い声で話を続ける。

『・・・こちらルスラーン、第2小隊も壊滅状態だ。レイブンは全滅したが・・・』

『第2小隊のアーヴィトだ・・・隊長も戦死、生き残ったのは俺だけだ。』

相当な犠牲が出た事にカダールは涙を流し、ただむせび泣くことしか出来なかった。誰もかける言葉が見つからず、その場に重苦しい雰囲気が漂う。

『こちら解放軍第2師団、政府軍が降伏勧告を受諾した!戦争は終結した、各自警備行動に移り残党に降伏を呼びかけろ!はむかった場合撃破してもかまわない!』

待ちわびていた戦争終結宣言すらも彼らの心には届かず、ジュリアスや第2小隊の面々を失った悲しさを抑えることも出来ずほぼ全員が涙を流した。

バクーには依然として雪が降り続き、ジュリアス機の残骸を雪で覆い隠していく。

 

続く

 

 

(※1)
ライフルとハンドキャノンの定義があいまいなためライフルとして定義。以下設定。

98mmという最大口径のライフル。当然ながら重量もかさみ相応の出力があるヴァンツァーでなければ搭載できない。フォアエンドのスライド機構を前後させて稼動させる仕組みのため連射速度はないが発砲音が非常に大きく貫通力にも優れている。またオプションで低倍率スコープへの換装も可能でありある程度近距離戦闘にも対応できる。
OCU軍の次期正式採用ライフルとしてインターゲーンがプロトタイプを試作。それをストレラ工廠で完成させたものが市場に流通しているがほとんどEC圏の販売でOCUではアイビスという信頼性の高いライフルが存在したため販売は少ない。
一応アイビスと弾薬は共通で貫通力、射程距離ともにほとんど同等とされている。ただしアイビスよりも後発のため各種アクセサリーを搭載可能でありストレラ工廠で生産されたタイプにはEC規格のマウントレールが追加されている。

(※2)
後期方のシーキング。以下設定。

88mm速射砲を固定装備、ヴァンツァー対策と対空用に38mm旋回機銃を搭載した大型機動兵器。当初は単機での都市制圧ができるという触れ込みだったが第2次ハフマン紛争以降、大型機動兵器の運用ドクトリンが見直され中距離火力支援、および近接戦闘に運用できる機体とイグチ社、OCU軍からは位置づけられた。
B型デバイスの生産停止を受けてイグチは独自の姿勢制御システムを採用。各部分のスペースを削りB型デバイスよりも大型のシステムを導入するスペースを確保した。
既存のヴァンツァー用ライフルを連射できるほどの火力は重宝されたがすでに15.5cm砲搭載型のガベルや小型でさらに火力を増大させたギガスといった後継機の登場、さらに余剰スペースを切り詰めたためにこれ以上の発展が難しく2098年には生産ラインを停止してしまう。
図体の割には小回りが利き、踏破性能も高く日防軍で採用されたほか、OCU諸国でも経済力に余裕のある軍隊も採用している。USNは部品調達の困難を理由にザーフトラ軍に売却。ザーフトラはすでに保有していたシーキングと合わせて運用している。

(※3)
あきらかに7インチ(17cmくらい)ではないので7cmと設定。以下解説。

レオノーラ社製のボルトアクション型ライフル。フォアエンド部分のレバーをスライドさせて次の弾薬を装填するタイプ。エンパイア、コブラと同系列のシリーズであり機構自体に変化はない。
特殊な70mm徹甲弾を採用。2080年度に発見された人工プラチナを弾丸の内部に組み込むことで弾丸の重量を非常に重くし、貫通力を高めることに成功した。これにより70mmと中型ライフルより小さい口径でありながら貫通力は1クラス上のライフルと同等であり軽量ながらあらゆるバランスの取れたライフルとなった。
ただし弾薬の高価さがネックでありOCU正規軍などでもそれほどの数は採用されていない。レオノーラ社はこの弾薬を使う艦艇用70mm速射砲などを提唱し次世代IFVにこの70mm弾を使うことが決定された。

 

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