Front misson Brockade

Misson-11 Clandestine factory

 

1/31 0910時 ビラスバル臨時司令部

「敵軍、撤退してるんだ・・・」

UAVからの情報を見て、シエラはよくやってるなぁと感心する。政府軍はビラスバルを迂回してアリャートまで撤退しようとしている。同盟軍の追撃を執拗に受けて政府軍はビラスバルを奪い取るだけの兵力すら残っていない。

シエラは一安心して作戦室のいすに座る。この分なら当面作戦は行われないだろうと安心しているようだ。

「作戦です。司令部から封書が!」

「封書?」

リヴィエの報告を聞いて、その場にいたカダールも目を丸くする。今時書簡で命令を通達するなど殆ど無い。かなり重要な作戦のようだ。

早速カダールが封筒を開くと、アゼルバイジャン同盟軍の署名で作戦が書かれている。

「何・・・東にある軍需工場を接収せよ。敵軍が極秘裏に研究を進めていた兵器がありこれを回収するのが目的である・・・か。」

何なんだろうね、とシエラもカダールに近づいて文書を読む。その内容を見て、えーとシエラは思ってしまう。

「なお、諜報員もひっきりなしにその工場に出入りしている。見つけた場合排除を許可する。か・・・」

独立行動を取っていても怪しまれないようにするためだとカダールは疑いも無く判断する。わざわざ書簡で送ってきたのだから、誰にも知られないようにとの配慮だと判断する。

シエラも素直に信じ込んでいるらしい。その様子を見てリヴィエは笑みをこぼすがそこに召集命令を受けた3人が集まってくる。同時にUAVから現地の偵察写真もダウンロードされる。

「・・・でかいプラントだな。ヴァンツァーの影も見えるが。」

「未確認機体だな。こんなのは見たこと無い・・・すごい機密事項なんじゃないですか?隊長。」

ジュリアスでもわからないところを見ると、本当に極秘の実験施設らしい。全体的にほっそりしたヴァンツァーが特に異様な雰囲気を出している。すぐにジュリアスが端末をいじり、UAVの映像をさらに鮮明にする。

「インターゲーン?2年前に倒産した会社のエンブレムをつけたトラックが何故ここに・・・?」

「2年前だと?」

そう遠くない時期に倒産した企業のトラックがうろついているのをカダールは不審に思ってしまう。

「ええ、確か2年前にシュネッケのアクチュエイターをコピーして他国に売りさばいたから訴訟を起こされて倒産したんですけど。でもヴァンツァー開発能力の高さは本物で、2090年度の兵器ショーの際には高性能を期待された異様な形状のヴァンツァーを繰り出したんです。」

ふむふむ、とメンバー全員がジュリアスの言葉に聞き入っている。するとレジーナが思い出したかのように声を上げる。

「ミュートスとシャカール!思い出したよ・・・あの機体だ。忘れようにも忘れようが無いね。独特すぎて兵器ショーの連中が驚いていたのを覚えてる。」

「なるほどねー。すごそうな機体。あたしも行きたかったなぁ。」

2090年度のECフランスで行われた兵器ショーでは多数の新作ヴァンツァーが発表されていたのだ。第二次ハフマン紛争後、その戦訓を取り入れたヴァンツァーが多数発表され各国が注目していた。

シエラの話にカダールは一瞬だけ表情を曇らせるが、ジュリアスがほかにもインターゲーン製と思われる兵器や車両をいくつかピックアップする。

「WASと大型機動兵器か。出来ることなら設計図だけでも持ち帰りたいな。」

「工場外部の守備隊だけ潰して降伏勧告食らわせればいいんじゃないかな?何発か銃弾も食らわせてさ。内部にいるのは民間人だけだから、設計図だけ抑えればいいよ。数人くらい選抜して歩兵として占領してもらおう?」

