Front misson Brockade

Misson-5 Defense of materials repository

 

6/16 1400時 ランカラン資材集積所

「人、何人くらい離れていった?」

シエラが不安げな様子でカダールにたずねつつ、閑散としている資材集積所を見渡す。何十人くらいか部隊や兵員がいたはずだが既に70名程度にまで減っている。

ヴァンツァーの実働部隊に欠員が出なかったのは奇跡的だが整備兵や資材集積所の職員はほとんどが政府軍の追及を恐れて逃亡したようだ。雪もだいぶ積もり、風も強くなっている。

「わからんが、俺たちがもう死んだも同然だと思ってるようだな。政府軍にいずれ責められて滅ぼされると。」

「そっか。ECから増援は?」

「第一波が来てランカランの基地にいる。後続部隊は送るらしいが期待するなと。」

期待できそうに無いなぁ、とシエラは思ってしまう。カダールが妙に沈んだ口調で話していれば嫌でもわかるのだ。おそらくイーブンに持ち込めなければ適度に戦って撤収するつもりだろう。

それにしても首相と中部方面軍の司令官を同時に失ったのは大きな痛手ともいえる。このままでは反乱軍は自然消滅してしまう可能性も高い。

「ちょっとばかり大変かもね。戦うの。」

「ええ。あぁ、シエラ少尉。空港に大型の輸送機が着陸しましたが今後我々の作戦を管制する空中管制機のようです。」

リヴィエの返事を聞き、へー、とシエラはうなずいてみせる。今まで資材集積所にデータを集めて広域マップを作成、敵勢を把握していたが空中管制機が来れば情勢は一変する。

よりリアルタイムで戦場の情報が把握できる。しかも管制機は補給や支援爆撃なども出来るためバカには出来ない。UAV数機とリンクさせ戦場の情報を統制できれば偵察衛星にも劣らない働きを見せるのだ。

「どんな機体だったかわかる?」

「XED-1Eアービレーター(※1)。センダー社が開発した新型機だと整備員が言ってました。」

後に創設されるデュランダルが使う超大型汎用VTOL輸送機であり、現在のタイプはヴァンツァーの輸送能力こそ無いが爆弾の搭載能力が高いタイプだ。

大型機だがミサイルを軽く振り切れるだけの機動力を有し、撃墜は至難の業だとも言われている。頑丈さも並外れているため戦場での離着陸も可能だ。リヴィエはシエラにその写真を見せる。

「何か凄そうな新鋭機が来たねぇ。」

「次世代主力爆撃機のデモンストレーションかもしれません。」

確かにこんな爆撃機があったら大変だとシエラも納得するが、リヴィエの口調に気づくと軽く額を指でつつく。

「敬語禁止だぞ?リヴィエちゃん。」

「あ、申し訳ない。」

すぐにリヴィエは敬語をやめて答える。まだ慣れてない様子だがいずれなれるだろうとシエラは考える。

「しかし新鋭機とは、ECも気前がいい。」

「今更引き返すわけにも行かないんじゃないかな。それにVTOL輸送機だからいざとなれば真っ先に逃げられるし。実戦に参加させれば貴重なデータも得られるしね。」

それもそうね、とリヴィエはうなずく。もっともECが新兵器の実験場と思っていることには不満げだが、新鋭機を使えるだけまだマシなのかもしれない。

「何にせよ、きつい戦いになりそうだ。運送業者のままの方が良かったかもな。」

カダールは笑いながら、冗談半分のつもりでつぶやく。シエラはちょっと申し訳なさそうな表情をするが、黙っていたハーネルが口を開く。

「が、WAWを動かすだけでは物足りないんだろう?隊長は。」

「そうだな。作業用よりヴァンツァーの方がいい。たとえ反乱軍でもな。」

クーデターが成功する例はほとんど無いが、それでも絶望的な戦いに身を投じる覚悟は最初からしていた。カダールはこの劣勢すら楽しんでいるようだ。

「期待してるよ、隊長。」

ああ、とカダールがシエラの言葉に応じる。するとリヴィエがふと思ったことを3人につぶやく。

「先日基地で見たヘリは霧島重工製だった。それも試作機。」

「霧島重工製の試作型?何でここに・・・」

カダールがそんなわけ無いだろう、と首を振る。ザーフトラ周辺国は本国の高価な兵器を使えずOCU諸国から輸入しているのが多い。だがこんな小国、それも最前線に試作型を配置できるだろうかと思ってしまう。

