Front misson Brockade

Mission-15 Decisive battle of Alat

 

2/21 プリサート前線基地 0940時

「・・・いよいよ、か。」

小都市であるプリサートの北1kmに大規模な前線基地が築かれ、ヴァンツァーや戦車、IFVなどが多数集結している。最新型ヴァンツァーが多数集まっているが旧型のもそれなりの数がいる。

カダールはその壮観さに息を呑む。一度にこれほどの戦力が集まった会戦などそうそう例は無い。簡単なカモフラージュネットを真上に張ったテーブルとベンチが設置されている場所にシュトゥルムピングィンが集結する。

「ついに来るときが来たって感じね。政府軍もはっきりと見える・・・」

北15kmに政府軍部隊がはっきりと見える。シエラが双眼鏡片手に展開する政府軍部隊を視認しているが敵軍からも砲撃する様子は無い。

こちらの出方を伺い、迎撃するのだろう。真っ白な雪原の向こうに政府軍の黒いヴァンツァーが浮かび上がる。65式や大型機動兵器がはっきりと確認できる。

「・・・シエラ、緊張しているのか?」

「まさかぁ。あんなに一杯いたらどれから撃墜するか迷ってるだけ。」

軽い口調でシエラは答えるが、若干震えている。ハーネルはやはり緊張するのだろうとシエラを見て少し納得してしまう。

「やはりお前でも緊張するか・・・安心しろ、俺もだ。」

「よかった。けどこれだけの数が居て私達が役に立つのかな?」

率直な疑問符をシエラが投げかける。特殊作戦ならとにかく、これほどの大規模な戦力が集まる会戦ではそれほど能力を発揮できないのではないか、と思ってしまったようだ。その問いにリヴィエは冗談めかして答える。

「役立ちますよ。2機で18機を撃破したのでしょう?」

「12機の間違いだ。それといつそんな話を聞いた、リヴィエ。」

「皆さん話してましたよ?グルジア内戦で全身を複雑骨折しても2日後に出撃したとか、PMOで出撃した際はハフマンの魂の敵機100機を相手に7割を撃破して生還したとか。ベイルアウトしても弾丸をしゃがんでよけて手榴弾でヴァンツァーを破壊したとか。」

「俺は化け物か!?」

そんな突込みをカダールはしてしまう。大体同盟軍の兵員は自分をハンス・ウルリッヒ・ルーデルか何かと勘違いしているんじゃないだろうかとリヴィエから聞いた噂話を聞いて感じた。

「ズィリエーズナヤ・ローシァチを6機のヴァンツァーで行動不能にしておいて、今更謙遜するのかい?」

「そうじゃないが・・・」

「だったら喜んでいいことだと思うけどねぇ。一部じゃモンスター・ペンギンとまで呼ばれてるのに。」

何なんだとカダールはため息をつく。いくらなんでももう少しまともな呼び名は無いのかと思ってしまう。

「・・・しかし敵戦力もずいぶんなもんだ。今UAVの画像をハッキングして見てるが300機のヴァンツァーと相当数の戦車やIFVを備えてる。大型機動兵器ではこちらの戦力が上だ。ギガスとかアルマジロを持ってきたからな。」

これまで鹵獲した大型機動兵器、そしてセンダー社から供給されたラバントを4機配備している。対する敵軍はジウークやシーキングなど旧型の大型機動兵器が4機程度。質、量ともに上回っている。

会戦なら機動力の高いラバント(※1)は相当な性能を発揮するはずで、相当な戦果を期待されている。他にもイーゲルツヴァイなどの新型機種やガストなどを集結、何とか290機程度の戦力をかき集め、車輌も多数用意している。

「カダール少佐、それとシュトゥルムピングィンの皆様。アイゼル首相からの訓示です。」

「了解。」

同盟軍の兵士がラジオを持ってくると、ノイズが数秒ほど聞こえた後に厳粛な声でアイゼルが演説を始める。

『同盟軍諸君、私はアイゼル首相である。まずはこの会戦に参加してくれた皆に心ばかりの賛辞を送りたい。今、我々の戦いは最終局面に移ろうとしている。祖国を奪還できるか、二度と日の目を見ることがなくなるかどちらかという重大な局面だ。だが、諸君なら必ずこの困難な闘いを勝利に導けるものと信じている。』

