Front misson Brockade
Misson-12 Transportation force
2/7 ビラスバル仮設ガレージ 0840時
「いい感じだな、これはいけるぞ・・・?」
シミュレーターを終えて、ヴァンツァーから降りてきたカダールは新しい機体の感触を確かめる。以前の戦闘で鹵獲した無傷のミュートスを使用している。先日から輸送部隊なども到着し、ビラスバルは完全に制圧されOCUやECの部隊も入ってきている。市街地内部のヴァンツァーショップを使用した格納庫が「シュトゥルムピングィン」の格納庫として運用されている。
ミュートスの武装は政府軍から鹵獲した霧島71式(※1)とメナートを使用している。シエラはお気に入りだねーとか声をかけてみせる。
「ミュートス、何回も使ってるじゃない。ストームを民兵に預けて・・・大体武器腕どうしたの?」
「信頼できる日本製に交換した。政府軍の補給物資もかなりあるし、砲弾には事欠かないだろう。お前も変えたのか?」
「まぁね。何か落ち着くのに。見る?」
ああ、とうなずいてカダールも隣のハンガーを見ると思わずびっくりしてしまった。胴体部分にガトリングを搭載。左右の腕にカルドのガトリング武器腕を搭載している。脚部は政府軍のゼニスから流用したらしい。
「おま・・・そ、それ・・・」
「格好良いでしょ。胴体はマネージュとか言う政府軍の機体から流用したの。」
シエラのセンスにカダールは呆然としてしまう。格好いいのかとか、何だこれはという指摘ばかりが思い浮かんで消えていく。
確かに火力は半端ではない。マネージュのトヴェリとカルドのガトリング砲を加えた射撃は猛烈な弾幕を生み出すだろうが取り回しが悪すぎる。
「・・・考え直せ、シエラ。お前の任務は近接戦闘だろう、それでは取り回しが悪くて近接戦闘に対応できない。」
「あ。」
今更のようにシエラが気づいてしまう。ガトリングの武器腕は重量があり取り回しは良くない。胴体の旋回機構だけで照準を調整するならなおさらだ。
「・・・もっと取り回しのいいマシンガンに変えたほうがいい。マネージュの胴体はかまわないが・・・」
「了解、そーするよ。隊長。」
何があるかな、とシエラがパーツをあさって見る。65式など今更使う気が起きないし武器腕じゃ無いと嫌のようだ。
カダールもセットアップを見守っていると、リヴィエが格納庫へと駆け込んでくる。
「通信です。隊長は直ちに司令部に出頭するようにと。」
「わかった。シエラ、俺が戻ってくるまでにまともな機体に仕上げておけ。」
えー、とシエラは嫌そうな顔をしたがすぐにセットアップを開始する。カダールはリヴィエを伴って司令部に向かう。
駆け足で司令部に向かうと、ディートリッヒ少将が複雑そうな表情をしてモニターの画面に映る。
『少佐、今我々は大変な事態に直面している。ビラスバルとマサルの間に政府軍が潜伏、我々の輸送部隊を襲撃しているとの情報が入った。』
「輸送部隊を?」
『そうだ。政府軍はガラサンジア付近を巡回して奇襲をかけている。これからOCUの輸送部隊も通過する。貴官には即刻増援部隊として現地へと向かい輸送部隊の援護をしてもらいたい。OCU日本からの部隊だ。』
なるほど、とカダールも納得する。ガラサンジア付近のヴァンツァー部隊を一掃してゲリラ活動を停止させるためにはシュツルムピングィンが最適だと判断したのだろう。
「了解、じゃあ俺達で何とかしましょう。時刻は?」
『1400時にガラサンジアを通過する。準備を整え次第空挺投下を行う。撤収もヘリだ。出撃準備を頼む。補給物資の内容はOCU日本からの食料や弾薬だ。』
「では、直ちに出撃準備に取り掛かります。」
リヴィエとカダールがモニター越しのディートリッヒに敬礼をすると、彼も敬礼を返したところで画面が消える。
「隊長、この前の命令書ですが・・・」
「気にするな、俺の見抜けなかった物だ。お前だって見抜けなかったなら仕方ない。」
言葉をさえぎられてリヴィエは戸惑ってしまうが、カダールは気にするなと声をかける。
