Front misson Brockade

Misson-8 The front line

 

1/22 ランカラン資材集積所 1000時

「早速君達に動いてもらうぞ。戦局が動いた。」

「何なんですか、急に呼びつけて・・・」

ディートリッヒに呼びつけられた第41独立機甲中隊のメンバー4名・・・カダールとその部下は事務所の机を囲むように椅子に座る。

ホワイトボードにはアゼルバイジャン内部の戦線が描かれている。現在はランカラン北部のマサル付近を前線としてにらみ合いが続いている状態だ。EC軍はアルメニア軍と交戦しているがこちらもにらみ合い、北部方面軍は苦戦しているという。

「マサル北部の市街地、ガラサンジアで民兵が蜂起を起こした。我々の反乱に同調してのことだ。現在民兵部隊は市街地北部を制圧しているが苦戦している。」

「私達に、民兵を支援しろと?」

「そうなるな。彼らは先ほど我々が対戦車火器を投下した。それと装甲車もだ。」

「それって、さっきのバザルト7410(※1)とか?」

うむ、とディートリッヒがうなずく。数台の装甲車と現地にあったヴァンツァーではそう長く持ちこたえられないが、前線を突破して大規模な戦力を投入するわけにも行かない。

そのためには精鋭を投入して防衛してもらうしかない。そうなれば、首相を救出した実績のある自分達が選ばれるのだろうとシエラは納得する。

「ああ。空挺投下の部隊は数個小隊編成できたが不安も多い。貴官らに頼むしかないんだ。」

「いいでしょう、少将。俺達が何とかします。」

空挺投下訓練は数度カダールも体験した。第41機甲中隊の時から何度も行われてきたがこれまで事故は無い。空挺投下用のパーツが故障さえしなければ何とかなるものだ。

「隊長。私も行くんですか?」

「大丈夫だ、リヴィエ。あまり難しいものでもなかったしお前なら出来る。それで現地の戦力と降下ポイントは?」

不安になってしまうリヴィエをカダールは落ち着かせ、どこに降下するのかを尋ねる。ディートリッヒは大型の液晶ディスプレイを取り出すと、南部の映像を映し出す。南部方面にヴァンツァーや戦車などが防御を固めている。市庁舎に入られないようにしているようだ。

「貴官らはこのまま市庁舎を強襲してもらう。対空砲などはあまり数も多くない。それと同調して民兵部隊も総攻撃をかけてもらう予定だ。」

「ちょっと厄介だね。まぁ何とかできるけどさ。」

UAVの偵察写真を見ると政府軍のヴァンツァー以外に大型機動兵器も確認できる。レオノーラ製の大型機動兵器アルマジロC型(※2)だ。

「・・・アルマジロ型か、こんなものがいれば苦戦もする。」

「連日の豪雪で地面が凍結、転倒して搬送が遅れたらしい。民兵部隊はこのアルマジロ型が過ぎ去った後を狙って蜂起したが、蜂起して半日後に到着して相当な被害を出している。」

分厚い装甲と大火力を持った大型機動兵器は簡単に撃破出来るものでもない。ヴァンツァー数機で旋回機銃をかわしながら要所に射撃を加えて撃破できるがヴァンツァーが護衛についていることも多い。

そうなれば空挺強襲をかけてさっさと大型機動兵器をつぶせというディートリッヒのプランもわからなくも無い。周囲のヴァンツァー部隊を民兵にひきつけさせ、その間に大型機動兵器を破壊し、残りの敵を掃討すればいい。

「・・・アルマジロ型の対空砲はどう対応すればいい?奴に穴あきチーズにされるのは勘弁だ。」

「それにはEC側から支援があった。ステルス輸送機(※3)を貸すようだ。」

ハーネルはそれで安心だ、とうなずく。アルマジロ型の20cm砲は仰角が60度もあるため、遠距離からの航空機を撃墜するのにも使われる。近接信管により内部のベアリングや破片を飛ばし航空機を撃墜できる。だが、それさえ封じてしまえば接近して攻撃するチャンスも生まれる。

「大型機動兵器、および周辺ヴァンツァーを掃討するのが目的か?」

「そのとおり。終わったあとは市庁舎に民兵部隊が突撃する、それを援護してもらおう。市街地をすべて制圧したら、補給物資を投下するので裏から攻勢をかけてもらいたい。」

戦線の裏に敵軍がいれば敵軍は戦力を抽出して背後の敵をたたく。その隙を狙い一気に戦線を突破、同盟軍が進撃する手はずになっている。その隙を作るにはグラサンジアに空挺強襲をかけるのがちょうどいいのだろう。カダールは納得して、もう一度作戦成功時の効果を確認する。