いつもと違うアイゼルの調子にシエラは戸惑いながらも、訓示をしっかりと聞く。

『79年前、我々は祖国をザーフトラの併合という形で再び奪われた。かつてのソ連は我々の祖国を奪い、ロシアは黒い一月事件により多くの国民を殺したのだ。我々にとってザーフトラは祖国を脅かす仇敵である。それに尻尾を振り、従属してきた現政府は祖国を脅かす国賊である。我々の戦争は国土を荒廃させるものではない。ザーフトラから誇りを取り戻し、祖国を繁栄に導くための戦いである。』

ここにきて、冷静なアイゼルの口調が熱を帯びた物へと変わっていく。

『我々の政府は国民のものであり、秘密警察や検閲を行う100年以上前と何もかわらない政府のものではない!我々は政府軍に引導を渡すため結集した。それこそが国民の願いであり、ここに集う我々の悲願でもある!今こそ立ち上がり、奪われた祖国を取り戻せ!』

訓示が終わると同時に、あちこちから歓声が上がる。気丈なアイゼルの声などめったに利いたことも無くカダールは新鮮だな、と感じたが高ぶる感情を押さえ込んで立ち上がる。

そして、ヴァンツァーへと乗り込むと友軍と歩調をあわせて前進する。その途上、カダールは通信を部隊へと入れる。

「シュトゥルムピングィン全機、良く聞け。何も無いランカランの資材集積所から従軍した者、同盟軍の威勢を聞いてはせ参じた者・・・入隊理由も、戦う理由もさまざまだろう。だがこれだけはいえる。お前達は精鋭だ。いかなる特殊部隊にも引けをとることは無い。」

はっきりとカダールは話し、さらに冷静に言葉をつむいでいく。

「我が祖国と、シュトゥルムピングィンの誇りを持って戦え。以上だ、各員の勇戦に期待する!」

了解、と隊員から返事が届く。カダールは必ず勝つと心に決めると政府軍のIFVであるBT77D1(※2)に照準を合わせ、ミサイルを発射する。

ほぼ同時に両軍が多数のロケットを射出、爆風を避けながらシュトゥルムピングゥインが真っ先に政府軍に突撃していく。

『数なんて、もう気にしないよ。ここで全部倒す!』

雪原を埋め尽くすほどの政府軍にもシエラはひるまず、向かってくる67式めがけ片っ端から20mm機銃とアールアッソーCを射撃する。

無数の曵光弾が飛び交う中で政府軍の67式は次々に炎上していく。友軍ガストも38mm銃弾が直撃して爆発してしまうが、かまうこともできずストームは10cm砲弾を発射。