「ですが、隊長に迷惑がかかってしまいましたし・・・」
「そんなことを気にして任務に差支えが出るのが一番祖国にとっての迷惑だ。俺のことは心配する必要は無い。リヴィエ、今日も頼む。」
肩をぽん、と叩いてカダールは先に進んでいく。リヴィエは一瞬だけ止まるが、早足でカダールに追いついて一緒に格納庫へと向かう。
「・・・わかりました、隊長。ご期待に沿えるよう全力を出します。」
「ああ。メカニックは得がたいからな。特にリヴィエ、お前みたいに前線で戦える要員はそうそう多くない。」
必要とされていると知れば、リヴィエも笑みを浮かべてうなずいてみせる。「本来の仕事」さえなければ、もっと喜べたのだがそうも行かない。
この部隊はゆるい雰囲気だが妙なところで直感が働き、いつ正体が判明してしまうかもわからない。そんな緊張感の中では賞賛の言葉もそれほど心に響かない。それも最高の褒め言葉なのだが。
「・・・ありがとうございます、隊長。」
「本心だから気にするな。早く行くぞ。」
2人はすぐに格納庫へと戻るとすでにセットアップの終わった機体が待機している。シエラの機体はガストにアールアッソーCを搭載した、クーデター前の逃亡に使った機体と同じものになっている。
「・・・またガストにしたのか?」
「何かしっくり来る武器腕が無かったんだ。これなら信頼性も高いし、肩に武装も搭載できるからね。」
頑丈さや機銃の命中精度からガストの武器腕は好評であり、信頼性も高くパーツの入手もたやすい。ディアブルアビオニクスでは新鋭機体の生産を行っているため本家の生産数はそれほど多くないがホープライズやフレイマン、さらに各国メーカーが無節操に量産している数を加えれば相当なものになる。
最近ディアブルアビオニクスが最新型のガストを生産したが機銃の稼動部分がもろいなどの欠点もあり売れ行きは伸び悩んでいるという。
「・・・あぁ、わかった。とりあえず戦えれば何でもいい。さっきのマネージュとカルドに比べれば数段マシだ。」
「ま、マネージュとカルド・・・ですか・・・」
リヴィエにもなんとなくイメージがついたらしく、引きつった笑みをこぼしてしまう。シエラはそんなに自分のセンスが悪いかなぁ、と疑問符を抱いてしまう。
「え、いいじゃん。ああいうの・・・リヴィエもガトリングに熱を感じない?」
「いえ、そんな・・・」
やはりダメかぁ、とシエラはため息をつく。この良さがわからないなんてヴァンツァーの1/3の魅力を捨てていると断言する。
「ちなみに残り2/3は武器腕とヴァンツァーを自分で動かす感覚が半分ずつね。」
「そんなガトリングが好きなら何故アールアッソーを肩に?」
「チェーンガンも大好きだから。このガツンとくる反動と電動のこぎりを思わせる音、最高なんだよねぇ。」
カダールとリヴィエは顔を見合わせてわからない、とため息をつく。彼女の兵器に対する愛着を理解するのは不可能のようだ。
シエラもそんな複雑な空気を察したのか、はしごを昇りながら声をかける。
「と、とにかく行こうよ!シュトゥルムピンギィン、出撃!」
「・・・ああ。」
きめ台詞のような言葉を無理やり言ってシエラはガストへと乗り込む。カダールとリヴィエもそれぞれの機体へと乗り込んでいく。
ガラサンジア 1050時
「酷い吹雪だな、これは・・・」
吹雪のためにヘリは郊外にヴァンツァーを投下して離脱する。市街地に投下すれば変な場所に着地してしまう可能性もあり直接おろすにしてもヘリが破損することもありえる。
彼らもその事情は察しているらしく、文句1つ言わず進軍する。ガラサンジアは巡航ミサイルで壊滅させられた後も避難民がこの市街地に集まっていた。
『・・・こんな中でも生きてるんだね、みんな。』
ガラサンジアの住民は市街地から離れて難民キャンプを作っていたり、市街地の放棄された建物に入って吹雪をしのいでいる。目視では確認できないがIRセンサーではしっかりと確認できる。
『あたしらのせいかな・・・蜂起しなきゃ、こんなことに・・・』
