Front misson Brockade
Misson-9 Uninhabited Wander Panzer
1/25 1640時 ガラサンジア臨時ガレージ
「・・・動きがないな。政府軍は何をしている?」
「輸送ヘリをミサイルで撃墜したりして挑発行動はしてるんだけどさ。政府軍の腰抜けは何やってんのかねぇ・・・」
3日もたって、同盟軍から至急されたVTA4イグアナ(※1)で政府軍の輸送ヘリを撃墜したりしてガラサンジアを占拠したことをアピールしているが政府軍の反応はない。
防衛ラインを下げたりする気配もなく、かといってビラスバルに増援を送る気配すらない。何か怪しいとレジーナとハーネルは思い始める。通常戦力を動かすなら、もっと早くやっているはずだ。だがザーフトラ軍、アルメニア軍すら動きを見せない。
「・・・連中はザーフトラ軍だ。だとしたら・・・」
「だとしたら?」
「無差別爆撃でもやらかすかもしれない。民兵ごと市街地を消し去ることもやりかねないだろう・・・俺の知るザーフトラならそうする。」
やるか?とレジーナは疑問符を抱く。すでにザーフトラ軍の衛星は西部方面軍が撃墜している。そのため空中から直接座標を入力するかビーコンがなければ巡航ミサイルは誘導できない。
無論、同盟軍も巡航ミサイルの脅威を懸念している。だがガラサンジアには対空火器が増設された上に政府軍から奪ったものもあり、対空防御は万全だ。
残りは陸戦の戦力で攻めるしかない。そのために戦力を集結させているとも考えられるが同盟軍の諜報員がもたらす情報は数機の輸送機がビラスバルに何かを運んだという報告程度で何も入ってこない。
「無差別爆撃をEC軍やOCU軍が集まってる中でやらかすとは思えないね。」
「・・・ザーフトラはやる。連中が一番にくく思っているのは民兵部隊だ。制圧の方法は虐殺と無差別爆撃と相場が決まっている。」
ザーフトラのやり方を語るハーネルを見て、レジーナはいぶかしむような視線を向ける。
「あんた、やけにザーフトラに詳しいね。」
「・・・ああ。俺は元々ザーフトラ軍だ。嫌気が差して除隊した。」
あっさりとハーネルは答えると、もういいかとレジーナにいいカダールへと報告に向かう。レジーナはその辺の事情を察したか、ハーネルを深く問い詰めずじっと考え込む。
すると、カダールがシエラとリヴィエをつれて部屋へと入ってくる。どうやらハーネルの報告を聞いたようだ。さっそくカダールが考えられるパターンをたずねる。
「巡航ミサイルが来ると聞いたが。レジーナ、お前がヴァンツァーで侵入してビーコンを仕掛けるとしたらどのあたりを選ぶ?」
「警戒が厳重すぎて、手も出せないね。けど、中央部は必然的に脆くなるからやるとしたら空挺強襲・・・だと思う。」
「空挺強襲でも、イグアナとかスカイフィンチ(※2)を配備している。が・・・予想外の手段で中央部に何か仕掛けるかも知れないな。」
「予想外って、どーするのよ。」
シエラは笑ってみせる。がちがちに固めた防空システムを潜り抜けるのは並大抵のことではない。撃墜覚悟で突っ込んでくる連中も早々いないだろう。
「わからんが、一応中央を警戒しよう。政府軍残党が破壊工作を行うかもしれない。万一のためだ。」
「わかりました、隊長。ヴァンツァーで待機します。」
リヴィエは敬礼すると、そのまま事務所から出てヴァンツァーに乗り込む。シエラも向かおうとするが、カダールがとめる。
「お前のイーゲルツヴァイ、武器腕が破損していたぞ。」
「嘘!?交換しろってこと?」
冗談でしょ、とシエラはため息をつく。ショットガンはかなり気に入っていたが、破損したとなればやはり交換するしかない。
「ああ、右腕のショットガンがかなりやばいことになっていた。お前・・・バズーカ喰らって冷却も忘れていただろう?」
「あ、それか・・・」