ジュアリーを連射しているクイントに10cm砲弾が直撃、爆発する。戦果の確認もせずカダールはミサイルを発射し続けるワイルドゴートめがけ発砲。

プラヴァーが4発発射され、胴体に次々と直撃する。ワイルドゴートはロックオンをかけて91式誘導弾を発射しようとするがその前に10cm砲弾が直撃し、大破炎上する。

「撃破した、次だ!」

『敵機確認、イグチの新鋭型接近です!』

リヴィエが報告すると同時にジュリアスがディスプレイに敵機を映し出す。イグチ社が製作した大型のヴァンツァーでありリヴィエが敵機の詳細を見てカダールに報告する。

『敵機解析完了、イグチ社製造の93式金剛(※3)と確認!機動力があります、気をつけてください!』

『任せときな!相手してやるよ!』

レジーナがアイビスを発砲。93式金剛のシールドを一撃で真っ二つにたたき折る。目標をジャリドと認識した93式金剛は38mmガトリング砲を発射する。

すかさず射線にリヴィエが割り込み、ガトリング砲の銃弾をシールドでガードする。

『悪いね、リヴィエ!』

『気にしないでください、応戦します!』

一気に93式金剛が距離をローラーダッシュで縮め、ジャンプしながらアッパーカットを浴びせてくる。衝撃が強かったのか、リヴィエのシールドが吹き飛ばされる。

『何やってるのさ!私がいないとダメなの!?』

『いえ、任せてください。シエラさん!2機いれば大型ヴァンツァー程度、何とかなります!』

それだけいうと、リヴィエはクラヴィエを発砲する。レジーナもアイビスを発砲し93式金剛を損傷させていく。

『本当に任せるよ!こっちも余裕はあんまりないの!』

『感謝しますよ!支援しようとしてくれた気持ちだけで十分です!』

シエラはそれだけいうと、150X式に猛烈な銃撃を浴びせる。リヴィエとレジーナは93式金剛に攻撃を仕掛けるが、93式金剛は突進しナックルで110式陣陽を殴りつけようとする。

『あれをくらったら、ただでは・・・!』

リヴィエは110式後退させながら目をつぶる。ナックルが直撃する寸前に93式金剛が爆発。そのまま倒れこむ。上空からミサイルが直撃して爆発したようだ。

『大丈夫か?今UAVのミサイルを誘導してぶっ壊したが・・・』

『感謝します、ジュリアスさん。』

短く答えると、リヴィエは損傷している友軍ガストに近づきリペアバックパックを稼動させる。修理の間、67式が突撃してくるがレジーナは脚部を狙撃して転倒させる。

67式が転倒したところにグロップがヴェスペA4を発射、胴体に直撃し67式は爆発する。するとルスラーンから連絡が入る。

『政府軍は中央に戦力を集中させてきた。どうしてもシュトゥルムピングィンを狩りたいらしいな・・・気をつけてくれ!』

『了解!』

見慣れないカラーリングのゼニスやギザも接近してくる。中にはカルドやシャムシール(※4)といったリヤード・アーマメンツ製も混ざっているがおそらくアルメニア軍だろう。

「アルメニア軍・・・!全軍、油断するな!政府軍よりは数段強い!」

『了解!』

ある程度アゼルバイジャン軍と交戦経験もあるアルメニア軍はそれなりの強敵でもある。カダールは叫びながらも照準を合わせ、ホーネットを発砲する。

10cm砲弾がギザに吸い寄せられるように直撃、爆発したところに友軍ツィカーデがミサイルを発射。ギザは原形をとどめないほど木っ端微塵に吹き飛ばされる。

「シエラ、そっちは大丈夫か!?」

『おっけー、まだいける!けど弾薬が・・・』

150式を撃破し、続いて向かってくるゼニスに銃撃を浴びせるがシエラは少し不安げな声で話す。コンソールに示されている弾薬が残り少ないためだ。

『こちらルスラーン、物資を投下する。』

ルスラーンやUAVが大型のコンテナを投下する。シエラはそれを見ると、ゼニスを撃破してからコンテナに接近してコンソールを操作する。

後部の弾薬バックパックからアーム(※5)が伸びて、ガストの武器腕に20mm弾を装填していく。その隙にアルメニア軍のジラーニが突撃してくるが、横からハンドロッドで殴られて転倒。至近距離でショットガンを発射され火花を散らし沈黙する。

『補給中くらい誰か呼べ、シエラ。』

『やだ。ハーネルに迷惑かけたくないし。』

まったく、とハーネルはため息をつく。ある種の強情さがシエラにはあることはわかっているためそれ以上は何も言うこともない。

淡々とショットガンで67式を迎撃、衝撃でひるんだ隙にハンドロッドで殴りつけて沈黙させる。

「迷惑はお前が撃破されることだ、シエラ。護衛を頼む。」

バズーカとミサイルは弾数が少なく、すぐにカダールのストームも補給に戻ってくる。それと同時にアールアッソーCへの補給を完了したガストは再び銃撃を開始する。

『戦力って意味ならほかの4人もいるし、大丈夫じゃない。すぐ代えのヴァンツァーを投下してもらえばすむんだから。』

「そういう問題でもないが・・・まぁいい、撃墜されるなよ!」

『わかってるよ!』

うっとうしいなぁとシエラは思いながらも政府軍の103式めがけ20mm機銃を発射する。するとジュリアスが通信を入れてくる。かなりあせっている様子だ。

『レジーナからの応答が途絶している!5分前から応答がない!』

「何だと!?」

カダールも報告を聞いて、すぐに無線をかけるが応答がない。その瞬間にカダールは頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなってしまう。

