Front misson Brockade

Misson-14 Hosptal Defend

 

2/16 ビラスバル臨時ガレージ 1100時

「ここも久しぶりだなぁ。ちょっとしか経ってないのに懐かしく感じる。」

臨時のガレージにヴァンツァーを止めて、シエラは不思議な気分がしてしまう。たった2週間程度しか離れていないし、故郷でもなんでもないのに懐かしく思ってしまう。

ガストから降りると、シエラは早速格納庫から外に出て反対の通りにあるファーストフード店に入る。パラダイス・バーガーと呼ばれる全国チェーンでありビラスバルにも出店している。早速店内に入ると人が何人かいてすでに注文を取って食べているようだ。

シエラもパラダイス・バーガーのセットを頼むとちょうどレジーナが葉巻を吹かしながら座っていたため合い席に座る。

「レジーナもこういうの好きなの?」

「いや、喫煙していいって飲食店がここくらいしかなくってね。」

そっか、とシエラが納得する。キューバ産と思われる葉巻の煙は空調に吸い込まれていくため煙たくも無くシエラは落ち着いて話を続ける。

「キューバ産の葉巻ばっかり吸ってるの?」

「まぁね。ザーフトラに結構入ってくるから調達もしやすいのさ。あんまし軍でも吸ってる奴が少なくてあまってるし。」

意外と葉巻を吸う人物は少なく、将校などが残していったものも多いため格安で手に入るという。シエラはなるほどね、と納得してしまう。するとレジーナが突然話題を変える。

「隊長の具合はどうなんだい?」

「うん、意識も戻ったし3日くらいすれば退院できるって。アリャートの会戦には間に合いそう。」

「5日後の作戦ねぇ・・・」

オペレーション・アイアンランスと同盟軍では呼称されている。史上初のヴァンツァー同士による大規模会戦の作戦名であり政府軍、同盟軍ともに最大級の戦力をそろえている。ヴァンツァーが両軍あわせて500機、そしてIFVや戦車なども加わった大規模な戦闘が想定される。

シュトゥルムピングィンは最も攻撃の激しい中央部分に配置される。精鋭を要に配置するのは当然のこととも言える。

「真正面からぶつかり合うってのもなんかねぇ。作戦も何もあったものじゃないと思うけど。」

「そりゃあそうだけど、勝てば政府軍を一気に壊滅させられるし。世界的にも「私達が勝利した」っていい宣伝になるからさ。頑張ろうよ、ね?」

力でも政府軍を圧倒したとなれば、全世界にアゼルバイジャンの革命が成功したと印象付けられる。もう軍事クーデターどころか内戦に近い状態ではあるが。

それでも天王山の戦いともいえる会戦で勝利することは大きい。レジーナもその意味を理解しているらしく、こくこくとうなずく。

「まぁ、がんばってあたし達で犠牲減らすか・・・その会戦さえ終われば内戦も一気に終結してしまいそうだし。」

そうだね、とシエラもうなずく。政府軍の戦力を一気に減らせれば、首都の防衛ラインまで一気に押し寄せることができる。もっともザーフトラ軍も加勢しているため、首都陥落まで一気にとはいかない。

「んじゃあ、がんばって・・・」

レジーナが気合を込め、シエラがパラダイスバーガーにかぶりついた瞬間いきなりのように爆発音が鳴り響く。そして2人の持っている無線機に連絡が入る。ビラスバル基地司令からだ。

『緊急事態発生、緊急事態発生!ビラスバル市街地にヴァンツァーが侵入、敵部隊だ!』

「うそ、敵部隊!?何でこんなところに・・・!」

シエラが驚いた様子で報告を聞くが、パラダイスバーガーを食べながら臨時ガレージへと戻っていく。レジーナも後に続く。

『サビラバードからの敵軍だ!ヘリで突進してきやがった!』

「北部から!?対空レーダー網が・・・」

『全部壊されていた!SAMも使えない!敵特殊部隊はIFVで撤収している、そいつらは任せてくれ、シュトゥルムピングィンはヴァンツァーを頼む!』

了解、とうなずくとガレージにシエラが到着。すぐにはしごを駆け上がってガストに乗り込む。レジーナもいつもどおりジャリドに乗り込み、そのまま出撃するとシケイダ1機、ガスト2機の分隊が合流する。カラーリングからしてシュトゥルムピングィンの第2小隊だ。

