Front misson Brockade
Misson-10 Bilasuvar
1/25 アゼルバイジャン中部林道 1904時
「散会して!ハーネルと私が1機ずつつぶす!レジーナは狙撃して!」
シエラが指示を出し、直ちにニーガスへと向かっていく。ニーガスが85mmライフルで狙撃してくるがシエラは回避しつつ30mmガトリングを射程ぎりぎりから連射する。
ニーガスはうまく木の裏に隠れ30mm銃弾を受け止めさせると隙を見て徹甲弾を発射。徹甲弾が脚部に直撃してしまう。
『当たった!1機損傷している!』
「・・・ちょっともう!」
1基程度無限軌道が使えなくてもイーゲルツヴァイには4基搭載されている。少々の速度低下にはかまわずシエラはレオスタンDも交えて射撃する。
威力の高い銃弾で次々に木をなぎ払い、シエラは射線を確保してからニーガスに射撃を加える。高威力の銃弾を次々に喰らい、ニーガスは爆発する。
『やられた、脱出する!』
『相手が相手だ、仕方ない。仕掛けろ!』
メルケルが指示を出すと、いきなりニーガスの姿が消える。レーダーにはまだ映っているが、目視できなくなったのだ。レジーナは驚いた様子でシエラに無線を入れる。
『消えた!?シエラ、敵機が消えてる!』
「んなわけ無いじゃん!レーダーにちゃんと映ってる!」
レーダーには確かに敵機が表示されているが、まったく見えなくなっている。深呼吸してシエラがディスプレイを見ると、うっすらと輪郭が見える。
途端に、光学迷彩を施したニーガスがライフルを発砲。徹甲弾は胴体真上を掠めて飛び去るがシエラは微笑んでいる。
「なーるほどね、光学迷彩ってわけか。」
どうりで変な形状のバックパックを搭載してると納得するとシエラは発砲炎を頼りにオートキャノンで応戦する。銃弾を喰らえば光学迷彩を維持できなくなりニーガスはその姿を現す。
『何故わかったんだ!?』
「そんな小細工じゃ勝てないよ?ぐっばい。」
距離を詰めて、ショットガンも交えてシエラがトリガーを引く。猛烈な弾幕を浴びてニーガスは一瞬で吹き飛ばされる。原型をとどめないほど破壊されたヴァンツァーを後にして、シエラはレーダーを頼りに残りの2機を探す。
すると、唐突に光学迷彩が解除される。ニーガスが何があった、といわんばかりに胴体を左右に向けるがそこをレジーナに狙撃され、爆発する。
『な、何が起こったんだ!?隊長、光学迷彩が消えてます!』
『俺がはずしてやったよ。正々堂々戦わないとな?ハッキングしてやった。』
『・・・余計な真似を!』
メルケルが85mmライフルの照準を待機していたツェーダーに向けるが、その前にツェーダーがヴィルトを発射。ミサイルがライフルの銃身に直撃し、ライフルが爆発を起こす。
すぐにもう片方で射撃を加えようとするが、55mm速射砲が直撃してしまいすぐにメルケルは脱出する。その後でニーガスが爆発する。
「敵機の撃破確認!ちょっと厄介だったけど大丈夫?」
『こっちは大丈夫さ。早く戻ろう。』
レジーナの機体は脚部を損傷しているものの、何とか歩行は可能らしい。ジュリアスのツェーダーは装甲が幸いしてまともな損傷もなくそのまま戦線に復帰する。するとカダールが通信を入れてくる。
『遅かったな。ホークス隊を殲滅した。たいしたことは無かったが・・・』
「よかった、これでビラスバルに行けるね。」
哨戒部隊さえ排除してしまえば安心してビラスバルへと向かえる。二重三重の哨戒網を用意するのは大量の兵力が必要でありビラスバルにそれほど戦力の余裕があるわけでもない。
哨戒部隊を外に繰り出している以上、守備部隊もそれなりに少なくなっている。攻略するのは今をおいて他に無いだろう。
『ビラスバルへと進撃する、移動準備を整えろ!』