「・・・レジーナが・・・!?」

『隊長、敵機が接近してる!』

ダークホッグの銃口をストームに向けるゼニスめがけ、シエラは20mm機銃で銃撃を浴びせる。ゼニスはとっさに目標を変更しようとするが、間に合わず猛攻を受けて爆発。

『シュトゥルムピングィン各機、隊長を援護して!このままじゃ・・・!』

動きを止めていてはまず間違いなく撃破される。カダールはレジーナが行方不明になったという報告に動揺して判断力が落ちている。

シエラはそう判断して、友軍機にカダールを援護するよう指示を出す。とたんにシケイダやガストががっちりとストームの周囲に集まり、向かってくる敵機を迎撃する。

「シエラ、お前・・・!」

『レジーナさんも不安だけど、隊長まで撃破されたらこっちが壊滅しちゃう!私たちが隊長の分までがんばるから、勝手にふらついたりしないでね!』

今は生き残ることしか考えられない。シエラはそういいながらもアールアッソーCでプレジスを射撃する。ミサイルを発射しようとしていたプレジスは体制を崩すが、すぐにミサイルを発射。

するとグロップが接近、ECMバックパックを稼動させミサイルの誘導を妨害する。すかさずリヴィエがクラヴィエを発砲し、プレジスを撃墜する。

『まったくです・・・隊長、政府軍は数に任せて中央突破を図っています。すぐに指示をお願いします。』

『大型機動兵器も向かってきてる、落ち着いたら頼むぜ、隊長。』

必死さをできるだけ押さえ、暖かい口調でリヴィエとジュリアスはカダールに呼びかけるとアルメニア軍と政府軍のヴァンツァーに射撃を加える。

「・・・俺は落ち着いた。戦線に復帰する。」

カダールは友軍ヴァンツァーを押しのけゼニスに狙いを定める。

10cm砲弾を発射するが、ゼニスに命中せず砲弾はあらぬ方向へと飛んでいく。カダールはレジーナのことが気がかりで照準もなかなか合わせられないらしい。ゼニスは反撃にレオスタンを発射、ストームの正面装甲をえぐっていく。

「・・・」

バズーカはうかつに撃てない。カダールがどうするべきか迷っている間にもストームは20mm銃弾を受けて損傷していく。ロックオンをすぐに仕掛け、ミサイルで狙いをつける。

『しっかりして、隊長!』

銃撃中のゼニスめがけシエラが20mm機銃を連射。すぐにカダールもミサイルを発射してゼニスに攻撃を仕掛ける。側面と正面から攻撃を受けてゼニスは沈黙し、倒れる。

「わかっているが、レジーナが・・・」

沈んだ声でカダールは答える。脱出したはずのレジーナに砲弾を直撃させることはできない。カダールの10cmバズーカならすぐ近くに着弾しても危険だ。

そのことを不安に思っているためか、誘導性能の高いミサイルしかカダールは発射しない。するとリヴィエが無線を入れる。

『今、友軍IFVがレジーナさんを保護したと無線が入りました。隊長。』

「本当か!?」

身を乗り出しそうな勢いでカダールはリヴィエにたずね返す。リヴィエは冷静に応答を返すと、カダールはもう大丈夫だとうなずく。

「皆、悪かった。反撃に転じろ!弾薬補給している味方はなるべく護衛にまわれ!」

『了解!』

『隊長・・・あんたはこうでないとな。』

ハーネルとシエラは隊長がいつもどおりに戻ったのに安心して、片っ端から敵機を迎撃していく。T-87(※6)はミサイルを発射するがサイドステップでシエラが回避し、ぎりぎりまで接近して銃撃を浴びせる。

T-87も砲塔上部の30mm機銃で応戦するが、ハーネルがハンドロッドを30mm機銃にたたきつける。機銃が沈黙したところにシエラは至近距離から戦車上部にアールアッソーCを発射。