シエラの提案にカダールはいいな、とうなずく。だがハーネルはまずいのではないかと首を振る。

「今、ビラスバルから大規模な戦力が抜けたら政府軍が来る。戦車などは出さないほうがいい。」

そう、政府軍が撤退中に急激に進路を変えることもあるためになるべく大規模な戦力は抽出しないほうがいい。ハーネルの提案ももっともだった。するとレジーナが提案を出す。

「だったら、あたしらが使ってきたテクニカルを何台か使おう。それなら歩兵相手なら十分だろ?」

「テクニカル(※1)か・・・まぁ歩兵とか装甲車なら対応できるだろう。」

ピックアップトラックに機銃などを搭載したテクニカルならすでに民兵部隊も持っているし、抜けたところでそれほどの脅威にもならない。しかし建物の制圧となれば結構な威力を発揮してくれる。4台がかりでヴァンツァーを撃破した例もあり油断は出来ない。

テクニカルを随伴させるとなればヴァンツァーだけで行軍しても問題は無い。すぐにカダールが出撃命令を出す。

「出撃だ。目標はインターゲーン所属と思われる工場。出来る限り接収。不可能なら破壊しろ。守備兵力の殲滅が目標だ。」

「了解!」

全員が敬礼し、そのままヴァンツァーの格納庫へと向かう。格納庫にはすでにセットアップを終えた機体が待機している。先日の間に整備を終えておいたようだ。

ハーネルの機体は前面に大型の装甲版が貼り付けられた格闘用のジービュに変更されており、武装も補給の問題からビュジェSGを搭載。ロッドはF-4ハンドロッドのまま使用している。

先日施設破壊用に装備していた武装も交換され、レジーナのジャリドには政府軍の倉庫から鹵獲したアイビスを使用。カダールのストームはロケットランチャーをメナートに変更している。

ジュリアスも先日の戦訓を生かして機体をグロップに変更。EMPバックパックとヴェスペA4、武器腕にヴァンパイアを搭載している。積載量はぎりぎりだがグロップの機動力があり何とか動かせるようだ。

 

1140時 ビラスバル東部

「・・・敵機は確認できる?」

『この雪雲だがUAVは何とか稼動している。こっちに向かってきたぞ。』

カダールが見つけたのは黒いヴァンツァー部隊である。真っ黒な塗装はいかにも「悪役」という雰囲気満々であり互いにルートを変えなければシュトゥルムピングィンと進路が交錯する。

「OCUの連中みたいだね。ゼニスにジンク、プリソメアとかどう見ても連中でしょ。」

機体構成は明らかにOCU軍の機体であり黒い塗装で部隊章を消していてもはっきりとシエラにはわかったようだ。すると先頭にいるゾラがライフルを構える。

『所属不明部隊に告げる、撤退せよ。さもなくば発砲する。』

明らかに敵対行動を取っている。ゾラの操縦士から警告を受けるがカダールは強気の発言を返す。

『お前達の所属を言え。政府軍か同盟軍か確認が必要だ。』

『その必要は無い。繰り返す、撤退しなければ発砲する。』

『お前達こそさっさと所属を言え。政府軍の諜報員だろう。』

任務でもあり、敵軍が銃口を向けている以上カダールも信用など出来ない。OCU部隊と言っても銃口を向けている敵は友軍などではない。敵対意思があるとみなすべきだろう。

『せっかくの警告を無駄にするとは。身の程を思い知らせてやれ。』

『了解!』

部隊長が声をかけると同時にゾラがスラブを発砲するがすばやくカダールは後退して回避、逆襲にホーネットを発射する。

『行け!連中は敵だ、始末しろ!』

10cm砲弾はゾラの脇を通り抜けミサイルを発射しようとしたジンクに直撃する。装甲のおかげで何とか持ちこたえたものの、レジーナがすかさずアイビスを発砲。95mm徹甲弾がジンクを貫通する。

ジンクが爆発したのを見てゼニスやプリソメアが突撃を敢行。イーゲルツヴァイとグロップ、ジービュも突撃する。

「リヴィエ、支援して!」

『わかりました、すぐに!』

ワンテンポ遅れてスタブラインも突撃。レオスタンとフラットソウルを連射するシンリブラめがけ32mm機銃と23mmガトリング砲を連射。シエラも右腕を下げると同じ目標に銃撃を加える。