「つまり、同盟軍に隙を作らせ民兵の支援も行うと。」

「そのとおりだ。作戦において意味は常に1つではない。いや、何に対しても言えるがとにかくいくつかの効果や意味があって行動を起こす。それを覚えておくといい。」

「了解。」

ディートリッヒの言葉はもっともだとカダールはうなずいてみせる。何か食べるにしても、空腹を満たすだけではなく味を楽しむといったこともある。

過去の歴史家や作戦参謀は理由を特定したがるが、むしろすべての要因が重なってその結果になったと考えるのが自然だろう。逆に言えばすべてのメリットを満たせることを考えれば相手の行動も予測できる。

「貴官らの無事を祈っている、解散!」

「はっ!」

敬礼をすると4人はそのまま事務所を出て、コンテナ内部に作られた簡易格納庫へと向かう。それからヴァンツァーに乗り込み、トレーラーに揺られながら空港へと向かう。そこに輸送機が待機しているので、後は乗り込んで空挺投下まで待機すればいい。

 

1015時 ガラサンジア市街地南部

『こちらルスラーン、状況は?』

「輸送機の中でよくわかんない。とりあえず今向かってると思うけど・・・」

デルタ翼の黒い輸送機が雪の降る曇り空を駆け抜け、ガラサンジア上空に到達する。市街地周辺には自走対空、対地両用砲TCA-85(※4)やSAMランチャーが配備されている。

『おいおい、箱入り娘は大丈夫かい?上も下もわかんないようじゃあどうしようもないぞ。』

「黙っててよ!あんた・・・誰?」

『ECイタリア空軍のナザリオ・アルファーニだ。階級は中尉、それで後ろの・・・』

軽い冗談を飛ばしながらナザリオが操縦桿を握っていると、いきなり警告音が鳴り響く。熱感知システムに引っかかり、ミサイルを発射してきたようだ。さすがに2094年の技術でも機体の廃熱を隠すことは出来ず、対空システムは高精度IRシーカーを備えた高度なものも存在する。

『・・・おい、イタリア人。お前と一緒に心中はごめんだぞ、さっさとハッチを空けろ。』

『あわてなさんなよ。そら!』

まず撃墜されるとハーネルは思ったがいきなり輸送機がロールしながら急降下、ヴァンツァーは固定されているためひっくり返ったりはしないが上下がひっくり返りほぼ全員が悲鳴を上げてしまう。

『どうだ?ローマ法王万歳だ!』

『お、お願いですからもっとやさしく操縦を・・・』

輸送機が戦闘機のごとくロールして何とかミサイルを回避できたが、リヴィエは気分が悪くなったらしい。

『そろそろ皆さんお待ちかねの一斉イーグルダイブだ!ハッチを開くから降りろよ?降りられなかったら基地までお持ち帰りだ!』

『行くぞ、遅れるな!』

輸送機からヴァンツァーが切り離され、カダールの合図と同時にストームが真っ先に飛び降りる。続いてイーゲルツヴァイ、スタブラインも続きブリザイアは最後に降下。TCA-85対空砲が15cm高射砲を連射するが、その合間をすり抜けつつストームが10cm砲を発射する。

ホーネット武器腕から発射された砲弾はTCA-85自走砲の上部装甲を貫通、内部で爆発を起こす。リヴィエのスタブラインも32mm機銃を連射、TCA-85自走砲の予備砲弾に直撃、爆発させる。

そして空挺投下用ブースターに点火、ぎりぎりで落下速度を弱めるとブースターをパージしブリザイアがF-4ハンドロッドを真正面の65式めがけ振りかざす。

『動きの悪い奴・・・』

一撃で機能を停止した65式の脇を通り過ぎて、大通りにブリザイアが出ようとするがシエラが静止する。

「待ってよハーネル、行ったらダメ!」

『何故だ。』

「ブリーフィング聞き忘れたの?アルマジロ級だよ!?大通りに出たら20cm砲の集中砲火を受けるってば!」

そうだったな、とハーネルも納得する。が、いきなり鈍い発射音が聞こえる。続いて空を切り裂くような鋭い音が聞こえ黒い影が迫る。アルマジロの発射した20cm砲弾が今まさに市街地に直撃しようとしているのだ。