カダールのかつての部下が編入され、独立した小隊として行動をしている。第2小隊にも精鋭が集まっており、西部方面軍や南部方面軍で活動を続けているという。右腕を掲げ、ローラーダッシュしつつガストは合流地点に向かう。

『我々も加勢します、副隊長!』

「了解、じゃあ行こう!」

グレイブを2丁持ったシケイダがシエラのガストに続き、ジュリアスとリヴィエ、ハーネルも合流するとシュトゥルムピングィンはビラスバル北部へと向かう。

『敵機は・・・ソンクラーの最新型!それと65式にラットマウント確認、何なんだこいつら・・・!』

ジュリアスが画像を転送してきたのはPAW3プレジス(※1)。両腕にシルフ武器腕を搭載しているようだ。後はラットマウント(※2)と65式、そして支援機の103式が映し出される。

「政府軍の強襲部隊みたい。さっさと片付けてビラスバルを取り戻そう!」

『敵軍、二手に分かれたぞ。ランチャー部隊のみで南下、残りは向かってくる。』

ハーネルが状況を報告する。南に病院があるものの、まさか病院が目標だと思わないシエラはすぐに命令を下す。

「応戦して、部隊を殲滅して!ランチャーは友軍部隊に任せるから!」

『了解、敵機の殲滅に当たる。』

プレジスを放置、シエラは突撃してくる部隊の迎撃に当たる。プレジスにはアエロクローネ製戦闘ヘリのペルラン(※3)が攻撃を開始する。

それと同時に政府軍の前衛である65式がシュトゥルムピングィンめがけ38mm機銃を発射。すばやくリヴィエがシールドで銃弾を防ぎつつクラヴィエで応戦。シエラも20mm機銃を連射する。

集中砲火を浴びかけた65式は細い通りに逃げ込み、代わりにラットマウントが二車線の道路を突き進みながら37mm機銃を連射する。

「レジーナ、ラットマウントを排除して!私は後ろを狙う!」

『了解、任しときな!』

ジャリドがしゃがみこむと、アイビスを発砲する。遮蔽物が無いため機動力の無いラットマウントには面白いように直撃する。一撃でラットマウントの腕を粉砕。2発目は胴体に直撃するがまだ突撃してくる。

『俺に任せろ!』

グロップがミサイルを発射。ラットマウントの胴体に直撃し爆発する。すると修復を終えた65式とリペアバックパックを搭載した103式がマシンガンを発射する。

それを見計らったかのようにジービュが突撃し、65式の足元をロッドですくいあげる。転倒した65式の上部をレジーナが狙撃。65式は爆発する。

『敵発見だ。ゼリアが来る。』

「何で戦力を小出しにしてくるかな・・・」

攻撃がバラバラでとりとめが無い。パイロットも適当に戦っては脱出している。シエラは頭の中で敵の行動が引っかかってしまうが指揮の忙しさに考える間もない。シエラにとって戦うだけでも必死だが、それに指揮をくわえたために判断力が多少落ちている。

それに総合的に状況を把握して判断するという能力も差ほどではない。部隊内ではリヴィエについで若いということもあるのだが。

『こちらアイロンバード、苦戦している!プレジスの砲火が激しい!』

「何とかしてよ!片付けたらすぐに向かう!」

友軍シケイダとガストも援護射撃を加えるが政府軍も65式に加え150式を投入してくる。150式がグロウタスクを発砲。80mm徹甲弾が友軍ガストの脚部に命中してしまう。