ハーネルを狙っていたゼニスは連続で銃弾を受けて爆発。すると両端に打撃機構を搭載したロッド、パウンダーを搭載したプリソメアが突撃を仕掛けてくる。

『射線を空けな!あたしがぶち抜く!』

すばやくシエラが回避すると95mm徹甲弾がプリソメアの腕を貫通、爆発させる。残ったほうのダブルネイルでプリソメアがイーゲルツヴァイに突撃するがシエラは冷静にショットガンを発射。

ダブルネイルが胴体に直撃するが、いきなりプリソメアにミサイルが直撃、爆発を起こす。メナートが直撃したようだ。

『大丈夫か?』

「隊長、感謝するよ!」

プリソメアの脇を通り、イーゲルツヴァイとスタブラインが狙撃を行っているゾラへと向かう。スラブを連射してくるが、回避しつつ2機は接近する。

『貴様ら、アゼルバイジャンの軍か・・・!俺達に手を出してみろ、どうなるかわかってるのか!?』

「わかりたくないね。まぁ口を封じてしまえーって言うのはお互い様じゃない。そもそも先に銃口を向けた以上、愚痴はいえないよ?」

OCU所属と思われる部隊長が脅すような口調でまくし立てるが、シエラは軽く流しレオスタンDを連射する。今更命乞いなど聞くつもりも無い。

『その通りですよ。貴方達もわかるでしょう?闇へと葬り去られるんです。貴方達が奪ってきた数多くの命と同じように。』

スラブの射撃を回避し、リヴィエも23mmガトリング砲を連射する。スラブでゾラも応戦するがシールドにはじかれ、射撃を受けて倒れこむ。

『泣き言は聞きませんよ。地獄で言うんですね。』

32mm機銃を至近距離で発砲。ゾラが爆発するがほかの隊員はまだ抵抗を続けている。

『出撃しろ。テクニカルも交えて掃討する。』

『了解!』

残ったヴァンツァーの数が少ないことを見てテクニカルを出撃させる。ピックアップトラックの荷台にPAP55を搭載したテクニカルが後方から出現するといっせいに敵機へと照準を向けて射撃を行う。

ゼニス2機が抵抗を続けていたが、テクニカルの銃撃を受けてひるんだ隙にF-4ハンドロッドが直撃。もう片方は榴弾と25mm機銃を受けて爆発する。残ったジンクは機体から脱出し、逃亡したようだ。

『敵機は撤退したか・・・度胸の無い連中だ。』

『多分OCU陸防軍情報局のメンバーでしょう。CISUにはもっと骨のあるパイロットがいるはずです。デルタ隊とか。』

冷静にリヴィエが分析する。確かにこの戦闘力の低さなどを総合してみればそれほど訓練された部隊とは言いがたい。

「デルタ隊?」

『別名ストーム隊とも言います。第二次ハフマン紛争初期、フリーダムに進撃した海兵隊1個大隊を一瞬で殲滅したんですよ。彼らなら私達も苦戦したかもしれませんね。』

「ま、出なくて良かったよ。そんなの。こいつら2流もいいところじゃん。」

一応OCU軍のエリートではあるのだがシエラから言わせれば二流らしい。あっさりと殲滅できたからこそいえるのだが。

『・・・まっとうな条件下ならな。こいつらの専門は闇討ちだ。気を抜くな。』

「わかってるよ。たまには余裕綽々で勝った時の余韻を楽しみたくて。」

ハーネルが小言を言うもののシエラはあまり気にせずに笑みを見せている。こういうストレートに快勝できた戦いもそうそう無いからだ。

『何にせよ、1人逃げたのは事実だ。さっさと工場を制圧して終わらせよう。』

報告されて増援が来る前にさっさと制圧してしまえば問題ない。先ほどの戦闘で工場の守備隊は警戒態勢に入ったが機体数はそう多くない。ジュリアスがUAVカメラからの状況を伝える。