40mm銃弾が戦車を貫通、T-87が爆発する。シエラは爆発を確認してからレーダーを見ると敵の数が少なくなってきている。

『敵機の数が減ってる!増援も来てない!』

シエラの報告に、カダールは思わず笑みをこぼす。物量で優勢に立つ政府軍が増援をとめたということはもうアリャートに繰り出せる戦力がなくなったというべきだろう。

そんな判断をしながら、ホーネットでカダールは接近してくるゼニスを射抜く。操縦席に直撃弾を受けたゼニスは炎上し、ゆっくりと倒れてゆく。すると、ルスラーンが朗報を冷静な声でもたらす。

『こちらルスラーン、同盟軍は両翼から政府軍を包囲した!政府軍は壊滅しかかっている!』

「了解だ。シュトゥルムピングィン、攻勢に転じろ!」

カダールが指示を出せば、そのままシュトゥルムピングィンがいっせいに攻勢へと転じる。それに引きずられるように同盟軍のヴァンツァーや装甲車も攻勢を仕掛ける。

両翼から包囲され、友軍のミサイルやライフルで次々に撃破されていく。かなわないと思ったのか、政府軍の機体は次々に逃亡を開始する。

『政府軍、撤退中!一部部隊が抵抗していますが投降も時間の問題でしょう。』

「わかった、リヴィエ。それよりレジーナはどうした。」

カダールの問いに、リヴィエは言葉を詰まらせる。どう答えるべきかわからず、何もいうこともできない。黙っているリヴィエに、カダールは口調を強めて問い詰める。

「どうした、何故黙っている・・・リヴィエ、レジーナは友軍のIFVに保護されたんじゃないのか!?」

『・・・嘘です。レジーナさんは見つかってません。これからの捜索で見つかる確率は15%程度だと・・・』

「何故俺に嘘をついた、リヴィエ!」

バズーカの砲口を110式陣陽に向け、カダールはリヴィエに問いかける。返答しだいでは一撃で撃破する、とでも言いたげにバズーカの装填音が鳴り響く。

『私もシュトゥルムピングィンの一員です、隊長。』

「何!?」

『会戦で、拮抗している局面で隊長が指示を出せない状態にある、それがどれほど危険なことかわかりますか?私は部隊を救うために嘘をつきました。あの局面で隊長に倒れてもらうわけには行かなかったんです。レジーナさんも気がかりですが、隊長がいなければ隊の士気が維持できません。』

冷静な口調でリヴィエは答える。もっともな意見ではあるが、理解しようともせずカダールはトリガーに手をかける。

「リヴィエ、お前・・・」

『隊長、そこまでだ。リヴィエもリヴィエだが、隊長もそのくらいにしてもらう。レジーナもリヴィエも、部下としては大事な存在だ、違うか?』

わざとらしくレーダー照射を仕掛け(※7)、ハーネルは冷静さを取り戻させようとする。相変わらず口調は硬いが、2人を気遣っている様子だ。

「・・・すまない、ハーネル。それにリヴィエも。」

『俺は気遣うな。それより・・・』

少し沈んだ口調のカダールを見てハーネルは安心するが、リヴィエにも無線を入れる。

『リヴィエ、結果で行動は正当化できるものではない・・・隊長をだましたんだ、それくらいわびるべきではないか?』

『・・・ええ、申し訳ありません。隊長。』

リヴィエが落ち込んだ様子でカダールに謝ると、無言でカダールは友軍機を追って進撃する。その様子を見てシエラはそっと声をかける。

『隊長・・・』

「安心しろ・・・リヴィエのことはすでに許している。それよりもレジーナの捜索だ。シエラは少将に情報を仕入れるよう説得してほしい。ジュリアスはあらゆる手段を持ってレジーナのことを調べてくれ。俺が全責任を持つ。」

『了解。』

ようやく落ち着いたのかカダールは冷静に答え、シエラとジュリアスもまじめに応答を返す。

『シュトゥルムピングィン全機、よくやってくれた。改めて礼を言おう。アリャート市街地に進軍し、次の出撃を待て。』

「了解・・・」

一瞬でも目を離してしまったために、撃破された瞬間すら見ることもできなかった。ディートリッヒの声にカダールは沈んだ返事しかできなかった。

それはシュトゥルムピングィンのメンバー全員の気持ちを表しているかのようで、ディートリッヒも元気付ける言葉を持たぬまま通信を終える。

 