民兵部隊として蜂起し、結果市街地は巡航ミサイルの攻撃によって壊滅させられた。レジーナは多少なりとも責任を感じているようだ。
『ザーフトラの責任だ。レジーナは責任を感じる必要も無い・・・連中のやり口に追随する政府軍の責任でもあるがな。さっさとこの戦争を終わらせるぞ。こんな市街地をザーフトラ軍が大量に作ってしまう前に。』
ハーネルはレジーナの責任ではないと断言する。ザーフトラ軍が介入しなければこんなことにはならずにもすんだのだ。
『そのことで話があるんすけど、全員。巡航ミサイルの発射拠点は全然特定できないんです。』
『そんなバカな・・・じゃあどこから発射されたんだ!?』
ハーネルが冗談だろ、と思いながらジュリアスに尋ねる。陸上の巡航ミサイル基地でも車両でもなければどこから発射されたというのだろう。
『それも不明。トルクメニスタンからの中距離戦術ミサイルとは系列が違う。けど車載用にしては威力が大きくてしかも数が半端じゃない。何かこう、原子力潜水艦搭載用のミサイルみたいな雰囲気だな。』
『潜水艦ですか?まぁ確かに無理をすれば・・・』
入れそうです、とリヴィエはうなずいてみせる。黒海からボルガを通ってカスピ海に通じるルートは確かに存在する。ザーフトラ領内だから極秘裏に運ぶことも可能だろう。
『だったらさ、司令部に今度哨戒要請しとこうよ。対潜、対艦両面で。』
「もちろんだ。それと作戦行動開始、気を抜くなよ。」
レーダーには日防軍の機体が写る。しかし報告にあった機数より少なくなっているのを見て、全員が息を呑む。接近するとぼろぼろのヴァンツァー部隊が輸送車両を護衛しているのが見える。
「こちら同盟軍のシュトゥルムピングィン、日防軍応答せよ。」
『同盟軍か?助かった、こっちは6機が撃墜された、来てくれ!』
銃声も聞こえていない。まだ大丈夫だと思い警戒を解かずにシュトルゥムピングィンが輸送部隊に接近すると陣陽1機、炎陽1機、71式秋陽(※2)2機が周囲を警戒している。陣陽の武装はリペアバックパックに90式機関銃(※3)と霧島51式を搭載している。
『6機も?手ひどくやられたね・・・負傷者は?』
『4人死んだ・・・残りの2人はガラサンジアの難民キャンプにある医者に預けている。多分無事だとは思うが・・・』
『しかしどうしたのさ?日防軍って実戦経験は無いけど政府軍に遅れを取るほどじゃないよね?』
OCUでの合同演習では常にトップクラスの戦果を持ちサカタインダストリィやイグチ社、霧島重工製の最新装備を備えた機体で固めた日防軍はUSNやECからも一目置かれる存在だった。
シエラは周囲のヴァンツァーの残骸を見て疑問符を抱く。せいぜい撃破出来た政府軍のヴァンツァーは2機程度、対する日防軍のヴァンツァーは弾痕だらけで6機も撃破されている。
『・・・交戦許可さえ下りてれば!先制攻撃すりゃあ何とかなったものを、司令部が交戦許可を出さないばかりにこのざまだ!中佐が司令部に掛け合ってくれなかったら全滅してたくらいだ・・・』
コンソールを叩く音とともに日防軍の兵員が恨み言を強い口調でぼやく。
『ちくしょう、もっと早くやってればあいつも助かったのに!5歳の妹もいたんだぞ、なんで軍曹が・・・あんないい奴が死ななきゃいけないんだ!』
『もうよせ、兵長・・・シュトゥムピングィンだったか、我々の戦力では足りない。政府軍を殲滅してくれないか?一度追い返したが、また戦力を再編してくるはずだ。』
日防軍の兵員はどこへぶつけたらいいかわからない怒りをあちこちに撒き散らしているが、部隊長がそれを制止する。
「わかった。リヴィエ、修理を頼む。俺はルスラーンに戦術級UAVの支援を要請する。」
『了解。』
リヴィエが日防軍の機体を修復している間、すぐにカダールは無線を空中管制機へとつなぐ。
『久しぶりだな、少佐。何か用件かな?』
「UAVを1機回してくれ。IRシーカーとレーダーを複合できるのがいい。該当区域は猛吹雪だがまわせるか?」