「おそらくAAH44イーガーだと思う。92年に試作型が量産されてる。もっとも大柄なフォルムに反して積載量が前世代のヘリと同程度だから不評のようだけど。」

「何で政府軍にそんな機体をよこしたんだ?」

「どうもあのイーガー、エンジンを換装した重武装試作型みたい。OCUのメーカーは今回の紛争を兵器試験場か何かだと思ってる。」

この重武装型イーガーを手直しし、一回り小型化させたのが後のAAH45ハーンとなるのだがそのことは誰も知るはずが無い。

「・・・気分の悪い話だ、兵器試験場か。俺達は命を張って戦ってるというのに。」

「まるで第二次ハフマン紛争と同じね。あの時もヴァンツァーメーカーは傭兵にすら最新鋭武器を与えたんだから。」

ハーネルのぼやきに応じてシエラも愚痴をこぼす。第一次ハフマン紛争から20年間、ヴァンツァーを使った戦争というのは少なかったため第二次ハフマン紛争が起こる前のきな臭い状態から国境警備の傭兵に当時最新型のヴァンツァーを供与したこともある。

ヴァンツァーパーツの製造メーカーはいち早く紛争の気配をかぎつけると待ってましたとばかりに試作品のヴァンツァーや最新型兵器を売り込んだりしている。時にはデータを取るために無償で使わせることも少なくない。

「気にするな。そのおかげでこちらも最新型を安く使える。イーゲルツヴァイもクラスタシアも扱いやすいだろう?」

「そりゃあ、ね?そうなんだけど・・・」

カダールはあまり気にしていないらしく、気にするなという。シエラもそんなものかなと納得すると資材集積所の端から爆発音が鳴り響く。そして資材集積所に警報が鳴り響き、数少ない職員は対物ライフルや突撃銃などを持ち警戒態勢に入る。

『政府軍が襲来した、ヴァンツァー多数だ!大至急応戦せよ!』

遅かったな、とカダールはつぶやく。本来反撃するのであれば夜襲の後で疲弊している隙を突くべきだ。おそらく中部方面軍が政府中枢に与えた打撃は生半可なものではないようだ。

近くの基地から戦力を捻出し、直ぐに反乱軍を潰してしまおうという魂胆だろう。すぐにコンテナに隠されたヴァンツァーに乗り込むと、シエラがコンソールを稼動させて無線を入れる。

「敵とか、何が来たかわかる!?」

『ヴァンツァーの部隊、数は30機ほどだ!』

ディートリッヒから話を聞き、シエラは仮設レーダーのデータにアクセスして数を確認する。確かに30機程度はいるが追い返せない数でもない。

「総力を挙げて追い返せば大丈夫!何とかしよう!」

『無論だ、まだこんなところで終わるわけには行かない。総員出撃せよ!』

資材集積所を包囲するように政府軍のヴァンツァーが展開。対する反乱軍は各方面に戦力を集結させ要所で迎え撃つ姿勢を見せる。

フェンスをなぎ倒して政府軍の65式が突入してくるが、進入経路には軍用小型トラック程度の大きさがある赤いコンテナが設置されていることに気づいていない。吹雪で視界が利きにくくコンテナの多い資材集積所でローラーダッシュを仕掛けようとする機体はいないようだ。