高熱を発するバズーカが直撃して横転、その跡でヴァンツァー1機とアルマジロを相手にして何発もショットシェルを連射すれば内部機構が破損してもおかしくはない。
シエラは少し悩んでしまう。イーゲルツヴァイの予備パーツはないので現地の部品で何とかするしかないが、何にするべきが問題だ。
「65式とか残ってない?ラットマウント(※3)でもいいんだけど。」
「これではだめですか?」
リヴィエが見せたのはリヤード・アーマメンツ製ヴァンツァーのカルド(※4)の武器腕だ。ガトリング砲を搭載しているのを見てシエラはうんうん、と満足げにうなずく。
「よし、決定!後オートキャノンある?ターボバックパックと。」
「オートキャノンならレオスタンD型があります。ターボバックパックもイグチ製が。早速搭載させますね。」
民兵の整備部隊にリヴィエが命令すると、そのとおりに武装を付け替えていく。できばえに満足したシエラは換装が終わるとはしごを上り、イーゲルツヴァイに乗り込む。
「お、いい感じ。早速シミュレーターで練習でも・・・」
『レーダーに感!敵機接近中!』
来たのか、と思いカダールが早速無線でメンバー全員を招集する。
『敵機だ、市街地中央部に向かうぞ!』
「了解!」
オートキャノンの操作は何とかなるだろうと思い、シエラはイーゲルツヴァイを稼動させる。格納庫のシャッターが開き、そのままシュツルムピングィンが出撃するがいきなり突っかかってしまう。
『シエラ、右手を下げろ。』
「・・・ごめん。」
カルドのガトリング砲は直線的でかなり長く、天井の出っ張りに突っかかったようだ。シエラは自分の癖を直そうかなと考えながら、イーゲルツヴァイを発進させる。
ガラサンジア市街地中央部 1651時
『敵機、ガラサンジア市街地に接近!』
『低空をすさまじいスピードで進んでいる!ミサイルのロックオンは不可能!』
無数の敵機が飛来するのがレーダーではっきりと確認できる。それもかなりのスピードで向かってきているのがわかる。
『ちゃんと狙って対空砲火を浴びせな!ひるむんじゃないよ!』
『無理だ、早すぎる・・・嘘だろ!?巡航ミサイルにヴァンツァーをくくりつけてやがる!』
民兵部隊の報告に冗談だろ、と全員が思ったが中心部に飛来するヴァンツァーを見て、本当だということを悟った。2機の巡航ミサイルにヴァンツァーがくくりつけられている。
そして、切り離されるとミサイルが設置されていた対空陣地などに直撃する。降りてきたのはEMPバックパックを搭載したヴェルダ社のフェザント、そしてサカタインダストリィ製のアルカードだ。
『応戦しろ!敵機を駆逐する!』
「了解!」
やはり中心部から仕掛けてきたらしい。しかし巡航ミサイルにヴァンツァーをくくりつけるなど正気の沙汰でもない。しかも無茶苦茶に転倒しても平然とヴァンツァーは起き上がってくる。
着地したヴァンツァーにシエラは早速レオスタンDと30mmガトリング砲を連射。アルカードもレオスタンを発砲するがレジーナがガレージで換装したアイビスを発砲。集中砲火を受けてアルカードが炎上する。
『ちっ・・・動きがいい!』
フェザントがブリザイアのハンドロッドを回避し、すばやく装備されたダブルネイルを突き出すがすぐにリヴィエが23mmガトリング砲を発射。弾幕を浴びせてひるんだ隙にハーネルは反撃に出る。
『・・・覚悟してもらうぞ。』
動きは良いが少々詰めが甘い。ハーネルはF-4ハンドロッドで足元をなぎ払いフェザントを転倒させる。そして、すかさずロッドを胴体に突き刺し沈黙させる。
『・・・リヴィエ、俺を撃つなよ。』
『は、はい。』
一瞬だけハーネルに恐怖を感じながらも、落ち着いてリヴィエは敵機に狙いを定める。アルカードが突撃しながらレオスタンDを連射して突撃してくるが、リヴィエも23mmガトリングで応戦する。