1900時 アリャート近郊仮設基地

「・・・疲れたね。」

シエラはふぅ、とため息をついて仮設宿舎の休憩室にあるいすに座り込む。8時間にも及ぶ激戦の結果は味方ヴァンツァーの100機近くが行動不能および撃破。対する政府軍は250機が撃破されしかもアリャートを失った。

正面の攻勢をシュトゥルムピングィンが抑え、両翼から友軍が政府軍を包囲して勝利したが・・・シエラはレジーナのこともあり、なかなか疲れが取れない。

「・・・当然だ。仲間を1人失えば気分も沈む。」

「ハーネルもそんなことあったの?ザーフトラ軍の時に。」

割と平然と答えているハーネルを見て、シエラは率直に疑問符を抱く。

「隊の仲間を2度ほど、な。1人は戦場で死んだが、もう1人は基地で死んだ。俺たちが「任務」で葬った兵士の妹が部隊長を射殺した。護身用のサブマシンガンで・・・即死だった。」

「任務」の内容はシエラも察しがついているため、口を挟めずうなずくことしかできなかった。

「・・・そうだったんだ。」

「ああいう手合いの連中は柄の悪い連中ばかりだったが・・・それでも戦友だ。その隊長が死んだ後は最悪だったが、あいつの時は軍隊として規律もしっかりしていた。隊長は上層部の意見を無視して左遷させられた軍人だったから、規律とか特にうるさかったな・・・」

こくこく、とシエラはうなずいてみせる。その隊長がいる間はいい部隊だったのがわかった様子だ。しかしレジーナのことを思うとかなり不安になってしまう。

「・・・ね、ハーネル。」

「何だ?」

「レジーナ、帰ってくるかな?」

不安になってシエラがたずねると、ハーネルは目を伏せてから答える。

「・・・会戦の規模が大きすぎる。ヴァンツァー用の火器は薬莢だけでも人に重傷を負わせる・・・生きている確率は低いだろうな。」

「そう・・・」

「だが、あくまでも確率だ。死体が見つからない限り、生きてると考えたほうがいい。」

そうだね、とシエラもうなずくがやはり沈んだ表情でしかない。たった1人以内だけで、これほど心に大きな穴が開くとは考えられなかったようだ。

うつむいたまま、シエラはいすに座り物思いにふけってしまう。ハーネルは立ち上がると、外の空気を吸いに出かける。

「・・・やれやれ、だな。」

ほかの宿舎では会戦の祝勝で大盛り上がりだが、ハーネルもそれに混ざろうとは思えなかった。レジーナの無事を確認してから、盛り上がればいいとも考えしばらく宿舎付近を歩き回る。

 

「・・・リヴィエ、隊長は?」

「ふさぎこんで寝てます。」

そうか、とジュリアスはうなずきノートパソコンで記録がありそうな場所を徹底的に調べ上げる。政府軍の捕虜認証タグのデータベースを調べ上げてもたいした成果もない。

「・・・それより、ジュリアスさん。このデータベースで調べてくれますか?」

「これ?」

リヴィエから差し出されたアドレスを見て、疑問符に思いながらもジュリアスは調べ上げていく。

「どこのデータベースだ?あちこちのテロの記録や軍の動きが乗っているが・・・」

「今月と先月分の記録があるでしょう、それを。」

リヴィエは疑問に答えず、淡々と指示を出す。ジュリアスは疑問符を抱きながらもそのとおりに操作すると確かに何かの記録が出てくる。どうやら捕虜移送についての記録らしい。

「リヴィエ、お前スペンダーか?」

「違います。一市民ですよ。」

見たこともないデータベースを見ながら、ジュリアスはリヴィエがいったいどういう人物なのかと思ってしまう。明らかにどこかの情報機関であろうデータベースに一市民がアクセスできるはずもないし、アドレスを知っているわけもない。