「Aポイントに敵が侵入!」

『赤い小型のコンテナを撃ち、爆発させろ!』

了解、とシエラは応答しショットガンを発射。正確に散弾がコンテナに直撃すると一瞬でコンソールが真っ白になり続いてすさまじい衝撃が機体に直撃する。

一瞬だけコンソールがエラーを起こすが、シエラはセンサーやモニターを予備に切り替えて対処すると3機ほどいた65式がまとめて吹き飛んでいる。

「・・・少将、何しかけたの?」

『新型爆薬を10tほどな。ショットガンだと射程ぎりぎりで破壊する必要がある、気をつけろ。』

「そういうことはもっと早く言って欲しいんだけど。」

あー、とか声を出しながらシエラは周囲を警戒する。65式3機が大破して原型をとどめないほどに破壊されている。仮設レーダーやセンサーでこちらは敵の配置がわかるが相手はコンテナにレーダーを阻まれ敵の位置を把握できていないらしい。

イーゲルツヴァイをバックさせ、シエラがレーダー反応に近づくと十字路中央部で65式が友軍ガストと銃撃戦を繰り広げている。すると65式の背後からブリザイアが接近、F-4ハンドロッドで胴体を殴られ転倒する。

すかさずシエラはショットガンを発射。友軍ガストも20mm機銃を発射して65式を破壊する。

『次に行くぞ・・・』

「了解、行こう!」

ヴァンツァー1機が通れるのがやっとの通路をブリザイアとイーゲルツヴァイが進むと開けた場所に政府軍のヴァンツァーが密集している。包囲作戦を取ったのが裏目に出て渋滞しているようだ。

『早く進め、敵がソッチにいるんだぞ!』

『無茶苦茶いうな!コンテナが道をふさいでる!』

クレーンが稼動し、コンテナを落下させてヴァンツァーの進撃を阻止している。その隙に反乱軍のツェーダーがモーターカノンを発射。次々に榴弾が降り注ぎ政府軍のヴァンツァーを吹き飛ばす。

「やるじゃん、少将!」

『甘く見ないでもらいたいな。防衛策は大量に用意している。』

コンテナはかなり頑丈で障害物としての機能を果たせる。しかもレーダーや視界を阻害するため大軍でも関係なく戦える。政府軍のヴァンツァーは入り組んだ道に阻まれ分断され、各個撃破されている様子だ。

シエラも直ぐにコンテナの間に入り、レーダーを見て政府軍のヴァンツァーを待ち伏せる。政府軍は大型のコンテナの合間に隠れている反乱軍を探しているが、見つけられていない。

「よし、見つけた!」

政府軍のクイントはイーゲルツヴァイの攻撃に反応が遅れ右腕を吹き飛ばされる。シエラはそのままトリガーを引き両腕のショットガンを連射。

クイントも霧島51式を発射するが、連続で散弾を喰らい腕を破損。続いて胴体も無数の散弾を受けて爆発する。余裕綽綽で政府軍ヴァンツァーを撃破していくと、リヴィエがあわてた様子でシエラに通信を入れる。

『し、少尉!敵大型機動兵器が投下されました!』

「は!?マジで!?」

『本当です!輸送機から投下されたんです!資材集積所中央部は混乱しています、増援を!』

了解、とシエラは答えイーゲルツヴァイを操縦、資材集積所中央部へと向かう。そこには18cm砲を搭載した大型機動兵器、スヴィーニッツが複数のヴァンツァーと共に降下したようだ。

コンテナを18cm砲で吹き飛ばし、反乱軍のヴァンツァーめがけミサイルを発射しているのが確認できる。その周囲にいるのはジラーニ級4機、黒地に白いラインのカラーリングを見た限りではザーフトラ空挺部隊に違いなかった。

『大型機動兵器を空抵投下だと!?冗談だろ!?』

『迎え撃て!』

反乱軍のヴァンツァーが接近して行くがジラーニに阻まれスヴィーニッツに攻撃が出来ないでいる。シエラもその場に駆けつけると、カダール機がバズーカを発射。ジラーニの1機を大破させたのが見える。