が、後から巡航ミサイルにくくりつけられたヴァンツァーが何機も下りてくる。巡航ミサイルの目標は対空火器らしく、そのまま飛び去っていく。
『数が多い!何なんだ・・・!』
着地したフェザントめがけハーネルがホーネットを発射。10cm砲弾が直撃してフェザントは何もできないまま爆発を引き起こす。
それでも次々に増援を送り込んでくる。いったい何の意図があるのかわからないが包囲網の外延部にいる部隊も交戦している最中らしく、無線が聞こえてくる。
『ちっ、動きのいいヴァンツァーだ!』
『応戦しろ!数で押しつぶせ!』
確かに動きはいい。多少ぎこちないがかなり訓練されているのはわかる。しかし巡航ミサイルの発射速度や着地の衝撃に耐えられるのは人間業とは思えない。
シエラは疑問に思ったが、それを撃ち消すように次から次へとヴァンツァーが飛来する。90式がPAP55を連射しながら接近するがシエラは前進してレオスタンDとショットガンでの射撃を加える。
PAP55の銃弾が直撃したが威力の低さに助けられたいしたダメージも無い。するとリヴィエがあることに気づく。
『隊長、ヴァンツァーの残骸から何か電波が出ています。』
『残骸から?パイロットが無線を切り忘れたまま死んだのか?』
『いえ、複数の機体から同一の発信が・・・』
いったい何だ、とカダールが眉をひそめるがハーネルはこの状況が何なのか理解できた。巡航ミサイルの発信機をヴァンツァーに埋め込んでいる。
『巡航ミサイルだ!隊長、全軍と住民を避難させろ、大至急!』
『巡航ミサイルだって?まさかそんな・・・』
『いいから早くしろ、隊長!巻き込まれるぞ!』
ヴァンツァーの飛来も収まってきた。まさか複数のヴァンツァーを使い捨てにするつもりかとカダールは思ったがハーネルはさらに強い口調で続ける。
『連中にとって敵の命など物の数でもない、非戦闘員でも容赦ないやり口だ・・・撤収命令を!』
『・・・わかった。撤退する。全軍にも撤退命令、住民には避難勧告を出せ!』
民兵部隊にもカダールは連絡を入れる。シエラは驚いた様子でカダールに呼びかける。
「撤退しちゃうの!?だってここを守れって命令されてるのに・・・!」
『非情な司令官なら、町を焼き払ったほうがマシだと思うだろう。そうすれば俺たちの行き場はなくなる。政府軍も前線への輸送がやりやすくなるはずだ。非人道的だが、作戦と見れば合理的だ。』
シエラはショックを受けて動けない様子だが、まだヴァンツァーは飛来してくる。早く撤退しないと巡航ミサイルの爆発に巻き込まれる可能性が高い。
素早く旋回してシュツルムピングィンが撤収を開始する。背後から敵ヴァンツァーも追撃してくるが応戦する暇もなく、かといって胴体を後ろに向けながらの応戦も無謀であり(※5)ただ前を向いて撤退するしかなかった。
『報告、敵基地よりミサイル発射!巡航ミサイルです!』
「嘘・・・!着弾まで何分!?」
『後10分、急いでください!』
住民の脱出は不可能、だがかまっていることすらできない。悔しい思いを必死で抑えながらシエラはイーゲルツヴァイを前に進ませる。
建物もまばらになり、市街地から抜けた途端ミサイルが市街地へと直撃。それも市街地の広範囲に何十発と言う数が降り注ぐ。
『あ、あいつら・・・!!』
「ひどい、市街地全部焼き払うつもり・・・!?」
東西に長いガラサンジア市街地のすべてを焼く払うようにミサイルが降り注ぎ、建造物すべてを破壊していく。市街地は火災どころか爆風でまとめて吹き飛ばされていき、残骸すら殆ど残っていない。
ミサイルが飛来しなくなったとき、ガラサンジア市街地はすべて焼け野原に変わっていた。逃げ遅れた人は全員が死んだだろうか。
『・・・連中のやり口はいつもこうだ。民間人がいようと容赦ない。チェチェンの市街地が焼き払われてないのは経済や採掘資源の拠点になりえるからだ。』
『ハーグ協定違反だぞ、それは・・・!しかもここは俺達の・・・!』