『わかった、1機回す。燃料の関係から時間は30分ほどだ、有効に使ってくれ。』
部隊に随伴して周囲を捜索するのにもUAVは使用される。リンクが途絶させられたり撃墜される衛星よりも安価で最悪使い捨てにも出来るUAVはヴァンツァーとともに近代的な軍隊の象徴とも言える。
まだまだ航続距離の問題なども残されているが部隊の「目」として運用するには十分な性能を備え、単純な機構ゆえにジャミングや無線妨害も難しい。カダールが到達したUAVとリンクすると市街地の廃墟に部隊が展開している。
「政府軍を確認、機影12だ・・・多いぞ。警戒しろ。4ブロック先から進撃中。」
『了解、警戒する。』
71式秋陽は霧島51式と90式機関銃を敵機の方向へと向ける。そしてイグチ82式を敵部隊へと向けて発射する。15.5cm砲弾が敵部隊のど真ん中に炸裂するが、政府軍のヴァンツァーは大通りに出てくる。
機影はゼアレイドとペルゼア。真っ先にゼアレイド2機がジュアリーを連射しながら突撃してくる。
『ひるむな、撃ち返せ!訓練を思い出せばいい!』
日防軍の部隊長が必死に部下へと指示を出す。40mmテレスコープ弾が次々に突進してくるゼアレイドに直撃。猛烈な弾幕を浴びせて1機撃破するがペルゼアがローラーダッシュを仕掛けて突っ込んでくる。
そして右手に装備されたヘビーパイルを突き出すが、ハーネルがすばやくビュジェで腕を吹き飛ばし反撃にハンドロッドを叩き込む。ロッドは縦に振りかざされ、ペルゼアの左腕を破損させる。応戦できないペルゼアから、搭乗員が脱出する。
『敵機を無力化した、次に移る。』
『おっけー。けど多いよ。何かやばいかも・・・』
シエラが弱気な発言をするが、20mm機銃とアールアッソーCを連射する。ターゲットは中距離からスラブを発砲する150式だ。
150式もスラブで応戦するが、ミュートスから発射されたメナートが直撃し武器を搭載した右腕が吹き飛ぶ。そこにアールアッソーCの弾幕を受けて爆発する。
『いけますよ、シエラさん!敵機はひるんでます!』
『そう?じゃあいけるかも。』
リヴィエの言葉に根拠は無いが、シエラは猛烈な弾幕を敵機に浴びせ続ける。20mm機銃とアールアッソーCを連射して突撃してくるペルゼアを破壊。
『右の道路に政府軍!』
『対応します、レジーナさんは援護射撃を!』
『了解、任せな!』
ジュリアスとリヴィエが細い道路から向かってくるゼアレイドめがけヴェスペA2と32mm機銃を連射。大口径の砲弾と銃弾が炸裂したところに95mm徹甲弾がゼアレイドを貫通、後方にいたペルゼアにも直撃する。ゼアレイドが爆発するがペルゼア2機が突貫、スフィンクスを搭載したワイルドゴートがバズーカで射撃を加えてくる。
『ちょ、冗談抜き・・・!』
真横にジャリドが回避、10cm砲弾は後ろのビルに直撃して爆発する。すぐにジュリアスがヴァンパイアを発砲。リヴィエも32mm機銃で応戦するがペルゼアは無理やり突撃。パウンドを振りかざす。
とっさにリヴィエがシールドでパウンドを受け止めると逆にシールドで打撃を加える。硬い霧島製シールドの一撃にひるんだペルゼアにグロップがヴェスペA4とヴァイパイアを射撃。
『吹っ飛べ!』
25mm銃弾と81mm砲弾がペルゼアの胴体へと吸い込まれるようにして着弾、ペルゼアが爆発するがワイルドゴートがその背後からスフィンクスを発射。グロップの胴体に10cm砲弾が直撃する。
『ま、まずい!』
『今助けます、レジーナさんは援護射撃を!』
『了解!』
砲弾が直撃してバランサーとカメラが故障、グロップが転倒する。その間にスタブラインがシールドを装着した腕でグロップを引きずって物陰へと隠してから修理する。
その間にジャリドがアイビスを発砲。95mm徹甲弾の直撃を恐れてワイルドゴートは一旦建物の影へと隠れる。すると政府軍の戦闘ヘリであるAAH44CEが飛来。ロケットを発射する。
『冗談じゃない!一旦後退する!』
『政府軍にヘリまで!?多すぎるよ、増援お願い!』
シエラは増援を要請するが、ルスラーンが増援要請は出来ないと重い口調で答える。
