Front misson Brockade
Misson-13 Iron horse
2/14 1000時 ジェーニカンド補給施設
「政府軍がアリャートにヴァンツァー部隊を集結、通常戦力も集結させているのか・・・」
地図を広げて、カダールがしかめっ面をしながら作戦室の机を囲み敵戦力の詳細を見ている。ビラスバルからサルヤンまではそれほどの抵抗もなく進撃できたのだが、政府軍はアリャートに大規模な戦力を集結させているという。
シュトゥルムピングィンはサルヤンとアリャートの中間にある小都市、ジェーニカンドの補給施設を利用して詰め所にしている。あまりにも何もないため政府軍がヴァンツァーの訓練場として利用していた場所だ。
「このままだとヴァンツァー同士の会戦になりそうだ・・・犠牲も大きくなっちまう。」
「だからといって迂回も出来ないな。アリャートを突破しなければ西部方面軍、南部方面軍とともにバクーを攻略することは出来ない。政府軍は首都に通常兵器やいくつかのヴァンツァー、大型機動兵器を温存させながらアリャートに大規模なヴァンツァー部隊を送り込んできた。」
ジュリアスの報告にカダールはうなずくしかなかった。アリャートでの会戦は避けることが出来ないだろう。政府軍は力任せに反乱軍を叩きのめす作戦に出てきたらしい。
同盟軍も出来る限り南部方面軍に戦力を集結させてこの政府軍の大部隊を叩くつもりでいる。相手が大規模な戦力を集結させて来るならこちらも対抗して会戦を挑み、政府軍の戦力を一気に削り取ってしまおうという魂胆だろう。
「史上初のヴァンツァーによる会戦・・・司令部も何を考えているんだか。力押しでは犠牲も大きくなるというのに。」
「いや、やらなくてはならないと判断したのだろう。この重要な局面で会戦に勝ったという自信をアゼルバイジャン軍に付けておけば後々の発言力にも影響が出る。そして政府軍の大戦力を打ち破れば、住民は一気に同盟軍につくだろうからな。戦後処理もECに口出しされずに済む。」
大規模な会戦は宣伝効果も大きい。この戦いでアゼルバイジャン軍のみで勝ったという印象を付けておきたいのだとジュリアスは理解する。その分犠牲も大きくはなるが、アリャートを突破すれば首都バクーであり北部、西部方面軍も合流する。
「政府軍側としても、同盟軍を打ち崩すのに都合がいいと・・・でも、何かしっくり来ないな。」
「どういうことだ、ジュリアス。」
「同盟軍も政府軍も、結局自分達の宣伝に使いたいだけだろ?ヴァンツァー同士の大規模会戦を全世界に流して自分達の勝利を認めさせたいという。そんなもののために・・・」
そこまで言いかけて、ジュリアスはカダールの表情が険しくなっているのを見て口をつぐむ。
「この会戦は政府軍の戦力を一気に削り取るチャンスだ。それに政府の思惑だって同盟軍を勝利に導く重要な要素だ。馬鹿にするな。」
「でも・・・」
「利権や間接的な思惑が挟まるのも戦争だ。前線の兵員だけで戦っていると思うのは傲慢でしかない。利権はこちらの運営資金につながるから無視は出来ない要素だ。民間上がり、ことにスペンダーのお前には気に入らないだろうが・・・」
「そんなことは!ただ俺は・・・」
何だ、と鋭い視線を向けられジュリアスは黙ってしまう。カダールはシュトゥルムピングィンの機動力を生かすにはどこに部隊を置くか、と言う難題を考えている様子だ。
そのままジュリアスは作戦室から出ると、ばったりとシエラに出会う。多少なりとも疲労の色が見えるジュリアスにシエラが明るい声で話しかける。
「どうしたの?ジュリアス。」
「・・・いや、隊長ってかなりストイックだな・・・とか思って。」
素直に事情を説明すると、シエラはまぁね。と短く答える。
「私もちょっとついていけない部分もあるけどね。でも、戦争ってこういうものじゃない。ジュリアスは何か理想があったりするの?」
「もっとこう、ストレートに理想を掲げて戦うものだと思ってたな。ハフマンの魂みたいに。」
「あいつらかぁ・・・」