『ザーフトラにとっては結局、「自分の領土」でしかない。だから重要でなければ何をしてもいい、そう思っているんだろう・・・』
ハーネルは忌々しげにザーフトラの手口を語る。そして焼け野原になったガラサンジアへと歩いていく。
シェルターに隠れていた住民などが外に出てきて、市街地の参上を目の当たりにして涙を流したり悔やんだりしているのも見られる。
「・・・隊長、どうするの?」
『どういう意味だ?』
「市街地もないし、私達と民兵部隊でここにとどまり続けるのも難しいよ。今から前線に強襲を仕掛けても、たいした戦力じゃないし・・・」
相手は万全の体制で迎撃してくるだろう。そしてシュツルムピングィンと民兵部隊には補給物資もない。前線を崩すのは難しいだろう。
『流浪の軍隊、ですか・・・私達、せっかくここまで来たのに・・・」
さらりとリヴィエが今の状況を端的に言う。その口調は沈んでいて、いつもの精彩がない。
『・・・何とかなるなんてあたしもいえないね。状況は最悪さ。北の市街地だって、躊躇なくミサイルでつぶしてしまうだろうね。』
北にある市街地アリャールに行ったところで余計な犠牲者も増えてしまう。ザーフトラ軍ならなりふりかまわず小さい市街地を犠牲にしてしまうだろう。
だが、北という言葉にカダールは反応して表情を明るくする。一番手薄な場所がちょうど北にあったのだ。
『民兵部隊は幸いにも9割がた脱出できた。この戦力でビラスバルを落とす。』
「ビラスバルを!?」
政府軍の拠点もあるビラスバルを陥落させれば確かに前線を後退させざるを得ない。補給物資が届かなければ前線を維持することは困難だろう。
それにビラスバル程度の大きさならミサイルで壊滅させることも不可能・・・だが、相応の戦力が配備されている。シエラが驚くのも無理はなかった。
『・・・無謀だな。』
『かまわない。直接北に向かい林道を抜けていけば政府軍にも発見されないだろう。発見されなければ奇襲できる。』
成功の確率は低いが、させなければならないだろう。無線連絡を聞く限り、同盟軍も政府軍も決め手を欠いているという。
カダールが決意を固めたのを見て、シエラもうなずいてみせる。やるしかないというのは周囲の状況から見てもわかる。
『無謀じゃないでしょうか、さすがに・・・予定通り、本隊に合流しませんか?』
この絶望的な状況の中、前進しようという無謀な決断にリヴィエは腰が引けてしまうがシエラは大丈夫、と太鼓判を押す。
「大丈夫だよ、何とかなる!隊長なら何とかしてくれるよね?」
『・・・ですが、情勢は絶望的です。シエラさん、どうしたら・・・』
「がんばるの、それだけ!」
あまりに単純な答えにリヴィエは言葉を失うが、レジーナはまったく同感だと同意してみせる。
『単純だけど、かなりいい答えだね。ただ、必ず成功させなきゃいけないんだ、そこは覚悟しときな。』
「わかってる。リヴィエ、行こう?」
軍人はこんな雰囲気なのだろうか、とリヴィエは思ったが今はできることをやるしかないと自分に言い聞かせ、進軍を始めたシュツルムピングィンに一番後ろから随伴する。
戦車や装甲車、その後ろから民間用トレーラーが随伴する。アルマジロも操縦席を修復できたため随伴している。それでも兵員を運ぶには足りず、兵員は戦車や装甲車の上に乗っている。
『タンクデサントか、まったくいつの時代の戦争なんだか・・・』
装甲車や戦車を見てカダールがつぶやく。今では危険だとか生存率が低い、あるいは車社会になって十分な車両が確保できるようになったために廃れていった。
『・・・知ってるのか、お前・・・』
『何度か見た。軍事教練でも万一の手段として訓練はしていたが・・・お前は?』
『していない。だが・・・』
ついついハーネルもその姿を見てしまう。本当に無事かどうかと気になってしまうようだ。手すりも無いのに兵員はよくつかまっている。