『散会、アルマジロに向かえ!こっちの位置がばれた!』

「榴弾だ!」

とっさにシエラとハーネルは回避して爆風から逃れるが、民家を巻き添えにして榴弾が炸裂し巨大なクレーターを残す。もう民間人などお構いなしに政府軍は攻撃してきている。

『早くつぶしましょう!』

「おっけー、このまま行こう!」

建物の間を通り抜けてストームとスタブラインが迂回。大通りに近い道路をブリザイアとイーゲルツヴァイが通り抜ける。真正面にゼアレイドが待ち構えシールドを構えながらダークホッグMGを連射するがローラーダッシュでブリザイアが正面切って突撃。

シールドをF-4ハンドロッドではじき、構えが崩れたところにキャッツレイを発射する。そして通過するとシエラが正確に胴体部分にショットガンを連射。胴体から火花を散らしてゼアレイドが倒れこむ。

『遅れるな・・・住民の巻き添えは少ないほうがいい。』

「わかってる!」

市庁舎前の広場に2機が到着すると目の前にアルマジロ級が鎮座している。巨大な砲塔を向けるが、その前にブリザイアとイーゲルツヴァイが横に回避する。そこに20cm徹甲弾が発射され、コンクリートの道路に食い込む。

『直撃するな。木っ端微塵のお前は見たくない。』

「わかってる!来るよ!」

リペアバックパックを備えたギザがシールドを構え、PAP55を連射しながら接近してくる。落ち着いてシエラとハーネルはショットガンを連射。PAP55を装備した腕を吹き飛ばす。

が、いきなりギザはシールドを銃のように構えて射撃してくる。シールド内部にマシンガンを仕込んでいるようだ。

『・・・なんだあれは。』

「バカじゃないの?そんなの仕込むんだったらいっそ両腕にマシンガン装備したほうがいいのにさ。」

そうだな、とハーネルもうなずくとキャッツレイを連射。シエラもショットガンを両腕で同時射撃を行いギザに集中砲火を浴びせる。

集中砲火を受けてギザが炎上、パイロットが脱出し終わった後に爆発する。するとアルマジロC型が17.5mm機銃の照準を2機に合わせ射撃してくる。

『来るぞ!』

すぐにブリザイアが回避行動を取り、イーゲルツヴァイも後退するとヴァンツァーが向かってくる。ゼニスにも似た肩装甲を持ったが脚部の大きな増加装甲などはまた違ったものだ。

「ジールだって、何これ!」

『・・・機種など知るか。敵の武装を見て回避に専念した後攻撃しろ!』

コンソールのデータに出た真新しい機種を見てシエラはどういう攻撃で来るのか迷っている。見た感じは増加装甲が付けられ頑丈になったゼニス、というところか。

ズームしてみると、レオスタンを持っているのがはっきりとわかり発砲してくる。シエラはすぐに機体を接近させ、ショットガンでジールに銃撃戦を挑む。

17.5mm銃弾の弾幕を抜け、近距離まで突進するとショットガンを発射する。ジールもレオスタンを至近距離で連射するが先に胴体を銃弾が貫通、近距離で炎上する。すぐにイーゲルツヴァイが離れると、ジールは爆発を引き起こす。

『今来たぞ!支援する!』

「おっけー、隊長!アルマジロを攻撃して!こっちで周辺の敵を排除する!」

大型機動兵器ならバズーカやミサイルなどの大火力を持ち合わせる武器、またはライフルみたいに貫通力を最大限まで高めた武装が有利だ。逆に言えば装甲を貫通しにくい兵器ほど不利になる。

シエラはハーネルと共にアルマジロから離れ、周囲のTCA-85に狙いを定めるとショットガンを発射、装甲の薄いTCA-85は何回かショットガンの算段が命中すると予備弾薬に引火したのか、爆発を起こす。

「もろいね、自走砲って。」

後方からの射撃を行う自走砲なので装甲がついていないのはごく当然のことだが、ヴァンツァーにとってはいい的であるTCA-85を軽々と撃破するとアルマジロの方に振り向く。

が、途端に右側面から衝撃を受けてイーゲルツヴァイが吹き飛ばされる。横転したイーゲルアインスのカメラアイははっきりと101式試製強盾(※5)がBe-11を構えているのがわかる。