キャニオンクロウを母体とする「ハフマンの魂」は2094年度も活動を続けている。もっともPMOが去ってからは東西ハフマンの国境をなくそうというキャンペーンをしている程度でヴァンツァーを保有こそしているものの自衛権の行使以外では表立った戦闘を行っていない。
シエラはなんとなくイメージがつかめたのか、うなずいてみせると新たな疑問をぶつける。長くなりそうだと思い、休憩室にジュリアスを連れて行きながら話す。
「あぁ、理想のためにまっすぐ進んでいく。ああいうのをイメージしてたわけなんだけど・・・」
「戦争にそういうのを求めちゃいけないかな。忘れちゃいけないけど、求めすぎても苦しいだけだよ?それとさ、何でハフマンの魂を引き合いに出したわけ?」
疑問符をつけられて、ジュリアスは少し考え込んでから話す。
「・・・ハフマンの魂に、俺の友人がいるんだ。マサチューセッツの同期でスペンダーの仲間。このことは内緒な?あいつらは英雄だけど、軍幹部から言わせればテロリストだからな・・・」
「わかってるよ。テロリストと軍がつながってるなんてそうそう言えないもの。」
軍の情報や物資を横流しされたらたまったものでもないので、軍はテロリストとの接触を拒んでいる。シエラもそのあたりの事情を察しているのか、人差し指を自分の唇に当てる。
「悪いな、シエラ。」
「いいの。それより友人って誰?」
さすがにそこは気になるらしく、シエラは詰め寄ってたずねる。ジュリアスは廊下を歩く人もいないのを確認してそっと答える。
「ハンスっていう奴。12歳の飛び級で大学に入った超がつくほどの天才・・・マリアと、友人のジェニファー。そして俺でスペンダーまがいの事をやってたんだ。自作の高性能HUDをいつも付けてた変わった奴だったけど、可愛い弟分だったな。」
「へぇ・・・」
シエラも感心してうなずくと、いきなり召集のサイレンが鳴り響く。今までロクな軍事基地を使っていなかったため、大きな音に驚きながらもシエラはジュリアスを引っ張って作戦室へと向かう。
途中でハーネルと合流して扉を開けると、レジーナとリヴィエ、カダールはすでに座席へとついている。相変わらずレジーナは葉巻を吹かしながら待っている。するとディスプレイにディートリッヒ少将の顔が移る。
『諸君、UAVがサリュース湖東岸に停泊する敵巨大カーゴを発見した。』
「巨大カーゴ?」
聴きなれない言葉にシエラがたずね返すと、ディートリッヒは先ほど入った画像をディスプレイに表示させて説明する。
『どの兵器の分類にも入らないものだ。陸上を高速で移動するヴァンツァー補給基地兼巡航ミサイルプラットフォームと言うべき兵器であり、ホバー駆動で稼動している。以前、ガラサンジアに巡航ミサイルを発射したのもこの大型カーゴと判明している。』
「ズリィエーズナヤ・ローシァチ・・・か。噂程度には聞いたことがある。」
ハーネルがザーフトラ時代に聞いた超大型機動兵器のことを思い返しながら話す。ロシア語で「鉄の馬」と言う意味を持つ兵器の噂は聞いていた。
しかし、全長200m超、全幅40mの巨大なヴァンツァーと巡航ミサイルのプラットフォームだとは想像もつかなかったようだ。無数のガトリング砲やミサイルランチャーも搭載されている。前部に滑走路を配置している様子だ。
「で、これをあたし達で破壊しろって?」
『いや、前部の航空滑走路に強襲を仕掛けて乗り込み内部に侵入、機関部を破壊して欲しい。それくらいしか方策もない。対空火器をすり抜けての強襲だ。現在この大型カーゴは燃料補給のため、その機動力を発揮できないと捕虜が証言した。』
なるほどね、とレジーナも納得する。高速で動いていなければ、単なる基地に空挺降下を仕掛けるのと同じだ。200m×40mの空母程度なら難なく降下させられる。
「つまり、打ち落とされるか落されないかだけ心配しろ、ってこと?」
『ステルスの輸送機を手配して出来る限り対空火器には引っかからないようにする。補給基地の火器に関しては西部方面軍の強襲部隊で何とか沈黙させる。後は空挺降下が作戦の成否を分けるのだ。この兵器を放置すれば、西部方面軍は壊滅的な打撃を受けかねない。なんとしても撃破してもらいたい。』