無論戦闘になれば兵員は降りて、対戦車ミサイルや対物ライフルなどで応戦する。歩兵に対しては突撃銃で対応できるだろう。
『民兵部隊がよくこんなことができると、つくづく感心する。』
『それほど、国を思う気持ちが強いんだよ。俺は知らないがリヴィエは志願兵でレジーナは民兵だ。必死になれば相応のことはできる。』
そういうものか、とハーネルは納得する。地元住民の協力で林道をとおり、ヴァンツァーが先導して道を開き装甲車がその後ろを通る。戦車は一番最後で対空車両を随伴させ対空警戒に当たっている。
『・・・俺とは大違いだな。国のために・・・か。』
『日常を守ってくれてる連中だ、有事の際は俺たちもがんばらないといけないしな。』
「はぁ、そーいえばそうかも・・・」
シエラもなんとなく、漠然としてるがわかった様子だ。忘れがちだが国家があればこそ、平穏な日常もありえるといえる。
『だが、起こすのはクーデターか・・・』
「そりゃあ、盗聴や検閲やらかして不穏なやつはシベリア送りしちゃう連中なんて・・・やだよ。絶対。」
アゼルバイジャンは強硬手段によりザーフトラ連邦に併合され、それ以降もソ連並みの厳しい恐怖政治が行われた。そして大量のザーフトラ軍を駐留させ、それでも足りないと隣国アルメニアにも強力な部隊を配備した。
それでも独立運動はやまず、2075年に表向きは終わったように見せかけ裏ではクーデターの資金を集め、ヴァンツァーや兵器を民間業者に溜め込んでいた。
19年越しの報復、とでも言うべき綿密な計画で開始されたが最初の計画が狂い、現在はまっとうに戦うのがやっとという状況だ。ECやCAUイラン、OCUからの支援が無ければ今頃壊滅している状況だ。
『なら、反乱を起こしても仕方ないな。俺でもクーデター軍に参加する。』
納得した、とハーネルもうなずく。この国を奪うのは私利私欲のためでもなく純粋に国を思うから。問題は無いが、あまりにも博打の要素が強すぎる。失敗すれば逃亡者として一生を送ることになる。
『・・・ええ、だから私も戦います。この戦いは勝たなくてはなりませんから。』
『なら、俺もつき合わせてもらおうか・・・』
不整地の行軍は時間がかかるものの、シュツルムピングゥンと民兵部隊は起伏のなるべく少ない場所を選び、見つからないように行軍する。
バクー総司令部 同時刻
「いったいどういうつもりだ、デムチェンコ!」
アゼルバイジャンの大統領が統合司令部に乗り込み、デムチェンコに今回の作戦を抗議しにきたようだ。数名の軍幕僚がいきなり入ってきた大統領の方に振り向く。
「大統領、我々は任務を果たすために来たのです。市街地の1個や2個、やすいものではありませんか。」
ガラサンジアに大量の巡航ミサイルを撃ち込んでおきながら、デムチェンコは平然とした様子で答える。大統領はそれに納得がいかないようだ。
「いくら反乱軍をつぶすためでも国民の犠牲が大きすぎる!」
「彼らは全員反乱軍に組したのです。殺して何が悪い。」
「ECやOCUが見ていることを忘れたのか!?この様子を全世界に放送されたらお前達の責任も問われるぞ!?」
ECやOCU経由で全世界にこの内戦が伝えられている。そんな中2年前の事件でただでさえ権威が失墜しているザーフトラに追い討ちをかけることになりかねない。
「逆ですな、大統領。この紛争で負けたらチェチェンも勢いづく。グルジアをECに奪われ、カスピ海の利権も危ういのです。ひいてはザーフトラすら危うい。非常手段をもってしても勝て、それが同志メルディフスキーの命令です。」
それを言われて大統領は黙ってしまう。ザーフトラ大統領の命令でもあるが、ザーフトラの威信が崩れれば自分の地位も危ういのだ。たとえこのクーデターで勝ったとしても側近に権力を奪われる可能性もある。