カダールを指示を出すと、歩兵は対空ミサイルランチャーをトラックに積み込んでまたタンクデサントに戻る。ヴァンツァーを先頭に立ててビラスバル行きの軍勢は雪が降り注ぐ森林を突破する。
『北部方面軍の最新情報が入っています。現在ザーフトラ軍の空挺部隊と交戦中。ゲオルギー中将は奮戦していますね・・・戦力は2倍ですが互角に戦っています。』
感心するようにリヴィエが北部方面軍の長距離無線を聞いてつぶやくと、それにカダールが答える。
『防衛戦闘は決め手が無い限り5倍以上の兵力を相手にしているようなものだ。ハチマス近辺に強固な陣地を作っている以上、それなりに優秀な奴なら守れる。』
「隊長、何かそれってゲオルギー中将馬鹿にしてません?」
シエラが横槍を入れるが、カダールはまったく気にしない様子で答える。ハチマスには川を利用した防衛ラインを敷いているためザーフトラ軍も政府軍も攻略に手を焼いている。
『いや、現場の情報を鵜呑みにして本質を見失うのはよくないと言うだけだ。中将は立派な軍人だ。補給路が断たれている中奮闘している。』
ハチマスにはザーフトラ軍が高速鉄道を使い資源を送り込む輸送ルートがある。その途中に穴を開けて、ヴァンツァーやヘリでのゲリラ戦闘に持ち込んでいるのだがカダールには知る由も無い。
そこからEC空軍が輸送機で食糧を投下。ハチマス守備隊は敵軍から奪い取った高速列車を改造してハチマス市民の食料や医療物資、弾薬などを確保している。決して補給路が無いわけではない。
「確かにそう考えるとすごいかも。」
『ですね。けど・・・ハチマスで敵軍が苦戦しているなら、ビラスバルは大丈夫なんですか?』
リヴィエの疑問ももっともだが、安心しろとカダールは答える。
『リヴィエ、都市を失った守備隊がビラスバルを攻めると考えるか?』
『確かに考えませんね。けど・・・それだけで勝てます?』
『稼動していないヴァンツァーの倉庫をピンポイントで破壊する。もったいないがそうすれば残りは哨戒している部隊だけだ。』
ちらりとヴァンツァーの首を後ろに向けて、カダールはすぐに作戦を思いつく。
『民間車両にビーコンを積み込んで、EC空軍の空爆で破壊してもらおう。ピンポイントで爆撃すればそれほど犠牲も多く無くていい。』
「ECがピンポイント爆撃に応じるかな?あいつらだったら丸ごとぶっ壊すとか言うかも。」
シエラは先ほどの爆撃のこともあり、大国を信用できずに居る。だがカダールは応じると断言する。
『いや、この戦争は全世界に放送されている。ザーフトラ軍が市街地を壊滅させた後だ。ECは評判を気にしてじゅうたん爆撃などできまい。普通にこちらの指示通り動くだろう。』
EC軍はあくまでも「アゼルバイジャンを圧制から開放する」のが立場であり利権目当てでさっさと戦争を終わらせるために住民を爆撃することは許されていないはずだ。
カダールが指示を出すと、早速ビーコンを搭載したトラックが4台用意された。リヴィエがすぐにUAVを要請し、操縦モードを切り替えUAVを遠隔操作するとヴァンツァー搬送用のトラックが止まっている建物数箇所をマーキングする。
『7箇所確認しました。どうします?』
「1箇所のガレージに大体8機から10機程度でしょ?だったら6箇所破壊するだけでいいとしようよ。2箇所固まってる地区を私達がやるから、民兵部隊で後を制圧してくれない?」
装甲車と対空戦車にヴァンツァーをぶつければ何とかなるだろう。シエラの案に民兵部隊の隊長が同意する。施設破壊用にカダールは肩のプラヴァーをプロバトンに換装、レジーナもライフルをはずし変わりにルンゲBZを搭載する。
ビラスバル近辺 1944時
『・・・作戦開始だ。2手に分かれて、迅速に行くぞ。』
まずは民間トラックが出撃する。塗装は運送会社のものだ。10分後にトラックを所定の位置で停止させ、このポイントめがけEC空軍が空爆を加える。