『シエラ、ジラーニを片づけろ!スヴィーニッツを破壊する!』

「出来ることなら分捕ったら?」

ギガスは現在修理中である。ここで新型のスヴィーニッツも鹵獲できたら後々の戦局は優位に傾くだろう。カダールは出来たらな、と答えるとシエラがジラーニめがけ発砲した隙を狙いスヴィーニッツめがけ12.7cm砲弾を発射。

重い砲弾がスヴィーニッツに直撃するが、スヴィーニッツはゆっくりと胴体を向けると自衛用の45mm機銃を発射する。カダールも回避行動を取るがストームを銃弾が掠めていく。

『支援します!』

リヴィエがワイルドビークを直接スヴィーニッツへと発射。胴体部分に直撃させるとスヴィーニッツが一瞬だけぐらつく。重量のある砲弾を喰らえば大型機動兵器でも無傷と言うわけには行かないようだ。

すかさずカダールは近距離でロックオンもかけずにプラヴァーM2を発射。4発のミサイルが主砲部分に直撃し爆発させる。

「こっちは空挺部隊を追い払ったけど、どう!?」

『爆発するぞ、離れろ!』

主砲部分からスヴィーニッツが火災を起こしている。直ぐに後方にローラーダッシュを仕掛けてクラスタシアとストームが離れると弾薬庫に引火したか、スヴィーニッツが大爆発を起こす。

「捕まえられなかったね。」

『文句を言うな。こっちは精一杯なんだからな。』

使い物にならないほど原型をとどめていないスヴィーニッツを見てシエラが笑みを見せながら皮肉ってみせると、ハーネルから通信が来る。

『敵増援確認、ヴァンツァー部隊・・・数は40機。通常兵器も混ざっている。』

『嘘、そんなに!?』

補給も必要だというのに、さらに大軍を送り込んできた。リヴィエが驚いているがカダールは落ち込んでいる暇は無いぞ、と檄を飛ばす。

『傷ついたヴァンツァーを修復するのが仕事だろう?味方の元に向かい1機でも多く修理しろ、いいな?』

『りょ、了解です!』

クラスタシアが友軍機の修理へと向かっていくのを見送るとカダールは固唾を呑む。40機に通常兵器も加わっているとなれば気は抜けない。

またコンテナの合間に誘い込んで各個撃破したいところではあるが、そう上手く行くのかと不安に思ってしまう。スヴィーニッツの砲撃で簡易レーダーやセンサーも破損しているのだ。

「隊長、いけそう?」

『難しいところだな。』

カダールが悩むほどなら本当に戦況は良くない、とシエラも思ってしまう。今まで撃破された機体は無いが、損傷を受けている機体は多く弾薬も比較的多く使っている。なら、支援を求めるべきだとカダールは無線を入れる。

『EC軍に増援を頼めないか?少将。さすがに数が多すぎる。』

『それは無理だ。今アルメニア軍の空挺部隊がランカランの基地に攻勢をかけている、EC軍もギリギリの戦力で、増援は出せないとのことだ。』

さすがに同盟を結んでいる国が四方にあると戦力も半端ではない。無理か、とカダールはため息をつく。なら元気付けるのは自分しかいないと思い、シエラは明るい声で呼びかける。