『敵ヴァンツァー稼動。後WASもいるし大型機動兵器も・・・けど倉庫のは稼動してないな。武装も旧型だ。』

『確かにねぇ。何だってこんなに数が少ないのさ?』

レジーナも倉庫に入っているヴァンツァーの数に対して稼動中の守備部隊の数が少ないことに疑問符を抱く。おそらくどこかに輸送するために製造しているのだろうか。

『パイロット不足なんだろう。さっさと始末して、工場を接収するぞ。』

「了解。あんまり難しいこと考えないのね、隊長って。」

工場をさっさと接収しようとするカダールを見て、シエラは単純だなぁと思ってしまう。しかしさっさと終わらせれば帰れるのも事実のため工場へと進軍する。

かなり大規模な工場であり、大型機動兵器も生産できるだけの設備が整っている。するとヴァンツァー部隊も向かってくる。守備隊として配備されている90式やフェザントでありその後ろにミュートスやシャカールが随伴する。

ミュートスはイーグレットを両肩に搭載、腕に16式打手を装備している。

『珍しいナックルだな。どこ製だ?』

ミュートスの武装を見てハーネルがたずねる。格闘戦をを挑むため気になる様子だ。すぐにリヴィエが画像検索をかけて特定する。

『鉄武帝重工とかいうメーカーですね。中国製です。』

『どうせどこかのコピーだろ・・・まぁいい、こっちはその幸運を生かすとしよう。』

ハーネルがそんなことをあっさりと言ってのける。無論ナックル程度ならコピーのしようも無いがヴァンツァーにはどこかからコピーしたとかライセンス切れでも生産を続けているのも多い。明天1型はストームを明らかにコピーしたとしてディアブルアビオニクスが訴えた事もあった。

『侮るなよ。威力は同じなんだ。』

『そんなことはわかっている、隊長。』

カダールに念を押されるとハーネルはうっとうしそうに返事を返し、真っ先にジービュを突撃させる。ミュートスはイーグレットを連射してくるが砲弾を回避していく。

後方からイーゲルツヴァイも随伴。イーグレットが放つロケット砲弾を回避しながら随伴するとジービュがミュートスにビュジェを発射。同時にハンドロッドで殴りかかる。

散弾が直撃した後でロッドが直撃するも、ミュートスは16式打手で反撃を加える。ジービュの胴体に直撃するが分厚い装甲に阻まれダメージは少ない。

『そんなものか?』

所詮中国製だな、と小ばかにした様子でハーネルが微笑むともう一度至近距離でショットガンを発射する。ミュートスの頭部が吹き飛ばされ、ひるんだ隙にハンドロッドが直撃、爆発する。

もう1機のミュートスがイーグレットを向けるが、真横から23mmガトリングと32mm機銃を受けて爆発する。

『油断しないでください、敵はいっぱいいるんです!』

『・・・リヴィエ、そんなことはわかっている。しかしこいつらは無人機か?』

『おそらくは・・・』

敵機の通信が明らかに少ないし挙動もどこか不安定ではある。するとシャカールが2機接近しイグチ703式(※2)を連射してくる。すかさず横にスタブラインがサイドステップで回避して爆風をよけてから23mmガトリングを連射。

シャカールもうまく射線から身をかわしながら右腕のカイゼリン(※3)を連射する。何発か60mm徹甲弾が直撃するものの、リヴィエは32mm機銃を交えて射撃。シャカールの細い脚部を破壊し転倒させる。

倒れたところに操縦席めがけリヴィエは銃口を向けるがシャカールはまだ射撃を繰り返そうとする。リヴィエはそのまま射撃、シャカールに大量の銃弾を叩き込み撃破する。

『・・・やっぱり無人機ですね。』

有人機なら倒れた瞬間に搭乗員が脱出する。だが平然と射撃を繰り返したところを見るとやはり無人機の可能性が強い。たいていの兵員なら一瞬だけ待ったときに脱出している。

しかし無人機にしては無線誘導装置も無い。そしてジュリアスならうまくハッキングも出来そうだとリヴィエは考える。出来ないところを見ると本当に無線誘導でもないのだろう。