『被弾した!動きが取れない!』

『リヴィエは修理!私達で応戦する!レジーナとジュリアスは150式を優先的に狙って!前衛型は私が対応する!』

指示を出すとシエラは65式めがけアールアッソーCを発砲。猛烈な速度で発射される40mm銃弾が次々に65式の正面装甲を貫く。

20mm銃弾も同時に食らって65式は爆発、シエラはもう1機の65式めがけ機銃を連射する。その間にレジーナは150式を狙撃。95mm徹甲弾が150式を貫く。

爆発したのを確認して、レジーナは他の目標へと発砲を開始する。その途端にヘリ部隊の兵員が悲鳴を上げる。

『敵の目標は病院だ!プレジスが病院を砲撃中!』

「嘘でしょ!?何でそんなところを狙うの!?」

いきなり病院めがけて攻撃してくるプレジスの行動にシエラは戸惑うが、すぐに意図を悟る。目標はカダールだ。彼を殺せばシュトゥルムピングィンは頭の無い騎士になりかねない。

早急にプレジスを撃破しなくてはならない。すぐにシエラはハーネルに指示を出す。

「ハーネル、合流して病院に向かうよ!シケイダとガストに前衛を任せる!」

『・・・了解だ。合流する。』

ガストの後ろにジービュがローラーダッシュで続き、2機は急いで病院へと向かう。ペルランがプレジス相手に攻撃を仕掛けているが、38mm機銃が直撃しペルランから搭乗員が脱出。ヘリは爆発する。

『こちらアイロンバード、すまない・・・ヘリ部隊は全滅した。』

「ごめん、後は任せて。私達が戦友の仇をとるから。」

無謀な指示を出したかな、とシエラは後悔したのか沈んだ調子で言う。するとハーネルがその態度をいさめる。

『指揮官は感情を出すな。指揮をミスしても自信を見せろ・・・解ってるな?』

「・・・おっけー。じゃあ行こう!」

いつもどおりにシエラが振舞うと、病院前の大通りに到着する。プレジスは胴体を向けてシルフMGを連射するがサイドステップで回避しながらジービュが突進。分厚い正面装甲で銃弾を受け止めながらローラーダッシュで弾幕を切り抜けロッドを振りかざす。

一撃でシルフ武器腕を吹き飛ばし、さらにビュジェを近距離で発砲。散弾が直撃したプレジスは火花を散らすがまだ38mm機銃を連射してくる。

素早くジービュは横に回避、シエラは損傷させたプレジスに20mm機銃とアールアッソーCを叩き込み撃破する。

『ぺ、ペンギンだと・・・!?増援はまだ来ないのか!?』

『もう少しだ。耐え抜け!』

その通信を発した直後、強烈なロッドの一撃を喰らいプレジスは脚部を吹き飛ばされる。転倒したプレジスを踏みつけ、至近距離でハーネルがビュジェを発砲。2発も散弾を零距離で打ち込まれ、プレジスは沈黙する。

「あーあ、容赦ないね。」

『民間施設を攻撃する連中に容赦はいらないだろう。』

同感、とシエラはうなずいてみせる。民間施設を狙う連中は確かにその場で銃殺されても文句は言えない。まして政府軍・・・自国民の命を預かるべき軍がこのような暴挙に出るなど許されるはずも無い。

すると、UAVのオペレーターが報告を入れる。

『敵接近、ホークス隊だ!輸送ヘリで向かってくる!』

「こちらからも視認・・・ちょっと、数が多いってば!」

4機搭載の輸送ヘリが2機と重武装輸送ヘリ(※4)が1機向かってくる。エンブレムはホークス隊のものであり武装したウォーラスとワイルドゴート、ゼリアが落下してくる。

『シュトゥルムピングィン、お前達を倒して賞金をもらうぞ!』

『シエラ、遮蔽物に隠れろ!』

それだけ言うと、ハーネルはすぐに後退して建物の影へと隠れる。シエラも続き、何とかウォーラスの銃撃を回避する。ウォーラスは威嚇射撃を続け、シエラ達を捜索している様子だ。