その隙を狙い、部隊を突入させ格納庫を制圧する。後は守備部隊を全滅させればいい。ハーネルが合図を出すと、民兵部隊とシュツルムピングィンに分かれて進軍を開始する。
『内戦が続いたら・・・どうするんだい、隊長。民間人にも犠牲が出たら。』
『そうはさせないだろう。俺達は民間人への被害を極力最小限に抑える。政府軍やザーフトラ、アルメニア軍に民間人の犠牲は関係ないだろうが、犠牲を出せば俺たちが優勢になる。』
レジーナがこれからのことを危惧するが、カダールは大丈夫だとうなずく。敵が民間人を巻き添えにするほど反乱軍の人望も上がっていく。
できる限り短期決戦で勝負を決めてしまえば民間人にも犠牲が少なくて済む。武力という非常手段をとったとはいえ、なるべく迅速に終わらせたい様子だ。
『それじゃあ・・・隊長は何故参加したんだ?どうも愛国心っぽい感じでもないし。まさか戦術を楽しんでいるとか?』
まさか、と思いジュリアスが恐る恐る尋ねるとカダールは平然とうなずく。
『それもあるな。一番の理由は部下がクーデターに参加したと知ったからだ。戦友を見捨てて俺だけ安全な場所にこもっていられないからな。』
『クーデターがあって安全な場所も何もないと思うけどね。』
『だが、戦友だけ危険な場所に行かせられないのは事実だ。見捨てて行くわけには行かない。』
義理堅いねぇ、とレジーナが感心してしまう。もっとも戦友は南部方面軍で戦っているというだけだが彼らが戦ってて、自分も戦わないのはいやだったらしい。
『・・・そのためにクーデター軍でもよかったと?』
『今の政権がいい連中なら止めたが、ザーフトラ本土のことしか考えないやつなら倒しても問題ないだろう。』
確かにね、とレジーナも納得する。メルディフスキーの息がかかった連中がザーフトラの旧独立国首脳部に数多くいる。その体制に反発して死んだ愛国者は数多い。
そして、祖国の独立を望み行動を起こして死んだものやいわれのない罪をかぶせられて死んだ人物は何百万、ことによれば一千万にも及ぶかもしれない。独立したいと願うのもわからなくもなかった。
『・・・祖国か。』
『ハーネル、大丈夫か?ザーフトラ軍も敵軍にいる可能性がある。』
『覚悟は決めている。簡単に捨てられるものではないが・・・連中のやり方では何も変わらない。併合するだけ併合して誰であろうと殺す、そんな手段で何も換わりはしない。』
大丈夫だ、とハーネルは答えて市街地に進軍する。しばらくするとEC空軍の戦闘攻撃機AF84ティフォン(※1)が誘導爆弾を投下。市街地の数箇所で爆発が起こる。
『作戦開始、進撃するぞ!』
市街地にヴァンツァーが突撃、シュツルムピングインが夜間の町を駆け抜けて格納庫へと向かう。夜出歩いている守備兵は驚いた様子で無線を入れている。
哨戒しているヴァンツァーは思った以上に数が少ない。難なく格納庫に到達するとストームがプロバトンを発射。焼夷弾が格納庫内部で炸裂し格納庫内部で火災を起こす。
もう1つの格納庫はレジーナとジュリアスが向かい、バズーカと速射砲を次々に格納庫内部へと叩き込んでいく。
「敵機は任せて!」
『私たちで食い止めます、施設の破壊を優先してください!』
65式が38mm機銃を連射しながら向かってくるがリヴィエが32mm機銃を連射。シエラもオートキャノンの弾幕を浴びせる。大量の銃弾を浴びせられ、マシンガンを連射したまま65式が爆発する。
格納庫の破壊を止めようと政府軍もヴァンツァーを向かわせてくる。フォーラが91式誘導弾(※2)を発射する。目標はリヴィエのスタブラインだ。
「ミサイル、ひきつけといて!」
『わかりました!』