『・・・やはり、クライアントの情報どおり入手する必要がありそうです。機体も持ち帰るよう手配しますか・・・』

『リヴィエ、フェザントだ!』

カダールの言葉でレーダーを見て、すぐにリヴィエが接近してくるフェザントに気づく。ヘビーパイルを突き出してくるがリヴィエはシールドでガードする。

『黙っててください。邪魔です。』

至近距離で32mm機銃を連射しフェザントがひるんだ隙にカダールがホーネットを発射。10cm徹甲榴弾が直撃しフェザントが転倒する。

『独り言に夢中になると命がいくらあっても足りないぞ、リヴィエ。戦場では気を抜くな。』

『す、すみません。』

平謝りしながら、リヴィエは突進してくる90式めがけ23mmガトリング砲を連射する。ちょうど良くミュートスを破壊したシエラも同時に30mmガトリングとレオスタンDで射撃を加える。

十字砲火を浴びて90式は爆発。防衛部隊の機影はレーダーから消滅している。直ちにシュツルムピングィンは工場敷地内へと入り、テクニカルも続く。

『工場内部の兵員や職員に告げる、直ちに武器を捨ててその場に伏せろ!』

ストームがバズーカの砲身で窓ガラスをぶち破り、砲口を工場内部へと向ける。するとリヴィエが通信を入れる。

『事務所を見てきます。』

『頼むぞ。シエラも続いてくれ。』

『あ、はい!』

そのままヴァンツァーからリヴィエとシエラが降りると民兵部隊2名を後に続かせ、護身用のサブマシンガンを持って事務所へと2人は入っていく。

事務所には何故かプライベートオペレーターらしい人物がいて、G74(※4)突撃銃を連射してくる。すばやくリヴィエがテーブルを立てて銃弾を防ぐと民兵の1人がAKD-84を連射、敵兵を射殺する。

「あんた達は2階を頼む!俺達が援護する!」

「あ、はい!」

テーブルを盾に民兵はそのまま1階にいる敵兵へと銃撃戦を始める。その隙にリヴィエは隣の部屋に行き階段を駆け上がる。そこにもオペレーターがいるが、手馴れた様子でリヴィエアはサブマシンガンを連射。兵員を射殺する。

「やれやれ、もうかぎつけられたか・・・」

「あいにくでしたね、モーガン・・・申し訳ないけど自爆するわけには行きませんよ?ジュリアスが無線妨害を行ってますから、そんなちゃちな自爆装置ではね。」

手に持っているスイッチを見て、シエラはびっくりしてリヴィエにたずねる。

「じ、自爆って私たち死ぬところだったの!?」

「参ったな、そこまで調べつくされているとは予想外だった。だがつかまるわけにも行かないのでね。特にお前の主人には。」

それだけ言い残すと、モーガンと呼ばれた金髪の男性は窓を突き破って工場の屋根の上に出る。リヴィエもすばやく屋根に飛び移る。

「あ、リヴィエー!」

シエラも何とか屋根につかまって駆け上がると、サブマシンガンを構えリヴィエがセミオートで発砲している。モーガンは銃弾にもひるまずに走ると、そのまま頭から地面へと飛び込む。

「・・・逃した!」

「え・・・」

頭から血を流しているモーガンを見て、リヴィエは首を振る。シエラはそれを見て何がなんだかわからない様子だった。

「リヴィエ、何があったの?あいつは誰?」

「モーガン・ベルナルド。影武者をいくつも従えてるテロリストです・・・」

彼女の認識はその程度でしかないが、すぐに2人は事務所へと戻る。するとレジーナのジャリドが事務所にライフルを突きつけている。おそらく内部の兵員は降伏しただろう。

「テロリストが何でここに?」

「といっても実情はOCUの出先機関にほかなりません。彼らの裏仕事を引き受ける実質的な実働部隊と言えるでしょう。

実際のところリヴィエも良くわかっていない様子ではあった。事務所に戻れば端末類は無事であり金庫の中身である光学ディスクもほぼ全てが無事に残っていた。処分する間もなかったようだ。

「見てみない?リヴィエ。何があるか気になるじゃない。」

「ですね。見てみましょう。機密性の高い情報だったら秘密にする必要もありますけど。」

もちろん、とシエラはうなずく。リヴィエはキーボードを叩き何の情報が入っているのか確認するとすごいなと声を漏らす。

「新型ヴァンツァーと兵装・・・ここで製造された物のようです。インターゲーン製で間違いありませんね。」

「すごい、こんなのあるんだ・・・」

新型ロケットランチャーのカーディナル、ライフルであるダブルコメットやバスーンなど最新型ともいえる武装が揃っている。そのカタログと設計図のようだ。ヴァンツァーや大型機動兵器もある。