「ちょ、やばいって・・・!」

胴体に何発も直撃したらたまったものではない。シエラはあわてて機体を立たせようとするが武器腕ゆえに上手く立ち上がれない。脱出の準備を始めようとすると、いきなり試製強盾が爆発する。

強力なライフルを食らい、操縦席のブロックに直撃弾を受けたようだ。しばらくして、味方の手でイーゲルツヴァイが起こされる。

『無茶やったね、まったくあんたは・・・空挺部隊?』

「ごめんごめん、ちょっと油断しちゃった・・・あれ?誰?」

見慣れないヴァンツァーがイーゲルツヴァイを引き起こし、片手にムスタティールRF(※6)を持って応戦している。85mm徹甲弾が試製強盾を貫き、爆発させる。

『民兵部隊のレジーナ。さ、とっととデカブツを沈めるよ!』

「了解!」

勇ましいな、とシエラはレジーナに対して感じたようで邪魔をしないように距離を置くとショットガンで近づいてくるゼリアめがけ射撃。接近してくるゼリアは散弾をまともに食らい爆発する。

アルマジロが17.5mm機銃を連射するが前後2基のみのために数が足りずヴァンツァーの包囲攻撃を受けて対応し切れていない。するとカダールが指示を出す。

『操縦席を狙え!こいつを鹵獲する!』

「了解!」

防衛戦も想定されるためこれだけの大型機動兵器は操縦席だけ破壊してさっさと修理してしまえば鹵獲できる。

前面部に操縦席があるのを確認するとシエラはまず邪魔な17.5mm機銃にショットガンを発射。散弾が何発も直撃し、銃身が曲がったのか17.5mm機銃が沈黙する。

『操縦席は任せな!』

レジーナがムスタティールを発砲。操縦席に照準を合わせると容赦なく何発も発砲する。動きの遅いアルマジロ級は回避行動も取れず、操縦席から煙が吹き上げる。

『こ、降伏する!撃つな!』

「はいはい、降伏するならさっさと脱出して。」

白旗を立てて政府軍の兵士がアルマジロから降りてくる。周辺のヴァンツァーや自走砲は壊滅し、抵抗戦力もない様子だ。

『ルスラーンよりカダール隊、敵戦力は全滅した。民兵部隊も敵戦力を駆逐している、近くに政府軍が接収したガレージがあるので、そこを仮の拠点にするといい。ヴァンツァーのパーツも多数保管されているのを確認した。』

『了解、行くぞ。』

部下のヴァンツァーを手招きしてカダールがガレージへと向かう。すべての敵を掃討した場所に居る意味もなく、あちこちから黒煙が上がる市街地を抜けてガレージへと向かう。

どうやら民間用WAWの倉庫を政府軍が接収したものらしいがヴァンツァーのパーツも大量におかれている。トラックで民兵部隊の整備員も到着するとシエラはイーゲルツヴァイから降りる。

「ここ、かぁ・・・」

シエラは落書きなどがされた、古びた町工場といった場所を見渡す。結構内部は広く8機くらいヴァンツァーを収容できそうではある。

傍らの鉄扉を見て、シエラはなんとなくスイッチを押して扉を開けてみると、コンテナがありその内部にヴァンツァー用武装が入っている。

「政府軍の武装かぁ。でもなぁ。」

自分は武器腕の機体に慣れている。シエラは使えないなとため息をつくといつの間にかレジーナの機体が混ざっている。

「隊長、何でレジーナを?」

「俺の部隊にスナイパーが居ないからな。スカウトした。」

「え?いいの、勝手に・・・」

いきなり軍属にしていいのだろうか、とシエラは疑問符を抱くがカダールはどうということも無いとうなずく。

「彼女も快諾してくれた。技術も申し分ない。ただし、機内で葉巻を吸うことに文句をつけないなら・・・という条件付だ。」

「葉巻ね。ブリーフィング中にすわなきゃいいよ。」

葉巻がすきなんだ、とシエラは意外そうに思う。体力や健康的に悪いためあまり軍人で吸う人は少ないが、愛好者も居るらしい。

しかしヴァンツァーの内部で葉巻を吸うなど、かなりのヘビースモーカーだとシエラは思ってしまう。するとレジーナがヴァンツァーから降りてくる。金髪でスタイルも良いが、口にくわえた葉巻はまったくアンバランスともいえる。