「・・・あっちゃー、ホークスまで出てきたよ。どうすんのこれ・・・」

『司令部、ホークス隊の増援だ。大至急こちらも増援を送られたし。繰り返す・・・』

シエラがどうするべきか考えている間にハーネルはビラスバル司令部に増援を要請する。しかしビラスバル司令部からの応答は期待できないものだった。

『今は無理だ、政府軍の部隊がビラスバル各地に展開している。その対応に追われている。』

『・・・了解。』

ハーネルはもう無理か、と判断してしまう。シエラはちまちまと射撃死ながら建物に隠れているがウォーラスが減る気配も無い。

シュトゥルムピングィンも政府軍の数に圧倒され突破できずに居る。増援が来るまで持ちこたえるのは不可能だろう。観念したのか、ハーネルは通信を入れる。

『シエラ、援護しろ。俺が突入して時間を稼ぐ。』

「ちょっと待って・・・無茶苦茶だよそんなの!無理、絶対無理!」

『だが他に手段があるか?この状況だ、時間稼ぎをしないと追いつかれるぞ。』

ホークス隊のウォーラスはジュアリーを連射し、弾幕を張って足止めをくわせて居る。重輸送ヘリもガトリング砲を連射してくるためとどまっていれば間違いなく撃破されてしまう。

『覚悟できたか?行くぞ!』

ジービュが通りに出ると、真っ先にウォーラスへと突撃しながらビュジェを発射する。するとガストがアールアッソーCを連射してウォーラスに猛烈な弾幕を浴びせる。

『何をしている!?』

「ごめん、やっぱり見捨てられない。それに・・・ホークス隊くらい、私達2機で何とかできるよ。きっと。」

ウォーラスが40mm銃弾を連続で喰らい、爆発してしまう。なんて指揮官だとハーネルは思ったが前方のウォーラスにビュジェを発射。衝撃でのけぞった隙にハンドロッドを叩き込む。

転倒してウォーラスが動かなくなるが、ワイルドゴート2機がイーグレットを連射してくる。ロケット砲弾を2機は回避し、銃口を向ける。

『きっと、で動くな!2人とも死んだら・・・』

『だったら3人居れば問題ないだろう。』

いきなりのようにワイルドゴートが爆発。もう1機がイーグレットを向けて応戦するがプラヴァーが直撃、そこに10cm砲弾を受けて大爆発を起こす。無線の声を聞いて、シエラは一瞬で誰か解った様子だ。