「この施設、接収してよかったようですね。後こちらには会話のログもあります。」

「チャット会話かぁ・・・」

なるほどね、とうなずくとリヴィエは勝手にログものぞいて見る。何かの報告らしいのでリヴィエはしっかりと目を通す。

<O:ADの結果は?>

<Sci:良好そのものです。ただ2つ以上を組み合わせることは不可能でしょう。砲撃機と格闘機を兼任させるのは不可能です。>

<O:かまわん。まとまった数さえ揃えばいい。PはぜひOCUにADを推したいようだからな。テストの場所も、優秀なマテリアルにも困るまい?>

<Sci:まったくです。OCUの技術者連中も受け入れ場所が出来てよかったことでしょう。USNからも呼び寄せれば、より一層研究もはかどるでしょう。ところでウィンガーはどうします?>

<O:手出しはするな。監視も無しだ。FIAはウィンガーに我々がどう反応するかを見ている。奴は所詮退役した軍人だ。接触も無視しろ。>

<Sci:了解。>

ログはここで途切れている。これが一番最新のものらしい。リヴィエはなるほどとうなずくがシエラは何のことかさっぱりわからなかった。

「ねぇ、これってどういうこと?ADとか・・・というよりこの人たち、誰?」

「よくわかりません。一応総司令部に伝達してしましょう。」

先ほどの様子とは一変したリヴィエをみて、シエラは顔を覗き込む。

「な、何ですか?」

「リヴィエ、さっき納得してたのに何でわかんないとか嘘つくかな?」

鋭いところを突かれてリヴィエは言葉に詰まってしまう。さらにシエラが何かたずねようとするが、民兵が階段を上がってくる。

「制圧を完了しました。どうなさります?」

「総司令部にこの資料を伝送するから手伝って?ジュリアスにも手伝ってもらうから。」

兵士は軽く応答を返すと無線でジュリアスに連絡をする。しばらくすると端末の画面に黄色と黒のストライプ模様が描かれる。

『こっちからハッキングして今情報を全部司令部へと伝送している。けどディートリッヒ少将だったか?驚いてるな。何故こんなものを送ってきたのかと。』

「え、驚いてる?」

『ああ。ちょっと隊長に連絡があるらしい。部隊の皆も聞け、ということだ。』

わかった、とうなずくと早速シエラは無線機の周波数を合わせる。そこにディートリッヒ少将が疑問符を抱いた様子で連絡を入れる。

『あのデータはどういうことだ?』

『政府軍の工場にあったものです。封筒に入れてリヴィエが所持してきたものです。書簡にはこの地区の工場を襲撃せよと。』

一瞬だけディートリッヒは言葉に詰まるが、内容を見ていろいろと考えを変えたらしい。

『まぁリヴィエの処遇については後で考えるが、よくやってくれた。このヴァンツァー郡はもしかしたらわが国の方針を変えてしまうかもしれないぞ?』

「変える、って?」

『このヴァンツァーの技術から最新のアクチュエイターなども研究が進むだろう。我々の国家も重要な輸出産業が増えることになる。技術という売り物だ。』

あぁ、とシエラは納得してみせる。今まで一次産業だけで成り立っていた経済に新たな側面を与えられるのは悪いことではない。兵器産業ではあるが何も無いよりはマシであり、WAWやWASの修理も出来る。

だが、こんなヴァンツァーを生産していいのかとハーネルが懸念を口にする。

『そのヴァンツァー、勝手にコピーしてしまっていいのか?技術者や企業は?』

『いいんじゃないか、ハーネル。このインターゲーンって企業は倒産しているしパテントも無い(※5)。今更使っても訴える連中はいないだろうさ。政府軍だってもう生産してるわけなんだから。』