「じゃあ、どうして・・・」

「聞かないでくれますか?聞いたら貴方のことも言いますよ。」

自分のことと言えば、ハフマンの魂がらみだろうかとジュリアスは表情を硬くする。内情はわかっているとはいえ今でもヴァンツァーを有する武装勢力であることに違いはない。悪く言えばテロリストだ。

「じゃああんたはこの情報だけを信じろって言うのか?あんたがどこの誰かもわからない上に、一市民だとごまかしておきたいのに。」

「そのとおりです。ですが・・・だますつもりならそんなファイルを渡す真似もしません。それに・・・悲しいのは私だって同じです。貴方なら隠し事の必要性がわかると思って話したんですが。」

キーボードを打つ手をとめて、ジュリアスはそうだなと納得してしまう。もっとも、それを暴くことがスペンダーではあるのだが。

「・・・わかった。パスワードが特殊だが何とかやってみよう。リヴィエ、今度こそ信じるけど・・・嘘だったら承知しないからな?」

「もちろんですよ、ジュリアスさん、解析をよろしくお願いします。」

軽く会釈をして、笑みを浮かべるとリヴィエはその場を立ち去っていく。残されたジュリアスは独自のパスコードクラッカーを使用しハッキングを開始する。

このデータベースはおそらく、リヴィエが参加しているものなんじゃないかという憶測を考えたがそれ以上は考えるだけ無駄だと考え、そのまま検索を続ける。

 

続く

 

(※1)
2093年に製造開始されたB型。正面の砲塔は32mmガトリング砲、上部砲塔にロケットランチャーを搭載したタイプ。また増加装甲を搭載して接近戦での戦闘遂行能力を高めている。

(※2)
BT77の主砲を30mm機銃および対戦車ミサイルに換装したIFV。元々BT77は歩兵戦闘用に特化した車輌でありこのタイプは2094年度の最新型。歩兵6名を搭載可能にしているが、車体の構造上上部ハッチしか出入りができない。砲塔は10.5cm砲や20mm対空ガトリング砲および対空ミサイルの組み合わせも可能。

(※3)
イグチ社開発のダイアウルフ。以下解説。

サカタインダストリィ系の技術者がイグチに移籍した際に開発した大型ヴァンツァー。同時期のレイブンやゲパルドアハトなどと同じ規格で設計されている。大型の肩シールドを標準装備し機動力を発揮するために薄くした装甲を補っている。
武装は38mmガトリング砲とナックルを標準装備するが38mmガトリング砲は換装可能。胴体火器は火炎放射器や38mm機銃を想定している。新型のアクチュエイターを装備。さらに反応速度を高めに設定することで操縦性もかなり軽くできる。
一説にはS型デバイスの専用機として設計されたともいわれているがアクチュエイターの反応速度を最大に調整しただけであり少数のデバイス専用機という発想では採算が取れないため間違いである。
大型ヴァンツァー不足の日防軍に指揮官機として2094年度に15機ほどが納入されている。アゼルバイジャンに運び込まれたのは実戦テストの意味合いが強い。
ダイアウルフというのはUSN側のコードネーム。イグチ社製は「〜ウルフ」とUSNでつけている。まぁ解りやすく言えば零戦を「ジーク」と呼ぶようなもの。金剛→金剛石→ダイヤという流れで命名された。

(※4)
リヤード・アーマメンツ社の最新鋭機種。解説を。

流線型のフォルムが特徴的な中量前衛機。RA社の技術の結晶でありゼニスやフロストとは違い機動力に最大のパフォーマンスをおいて開発されている。装甲に複合素材を利用し、同世代の機体と同等の装甲を確保しつつ各部分を軽量化している。
エンジンも軽量化し、出力が少々細いもののほかのパーツも十分軽量化し負荷を抑えているためフルセットでさえ組めば他の機体と同等の余剰出力を確保できる。
機動力は高く、その流麗なフォルムもあいまってCAUの主力機として採用。2094年までに輸出用150機、国内向け300機が生産されこれからも増産が見込まれている。性能面でもゼニスやフロストと互角に張り合えるだけのものを持っている。