「隊長!?もう・・・」

『怪我は完治してないが痛みは無くなった。万一に備えて予備機のストームを武装させて病院の地下に搬送してもらった。もう大丈夫だ、安心しろ。』

「・・・りょ、了解!指揮を引き渡します!」

それだけ言うと、シエラは指揮官機のストライフへと突撃する。ストライフはレオスタンを両手に持って連射して抵抗するが、プラヴァーが直撃して片腕をもぎ取られる。

『カダール・・・やはりお前が指揮官に適任らしい。』

『まぁな。シエラは前線要員としては優秀だが、指揮官は俺がやらないとな。向き不向きというのもある。それ以上のことは俺がやればいい。』

シエラは指揮官というより前線要員が向いている。カダールはそれを察しているから下手に部隊長に就けず副官として常にそばにおいている。

あっという間にストライフを鉄くずに変えてしまったガストがストームへと接近する。武器腕を真上に掲げぶんぶんと振っているが手を振っているつもりらしい。

「終わったよ、隊長。」

『了解、後は重輸送ヘリを落すぞ。』

輸送ヘリは真上を飛び、ガトリング砲を連射し続けている。どうやら友軍のSAMやヴァンツァーを狙っているらしい。するとシエラがある提案をする。

「隊長、落すよりエンジンを1基狙って不時着させない?ローターぶっ壊すのもいいし。」

『それはいいが、どういうつもりだ?』

「不時着させて、うまーくもらっちゃおうよ。ああいうのって結構貴重じゃない。」

了解、とカダールも納得するとミサイルのロックオンをローターにあわせる。シエラもローターめがけ銃撃を開始すると、輸送ヘリは側面を向けてカダール達に射撃を開始する。

『ロングアーチへ、こちらシュトゥルムピングィン。攻撃を後部ローターに限定してくれ。繰り返す、後部ローターだけ攻撃せよ。攻撃は俺達が引き寄せる。』

『了解、よくわからんがとりあえず命令どおり攻撃を開始する。』

ガトリング砲を建物の影に入って回避しながらストームとガストが射撃を続行する。ローターから火花が散ったところにスカイフィンチ対空車輌がミサイルを発射。後部ローターに直撃しはじけ飛んでしまう。

「よし、落ちてきた!落下地点は!?」

『うまい具合に大通りに不時着しようとしている、4ブロック先だ。俺達が先行して包囲する。陸上部隊は突入してくれ。なるべく捕まえてもらうと助かる。』

『了解、これより包囲する。』

C7ペッシ(※5)が輸送ヘリを包囲。僅かに遅れてシュトゥルムピングィンも包囲するとパイロットが両手を挙げて降伏してきた。

早速同盟軍の兵員がパイロットを拘束すると、ジュリアスがおぉ、と感嘆の声を漏らす。

『霧島重工製のACH59ファザーンじゃないか、これ・・・!しかも稼動できそうだ。』

『あぁ。一応部隊に配属できるように頼んで見る。シュトゥルムピングィンにも、専用のキャリアーが必要だからな、いちいちECのキャリアーを使って、独立した後に調達するのも面倒だからな。』

ACH59を見てカダールはなかなかいいな、と思ってしまう。ガトリング砲である程度掃射してから強襲上陸とこれまでできなかった強襲作戦もできる。

「あぁ、隊長・・・ビラスバルに侵攻した政府軍は撤退したみたい。それと病院の死傷者が50人以上だって。やっぱり病院目当ての強襲だったのかな・・・?」

シエラが浮かない様子で無線報告を入れる。病院側に大多数の犠牲者が出たようで一般病棟の患者も多数死亡したという。

『俺を狙ったんだな。入院しているなら抵抗もできないだろうと思って・・・政府軍め、民間人をどれだけ巻き添えにすれば気が済む・・・』

『・・・俺達のせいなのかな?』

ふとジュリアスが弱音を漏らすが、レジーナがバカ言うなとヴァンツァーで小突く。

『無茶苦茶言うんじゃないよ。政府軍が非道だから病院まで狙う作戦を許可するんだ。ジュリアス、この政府をさっさと倒さないとやばいことになる・・・そうじゃないのかい?』

返す言葉もなく、ジュリアスはただうなずくしかなかった。政府軍を倒せばこんなまねはなくなるはずだ。同盟軍は今のところ反乱軍でしかないが、規律はしっかりと守っているし捕虜を虐待した事例もない。

『・・・レジーナさんの言うとおりです。私達は任務に集中しましょう。一刻も早く祖国を解放すれば、犠牲も少なくなるんですから。』

「そういうこと、がんばろうね?ジュリアス。」

多少腑に落ちない様子だが、ジュリアスは同意してみせる。泣き言を言っても結局終わらせるしか犠牲を少なくする方法はないのだ。

「・・・隊長、お帰り。」

『ああ、ただいま・・って待て!』

いきなりガストがストームに歩み寄って抱きつく動作をする。予想外の行動にカダールは何を考えているんだと怒鳴りつける。

『ヴァンツァーで抱きつくな、シエラ!』

「ついついね、ごめん。」

『まったく。何を考えているんだ・・・ガレージに帰還するぞ。』

了解、とシエラも応答しシュトゥルムピングィンはガレージに帰還する。第2分隊のガストは1機激はされた程度でベイルアウトを確認、何とか無事だという。

 