すごすごと大統領は戻っていくと、やれやれと1人の幕僚がため息をつく。スーツ姿の中、1人だけ砂漠迷彩の軍服を着ている。
「で、さまよっているはずの部隊はどうする。」
「簡単につぶせるだろう。ビラスバル行きの第二陣がおそらく遭遇するはずだ。潜伏したとしても補給は無い。たいした脅威でもないだろう。」
民兵部隊と反乱軍の空挺部隊。普通に考えればたいした脅威でもないとホークス隊司令官、アフダルは思ったが同時に一抹の懸念も感じる。
「司令、ガラサンジアに駐留していた戦力は?」
「アルマジロ1機とヴァンツァー1個連隊だが、何か?」
「そいつらを壊滅させた空挺部隊だ。見つからなかった場合はビラスバルにホークスを引き戻すがそれでいいか?」
デムチェンコの顔つきが変わり、一気に不機嫌な雰囲気へと変貌する。
「私の命令だ。ホークスは前線を維持しろ。」
「だがその第二陣が過ぎ去った後のビラスバルはどうなる?戦力的に空白が生じて奪還されたらどうなる?空挺部隊に強襲されて勝てるのか?」
「守備隊が何とかする。それよりもEC軍やOCU軍の加勢した反乱軍に前線を突破されることは避けたい。ホークスはそのために奮戦してもらわねば困る。第二陣も合流させなければ反乱軍に抜かれてしまう。」
アゼルバイジャン開放同盟軍はこう着状態、それも劣勢にもかかわらず積極的に攻勢を仕掛け、モーターカノン(※6)やロケットランチャーで散発的に嫌がらせとも言える攻撃を昼夜を問わず仕掛けている。
そんな状況では前線を維持するのも難しく、第二陣やホークスに抜けるとデムチェンコやザーフトラ軍も前線維持は難しいようだ。
「・・・あんたの意見も一理ある。予備として待機している一部のホークス隊にビラスバルへのルートを哨戒させたいがいいか。」
「結構だ。だが今は戦力の余裕は無い。それだけはわかってもらう。」
部隊は出せない、それを聴いてもアフダルはあわてることは無かった。民兵交じりの空挺部隊はそれほどの脅威でもないと感じているのだろうが、いやな予感がしていた。
「・・・あいつらは勘弁だ。」
あの時逃亡していたツィカーデとガストがいたら間違いなく壊滅させられるだろう。アフダルにとってそれが唯一の懸念材料ではある。大体反乱軍規模で空挺部隊を組織するならあれくらい無茶苦茶な腕前がないと無理だろう。
林道 1900時
『レーダーに反応。敵機確認しました。』
『敵機?』
民兵部隊に随伴するVTA-4イグアナのレーダーが敵機を補足。そのデータがシュツルムピングィンや民兵部隊のメンバーに送信される。7機編成のヘリ部隊だがヴァンツァーも随伴している。
「ゼリアにウォーラス・・・ホークス隊だ。」
レーダー反応を見てシエラは厄介なのが来たとため息をつく。こんな状況で一番出会いたくない連中と言ってもいい。
『迂回できませんか?この状況で報告されてはビラスバル強襲作戦も失敗します。』
『ダメだ、敵機にレコンがいる。こちらの位置が知れるのも時間の問題だ。』
センサーバックパックを搭載したザイゴートが混ざっている。ソナーを使用しているため発見されるのは時間の問題だろう。
すると、その状況を聞いて1機のヴァンツァーが出てくる。ヴェスペA4(※6)を右手に持ち、左腕はツェーダーT2の55mm速射砲(※7)を搭載。シュネッケ製ECMバックパックを搭載している。
『ジャミングさえできれば何とかできる。任せな。』
「誰?あんた。」
ツェーダーに乗っているパイロットに、シエラが疑問符を抱く。聞いた限り戦闘やジャミングに自身がありそうだ。
『ジュリアス・ジョンストン。民兵部隊所属なんだが、何か?』
『この際誰でもいいから頼もう。敵の無線をジャミングしてほしい。その間にホークス隊を始末する。』
なるほど、とシエラはうなずく。結局無線を妨害してしまえば堂々と戦っても問題はない。
「んでさ、ジュリアス。ジャミングについて何か問題点ありますかー?」