「隊長、私たちだけでがんばろう?こっちの戦力は全部無事だったんだから、何とかなるって。」

『それだといいんだがな。言うほど楽な数でもない。』

ヴァンツァー40機と通常兵器多数、勝てる数でもないとカダールはため息をつく。すると、ため息を聞いたのかハーネルが厳しい口調で言う。

『楽じゃないかどうかは・・・これから決めればいい。襲撃に備えるぞ。』

『そうだったな。様子を見に行こう。』

政府軍の部隊は市街地にまで迫っている。イーゲルツヴァイとストームが資材集積所の端に到達するとかなりの数の土煙が上がっているのが見える。

『何とかなる数か?』

「うん、何とかなる・・・多分。」

シエラも弱気になってしまうほどの数で敵軍が押し寄せてきているのが見える。思わず2人が身構えるといきなりコンソールに別の軍勢が映し出される。

『これは敵援軍か!?また増えた・・・』

「違う、政府軍を攻撃してる!」

反乱軍の観測兵が状況を見て呆然とする。10機ほどのヴァンツァーの一団が政府軍に突撃、無茶苦茶に攻撃している。

シエラがレーダーを見ると、思わず言葉を失ってしまう。たった10機の集団に政府軍の反応が次々に消えていく。思わずシエラは視認しなければと思い、突撃する。

『シエラ、どこに行く!?』

「政府軍を攻撃するなら今!突撃しよう!」

怪しみながらもカダールはシエラの後に続き反乱軍のヴァンツァーも後に続く。ランカラン市街地で激戦が繰り広げられている様子だ。政府軍と戦っているヴァンツァーを見て、シエラは驚いてしまう。

ゼニスSN4機と90式4機。いずれも蒼と黒の塗装を施されている。この程度なら驚きもしなかったが同じ塗装を施された大型のヴァンツァーを見てシエラは思わず言葉を失ってしまう。

「11式レイブン!」

『バカな・・・何故ここにいる。』

第二次ハフマン紛争中、フリーダム戦で運用され「祖国達の島」でドリスコルが乗っていた機体。第二次ハフマン紛争でその全てが失われたはずの機体が目の前にあるのだ。

サカタインダストリィ一斉捜索の後CISUの記者会見では4機しか存在しないと言っていたのに、こんな場所に何故いるのか(※2)。しかも政府軍を攻撃するのかがわからなかった。

『反政府軍に通達する。我々も加勢する。』

「どういうこと!?」

『この紛争を続けてもらいたいだけだ。長引いてもらわなければ困るのでな。』

合成音声が無線から聞こえてくる。おそらく誰か知られたくは無いのだろうとシエラは判断すると政府軍の150式めがけ発砲する。装甲の薄い150式はショットガンが直撃し大破炎上してしまう。

その脇をブリザイアが通り抜け、F-4ハンドロッドを振り下ろし150式に近づこうとした103式に振り下ろす。操縦席に一撃を喰らい、電流を流されセンサーが破壊されたところに追撃を受けて胴体が破壊される。

「何なんだろう、あの機体。」

『・・・戦場で深く考えたら負けだ。フーファイターなどよくある出来事だ。』

ハーネルの言葉ももっともではある。深く考える前に、生死がかかっているこの戦場を切り抜けることが第一だということはシエラもわかっている。

それでもこの状況には疑問符が尽きなかった。何故レイブンがここにいるのか。それも、よりによって何故劣勢側の反乱軍につこうと考えたのかも。

「よくある?本当に?」

『・・・ああ。味方なら深く考えることも無いだろう。』

それだけ答えると、ハーネルは機体を前進させ政府軍のギザに突撃。真正面からF-4ハンドロッドで一撃を加えた後、すかさずショットガンで追撃する。

操縦席に散弾の直撃を受けたギザは炎を吹き上げた後爆発。シエラも左から商店の屋根に上がり、アークバレル(※3)で射撃してくるギザめがけ接近しながらショットガンを発砲する。

取り回しの悪いオートキャノンで接近戦が出来ず、ショットガンの散弾を叩きつけられ102式強陣が沈黙する。搭乗員が脱出したのがはっきりとシエラには見えた。無論発砲などしない。

『打たないのか・・・?』

「だって、何かさ・・・抵抗できない相手を撃ってどうするの、って感じ。政府軍相手でも。」

脱出したパイロットを撃つかどうか。判断が分かれるところだがシエラはあえて発砲しない。後味の悪いことはしたくないようだ。いずれまた政府軍の陣営に戻って戦いに加わるかもしれないのだが、少なくとも撃たないのは礼儀ではないかとシエラは考えている。