ビラスバル臨時ガレージ休憩室 1841時

「お疲れ様、隊長。」

「・・・もう少し休んでいたかったがな。」

ヴァンツァーショップの2階を臨時の休憩室にして2人はゆったりとくつろいでいる。ジュリアスは調べ物とか言ってどこかに行ったらしく、リヴィエとレジーナ、ハーネルは祝勝会といって飲みに行ったらしい。

「休めない?」

「あぁ。お前の指揮ではやはり不安だ。目先のことへの対応は素早いが先を見通せていない。指揮官向きという気質ではないな。」

やっぱりね、とシエラはうなずいてみせる。今日の病院での指揮を見ても指揮能力はそれほどでもないということは解っていたようだ。

「でもそれじゃあ、何で副官にしたの?これ、ずーっと気になってたんだ。PMOの時に聞こうとしたけど結局聞けずじまいだったし。」

「いつもつけておきたかったからな。うまく言い表せないが調子が合う。落ち着ける時間ができるからな。」

「それってくどき文句だよ。隊長?」

一瞬だけカダールは言葉に詰まるが、咳払いをすると真剣に話を続ける。

「とにかくだ。一番相性のいい副官がお前なんだ。ハーネルだと息が詰まる、リヴィエは何を考えてるか良くわからない。レジーナとジュリアスは民間人だからいつ隊を離れるかも解らない。第41独立中隊の時は全員血気にはやってて素直なのがお前くらいだったが・・・」

そうだったね、とシエラもうなずいてみせる。カダールも懐かしいなと思うといきなりシエラが抱きついてくる。

「今抱きつくなら問題ないでしょ?隊長。」

「・・・あぁ、問題ない。」

カダールはそっとシエラを撫でて、目を細める。そっと頭を落し、腰あたりに抱きついたところでシエラが怪我の具合を尋ねる。

「・・・それと、怪我は大丈夫なの?」

「大丈夫だ。タダの脳震盪で1週間も拘束されるわけにはいかないからな。明日にも前線に復帰するぞ。」

「おっけー。よかった。それなら大丈夫そう。」

2085年のグルジア内戦で額から血を流しても、捻挫でも骨折でもカダールは出撃している。それほどカダールは怪我に強く、今回の脳震盪もたいしたことはなさそうだ。

「ああ。もう大丈夫だ。アリャートには出られる。お前達を生かして返すためにも黙ってられないからな。」

「了解、がんばるね。」

シエラはそっと微笑み、カダールもそっとシエラの頭を撫でる。アリャートの会戦は5日後だが、せめてシュトゥルムピングィンだけは生き残らせなければならないと思い、どうすべきかを考えてしまう。

が、撫でているとシエラの頭に傷跡があることに気づく。カダールはふと気にして傷の古都を訪ねる。

「・・・シエラ、傷跡がある。」

「傷跡?」

「深い手術跡だ。頭を大きく切り開いたような傷跡だが、心当たりはないか?」

ないなぁ、とシエラは答える。記憶喪失の間につけられた傷跡かもしれないが、それにしても何だったのだろうと思ってしまう。

「シエラ、戻ってきてから記憶障害とか、何か変なことは感じないのか?」

「ううん、全然大丈夫だけど・・・今、そのことはほうっておこうよ?考えるだけなんか怖いし、でも事実を知りに行くのはこの戦いが終わってから、でしょ?」

そうだったな、とカダールもうなずく。アゼルバイジャンを開放することが第一であり、ほかの事に気をとらtれている暇などない。

しばらくすると、シエラは今日の戦闘に疲れたのか眠りこけてしまう。そっとカダールは毛布をかけながら、アリャートでどう動くかを考える。

 