全員が巡航ミサイルで壊滅させられたガラサンジアのことを思い返し、了解と敬礼する。特にレジーナは、故郷であるガラサンジアの敵討ちとあって意気込みも強いようだ。
「・・・絶対にあいつらを倒してやる。ガラサンジアを壊滅させた連中を・・・」
「そうだね、あんなの許せないし・・・」
シエラも同感だとうなずく。民間人を躊躇なく殺せる連中に情け容赦をかけるつもりはない。
「・・・他国の出身だが・・・軍人として許せない行為をしたのだ。ガラサンジアの住民に地獄で袋叩きにあってもらおうか。ズリィエーズナヤ・ローシァチの司令官にはな・・・」
ハーネルも真剣な表情で、必ず恨みを晴らすと断言する。住民の真上に巡航ミサイルを降らせるような奴は許せないらしい。そんな中、リヴィエは冷静に言葉をかける。
「意気込みはいいのですけど、あまり無茶したり投降した一般兵を撃つ真似は控えてくださいね?私達は同盟軍の看板のようなものですし。」
『軍曹の言うとおりだ。貴官らは同盟軍の英雄だ、なるべく軍規に沿った行動を心がけて欲しい。』
ディートリッヒにも釘を刺され、了解と全員で威勢良く答える。
『では解散だ、輸送機は1時間後に基地のヘリポートに到着する。すぐに乗り込んで、移動要塞を破壊せよ。』
その言葉を聴くと、シュトゥルムピングィンのメンバーは駆け足で格納庫へと向かう。カダールとハーネルが真っ先に到着し、リヴィエが多少遅れて扉をくぐる。レジーナは葉巻をくわえたまま、息を切らせて到着した。
「・・・タバコやめたらどうですか?レジーナさん。」
「バカ言うんじゃないよ。あたしの趣味まで取り上げようってんじゃないだろうね?酒飲みでヴァンツァーを操縦する奴に比べればマシだろ?空気清浄機と灰皿完備してんだから整備兵にも文句は言えないはずさ。」
「はぁ、わかりました・・・」
だから体力が落ちるとか何とかリヴィエはそれ以上いえず、新たに用意された陣陽へと乗り込む。武装はクラヴィエとスキュアを搭載。バレストロ製のシールドも装備している。ペイントはシュトゥルムピングィン仕様で、腕部分が黒、胴体中央部が白という配色だ。
しばらくたってから、ジュリアスとシエラが同時に駆け込んでくる。互いに息を切らせているようだ。
「・・・つ、疲れた・・・」
つかれきったシエラは絶壁にも等しいはしごを何とか上りきり、ガストの操縦席に乗り込む。コンソールを稼動させいつもどおりゆったりとシートにもたれかかる。
『大丈夫か?シエラ。』
「何とか。でも1時間も余裕があるのに走るのやめようよ・・・」
一応アゼルバイジャン軍の所属だが、シエラは運動神経はよくない。むしろ悪い部類に入っている。だから車輌科に入隊し、その後で機甲科に転属した。USNでは珍しいかもしれないが、ECやザーフトラではごく普通のことである。
『・・・あぁ、ジュリアスもあんまり得意でもなさそうだからな。』
『そのとおり・・・まったく、学問とパソコン以外やったことないのに・・・』
荒い息遣いが無線越しからでもはっきりと伝わる。シエラはジュリアスに「お疲れ様」と軽く呼びかけると早速ガストのコンソールを操作。稼動させる。
「うん、今日も快調。さっさと行こう?」
『そうだな。ゲートを開けろ。』
カダールはシエラの言葉に同意すると、ゲートを開けるよう兵員に命令する。兵員が基盤を操作して扉を開く尾、シュトゥルムピングィンのヴァンツァーはヘリポートへと向かう。
1145時 ズリィエーズナヤ・ローシァチ上空
『敵艦確認!』
『ジュリアスさん。あれは移動要塞です!艦船ではありません!』
リヴィエがジュリアスと些細なことでもめている。リヴィエいわく「海に浮かんでいなければ艦艇と呼ばないでください」と主張しているのに対しジュリアスは「艦艇っぽいならそう呼んで差し支えない」と主張を譲らない。
作戦空域は珍しく晴天であり、雲こそあるものの猛吹雪や雪ではない。空挺用のバックパックが霜で使用不能になりえることを考えると、それだけでもまだマシといえた。
「あぁもうどっちでもいい!ずりぃえ・・・い、言いにくい・・・」