シールドでスタブラインがミサイルを防ぐと同時にイーゲルツヴァイが突撃をかける。フォーラがレオスタンを連射するがイーゲルツヴァイはぎりぎりまで接近してからグロップSGとレオスタンD、30mmガトリングを同時に発射する。
『後は任せろ・・・!』
ハーネルがF-4ハンドロッドをフォーラに振りかざす。ロッドが直撃し、転倒したフォーラにブリザイアはロッドの先端部を突き刺し、沈黙させる。哨戒部隊の数もそうそう多くなく、民兵部隊も優勢に進めているようだ。
クイント3機が増援として突撃してくるが、すでにヴァンツァーの格納庫や友軍が撃破されているのを見て撤退する。
『撤退しろ!友軍と合流する!』
『りょ、了解!』
シュツルムピングィンの6機を見て、かなうわけ無いとクイントは撤退していく。すると増援としてテラーンとカローク(※3)の混成部隊が来る。数は8機だ。
『敵前逃亡するつもりか。貴様ら。』
『かなう分けない、あんたたちも逃げるべきだ!』
クイントはそのまま撤退しようとするが、いきなりテラーンそのクイントめがけ速射砲を連射する。なすすべなくクイントは炎に包まれる。
『な、何故・・・!?』
『敵前逃亡は銃殺だ。貴様らもな。』
左右から砲撃を受けて、残りのクイントも撃破される。ザーフトラ軍らしい黒地に白いラインの機体が8機向かってくる。テラーンは速射砲と肩シールドを搭載しカロークはコベットSGとラストステイクを装備している。
「うわ・・・督戦隊だよ、ザーフトラ軍の・・・」
シエラが忌々しげにザーフトラ軍の敵機を見据える。戦場からの逃走を図ったヴァンツァーや歩兵を銃殺するためにいる部隊であり近代では廃れていったはずだった。
『・・・ちっ。よりによって・・・』
「何?ハーネル。」
『俺のいた部隊だ。まったく・・・運命というべきか?』
シュツルムピングィンが施設破壊を終えて合流すると、ザーフトラ軍の部隊が迫ってくる。例の督戦隊だ。
『ハーネルか。裏切り者め、祖国に弓を引くつもりか?』
『お前達の仕事を批判する気はない。だが戦意を失った民兵や民間人まで虐殺したのはどう言い訳するつもりだ。』
いったいどういうことだ、とジュリアスが通信を入れてくるがカダールは一方的に遮断して敵部隊との会話を続ける。
『督戦隊がよく言う。いまさら人道やら何やらを説くつもりか?』
『褒められた仕事ではないが任務は任務だ。だが誇りも何もかも失った連中についていくような神経は持ち合わせていないのでな!』
珍しくハーネルが強い口調で話すが、いっせいに敵部隊からは嘲笑の声が聞こえてくる。
『俺たちの任務に誇りだと?馬鹿なことを!』
『エスケープキラーはいい、だが民間人を殺して笑っていられる貴様らもその報告を消すザーフトラも許せないのでな。行くぞ!』
ローラーダッシュを仕掛け、ハーネルがキャッツレイを連射しながら突撃する。
『ハーネル、突撃するな!』
カダールが制止しようと声をかけるが、すでにブリザイアは突撃を仕掛けカロークにロッドを振りかざしている。カロークもパイルバンカーで受け止めるが、ブリザイアがショットガンを連射しセンサーを2基とも破壊する。
「隊長、私も支援する!ランチャーで援護して!」
『ちょっと待った、あいつを助けるのか!?元督戦隊の・・・』
ジュリアスが驚いた様子で言うが、いきなりリヴィエが後ろからツェーダーをシールドでぶん殴る。
『同じ部隊の仲間なんです!文句を言わずに・・・行きますよ!』
「もちろん!行こう!」
テラーンが76mm速射砲を連射。何十発もの砲弾が発射されるがリヴィエがシールドで防ぎながら32mm機銃で応戦。すばやくレジーナがルンゲを発射。10.5cm徹甲榴弾がテラーンに直撃する。
一瞬だけひるんだ隙にスタブラインとイーゲルツヴァイが接近するが、カダールがすぐに警告を入れる。
『両脇からカローク!くるぞ!』
「あーもう・・・!!」