イーゲルツヴァイがショットガン内臓武器腕を上げる。無論シエラが操作しているのだがその様子を見て兵員が軽く笑ってしまう。ジュリアスは気にせずに説明を続ける。
『いい質問だ。ジャミングの効果は15分程度しか持たないんだ、それ以上かかったら俺達はあっという間に見つかる。』
『小規模な部隊にそれだけの時間をかけるつもりはない。10秒後にジャミングをかけろ。一気に敵を殲滅する。』
はいはい、とジュリアスがうなずくと早速ジャミングをかける。それと同時に、何も言わずカダールとシエラのヴァンツァーが飛び出す。ハーネルとリヴィエ、レジーナも後に続く。
『ちょ、置いてくなよ!』
『攻撃開始、続け!歩兵は降りてミサイルで支援しろ!』
トラックから地対空ミサイルなどを取り出し、歩兵部隊は政府軍のAAH44CEイーガーにミサイルを発射する。少々機動力の鈍いAAH44CEはミサイルを回避しきれず、ロケットランチャーを発射する前に撃墜されていく。
それと同時にストームが突撃、真正面のゼリアにバズーカを発射する。不意を打たれたがホークス隊はすぐに体制を建て直し、ウォーラスやゼリアが突撃してくる。
『小規模な部隊です。1機たりとも逃がさないでください。』
「わかってるよ。私は逃げる奴を追いかける!」
シエラはすぐに逃げようとしているザイゴートを追撃、背後からショットガンを発射する。背後からの銃撃にザイゴートは反撃しようとしたが、間に合わずに両腕を吹き飛ばされ爆発する。
そのまま背後を見せているゼニスめがけ射撃。モストロ24をシールドで防いでいるゼニスは対応が遅れる。その隙に民兵部隊の発射したヴィルトが直撃する。さらにカダールがバズーカを発射し、砲弾が直撃してゼニスは爆発する。
『敵増援確認・・・おい、こいつら何だ!?』
『ジュリアス、何か来たのか?』
『ホークス隊だ・・・しかし見慣れないヴァンツァーだな。何だこいつら、武器腕にライフル装備してるのか!?』
4機ほどのヴァンツァーが迫ってくる。武器腕にライフルを搭載した、胴体部分が異様に長い機体だ。
「何か来た?私たちで相手しておくから集中してて!」
『頼む。レジーナとジュリアスは援護に回れ!』
指示を受け取り、ツェーダーとジャリドもイーゲルツヴァイの後ろに続く。割となだらかな森林地帯を行軍すると、レーダーに反応が出る。ホークス隊のヴァンツァーだ。
『お前らがシュツルムペンギンか?また面白い連中に出会えたもんだ、これでこっちも楽しめる。』
「は?誰よあんたら。」
『ホークス隊第47狙撃部隊長、メルケル。お前らと戦えるのを待っていた、ロドリゴに手痛いダメージを与えた連中とな。ここで散ってもらおう。』
突然のように長距離から射撃が行われる。シエラが回避行動をとると、機体を掠めた85mm徹甲弾が樹木に直撃。そのまま木が倒れる。
『敵機解析終了、RA社製ヴァンツァーだ!形式名ニーガス(※8)、来るぞ!』
4機の狙撃機体は散会、移動しながら3機にライフルの照準を合わせる。
続く
(※1)
ファイアバレー社で製造された対空戦車。中央部にレーダーを備え、60mm速射砲と対空、対地両用ミサイルのハイブリッドとなっている。装備された60mm砲は650発/分という速射砲としては破格の連射速度を持ち威力、射程距離共にかなり高い。そのため対装甲車両やヴァンツァーにも対応できるものとなっている。ミサイルはディアブル・アビオニクス社から供与されたプラヴァー系列をベースとする。60mm速射砲の反動を押さえ込むために車体は旧世代MBTであるVT4をベースとしており、ミサイルやヴァンツァー用の火器にある程度対応できるだけの装甲を備えている。これをスケールアップさせ、MULS-P規格に合わせたのが後のビガーである。(※2)