「そういえば、あのヴァンツァーって最新型?」

「リヤード・アーマメンツ製ヴァンツァーだ。去年ロールアウトしたばかりの機体でジャリド(※7)と言うらしい。」

ふーん、とシエラがうなずくとレジーナが2人に敬礼をする。

「よろしく、ボス。それとシエラ。」

「うん、第41独立機甲中隊・・・んーと、何かそろそろ通称考えない?」

何、とカダールとレジーナがシエラを見る。いきなりの提案にびっくりして、目を瞬かせているがシエラは何を言ってるの、と2人に声をかける。

「USNの独立機甲中隊だって立派にストライクワイバーンズとかつけてるじゃない。私達だって何かつけようよ?」

「それはそうだが、部隊の意見も聞きたい。だから・・・」

カダールはまだ考えて居る最中でもあり、どういう名前にするべきか迷っている。そこにリヴィエとハーネルも集まってくる。

「部隊の名前ですか?確かにこれは悩みますね。」

「・・・第41独立機甲中隊、確かに呼びにくいものだ。」

それぞれに今の名前より、何かもっと格好いい名前をつけようと考えているようだ。カダールも其れが難しいから悩んでしまう。

「アポロンの戦車ってどーよ?」

「やめとけ。生物兵器部隊でもないんだから・・・」

カダールが其れはありえないとシエラの案を却下する。アポロンは文科系だが戦闘の場合は毒とか病気をメインに使う。明らかに危険な部隊だ。大体戦車など一度も使わなかったはずだとカダールは思ってしまう。

「もっとないのか?ホークス並みに格好いい案は。」

「ホークスで格好いいんですか?」

リヴィエに言われ、カダールは物のたとえだと言う。もっともかつて十字軍時代に暗躍した暗殺者も鷹にたとえられたのだから、高貴であり格好いい名前には違いない。

「・・・猟犬は避けたいな。いい響きではない。」

「あたしも同感ね。そんなあたしらが軍の犬だの単細胞だのやな名前、願い下げさ。あたし達は、あたし達の意思で戦ってんだ。もっと自由な名前にしたい。」

ハーネルの「猟犬は嫌だ」と言うアイディアにはレジーナ以外にも、全員が賛成してくれている様子だった。クーデター軍に加わったのはあくまでも自分達の意思だ。そもそもクーデターについておいて犬はないだろう、という意見で一致する。

「んじゃあ、エインヘイリヤルもダメ。最終戦争のためだけに生かされてる連中っていい響きじゃないし。」

「そうだな。さて・・・」

困ったぞ、とカダールも悩む。ホークスに対抗してイーグルスにしようとも考えたが、それではどこかの野球チームも同然だ。大して張り合う必要もない。これといったいい案も出ず、何分かが過ぎ去りその間みな無言だった。

「・・・シュツルムピングィン・・・は?」

「ぺ、ペンギン!?」

カダールがびっくりして部隊名の提案をしたハーネルを見る。いくらなんでもペンギンはどうなんだと思ったがシエラは満足げに賛成する。

「私もいいと思う、それ!ペンギン、いいじゃない。」

「問題なし、だね。いい名前付けてくれたよ。」

カダールの予想に反し、レジーナまで賛成している。リヴィエはといえば手帳にエンブレムの設計案を描いている。ここまできたら、反対すると逆に部下の士気が落ちそうで怖いと思いカダールは同意する。

「・・・わかった。もうそれでいい。」

「よし、じゃあ司令部に言ってプリント作ってもらおう!エンブレム変えないと。」

これまでザーフトラ軍のエンブレムだったが、それを交換するちょうどいい機会だと思いシエラは早速ガレージの電話でディートリッヒへと連絡を入れる。

シュツルムピングィン・・・カダールはその名前を繰り返しているうちに、意外と悪くないかも知れないと思い始める。ペンギンは水中では圧倒的な速さを誇る。水中専門部隊ではないが、迅速に作戦行動をとるという意味ではちょうどいい。

「ああ、頼む。」

すでにシエラは電話をかけているが、カダールは許可を出すと早速アゼルバイジャン南部の地図をテーブルの上に広げる。ガラサンジアを占拠した後はどこから敵軍が来るか確認する必要があると思ったのだ。

「さて、現在の状況は・・・」

マサル付近にカダールがラインを引く。ここに政府軍と同盟軍の前線があり現在はにらみ合っている。ビラスバルからおそらく増援も来るが、それを乗り切った後背後から強襲を仕掛ければいい。