30mmガトリング砲とレオスタンDを連射してシエラはカロークに銃撃を浴びせる。それでもカロークはひるまずに前進、ラストステイクを突き出す。ぎりぎりで後退してイーゲルツヴァイは回避するが、目の前数cmまで杭が迫っている。
冷や汗を流したが、あたらなかっただけでも幸運だと思いシエラは後退しながらショットガンとオートキャノンを連射する。イーゲルツヴァイから発射された銃弾は次々にカロークに直撃、装甲を貫通する。
『ジュリアス、何やってんの!?さっさと来て!』
『りょ、了解!』
ヴィルトを発射し、テラーンに直撃させてからツェーダーが前進してくる。55mm速射砲とヴェスペA4を連射しながらテラーンに接近する。実戦経験が少ないため、ジュリアスは緊張しているようだ。
テラーンは何発もの砲弾を喰らい、爆風に巻き込まれて炎上する。リヴィエはラストステイクをシールドで防ぎ、至近距離で23mmガトリングと32mm機銃を連射する。
カロークは何発も銃弾を受けて沈黙するが、新手のテラーンが何機も迫ってくる。そして76mm速射砲を向けると射撃を開始するが、いきなり1機のテラーンがロッドで足元をすくわれ、転倒する。
『苦戦しているのか・・・?俺がいないと無理らしい。』
「ハーネル!?危なかったぁ・・・!」
もう1機のテラーンがすかさず速射砲をブリザイアに向けるが、プロバトンの連射を受けた後ホーネットが直撃して爆発する。
転倒したテラーンにストームとツェーダー、イーゲルツヴァイが一斉射撃を加えるがツェーダーの側面からカロークがラストステイクを突き出す。
「ジュリアス、左にカローク!」
ショットガンで邪魔な左腕を破壊し、カロークがラストステイクを突き刺す。だが突き刺さったのは分厚いブリザイアの正面装甲であり深々と突き刺さっている。火花を散らしてブリザイアが倒れこむが、すかさずツェーダーがヴェスペA4を連射する。
『ハーネル・・・よくも貴様!』
遅れてホーネットと85mm徹甲弾がカロークに直撃、爆発する。パイロットはおそらく爆死しただろう。シエラはレーダーを見て敵がいないことを確認する。
「敵機確認できず、作戦終了・・・隊長、すぐにハーネルを!」
『ああ。リヴィエとレジーナであけてくれ。』
操縦席ブロックは頑丈なため、内部からあけられないときはヴァンツァーがあけられるようなもち手が搭載されている。
ジャリドが到着し、ブリザイアの操縦席を開くとハーネルが転げ落ちるように出てくる。後頭部から出血もしているようだ。
「直ちにトラックか救急車両を接収しろ!重傷者1名、至急治療の必要がある!」
『りょ、了解!10分で向かいます!』
「遅い、5分で来い!」
カダールはヴァンツァーから降りて、無線機に怒鳴りつける。なるべく民間人にわかりやすい言葉を選ぶ冷静さはまだ持っているようだ。
一通り連絡を終えるとカダールはハーネルへと駆け寄る。シエラとレジーナもそのままハーネルへと呼びかける。彼は完全に意識を失っているようだ。
「ハーネル、しっかりして!」
「下手に揺り動かすんじゃないよ、シエラ。出血がひどくなるし、脳が傷つく。」
うん、とシエラもうなずきハーネルに伸ばそうとしていた手を止める。レジーナに注意されなければ揺り起こそうとしていただろう。
カダールも近づいて呼びかけるが、意識はなくぐったりとしている。しばらくすると装甲車が到着する。内部にマットレスを敷いているようだ。
すぐにカダールがハーネルの肩を、レジーナが足を持ちシエラが支えるとバザルト7410の後部に運んでいく。兵員がそのまま支え、マットレスに寝かせると扉を閉める。
「必ず助けます、隊長。」
「頼むぞ!」
装甲車の兵員が声をかけた後、そのままバザルト7410が病院に向かっていく。ジュリアスも扉を開けて降りてきたが、カダールは彼に近づいていく。