『ザーフトラでは「撃て」と教えられたな。敵は全て・・・』

「ハーネルはそれで納得するわけ?ヴァンツァー乗りとして歩兵は発砲しない限り撃つなって言われなかった?」

『・・・確かに。隊長から言われた。』

携行歩兵火器では戦闘力に限界がある。それに小回りが効くヴァンツァーでは敵にもならないだろう。だから歩兵は邪魔しない限り撃つな、というのがヴァンツァー乗りでは定番になっている。

もっとも、それを守らないパイロットもどこにでもいるし上官だって非効率的だから撃てという奴もいる。ハーネルはザーフトラ軍にいた頃を思い返して答えつつ、ショットガンでBTR-84装甲車を破壊する。

「私たちだってせっかく脱出されたのに撃たれるのは嫌でしょ。どーせ死ぬならこの真空パックの中でね。」

『真空パック・・・?』

たとえ方がおかしいだろうとハーネルがため息をつくが、そんなことを気にせずシエラはBT66戦車に接近すると真上からショットガンを発射。装甲の薄い真上から散弾を喰らいBT66が爆発、炎上する。市街地戦闘では小回りの効かない戦車の方が不利になってしまう。

『普通こう、棺桶とか揺り篭とか言わないか・・・?』

「やだ。縁起悪い。」

真空パックは確かに縁起は悪くないなとハーネルはうなずく。するとヴァンツァーが一斉に後退を開始する。

『撤退しろ!繰り返す、撤退だ!』

政府軍からの無線が聞こえてくる。司令官は思わぬ強敵の出現に焦っているらしくランカラン市街地から大慌てで撤退する。

それと同時にレイブンに率いられたヴァンツァー部隊も後退する。どうやら協力するつもりはまったく無いらしい。

『政府軍の撃退を確認した。謎の部隊も撤退を開始している。』

「少将、追撃する?」

『いや、戦力の建て直しに多少の時間がかかるだろう。その隙に行動を起こす。そのためにこちらも資材集積所まで引いてくれ。』

作戦があるのだろうと判断し、了解と答えてシエラは撤退する。他の反乱軍ヴァンツァーも進行方向を変え、ランカラン資材集積所へと後退する。

 

続く

 

(※1)
あのデュランダルがつかった輸送機の先行試作型。メーカーが不明なのでセンダー製としている。AEWの司令機としての役目に特化させたタイプ。衛星は真っ先に撃墜されるため、航空機クラスでの司令機が必須と考えた。

(※2)
ヒストリカでは記録上4機とされているがその記述にも疑問符が残る。紛争後ラーカス研究施設でキャニオンクロウに破壊された機、S型デバイス搭載でミールオルレンに収納した機体(この2つは同一の説もあるが、操縦席ブロックが大破しドリスコルが重傷を負っている上S型の初期型に適合させる必要があり別物だと考えられる。最低でも予備機(パーツ交換のための機体)はあるはず)とサンタバーバラ甲板で破壊された3機で最低5機はある。2ndの設定を遵守すると8機にまで膨れ上がる。(紛争中に3機破壊されたがサンタバーバラの事件は紛争後。この3機と先ほど解説した2機で。さらにグライコフの証言を元にすると9機もあったことになる。)記録上とヒストリカで記述されてるだけなので「サカタインダストリィの生産記録が4機でありドミトーリでは生産されている」とした方が無難か。それに試作機4機なのでもしかしたら実戦部隊用のレイブンも生産されていた可能性もある。

(※3)
3rdで出たマシンガン。でかいガトリングなので肩搭載オートキャノンに類別。以下設定。

ヴェルダ社が開発した小型のガトリング砲。比較的軽量であり取り回しがいい。ヴェルダ社では対空戦車も開発しており、それに搭載された20mmガトリング砲を改良して製作された。連射速度が速いが小口径の銃弾を使うため反動が軽く、手に保持しての運用も可能となっている。その分威力は劣るが連射速度でカバーしている。

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