シエラは正式名称で呼ぼうとしたが途中で舌をかんでしまう。ハーネルはため息をつくとくだらない言い争いをしている全員に無線を入れる。
『何でもいい。任務に集中しろ。対空砲火がくるぞ。』
その途端に機体が激しく揺れる。どうやら敵の高射砲が砲撃を加えているらしく輸送機はすでに作戦空域に入ったようだ。
『ポイントに到着、ハッチ開きます。』
『頼むぞ!』
UAVの画像をリンクさせシエラが地上の様子を見ると、同盟軍のハスキーやガストなどが政府軍の部隊と交戦。高射砲や対空火器などの一部が使用不能になっている。
しかしズリィエーズナヤ・ローシァチ本体の対空砲は沈黙していない。猛烈な対空砲火がUAVからでもはっきりと見える。
『降下開始!対空砲火を突っ切れ!』
輸送機の後部ハッチが開き、2機ずつ並列にヴァンツァーが格納されている。真っ先にミュートスとガストが降下すると同時にズリィエーズナヤ・ローシァチから猛烈な弾幕が浴びせられる。
『いいか、ぎりぎりまでバックパックを展開するなほのぼのニュース!対空砲火を受けるぞ!』
「わかってる!そろそろ・・・!」
オートキャノンの射程圏内に入り、すかさずシエラはアールアッソーCを選択肢トリガーを引く。40mm銃弾が適用際のCIWSに直撃して爆発するが、残りは相変わらず激しい弾幕を浴びせてくる。
シエラも銃撃を浴びせてCIWSを牽制しているが、途端にバックパックに被弾してしまう。
「まずい、バックパックに被弾!方向を制御できない!」
『シエラ、大丈夫か!?』
「何とかなる!降下と同時に戦闘を!」
予定の高度でシエラはバックパックを展開するが、1基のブースターが故障し減速し切れていない。何とか着地するも、シエラの操縦を受け付けずガストが転倒してしまう。
『何があった!?』
「着地の衝撃でバランサーが壊れたみたい!リヴィエ、修理をお願い!」
『お待ちください!』
110式陣陽が降下すると、すぐにリペアバックパックでバランサーの修復を開始する。が、ザーフトラ軍の部隊が格納庫から滑走路に出て、攻撃を仕掛けてくる。
ジラーニがヴェスナーを連射しながら接近してくるが、胴体をF-4ハンドロッドで殴られ転倒する。ジービュとジャリド、グロップが降下を終えて迫りくるザーフトラのヴァンツァー部隊に攻撃を開始する。
『1分程度持ちこたえてください、その間に修理します!』
「お願い、がんばって!」
シエラが全員を励ますが、逆にそれだけしかできないのがつらくもある。とは言っても銃撃を受けるか受けないかなど不可抗力であり、運しだいとしかいえない。
シュトゥルムピングィンのメンバーもそれを理解しているし、シエラが抜けたら戦力的に大きな痛手を負う、そして仲間を失うつらさもわかっているために必死に援護する。
『1機撃破!これ以上近づけさせやしないよ!』
レジーナがアイビスを連射、重い徹甲弾が突撃してくるナディエージダ(※1)に直撃する。敵機が爆発したが目もくれず、レジーナは次の目標へと照準を合わせる。
ローラーダッシュで突貫してくるジラーニめがけ、レジーナがアイビスを発砲。95mm徹甲弾を脚部に受けたジラーニは転倒し、そのままガストへと突っ込んでいく。
『危ないです!』
すかさず110式陣陽がシールドで滑走路を滑ってくるジラーニを受け止める。しっかりと勢いを殺してジラーニを受け止めるとまた修理に専念する。
「さんきゅ、リヴィエ・・・もういける。」
『えぇ、制圧開始です。頼みますよ。』
ガストが起き上がると、そのまま遠距離射撃を行うヴィーザフめがけ20mm機銃とアールアッソーCを連射。ヴィーザフもルジャーンカを発射するが命中せず、一方的に銃弾を受けてしまう。
そこにカダールがメナートを発射。2発のミサイルが直撃しヴィーザフが爆発する。
『シエラ、大丈夫か?』
「何とかね。それよりCIWSを撃破しないと!」
ズリィエーズナヤ・ローシァチ本体に搭載された近接防御火器がシュトゥルムピングィンに銃口を向けようとするが、その前にカダールが霧島71式を発射。