『すまないが、増援は送れない。猛吹雪の上にガラサンジア近辺に巨大な機影を確認している。』
『機影って何!?』
『この天候ではUAVでも判別不能だ。だが人工物で先日まで無かったものだ。明らかに敵軍の保有する「何か」であることは間違いない。それがわからないことには戦力を出すことも難しい。』
落ち着いて考えればルスラーンの判断は合理的だが、戦闘状態で援軍が来るか来ないかの判断しか出来ないシエラは思いっきりコンソールに手を叩きつける。
『落ち着け・・・シエラ、今は戦うことに集中しろ。』
『わかってる!私はヘリを落すから、ハーネルはそっちでがんばって!』
車列をはさむようにしてシュトゥルムピングィンと日防軍が戦っている。シエラはすぐにアールアッソーCで後方で戦っているAAF44CEめがけ射撃。40mm徹甲弾がすさまじいほどの連射速度でイーガーを直撃、爆発させる。
もう1機もジュリアスの発射したヴァンパイアが直撃して爆発。するとワイルドゴートがローラーダッシュを仕掛けて大通りに躍り出る。そしてスフィンクス上部の25mm機銃で修理中のグロップとスタブラインめがけ射撃を加える。
「怪我している仲間を撃つのは感心しないな?吹っ飛べ!」
カダールはすぐに霧島71式でワイルドゴートめがけ射撃。12.7cm砲弾がワイルドゴートへと直撃するが分厚い装甲は一撃で破壊できず、ワイルドゴートは反撃の10cm砲弾を発射する。
「ちっ・・・!」
砲弾がミュートスの近くに着弾、爆風を受けるもカダールはひるまずに霧島71式で反撃を加える。ワイルドゴートは12.7cm砲弾が直撃。損傷した装甲では耐え切れずエンジンブロックに引火、爆発を起こす。
木っ端微塵に吹き飛んだワイルドゴートの後からゼアレイドが突貫。両腕のレオスタンを連射しながら向かってくるが95mm徹甲弾が直撃し脚部を破損。火花を散らしながら転倒し日防軍のトレーラーへと衝突する。
もう1機のゼアレイドはヴェスペA4と32mm機銃、23mmガトリング砲の猛攻を受けて爆発する。真正面からの敵機は日防軍とハーネルによって一掃されたようだ。
『こちらルスラーン、機影確認できず・・・いや、待て。巨大な機影を確認した、警戒せよ。』
「機影?」
『高速で接近中、大型のヘリだ!』
大型のヘリと聞いて全員が警戒する中、猛吹雪の白いヴェールから巨大な機影が現れる。二重反転ローターを搭載したヘリで両翼に大量のロケットポッド、機体下部に大型のガトリング砲を搭載している。
『機影は霧島重工製ALH39フルーブルス(※4)と確認しました。早く車列を避難させないと大変です!』
「リヴィエの報告を聞いただろう、輸送部隊。早くわき道にトレーラーをよけろ!」
『了解。』
カダールが指示をだし、トレーラーはすぐに横の道へと入ろうとする。だがフルーブルスはロケットランチャーをいっせいに発射。メインストリートを破壊しつくしていく。爆風に1台のトレーラーが巻き込まれ、搭載していた弾薬に引火して爆発する。
『1機やられた!』
『攻撃をさせるな、連射しろ!弾切れを気にするな!』
110式陣陽がいっせいにフルーブルスへと銃弾を連射。しかし多少の被弾では物ともせず大型の攻撃ヘリは50mmガトリング砲を連射する。標的になったのはミサイルを発射しようとしていた109式炎陽であり、集中砲火を受けて爆発してしまう。
『まただ・・・!ちくしょう、仲間の仇をとれ!』
「あのヘリは小火器程度ではびくともしない、ミサイルやバズーカを使え!銃弾を惜しむな!」
そういいながらカダールは霧島71式を発射するがあっさりとフルーブルスは横に移動して回避し50mmガトリング砲を連射する。ミュートスは後退して50mm砲弾(※5)を回避する。
『すっごくおっきい・・・!あれ欲しいな・・・』
『あれ欲しいな、じゃないだろう。もっと何か考えろ・・・!』
キャッツレイで応戦しながらハーネルがガトリング砲に見とれているシエラへと檄を飛ばす。だがシエラはすっかりガトリング砲に夢中で攻撃していない。