レジーナとリヴィエも地図を見て、大体の戦況は把握できている。ビラスバルの予備部隊を殲滅すれば政府軍は前線の戦力を割くしかない。

「レジーナ、民兵はどれくらいの戦力がある?」

「ヴァンツァー店から供与された16機と同盟軍が空挺輸送した装甲車18台、戦車4台。けどビラスバルの部隊は結構多い、苦戦するかもね。」

もう少し増援がほしいな、とカダールは思ってしまう。少なくとも、これでは侵攻どころか防衛も難しい。

「ヴァンツァー6機と戦車6台はほしい。後対空車両だ。ヴァンツァーだけでは対空防衛も難しいだろう。」

「まぁね。政府軍の65式や供与されたガストだけじゃあ辛い。敵の対空車両は殲滅したし、要請頼むよ。」

わかった、とカダールはうなずくとシエラに追加要請を頼む。そのとおりにシエラもディートリッヒへと要請し、安心するとカダールは地図を見つめる。

これから始まる防衛戦は辛いものになるが、それでもやり遂げなければ勝利はありえない。自然とカダールは気を引き締め、どう防衛ラインを構築するか考えていた。

 

続く

 

 

(※1)
名前どおりバザルト製の装甲車。バザルトがフィアットを元にしているらしいので、命名基準もこうなる可能性もあると判断。
等間隔に6輪の車輪を配置した装甲車で水上航行能力を備えている。歩兵8名の搭載容量とモストロの機構を流用した24mm機銃を搭載している。バリエーションとして、機動砲システムに作り変え10cm砲を搭載したバザルト7420が存在する。
機動力の高い装甲車の中でもトップクラスの機動性能を持ち、移動しながらの射撃も出来るほど安定性も高い。小回りも効くが装甲は薄く重機関銃の掃射に耐えうる程度。
ECイタリア以外にもUSN、特に南米方面で採用されている。

(※2)
ジェイドメタル・ライマン社が大型機動兵器の開発に乗り出したのを見てレオノーラ社でも開発を開始。2091年の陸上砲艦構想(グランド・ガンボートプラン)で開発された。4脚の大型機動兵器であり大火力を実現させるために全周囲旋回可能な20cm砲を1門搭載している。前部、および後部にレオソシアルを連装化した17.5mm旋回機銃を1基ずつ搭載している。20cm砲は徹甲弾、榴弾に加え対空用の炸裂弾も発射可能。問題とされていた対空防御力を高めている。しかしヴァンツァー相手に徹甲弾を使っての射撃は砲塔の旋回速度の関係上、命中率が高いとは言いがたい。また仰角は60度までのために近距離を榴弾で攻撃することができない。大火力の一方で機動力も劣り、護衛火器も17.5mm機銃を前後に2基のみのためヴァンツァーの護衛も必要としていた。コンセプトは旧来の大型機動兵器と変わらず、それが災いしたかOCU陸軍に売り込んだ際ジェイドメタル・ライマン社が開発したホバー駆動式の大型機動兵器ゴールトン型に敗北。結局先行量産型は叩き売り同然の値段でCAUやOCU国内へと輸出された。しかし、この当時としては最大の火力を誇り、分厚い装甲と高い踏破能力、信頼性に助けられ、本格的に量産が開始された。またゴールトンの火力不足が露呈するとOCU陸軍も2095年に準採用、10機を発注した。アロルデシュ内戦では水路が多く、自慢の踏破性能も役に立たないため参加していないがカンボジア・ラオス内戦でその真価を発揮している。

(※3)
CS-74E輸送機。センダーとトローの共同開発であり機体とエンジンはセンダー製、電子機器とジャマーはトロー製である。。ヴァンツァーを使った特殊部隊が増加すると同時に潜入作戦も増えていき、その要望にこたえる形で製作された。前世紀の戦略爆撃機を参考に出来る限り流線型を多くしている。また部隊撤収の際に不整地での着陸もありえるためVTOL機構を採用したデルタ翼機となっている。強力なジャマーを搭載し、収容ヴァンツァー数は空挺装備を考慮すると10機ほど。非常に高価だが潜入作戦以外にも少数精鋭による突撃など意外と用途は多かったために150機が2094年まで生産されている。うち、作戦損失は15機。最高時速は850km/h、航続距離は7800km。1stや2089にいたオブジェクト扱いのデルタ翼輸送機と言えばわかりやすいだろうか。