ヴィンス社製の短射程対空ミサイル。戦闘機や戦闘ヘリが主な標的であり射程は4km程度。対ヴァンツァー用に再設計されたものがヴィンスジャパンでも販売されている。ディアブル・アビオニクス社製のトラックと組み合わせた高機動型対空車両も存在する。値段の割りに性能は高く、正規軍や武装勢力を問わず流通している。2094年の最新ロットでは巡航ミサイルの撃墜も可能とされる。(※3)
1st仕様のワイルドゴート(武器腕バージョン)を本作ではラットマウントとして扱う。4th仕様はそのままワイルドゴート。(※4)
RA社の局地戦用前衛型ヴァンツァー。胴体に接近戦用のベラ・ラフマ25mmMG(同社のマシンガンと同じもの)を搭載。武器腕として30mmガトリング砲を採用している。脚部は砂漠戦闘用に向いたホバー型を採用している。武器腕だがランチャーマウントも完備し、ミサイルなどの武装も搭載できる。RA社らしくメンテナンス性が高く構造も単純。ホバーで巻き上げられた砂塵が入っても稼動するよう、腕や胴体はある程度クリアランスをあけた構造となっている。2093年に完成し、CAU各国やアフリカ北部の軍、大漢中軍に納入されている。局地での稼働率の高さを買われ、ザーフトラと協定を結んだ際にも極北防衛部隊に納入された。(※5)
1stでは全周囲に胴体を向けられるらしいが、さすがに歩行しながらでは無理だろうと判断。ローラーダッシュでも背後を向きながらの射撃は不可能と判断した。オンラインの「支援機は270度胴体を旋回可能。戦車、4脚は360度」という設定。(※6)
炎熱属性の近距離武器で火炎放射器は使えないと判断しこちらを採用。センサーを焼く程度ではどうしようもない。シュネッケが開発したグレネードランチャーであり、81.4mmの大型榴弾を発射する。着発榴弾を使用し、ボックスマガジン装填方式を採用している。第二次ハフマン紛争後、火炎放射器がヴァンツァーに対してはとにかく戦車や軽装甲車両には火力不足ということが判明し急遽グレネードランチャーの製作を始めた。旧世代迫撃砲弾を利用し、構造もできる限り既存技術を用いて開発時間を短縮したため開発開始の2090年からわずか1年で製作が完了する。砲弾一発の火力はかなり高く、ある程度の連射も利いた。ブラウネーベルからは「周囲を巻き込む榴弾は必要ない」と言われ採用を却下されたがチェチェン戦線ではその有用性が評価されECドイツ軍を皮切りにEC各国軍に採用される。手持ちのグレネードランチャーはこれ以降多数のメーカーが参入する。生産を継続していたイグチ社やリムアーズも第二次ハフマン紛争中のランチャーを改良し市場に送り出した。
(※7)
シュネッケが何の意図を狙ったかわからないキャノン砲である。まぁ、単なる砲にしては徹甲弾の威力が低いのでオートキャノンへと類別した。(※8)
武器腕のライフルというコンセプトに惹かれてしまったので設定。2093年に開発された狙撃型ヴァンツァー。これまでバズーカの武器腕というものがあったため「ライフルでも同じことができないか」ということで製作された。武器腕にすると出力が大きい重装甲の機体に搭載するだけで狙撃に運用することが可能であり、これまで高価だったスナイパー機を誰にでも手が届く範囲のコストに抑えようというコンセプトで開発された。ライフルは新規設計した85mmライフルを使用。胴体部分に大型のセンサーを搭載して夜間でも敵を目視できるように設計されている。またチャフランチャーも搭載しミサイルへの防御力も高い。2102年にはさらに性能向上を図った機体を製作している。開発責任者はルーポと言う人物。特異なコンセプトだが胴体部分をレクシスなどの狙撃機体の腕と組み合わせたり、武器腕をワイルドゴートやヴァリアントに搭載してスナイパーに仕立て上げるなど以外に汎用性が高くフルセットで140機、パーツ別に見れば相当な数が販売されている。