「・・・隊長、何だってハーネルは俺を・・・」
「それはハーネルが生きて帰ってから聞け、ジュリアス。ミスは気にするな。だがレーダーには常に気を配れ。ツェーダーは動きが遅いのだから、前線にでるタイミングには気をつけろ。」
「・・・了解。」
目の前で自分をかばって重傷を負ったハーネルを、ただジュリアスは見送ることしか出来なかった。黙ってジュリアスはカダールの言葉をかみ締める。余計な負担を与えまいと淡々と答えたのだろう。
自分の機体構成も何も考えず突破した未熟さだった。ジュリアスはぐっとこぶしを握り悔しさに耐える。
「・・・自分の未熟さが招いた結果だ。お前はヴァンツァーのライセンスもあるようだが、ゲームが発端だったんじゃないのか?」
「・・・はぁ。TPSで。」
見抜かれたか、とジュリアスは身構える。ちなみにThird Person Shoting(三人称視点射撃ゲーム)の略称がTPSである。ヴァンツァーを使ったものもありジュリアスやシエラもそれをやったことがあるらしい。
ちなみにカダールもバズーカを搭載した重火器機体で暇つぶしにやったこともあったが「後ろにこもりすぎ」とか「積極性がない」とよく言われた。もっとも実戦だと思って慎重になりすぎたのだが。
「俺も何度かシエラと一緒にやったことがある。慎重過ぎて煙たがられたがな。だがヴァンツァーがいくら生存率の高い兵器だろうと撃墜されれば即死の危険もある。現実では1つのミスが死につながることもある。ゲームでは運が悪かった、次何とかすればいいで済まされるが戦場では1機撃墜されれば大幅な戦力減衰につながる、忘れるな。」
真剣な口調で語りかけるカダールに、ジュリアスは静かにうなずいてみせる。緊張感が足りなかったことは十分反省しているようだ。
「・・・わかったな?」
「了解。」
「わかったらよし、次に気をつけろ。それとお前のヴァンツァーは挙動が鈍い割りに前線に出る。前線に出たいなら武装をそぎ落とせ。」
いくらなんでもツェーダーでは前線で戦うのは難しい。小回りが効かず挙動も鈍いため出てきたら格好の的である。
「了解、機体は・・・」
「政府軍の倉庫を1箇所民兵部隊が制圧した。政府軍の機体と交換させよう。お前は近接戦闘のセンスがいい、ジャミングしながら前衛で戦ってくれ。」
わかった、といいジュリアスはそのまま倉庫へと向かう。カダールは無事でいてくれとハーネルのことを気遣うことしか出来なかった。
1/27 ビラスバル市街地 病院 0950時
「・・・無事か、ハーネル。」
「ハーネルさん?」
病室で眠っていたハーネルが意識を取り戻したと聞き、病室に部隊のメンバーが集まってくる。ハーネルは寝転んだままだが、首をカダールへと向ける。
「・・・隊長にシエラ・・・来たのか。」
「来たのかは無いだろう、ハーネル。大丈夫か?」
「・・・ああ。」
ゆっくり休みたいらしく、ハーネルは少し疲れたような表情をしている。後遺症などはなさそうだ。
「軍医の話だと後遺症も無いようです・・・よかったですね。」
リヴィエがよかったですね、と笑みを向けるとハーネルもうなずく。幸いにも出血と脳震盪だけですんだため、明日には退院できるということだ。
「・・・ハーネル、どうして俺を助けたんだ?」
言葉を詰まらせながらジュリアスがたずねると、ハーネル表情1つ変えずに答える。
「言葉が必要か?戦友を助けて何が悪い。」
「だが、俺はあんたを・・・」
「督戦隊は任務としてあたえられたことだ。それをどう言われ様とかまわん。敵前逃亡は遅かれ早かれ銃殺だ。小隊規模での活動ならとにかく大隊や師団規模なら逃亡者を許容は出来ない。」
思想が違うな、と部隊の面々は思ってしまう。そこまで厳しい軍律をザーフトラが強いているとは思わなかったようだ。