『ねぇ隊長、あれ壊したらヴァンツァーに搭載していい?』
「搭載できるわけないだろう、というより集中しろ!お前が弾幕を浴びせないと輸送部隊もまずいんだぞ!』
あ、とシエラは気づいてアールアッソーCを連射する。40mm銃弾を受けてもフルーブルスはまだ平然とロケットランチャーを発射してくるが、回避高度を取ってシエラは直撃を免れ20mm機銃を交えてフルーブルスに射撃を加える。
猛烈な弾幕が浴びせられるが、平然とフルーブルスは50mmガトリング砲を71式秋陽へと向けて連射する。ライトシールドで秋陽は何とか防ぐが、耐え切れず腕が破損する。
「このままだとなぶり殺しだ!動きでも止めれば・・・!」
『なら護衛しててくれ、隊長!』
ジュリアスのグロップが動きを止める。そしてEMPを発動させるために一旦大通りの真ん中で停止する。無論、いい的でしかないがEMPを仕掛けるためには少し待機しなければならない。
そして敵機もそれを察しているのか、動きの止まったグロップめがけ50mmガトリング砲を連射する。轟音とともに大量の砲弾が連射されるがすかさずリヴィエがシールドを構え、グロップへの着弾を防ぐ。しかしシールドは重い砲弾を受けて破壊されてしまう。
『EMP稼動!』
ジュリアスがEMPを稼動させると、フルーブルスがホバリングしたまま停止する。舵に関する機能が動かなくなったらしく、空中で高度を維持したままだ。その隙にカダールが霧島71式を発射。砲弾が操縦席ブロックに直撃する。
無論1発ではどうしようもない、だがホバリングしているだけで動かないフルーブルスに集中砲火が浴びせかけられる。マシンガンやミサイル、ショットガンを浴びせられローターが破損。そのまま横に回転しながら墜落する。
しかしその頑丈さゆえにヘリ本体は無傷であり、内部の人員が出てくると白旗を掲げ投降してくる。
『敵影は消滅した。例の巨大な機影もいなくなった。作戦完了だ・・・その大型機は回収部隊を要請しておいた。鹵獲する。』
「了解、ルスラーン。これより輸送部隊をビラスバルまで護衛する。それと回収部隊に日防軍の陣陽も使える部分だけ回収するよう言ってくれ。」
『了解。』
トレーラーはふたたび大通りへと戻り、残った日防軍のヴァンツァーとシュトゥルムピングィンは車列を護衛、そのままビラスバルへと向かう。数時間後にヘリが大型起動兵器や陣陽の残骸を回収していった。
ビラスバル臨時司令部通路 1640時
「あぁ、疲れた・・・」
「本当。輸送部隊なんて遅いからね。もう本当つかれたよ・・・」
ぐったりとして2人が臨時司令部の廊下に設置されたベンチに腰掛ける。缶ジュースを飲みながらカダールとシエラは休憩している様子だ。
そこに日防軍の将校が歩いてくる。年齢はカダールより少しふけているくらいだろうか。階級章は中佐でありカダールの隣に座る。護衛の兵員も2人廊下に待機しているようだ。
「・・・部下に代わって礼を言おう、シュトゥルムピングィンの隊長と・・・副隊長か。」
「そうだ。苦しかったがな・・・そして部下7名も死んでしまった。幼い妹のいる奴もいたが、俺が行った時には・・・」
死んでいたのか、と将校は察する。重苦しい空気の中、彼は頭を下げながら言葉を発するう。
「彼・・・新庄大尉は面倒見のいい中隊長だった。これからの日防軍を任せられる逸材だと思ったのだが、こんな紛争で死ぬとは・・・」
「ちょっといい?どーして戦わなかったの?政府軍相手に戦争やりに来たのに・・・」
率直な疑問をシエラが口にする。いくらなんでも戦場で攻撃しないというのがおかしいと感じたようだ。
「日防軍政府はあくまでも専守防衛を貫くという方針だ。師団長が交戦権を持っていて、彼の許可なしには銃すら発砲できない。USNで歩兵の突撃銃に軍司令部が操作できるセーフティ(※6)があるが、あれをヴァンツァーに応用したものだ。師団長の指示が遅れたため私の独断で解除させた。」
「やーるぅ。そういう上官、嫌いじゃないよ?」