「・・・なるほどな。そういうことか・・・」

「どうした、ジュリアス。」

パソコンで何かを調べているジュリアスをみて、ハーネルが訪ねる。見た感じは政府軍のデータベースらしいが、詳しいことは良くわからない。

「いや、政府軍が輸送物資をカスピ海経由でザーフトラに送っているんだ。この苦しいときに。」

「・・・また変な話だ。何故だ?」

普通ならザーフトラからアゼルバイジャンに大量の物資を送るはずだが、逆に輸送船に満載した物資をザーフトラへと輸送している。

それも救援物資の帰り際に搭載しているものが多い。

「わかんないけど、内容物は・・・これだ。ヴァンツァーの無人操縦デバイス。そして対応型ヴァンツァーと書かれてる。」

「無人操縦・・・ガラサンジアの時に居たヴァンツァー部隊だな。しかし何故いまさら後送する?戦力は無人機でもあったほうがいいだろう。内部霍乱に使えるもののはずだ・・・」

ハーネルはこの不可解な行動に疑問符を抱くが、ふとジュリアスはキーボードをうち1つの資料を出す。

「・・・なんだこれは?」

「以前スペンダーの仕事で手に入れた資料。2年前にハンスからの依頼で伝送したんだが・・・これを。」

OCU、USNとザーフトラが結託している証拠の内部文書であり、ニルバーナ機関の内部文書がディスプレイに映し出される。幾分かの予算配分が書かれており、OCU内部機関やザーフトラの国営企業への予算配分が書かれている。

「・・・無人兵器用BD配分?」

「ああ。B型デバイスを無人機の運用に使ってるらしい。ハンスの話だとニルバーナ機関の所長が計画を立案したみたいだな。パイロットがベイルアウト、および死亡した90式が動いたところに着想を得た。」

ハーネルはありえそうな話だ、と納得してみせる。B型デバイスといえば人の脳を使ってCPUに応用している技術だ。ある程度の腐食や劣化という難点さえ除けば小型で大容量のデータを保存できる上に処理速度も速く第二次ハフマン紛争ではOCU、USN軍ともに運用していた。

しかしその紛争後、生きている兵士の脳をそのまま使ったという事例も報告され今ではほとんどが処分されている。現在ではほぼすべてが処分された。

「・・・確かに元が人の脳だ。構造が似ているヴァンツァーなら、動く可能性もあるが・・・」

「あぁ、停止や暴走の原因もそこだ。意識などが表層化したのが原因だといわれてる。結局矛盾してるんだよな。兵員の記憶を引き継ぐって事は感情も同様だ。抑えるのは難しいし、あるきっかけで表層化する可能性もある。まして、何度も銃弾を受けるヴァンツァーなら兵士は思い出すことも多いんじゃないか?」

「・・・そうだが、よくもまぁあっさりと語れる・・・」

平然とデバイスのことを話すジュリアスにハーネルはため息をつく。しかし意見は筋が通っている。戦場という極限状態ゆえに記憶は残りやすく、銃弾が飛び交う戦場に置かれれば思い出す可能性は高い。

「もう見慣れたからな・・・この手の情報を仕入れるのはいつものことさ。第二次ハフマン紛争後、新聞記者とかECの情報機関からザーフトラの情報を引き出せという依頼も多くて。」

「解った・・・しかし、関係があるとすれば一応中将にも知らせるか?」

「もうしたけど「こちらの兵員管理は万全だ」と言っている。戦死者を除けばちゃんと捕虜も管理されてるし行方不明者も居ない。B型デバイスを作るなら兵士の脳が必須だろ?」

「確かにな。性能がいいのを作るとなれば・・・まして自立兵器として使うなら当然だな。」

そして兵員の行方不明事件は軍内部でも聞いたことは無い。唯一あるとしたらシエラが行方不明になった事件だが今はこうして戻っている。デバイスにされた兵員なら生還は不可能のはずだ。