12.7cm砲弾がランチャーへと直撃、爆発を起こすが滑走路脇に設置された対空火器が一斉に銃口を向けてシュトゥルムピングィンに発砲する。
『いったん隠れろ、エレベーターを稼動させるぞ!ジュリアス、要塞システムにハッキングしてエレベーターを動かせ!』
『了解!』
滑走路上には空母さながらのヴァンツァーやVTOL機搭載用のエレベーターが存在する。ジュリアスが稼動させる間シエラが向かってくるヴァンツァーを迎撃する。
『シエラ、ヴァンツァーを頼む。レジーナと俺で対空火器をつぶす!残りはシエラの支援に回れ!』
「了解!」
カダールの命令を受けて、シエラは突貫してくるテラーンに20mm機銃を発射。テラーンも76mm速射砲で応戦するがリヴィエもテラーンめがけ援護射撃を行う。
クラヴィエの37mm銃弾も直撃し、テラーンは大破炎上する。するとジラーニ2機がテラーンの残骸を飛び越えて突撃してくる。
『・・・来るぞ。』
ガストの後ろからジービュがローラーダッシュで飛び出すと、先頭切って突進してくるジラーニにロッドで足払いを仕掛ける。
脚部を横薙ぎのロッドで一撃を加えられ、ジラーニが転倒する。もう1機が110式陣陽にロッドを振りかざそうとするが、その前にハーネルはビュジェを発射。
散弾の衝撃をうけてジラーニが体制を崩した間に、110式陣陽とガストから猛烈な銃撃を浴びせられジラーニは木っ端微塵に吹き飛ばされる。もう1機のジラーニは起き上がろうとするが、ジービュにロッドを突き立てられ沈黙する。
『ハッキング完了、エレベーターに乗り込め!』
ジュリアスが声をかけると、エレベーターが降下を開始する。すぐにガストとジービュ、110式陣陽がエレベーターに飛び乗り、エレベーターは格納庫に到着する。
『待っていたぞ、反乱軍。』
「ザーフトラの空挺部隊か。また厄介なものが・・・」
ロッドを装備したヴィーザフを先頭に、黒地に紫色のラインが入ったヴァンツァー部隊が待ち構えている。ハーネルが忌々しげにつぶやくと、ショットガンを向ける。
『俺たちが反乱軍なら、お前達は侵略者だな。こんな巨大な要塞を持って来てまでアゼルバイジャンを奪い返そうというのか?』
『そうだ、ザーフトラの秩序を脅かす・・・ことに英雄気取りのペンギンには身の程を知ってもらおうと思っていてな。』
『秩序、な・・・』
ふん、と鼻で笑い、カダールは真上に霧島71式を発砲する。それを合図として、ガストとジービュが突撃する。
『市街地を火の海に変えて秩序とは笑わせる。叩き潰せ、情けは無用だ!』
カダールが部下を激励しつつ、メナートを発射。突貫してくるジラーニにミサイルが直撃すると同時に95mm徹甲弾が直撃、アイビスが直撃したジラーニは爆発を起こす。
『まず1機・・・!』
『ナイスキル、レジーナ!私達もがんばります!』
リヴィエとシエラがマシンガンを連射して65式と銃撃戦を開始する。するとEMPバックパックを搭載したヴィーザフがアゴーニをもって突撃してくる。
『倒れるがいい、シュトゥルムピングィン!』
『・・・バビロフか!』
ハーネルが声で相手を判断すると、F-4ハンドロッドでアゴーニを受け止める。
『貴様がここにいるとはな、ハーネル!』
『・・・巡航ミサイルで市街地を焼き払う奴らと同類にはされたくない。バビロフ、悪いが俺は俺の信念を貫かせてもらう。』
至近距離でビュジェを発砲。ヴィーザフが吹き飛ばされながらも体勢を整えるとEMPを稼動させる。途端にジービュが停止してしまう。
『システムダウン!?くっ・・・動け、再起動しろ!!』
ハーネルがコンソールに怒鳴りつつ、ヴァンツァーを再起動させるがその間、ヴァンツァーはまったく動くことができない。バビロフのヴィーザフが、アゴーニを振り下ろそうとする。
『危ない、ハーネル!』
グロップがすばやくジービュを体当たりで転倒させ、何とかロッドの一撃から回避させる。倒れながらもジュリアスはヴェスペA4を発射。ヴィーザフがそのまま後退して榴弾を回避する。
「カバーするよ、ジュリアス!」
グロップが起き上がる間、ガストがカバーに入りアールアッソーCと20mm機銃を連射し続ける。65式が1機銃撃をまともに受けて爆発するが、いきなりガストの左腕が吹き飛ばされる。