シエラが笑みを見せて褒めると、将校は首を振る。そんなに褒められたことでもない、と言いたい様子だ。
「・・・そもそも師団長が甘すぎる。後方支援活動でも戦闘はあるというのに、撃たれるまで交戦を許可しないという甘い発想で前線に送り込んだのだからな。兵員は命だ、道具ではない。まして腐敗した政治家どものな。」
同感だ、とシエラとカダールもうなずいてみせる。腐敗して、弾圧された政治を変えたいからクーデターを起こしたのだからなんとなく気分はわかる。
「いずれ、日本を根底から変えなければなるまい。兵士の命を軽く見捨てるような国家はあってはならん。日防軍があるからこそ、隣国からの攻撃にもさらされずにすむ。そして発言力も得られるのだが、内閣は発言力の強化こそ掲げるもの軍事に対してはいまだにアレルギー体質が強すぎる。去年の戦略級通常爆弾ですら配備できない有様だ。」
「戦略級通常爆弾?」
聴きなれない言葉にシエラが首をかしげるが、わかりやすくカダールは解説する。
「核兵器と同等の威力を持つ超大型爆弾だ。15t級爆弾、確かMOAB(※7)とか言っていた。」
「その通り。核抑止論に対抗するには同等の破壊力を持つ兵器が必須だ。去年、政権が変わりその配備も法律で全面的に禁止されてしまったがな。発言力を得る機会は失われたともいえる。」
「だが・・・一応個人的に言っておきたいのだが、中佐。もし持っても本気で使う機会はなくして貰いたい。一口で言うのは簡単だが、使えば何万という民間人の犠牲が出る。あんたもガラサンジアの惨状を見ればわかるだろう?」
その通りだ、と将校はうなずいてみせる。どうやら彼も使う気はまったくないらしく、純粋に発言力を得るための手段として保有したいようだ。
「あぁ、言い忘れていたが・・・陣陽だったか、予備機が1機ある。君達に進呈しよう。」
「いいのか?最新型をそんな簡単に。」
「部下の命を救ってくれた礼だ。わざわざ残骸を回収するほどだ、使いたかったのだろう?では失礼するよ。」
それだけを言うと、将校は護衛の兵士に「そろそろ行くぞ」と語りかける。日防軍の兵士は敬礼して
「お疲れ様です、佐々木中佐。」
「ああ。さて行くぞ。今回の戦闘についての報告書を書かなくてはなるまい。」
立ち去っていった将校を2人は見送るが、途端にカダールとシエラがハイタッチを交わす。最新型の日防軍仕様ヴァンツァーがもらえると会ってうれしさを抑えきれない様子だ。
「よし、早速リヴィエに進呈するぞ。」
「そうだね。私も武器腕使いたいし、隊長はミュートス使うんだよね?」
「ああ、その前にちょっと試し乗りして見るとしよう。滅多にない機会だからな。」
早速2人は陣陽を堪能するために格納庫へと向かっていく。最新型のヴァンツァーがどうなっているか気になる様子だ。
ビラスバル臨時ガレージ 同時刻
「転送、完了しました。要求どおりシャカールの設計図です。」
『よくやった。そのまま次の命令を待て。シュトゥルムピングィンに残ってもらいたい。』
「・・・了解です。任務を果たします。」
リヴィエは無線を切り、定期報告を終える。一安心して陣陽を見るとそこにカダールとシエラが乗り込んでいくのを確認する。先ほどの場面は見られていないはずだと自分に言い聞かせ、平然と格納庫から立ち去る。
今はまだ身分を隠さなければならない。カダール達は自分を信頼してくれているがそれに答えることは出来ないのだ。少しだけ心臓に針が刺さったような痛みを感じるが、仕方ないとも思ってしまう。
「何時まで続くのでしょうかね・・・」
「何を悩んでいるのさ?リヴィエ。」
またタイミングが悪い、と思いながらリヴィエは葉巻を吹かしているレジーナに返事を返す。心ここにあらずといった様子に、レジーナは彼女を気遣うように話しかける。
「何かあったら話してみな?ちょいと楽になるかも。」
「いえ、いいんです。好意はありがたいですが、私は自分のことくらい自分で解決したいので。」
「マジメだねぇ。ま、つぶれないように気をつけなよ?」