「・・・だが、民間人の虐殺や戦意を失った敵を叩くのは任務ではない。それを上官に具申したら除隊させられた。ここにきたのも、民兵か志願兵からもう一度やり直そうと思ったからな。」
シエラはうなずくと、そっとハーネルの手を握り目を潤ませる。
「・・・ハーネル、無事でよかったよ本当・・・」
「・・・死ぬわけには行かないからな。まだやり直せていないのに。」
よかった、といいシエラが飛びついてくる。ハーネルは迷惑そうだが振り払うこともなく、されるがままにしている。
「相変わらずオーバーだな、シエラ・・・」
あきれたようにカダールが声をかけるがシエラは抱きついたまま涙を流したりもしている。それほどうれしかったのだろう。
「・・・これからも頼む。それとシエラ・・・支援に感謝する。」
「いーってことよ、戦友を助けるのはどこの軍でも同じだから。」
お互いに前衛で戦うだけにサポートしあう機会も多い。ハーネルは静かにシエラの頭をなでて彼女の抱擁に答える。
「・・・え?は、はい。OCUより先にですか?」
『そうだ。お前達の部隊で行ってもらいたい。政府軍の前線は崩壊しかけている。補給部隊を襲って物資を強奪しているからだ。政府軍は増援を出すことも出来まい。』
「わかってます、ですが・・・何といって部隊を動かすんです?」
『こちらから命令書を出す。OCUの部隊がすでに動き出したのだ。OCUに先を越されたら今回の派兵の意味も無い。手段は問わない、なんとしてもその機密文書の内容を送ってくれ。』
「・・・了解。」
『気にすることは無い。部隊に動いてもらって内部文書の内容をこちらに送ればいい。目標は・・・』
「・・・了解、人が来たので失礼します。」
携帯端末を切り、リヴィエはそっと視線をレジーナに送る。
「何やってたんだい?故郷から?」
「いえ、友人からですよ。私が今回の内戦に参加していると聞いて、安否を尋ねて来たんです。」
へぇ、とレジーナがうなずいてみせる。そんな長距離にレジーナの親友がいることに驚いたようだ。
「ま、大事にするんだよ?友人ってのはなくすのは簡単だけど作るのは難しいからね。特にそこまで心配してくれる友人は。」
「は、はい。」
そのままレジーナは怪我をした民兵の見舞いへと向かう。リヴィエは気づかれたことに安心しながら、もっと人目のつかない場所に向かう。
続く
(※1)
アエロクローネ社の超音速戦闘攻撃機。2084年に初飛行を終えECフランスで採用されている。ハードポイントに初めてMULS-P規格を採用しヴァンツァーが肩に搭載できる武装を搭載できる。固定武装として40mm機銃を搭載している。デルタ翼にカナードという前世紀の戦闘攻撃機と変わらない設計。アフリカや南米にも輸出されている。VTOL超音速機の発達により現代では旧式とも言われているがSTOL性能は高く、空戦性能も高い上余計な機材を搭載しない分安価でもある。機体の延命改造を施してECフランスでは使用されておりこの改造部品を他国にも輸出している。(※2)
中華製のミサイルすらあるのに和製メーカーのミサイルはアドラーしかないので作った。ジャパンウェスト(日西)製ミサイル。携行型対戦車ミサイルをベースに装填機構などを取り付けたものであり、このあたりはスカルシリーズと同様の開発経緯を持つ。割と軽量な割に威力は高いが、戦車用のミサイルを転用しためにヴァンツァーの機動力にミサイルが追いつかないという事態も発生した。そのため急遽改良されミサイルの安定翼を発射時に展開する、推力偏向ノズルを取り付けるなどの改良が施されている。威力自体は問題なく、また弾頭に搭載された誘導装置の性能は非常に高精度。ただしミサイル単発が非常に高価な難点も持つ。
(※3)
武器腕のテラーンはそのままテラーン、通常腕を備えたテラーンをカロークと呼称。