『いい的だねぇ?もう一撃食らわせてあげようか?』
「ちょっ・・・!」
副官らしい女性の声が聞こえ、シエラはすばやくサイドステップで回避するがガストの右腕が完璧に吹き飛んでいる。搭載していたアールアッソーCも使えず、シエラはやむなく20mm機銃のみで応戦する。
スナイパーに一撃で吹っ飛ばされた。同じ女性パイロットでいい腕前だが今はほめる暇も無い。シエラは目標を指揮官の機体と思しき一回り大きなテラーン(※2)に狙いを定める。
「隊長、指揮官を狙って混乱を誘おう!?このままじゃ・・・!」
『わかった。テラーンDに集中砲火を浴びせる。ハーネルは無事か!?』
先ほどシステムダウンしたジービュを見て、ハーネルが呼びかけると再起動したジービュがジラーニへと向かっていく。
『無事だ。なるべく敵を引き寄せる。』
『頼むぞ。射撃用意!』
カダールが霧島71式を発砲。テラーンDの正面装甲に12.7cm砲弾が直撃するが平然とテラーンDは10cm砲を発射してくる。
サイドステップでミュートスが回避。砲弾が床に突き刺さるがかまわずにカダールはミサイルを発射。テラーンの胴体部分にミサイルが直撃する。
『化け物か!?まだ壊れない・・・!』
『ジュリアス、攻撃の手を緩めるな!撃ち続ければ壊れる!』
カダールが叱咤激励しながらミサイルを発射し続ける。ジュリアスもヴァンパイア武器腕からミサイルを発射し、マシンガンとヴェスペA4を叩き込むがテラーンDは平然と10cm砲を発射してくる。
『動きを止めてくれないかい?隊長、シエラも・・・そうしたら、操縦席ピンポイントでぶち抜いてやる。』
「頼むよ!」
それだけ言うと、シエラは20mm機銃でテラーンDの脚部に集中砲火を浴びせる。カダールも霧島71式を発砲するが、斜線に入ったジラーニに砲弾が直撃する。
『邪魔だ・・・!』
ジラーニは撃破したものの、テラーンDが砲撃を止める気配も無い。10cm砲弾がミュートスの左腕に直撃、バズーカ砲を保持している腕が吹き飛ばされてしまう。
「隊長、大丈夫!?」
『重要な部分は損傷していない、何とかなる!』
バズーカをふきとばされても、まだミサイルが残っている。カダールはまだいけると思い、ミサイルの照準をテラーンDの脚部に合わせる。
10cm砲の着弾にかまわず、カダールは脚部にミサイルを発射。2本のミサイルがテラーンDの逆間接機構に直撃しバランスを崩す。
「レジーナ、早く撃って!」
『任せな!』
一瞬だけ動きが止まった隙を逃さず、レジーナがアイビスを発砲。テラーンDの中央部に95mm徹甲弾が直撃し、テラーンDは停止してしまう。システムは稼動しているが、動く気配が無い。
「おっけー、テラーンD停止・・・隊長、隊長!?」
シエラが満足げな表情で停止したテラーンDを見るが、カダールからの応答が無いことに疑問を抱き、接近してみる。ミュートスが火花を散らし、煙を噴き上げて倒れている。
「た、隊長が!リヴィエ、ミュートスから隊長を助けておいて!私たちが応戦して時間を稼ぐ!ジュリアスとハーネルは要塞に爆弾を仕掛けて爆破して!巡航ミサイル発射機と機関部に仕掛ければ大丈夫だから!」
『了解!』
ジービュとグロップが機関部へと向かっていく。残り3機程度なら何とかできると思い、シエラは20mm機銃を敵部隊へと向けるが1機のヴィーザフがロッドを真上に掲げる。
『銃撃するな!交戦の意思は無い。これ以上お互いに潰し合いをするのは得策ではないはずだ。隊長を収容したら撤収する。』
『バビロフ、本気なのかい!?あいつらを今やらなかったらザーフトラも・・・!』
『こちらも全滅します。戦力的にも不利、爆発に巻き込まれる前に撤退するべきです。』
忌々しげに副官が舌打ちするのが聞こえたが、ライフルの構えをとくと一歩後退する。
『運がよかったね?だけど、次出会ったら叩きのめすから覚悟しときな。』
「それはこっちの台詞、ま・・・会わないと思うけどさ?」