それだけ言うと、葉巻の灰を携帯灰皿にいれてレジーナは去っていく。相変わらずのヘビースモーカーだとリヴィエは思ってしまうが、それよりももう少しどうするかを考えたかった。
続く
(※1)
霧島製12.7cmバズーカ砲。砲の製造技術がある(自走砲や戦車を製造。さらに2094年度のガルセイドなどを考えるとあると見たほうが妥当)霧島重工がOCU軍向けに製造した中量バズーカ砲。これまでOCU軍にはBe-11のような重量級のバズーカ、そしてグノーツといった軽量バズーカ程度しかなく汎用性の高いバズーカは一切無かった。霧島製のマウントレールを上部に配置している。OCU軍から大量に発注され数多くが前線部隊に配備されている。参考までに他のOCUのバズーカを列挙するとケアードはフォアハンドバズーカ。ブルギバは重量級。ロックジャック系列もそうなるだろう。マッドキャップは微妙なところだが、2102年にあるもの故に2094年度にあるかどうか・・・
(※2)
日防軍が第一次ハフマン紛争時に投入した中量支援機。製作したのは霧島重工であり汎用性の高い機体を日防軍が依頼したために製造。当時最高峰のFCS技術や複合装甲技術を用いており2090年度にもアップデート無しで通用したところからもその性能の高さがうかがい知れる。2094年現在では内装を交換しているがそれでも性能は新型機と遜色なく、あらゆる戦場に対応できる機体となっている。ただし第二次ハフマン紛争期はサカタインダストリィという強力なライバルに押され、採用数は伸び悩んだ。ちなみにこれ以降、霧島重工は新型ヴァンツァーを製作するのではなく名機のアップデートを繰り返すという経営方針を続けている。(※3)
3rdの日西90MF。日防軍らしくないので名称変更。ついでに設定。ジャパンウェストが生産したヴァンツァー用の機銃。40mmテレスコープ弾を使用しているため携行弾数と大火力の両立という難題を解決した。ただしテレスコープ弾の性質上命中精度が低い。キャリングハンドル上部に霧島製マウントレールを搭載しアクセサリー類の搭載も可能としている。
(※4)
鋼練の内部に入ってたヘリの改造版。設定追記。ヘリの製造技術に定評がある霧島重工がAAH24の経験を元に製作した重武装ヘリ。二重反転ローターを搭載し下部に対ヴァンツァー用途に運用できる大口径ガトリング砲を搭載している。ガンシップとしての運用がメインで制空権さえ抑えていれば対ヴァンツァー戦闘に対して絶大な威力を発揮する。また対空用途のミサイルポッドを搭載しある程度なら戦闘ヘリに対しての自衛も可能となっている。大型のガトリング砲を運用するため胴体側面部に折りたたみ式の脚を搭載している。また装甲も分厚くバズーカ砲弾程度なら耐えることも可能。大型のガンシップという発想はこれまでの大型機動兵器には存在せず、OCUやザーフトラなどに輸出された。ちなみに鋼練に搭載されたタイプはこの機体からガトリング砲を撤去、ミサイルポッドと通常サイズの機銃で武装したタイプとなっている。
(※5)
ヴァンツァーなどは40mmクラスの銃弾も良く使うので、海軍にならい50mm以上を砲弾として扱っている。(※6)
5thOPのあれ。ただし兵員から「自分の身を守れない」と不評が出たため2095年に廃止された。(※7)
核抑止論とは「自国の被害が出ることを恐れ、核兵器を撃つことを躊躇する」というもの。正式名称は相互破壊保障。これを逆手にとって「核兵器級の被害が出せる通常兵器」で抑止力を実現させようとしたのが日防軍のもくろみ。しかし解散総選挙後対立していた野党が政権をとり「戦略級兵器の全面保有禁止」を法律として掲げ、承認されMOAB配備も夢と消えた。MIDASを強奪を承認できたのは「兵器」ではなく「実験用機材」という名目で。ちなみにMOABはMassive Ordnance Air Blast bombの略称。世界最大級の通常兵器であり2090年時には大きさが1.5倍、威力は6倍に膨れ上がっている。