(※5)
弾薬バックパックは今回のアイテムバックパックである。アイテムの存在意義が微妙なのでバトルフィールドのように弾薬箱で補給できるシステム。
アームをつけてるのは当然弾薬を補給するため。まさか戦闘中にいちいち武器放り投げたりはずしたりして弾薬を補給するというのはないだろう・・・それに武器腕にも補給するようにしたかったため。

(※6)
ドミトーリ公社製MBT 以下設定。

最大級の主砲である14cm砲を搭載したドミトーリ公社の戦車。他国の戦車と比べても強力な主砲を装備し装甲も分厚いため「現代最強のMBT」とも呼ばれている。
砲塔上部に対空、対ヴァンツァーを意識して30mm機銃を搭載。さらに主砲からミサイルを発射可能と数多くの新機軸を盛り込んで製作された。第二次ハフマン紛争時にUSNや傭兵部隊に供給され、高い評価を得ている。さらにミサイルの迎撃装置まで搭載している。
ただし評価は良かったもののコストもかなりのものになり、ザーフトラ以外では前述の傭兵部隊、USNの一部部隊以外では使用されていない。周辺各国でも経済力に余裕のあるラーブヌイ程度。

(※7)
ミサイルのロックオンもできるのだからヴァンツァー本体にロックオンできるようなFCSが搭載されているものと言う設定。ミサイルのモジュール本体にプログラムが書き込まれているかもしれないが・・・

 

補筆〜S型デバイス専用は嘘?〜
S型デバイス専用という事場をヒストリカでよく見かけるが、言葉が足りていないとしか言いようが無い。正確に言えば「S型デバイスで最大のパフォーマンスを引き出せる」機体というべきだろう。
アクチュエイターは交換するなり調整なりで反応に差異が出る(4th)からおそらくよりスムーズに動かしやすいように設計しているものの、スティックなどを倒しても反応が強すぎるだけに正確に狙いをつけにくかったり、操縦しずらいために専用といっているのだと判断できる。
逆に言えば反応速度をわざと遅らせれば普通に使えるはずである。そもそもそれほどの数も無い(OCUでは正確な数が不明。USNもそう多くない)S型のためにヴァンツァーを設計するメリットはほとんど無い。既存のヴァンツァーのアクチュエイターを交換し(2で交換用という記述を見ると出来る様子)操縦席をデバイスに適応させる程度でいい。そして操縦席ブロックごと射出できる(5th)のだから換装は簡単でありこの周辺を交換する程度でいい。そもそも専用機を作ること自体ヴァンツァーの設計概念に反する(換装による汎用性が売りなのだから)。
F-117のような運用思想ならまだしもそれならば「特殊作戦用」と明記すべきでありそれ相応の設定もあるはず。無いという事は無いと見るしかない。

大型ヴァンツァーが滑らかに動かせるソフト面やハードの技術を評価すべきでありS型専用はあくまでも副産物で「使いやすい」程度と見るのが妥当だろう。
わざわざデバイスのために設計するよりは何かの運用思想があったと見るべきである。そう考えるとこれまでの大型ヴァンツァーであるグリフィンやレイブン、テラーンDの強力さを見て「大型ヴァンツァー構想」なるグランド・ガンボート構想の裏が存在したはずである。
そうなればゲパルドノインや克黒、ダイアウルフなどが開発されていった経緯にもつながるのではないだろうか?この構想はぜひ次回あたりにでも出したい。

追記
気になるのは「イグチ社が総力を挙げて開発した」とある。
用途から見れば総力を挙げるべきでもなく、日防軍のシェア争いに加わる方に総力を挙げているはずである。霧島重工に主力機すべてを埋められたとは言っても格闘機や支援機のシェアは残っている。
ここに力を注いでもおかしくないのだが何故かブルータルウルフ、テラーウルフの設計に総力を注いでいる。そう考えるとブルータルウルフ、テラーウルフはすでに日防軍に納入されていると見てもおかしくはない。OCUが顧客かもしれないが。

そんなわけだから、次回作にはオリーブドラブ色の日防軍塗装ブルータルウルフを見たいものである。

 

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