65式から兵員が降りて、テラーンDから部隊長を引きずり出すとバックパックに収容(※3)しそのまま撤退する。すると、要塞内部からジービュとグロップが戻ってくる。
『爆弾を仕掛け終わった。時限装置を仕掛けている、残り10分で爆発するぞ。』
「了解。今リヴィエのバックパックに隊長を収容したからこっちも脱出するよ!」
110式陣陽のバックパックにリヴィエがカダールを収容、そのまま要塞側面部のハッチをこじ開けてシュトゥルムピングィンはズィリエーズナヤ・ローシァチから脱出する。
脱出した先に開放同盟軍のトレーラーが待機しており、雪上迷彩が施された4機収容可能な無蓋トレーラー(※4)にヴァンツァーが乗り込む。
『・・・ん?6機のはずなのに5機だけか?』
『それは・・・』
ジュリアスが言葉に詰まってしまうが、シエラはわざと笑みを見せて明るい調子で答える。
「罪深い人には6機目は見えないの。さっさと行ってくれないかな?あと7分で爆発するんだけど・・・」
『わかった。全速で離脱する!』
開放同盟軍のヴァンツァーはすでに脱出し、シュトゥルムピングィンと護衛部隊を乗せたトレーラーはそのまま脱出する。
7分後、ズィリエーズナヤ・ローシァチは大規模な爆発を起こす。巡航ミサイルすべてと機関部がすべて爆発し、修復には1年以上必要と後に回収に来たザーフトラ軍部隊は証言した・・・
1840時 ビラスバル病院205号病室
「た、隊長は無事!?」
息を切らしてシエラが病室手前まで駆け込んでくるが、40代くらいの男性医師がシエラ達を止める。トレーラーで運んでは間に合わなかったため、輸送ヘリでカダールだけ先に輸送してもらったのだ。
「まぁ落ちついて。カダールさんは無事です。砲弾の破片で肩を怪我したようですが、着弾時のショックで気絶し脳震盪を起こしたことが気絶の原因です。」
「よかったぁ・・・」
医師の報告を聞き、シエラは崩れ落ちるようにその場に座り込む。後を追ってきたハーネルも事情を聞いて一安心した様子だ。そして、走ってきたのが迷惑だと思って頭を下げる。
「・・・迷惑をかけて申し訳ない。」
「気になさらず。貴方達の気持ちもわかります。けど、帰りはどうか気をつけてもらいたい。今のところ、安静にするのが一番の妙薬ですしほかの患者様もいらっしゃるので。」
医者に釘を刺され、うなずくとハーネルとシエラは一緒に戻っていく。
「・・・無事でよかったな、シエラ。」
「うん、どうなるかと思ったけど・・・本当。」
ほっと一息ついて、シエラは満足げに戻っていく。カダールが無事ならそれでいいらしく、病状なども聞かずに格納庫へと戻っていく。
「・・・しかし、病室に無理に入ったりしないんだな。」
「プロに任せるしかないじゃない。それに、完治が遅れたら大変だから・・・アリャートの会戦、もう少しでしょ?」
「・・・そうだったな。2週間以内にと言っていたが。」
同盟軍は南部方面軍の大半をアリャート近辺に集めている。政府軍もヴァンツァーや戦車などを集めて対抗する姿勢を見せており同盟軍もそれに合わせる形で戦力を集結させている。
「だから、下手に刺激するのもどうかと思ったんだ。明日改めてお見舞いに行こう?」
「そうだな。」
ハーネルもシエラに同意すると、2人は病院から出て行く。隊長不在の間、やることはかなり多いのだから。
バクー 政府軍司令部 同時刻
「・・・わかった。司令と部隊長は戦死か。」
「申し訳ありません、中将・・・」
デムチェンコが報告に来たバビロフとイワノヴナの表情を見て、仕方ないとうなずいてみせる。しかし今まで出てこなかったペンギン達は彼の頭痛の種でもあった。
単独行動で次々にガラサンジア、ビラスバルと陥落させるほどの行動力、そして首相救出にも一役買っていたほどの精鋭をどう対処するべきか悩むのも無理は無かった。
「気にすることは無い。イワノヴナ、後任はお前に任せる。バビロフは副長を担当しろ。退室してかまわん。」
「了解、同志。」
そのまま敬礼をして、きびすを返すと2人は司令室から出て行く。するとデムチェンコはいきなり机をたたき苛ついた様子で周囲を見回す。