(※4)
レオノーラエンタープライズ製の対空、対地両用高射砲。製造は2091年。今まで使われていたTCA-83は対地ミサイル、ロケットの発展や旋回不可能な砲塔、無反動砲ゆえの威力不足や射程不足と欠点も多かった。自社の技術不足を認識したレオノーラ社は開発に当たり霧島重工と提携を結び、戦闘ヘリやヴァンツァーに使うFCSを提供した変わりに戦車や自走砲技術、ショットガン技術を提供してもらった経緯を持つ。戦車の車体に全周囲旋回可能な15cm砲を搭載。仰角を非常に高くし、さらに高射用レーダーおよびFCSも搭載することにより対空射撃も可能な高射砲兼自走砲として開発された。またTCA-83用の榴弾にも対応できたためこれまでTCA-83を使用していた国家やOCU軍は順次TCA-83と交替させていった。また車体が同じためTCA-83を改造してTCA-85型に改造するなどレオノーラ社のアフターサービスのよさもありOCU軍ではかなり普及している。使用砲弾は通常の炸裂榴弾以外にもヴァンツァー、戦車などに使われる徹甲榴弾もあり近いうちには誘導システムを組み込んだ砲弾を運用予定。

(※5)
ヒストリカでも公式設定でも錯綜しまくってるので、改めてまとめなおす。

2087年に開発された機体であり、この当時OCUに足りない狙撃機体を補う目的で製作された機体。全体的なデザインと電子機器はイグチ社の担当だったがフレームやアクチュエイター、エンジンはサカタインダストリィ製という共同開発品。重火器の攻撃に曝されることを想定し装甲を分厚くして製作された。だが電子機器に欠陥を抱えていた上に腕も当時こそ命中精度の高さが評価されていたものの第二次ハフマン紛争中にロールアウトしたレクシスや150式などがこの当時から行けば想像もつかないほどの命中精度を備えていたために一部部隊に配備されたにとどまっている。しかし基本的なフレームの性能がよくエンジンブロックなどの配列も画期的なものだったため、サカタインダストリィの103式といった100式シリーズにフレームや構造の設計が引き継がれる。このために100式シリーズとして呼ぶこともあるが後のイグチ社が100番台の型番で出した機体はまったく構造が違うためあくまでもサカタインダストリィの100式シリーズである。平均より高い命中精度を持つためイグチ社では続けて生産が行われたが2094年、サカタインダストリィがイグチ社に吸収合併されると150式の生産にシフト。強盾は脚部などを改良しある程度の機動力を持たせた重装前衛機として再設計された。これが107式強盾である。2097年に開発が終了し、日防軍の一部部隊やOCU各国で採用されている。107式強盾を開発した当時は「クイントと役割がかぶり、食い合いになる」という懸念も合ったがクイントが軽量で機動力を重視した軽装型で、強盾が出力と装甲を重視した重装型ということで市場をすみわけている。

(※6)
RA社製のライフル。旧世代のドミトーリ公社製ライフルを独自に発展させて開発した。頑丈で銃身の冷却機構の完成度が高く連続発射にも耐えうるものになっている。セミオート式で速射が効くものの命中精度はライフルとして運用できる最低限のものでしかない。構造は単純でメンテナンス性も高いということから武装勢力や民兵に好まれている。どちらかといえばウィニーのように長距離からの弾幕で敵を圧倒するタイプ。85mm徹甲弾を使用する。

(※7)
RA社製中量狙撃機体。第二次ハフマン紛争ではOCUや武装勢力に試作品を供与し、そこから得られたデータをフィードバックしている。150式などに見られる精密なアクチュエイターの製造技術が無いため、複数のアクチュエイターを連動させて動かすシステムで射撃命中精度を確保している。そのため重量がかさむ割に装甲は他の狙撃機体と大差ないというデータがある。だが射撃命中精度に関してはシュネッケ製の狙撃特化機グリレゼクスにも匹敵するらしい。また脚部も安定性が高く砂地などの不安定な場所でも正確な射撃が出来るよう姿勢制御システムに徹底的な改良を施している。第二次ハフマン紛争後、150式が本社が倒産するという混乱の中で供給が遅れたのを見てOCU陸防軍に販売を開始。210機が納入された。CAU陸軍では主力機体として使っている。名称は投擲用の槍から。

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