「とりあえず、もうちょっと追加で調べて見る。何かわかったら報告するから待っててくれよ。隊長にも話したい。」

「・・・かまわんが、推論であまり引っ掻き回すなよ。」

「解ってる。俺達の「頭」がつぶれたら作戦行動は取れないからな。」

解ってるならいい、とハーネルは言ってそのまま寝室へと戻っていく。寝るのが早いんだなとジュリアスは思ったが、ノートパソコンを使って政府軍やザーフトラ軍に対してのハッキングを試みる。

 

続く

 

(※1)
パペール(この当時はソンクラー重工)の中量砲撃機。ロングセラーであるワイルドゴートやバザルト社のギザをベースに製作された。全体的に流線型や球形を用いる、パペール社のデザインを引き継いでいる。
プロウブの前にPAW3と型番が飛んでいるのはプロウブの開発が想像以上に難航、後から開発したプレジスの法が開発が進み、先に完成したため。装甲が分厚く、それでいてある程度の機動力も持ち合わせている。命中精度はソンクラーらしくそれなりに備えており、アナコンダなどの命中精度の高いライフルなら問題なく運用できる。
しかし、肝心の出力が今ひとつでありパーレイのエンジンを2基連結したものの期待したほどの出力を発揮できず余剰の積載量という面で不安が残る。安定性の高いアームも重量過大の一因であり、今回武器腕を搭載する選択肢もある。

(※2)
1st仕様のワイルドゴートである。がちがちの装甲に武器腕と車輌脚部を搭載しており前衛に出てくると厄介な存在ではある。だが機動力はワイルドゴートのまま。

(※3)
オルタナティブのみに出ていたアエロクローネ製ヘリ。以下設定。

コーネイルの後継機として開発された重武装攻撃ヘリ。WAWの出現により一時は存在が廃れかけたヘリだが後にWAW用やWAP用武装を装備できるハードポイントを開発したことにより汎用性も高まり、何よりも地形を選ばずに行動可能な特性と機動力の高さから生き残った。
テイルローターを廃したアエロクローネ社独自の設計であり、ロケットランチャーと30mm機銃を標準装備する。ECを中心に2081年度から配備されている。旧型のロットは周辺国に輸出されている様子。
ちなみに緊急時にはローターを吹き飛ばして搭乗員が脱出する機構も搭載されているため、前述のノーター機構もあいまって生存性が非常に高い。

(※4)
エボルヴにあった重武装の輸送ヘリっぽいもの。あのデザインは微妙なので違うタイプで。以下設定。

ACH59ファザーン
重武装攻撃ヘリ。「状況対策科がヴァンツァー1個小隊(6〜8機)を搭載可能な強襲ヘリを欲している」と日防軍からの要請を受けて開発された。
結果、ヴァンツァー8機を収容可能なペイロードを持つ。完全にヴァンツァーを密閉した状態で輸送できる上に機内からリモート操作できるレオノーラ製37mmガトリング砲を搭載している。これはヴァンツァーで操縦するか、搭乗員が操縦席のFCSで操作するか選択することが可能で両側面に2基搭載されている。MBTでも霧島製BT99なら6台。他社製の戦車なら4台ほど収容可能。
バリエーションとしてALH59ハービヒトがある。こちらはいわゆるガンシップであり12.7cm榴弾砲やJW製25mm機銃を増設している。

(※5)
バザルト社のIFV。以下設定。

バザルト社が開発したIFV。ECが2090年度の次世代IFV選定においてシュネッケ社やトロー社と言った強豪と争い採用された。小回りが効く上に最新の歩兵画像認知システムを組み込んだため戦闘室を完全に密閉することに成功。生存性能はかなり高い。
また、操縦コンソールはクラスタシアと同様のものを採用したためヴァンツァーからの転換訓練やその逆も簡単となっている。主武装はモストロ24Tを1基に対戦車ミサイルを搭載。歩兵8名も収容可能。バリエーションとして装甲回収型や同じ車体を使う自走砲もある。

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