「あのペンギンどもの居場所はまだ特定できないのか!?」
「はっ・・・今特定できました。今ビラスバルにいる模様です。隊長が負傷し、彼らもヴァンツァーともどもそこに待機しているとか。」
部下の報告を聞いて、今まで怒鳴りつけていたとは思えないほどの笑みをデムチェンコは浮かべる。にやり、と笑みを浮かべると直ちに命令する。
「政府軍の一部と我が軍で強襲部隊を編成しビラスバルを攻撃しろ。目標は病院だ。」
「しかし、それでは民間人も巻き込みます!」
「あの忌々しいペンギンを叩きのめすチャンスだ。隊長さえ死ねばただ無謀な連中に過ぎない。病院を先制攻撃して潰し、カダールを抹殺せよ。以上だ。」
部下は了解、とうなずきながら各方面に命令文書を送る。すると通信が入り、デムチェンコはうやうやしくコンソールに映し出される相手に答える。
「何でしょうか、同志メルディフスキー。」
『戦局が思わしくないようだな、同志よ。』
「はっ。あのペンギン達さえいなければ・・・今、非常手段をもって抹殺する予定です。」
『そうか。ズィリエーズナヤ・ローシァチの仇はとってもらう。我々でも対策を講じるが、必ずしとめろ。』
了解、とデムチェンコが応答すると画面が切れて通信が終了する。さすがにザーフトラの国家元首を相手にすれば息も詰まるのか、デムチェンコは深く息を吐きいすにもたれかかる。
そして、この作戦が失敗したらどうなるのだろうという不安が一瞬だけ脳内をよぎった。
続く
(※1)
フロントミッション・エボルヴに出演するカバラスの原型となった機体。ついでなんで設定を。ドミトーリ公社が2093年に開発した新型ヴァンツァー。膨大な出力のエンジンを搭載した最新型で出力供給系統に最新型の機材を導入している。その結果ジラーニ級の機動力に加え重装支援機クラスの出力を持ち合わせザーフトラ軍では支援機としての導入を決定した。
これまでのヴィーザフ系列やテラーン系列から離れたデザインや設計の原因はサカタインダストリィの試作機をそのままドミトーリ公社がロールアウトしたことによる。サカタインダストリィは2093年度には経営が立ち行かなくなり、すでにドミトーリ公社とイグチに分割買収されることが決定。イグチは高機動方の機体を苦手としたためナディエージダの設計図をドミトーリに引き渡したという逸話がある。
ただしジラーニと同等の機動力を引き出したために装甲は薄めであり、ストームなどの軽量級支援機と同等。(※2)
設定のみあったMULS-P非対応テラーン。以下設定。2074年に設計が完了した大型ヴァンツァー。当初は単にテラーンと呼称されていた。グルジア紛争が初陣であり通常のヴァンツァーでは歯が立たずEC軍にゲパルドシリーズ製作のきっかけを与えた。
装甲車が使う10cm低圧砲を腕に標準装備。肩には通常ヴァンツァー用のランチャーマウントを搭載。大型だがそれほど機動力が悪いわけでもなく、支援機クラスと同等。
当時、発足した恒平和調停軍の中核として当初はそのまま運用する予定だったが大型過ぎてほかのパーツとうまくかみ合わず、結局MULS-Pサイズのテラーンが量産されることになった。
現在ではリサイズされたテラーンの方が有名であり、既存のテラーンはテラーンDと名称を変更し区別されることとなった。指揮官用や中〜遠距離戦用の機体として2094年現在でも数多く配備されている。(※3)
FMEほど操縦席も広くないので人員を収容するにはバックパック程度しかないと判断した。弾薬などをある程度投棄すれば人の入るスペースは確保できるだろう・・・もっとも揺れそうだが。(※4)
霧島重工製トレーラー。型番はTC280。せっかくなので設定を。霧島重工が開発したヴァンツァー輸送用トレーラー。先頭車両と後部の牽引車輌に分割できるタイプで荷台に直立状態で4機、寝かせた状態で2機のヴァンツァーを搭載できる。戦車なども輸送可能。
主にOCU各国での採用が多い。同盟軍も政府軍から鹵獲したり、こっそりと発注して隠していたものを使用している。基本的には軍用トレーラーだが、大型のコンテナを陸上輸送する際にも運用される。