ジュリアスの説明を聞いてハーネルも割り切れないながらも納得してみせる。国際法上は問題ないし技術者も2年間何も音沙汰も無い。訴えれば素直に引き下がるか改めてパテントを取ればいい。

その報告を聞いて、ディートリッヒは上機嫌で応答する。もうリヴィエやカダールの事情などどこかへ吹き飛んでしまったようだ。

『よし、ヴァンツァーを接収してくれ。我々でも運用できるかどうか検討して見る。科学者達はどうだ?』

『おびえてはいるが、説得すればなびいてくれそうだ。もともと兵器産業関連のメンバーだからな。』

『うむ、では守備部隊を送る。ここは重要な施設だからな。』

同盟軍の生産拠点としても使えるし、新型ヴァンツァーは早々手に入るものでもない。まとまった数ならなおさらだ。

工場にあったトレーラーにミュートスとシャカールをSSV91(※6)がトレーラーへと搭載。そのままトレーラーが発進しシュツルムピングィンがビラスバルまで護衛する。

 

続く

 

 

(※1)
未来なのでテクニカルも進歩している。MULS-P用ハードポイントをくくりつけたりターンテーブルを搭載してそこにヴァンツァー用の機銃やロケットランチャーを搭載している。ピックアップトラックはOCU日本やUSNからが殆ど。時々シュネッケ製も使われる。機動力もあるので侮っていると痛い目を見るが装甲に期待できない。しかも民間車両なのでヴァンツァー用機銃は軽量な物しか搭載できない。主に安価なレオソシアルやシージュを搭載している。大型の車両だとグレイブやダークホッグクラスも搭載できる。イーグレットやガルヴァドスなどを搭載することもあるが、ランチャー類は反動の関係上仰角の上げ下げしかできない。

(※2)
第二次ハフマン紛争後に生産されたイグチ7式の正当な後継作品。装填方式をボックスマガジン式にあらためたセミオート型。90mm口径の砲弾を使用し威力はかなり高め。イグチ702式で採用したマズルブレーキや内蔵型カウンターウェイトで銃口のぶれを最小限に抑えている。通常のグレネードランチャーとして運用する以外にも仰角を高めにして迫撃砲として運用することも可能。ただし大型の弾薬を使うこと、そして本体が小型のためマガジンの装弾数に制約を受け連射数は少ない。

(※3)
フォアハンドライフル、つまり片手撃ちライフルでありユーラやフランバル、アインバントなどが属する。60〜80mmクラスの小型ライフルで片手で撃てるよう重量配分を工夫している。セミオート式だが命中精度は今ひとつ。片手で発射できるぎりぎりの反動を維持するため、装薬量も抑えられている。オートキャノンやマシンガンをアウトレンジし、ライフルより近距離で戦うのが基本。

(※4)
シュネッケ製突撃銃。6.8mm弾薬を使い信頼性が高く命中精度は他の追随を許さないものとなっている。アドオンでグレネードランチャー、ショットガン等の追加装備も可能。

(※5)
2のクーデターで大量に必要になるため、また極秘で製作したためパテントは取れないだろう。そこを突かれたのである。まぁそんなものを取ったらCIUにばれてしまうのは間違いない。このあたりを徹底していたためにインターゲーンとOCUの関係は露見しなかったのだろう。

(※6)
ISP100Aをアゼルバイジャン側で呼称したもの。ザーフトラの亡命技術者や民間の技術者を合わせた「ストレラ工廠」の頭文字のSでありSPでWASを示す。後ろの数字は完成年に改められている。

あんまり詳しくないので設定も書き加える。

インターゲーン製、もといストレラ工廠製WAS。小型ながら非常に高い出力のエンジンを備えている。そのため修理用の溶接アームと物資搬送用アームを別々に搭載することが可能になっている。武装は機体上部の17.5mm機銃。B型では火炎放射器に変更されたが威力不足と予備燃料に引火した際のダメージなどで普及していない。ストレラ工廠製も本家インターゲーンに劣るところは無く比較的優秀な評価が実戦部隊、ことにシュツルムピングィンから下されている。また外貨獲得のための手段でもありECではバレストロと熾烈なシェア争いを繰り広げている。安定した供給からUSN領内でも採用されている様子。

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