Front misson Brockade

Misson-3 Battle on train

 

1941時 貨物列車内部

薄暗い大型コンテナ内部にあるヴァンツァーの操縦席に2人はすわり、無線越しに会話を交わしている。コンテナ内部はかなり寒く、ある程度内部の温度が保たれているヴァンツァーの方が快適に過ごせる。

「この列車も無事にたどり着くといいんだけどな。途中で攻撃されたら間違いなく追い出される。」

『大丈夫だよ。列車の運転手だけどどーも政府軍が大嫌いみたい。きっと私たちにも理解を示してくれるよ。』

シエラが楽観的な意見を口にするがカダールは本当に大丈夫かと思ってしまう。万一放り出そうとしたら銃を突きつけてでも行く覚悟が必要だとも考え、いつでも兵装を撃てるように待ち構えている。

最も撃つ必要はないがレーダー照射をかけていつでも撃てるということを示せばいやおうなく従うしかないだろう。そしていつ攻撃を仕掛けてくるかわからない敵を撃破するためでもある。

「それもそうだが、ヘリとかが来たらどうする?」

『このコンテナは天井が開いて台も上がるから走行しながら迎撃して欲しいって。政府軍の連中のごたごたは始末してくれれば問題ないってさ。』

アゼルバイジャンなどCAU管内の鉄道は大半がディーゼル式鉄道を使っているため邪魔になる架線などはない。ヴァンツァーが屋根に乗っても大丈夫のようだ。

もっとも迎撃するならランカランでやったほうが都合がいいだろう。だがそこにいる部隊は反乱軍がほとんど。武装警察は数分で駆逐される。そうなれば一番襲撃しやすいのがこの列車ということになる。

「わかった。では全力で迎撃させてもらうとするか・・・」

『そうね。』

いつでも戦闘できるようにカダールがコンソールからリフトの項目を選び、いつでも押せるようにしておくとシエラがホークス隊のことを尋ねてくる。

『そういえばあのホークス隊って何者?結構でかい兵力抱え込んでるみたいだけど。』

「CAU内部の抗争で実戦を経験した傭兵部隊だ。ヴァンツァーどころか戦車や戦闘ヘリまで持っている。輸送車両や輸送機を保有し、ヴァンツァーは3000を超える。恐い連中だ。」

すごいね、とシエラも素直にカダールの説明を聞いて感心する。傭兵部隊はUSNやOCUにも数多くいるがこれほどの規模といえば大国に籍を置くPMCくらいしか聞いたことがない。

『でも、それにしちゃあ展開が速すぎるよ・・・私たちが手配されてまだ数時間だよ?なのにもう来るなんて・・・』

「近くに展開していた部隊をかき集めて呼んだ、というところだろう。ヘリも来るかもしれないな。」

おそらく国家警察が相応の報酬を後払いで約束してホークスを雇ったのだろう。武装警察ではかなわないと判断して小規模な戦力だが提供ししたようだ。

『また面倒だなぁ。』

シエラがそんなことをつぶやくと、何か鈍い金属音が聞こえてきた。数tの金属物が列車の上に載ったような音だ。

『何か来たよ、隊長!』

「何か?ちょっと見てくるか。」

カダールがスイッチを押すとコンテナ上部のハッチが開き、床がせりあがっていく。列車は空から強襲されることも多いためヴァンツァー輸送用の車両は上部にもハッチを搭載しいざというときはヴァンツァーで対空射撃を行えるように設計されている。

2機が列車上部に出ると、ウォーラスがレオソシアルを発砲してくる。すぐにカダールはツィカーデを旋回させ、ウォーラスめがけグレンツェを発砲する。シエラはカダール機の右隣から射線を確保し20mm機銃を発射。

ヴァンツァーが並列に2機載れるだけのスペースがあり、何とか位置を変えることは出来そうだが射線も通りにくい。それでも正確にウォーラスに命中弾を加えていく。

『レーダーにもう1機反応!』

「ヘリか!?」

『ううん、ヴァンツァー・・・飛んでるよ!』

「冗談を言うな、ヴァンツァーが飛ぶはずないだろう!」

カダールがシエラを怒鳴りつけながらもグレンツェを発砲。ウォーラスのレオソシアルを吹き飛ばす。だが確かにレーダーの光点は低空を相当なスピードで飛来する何かを捕らえている。

『嘘じゃないよ、ほら・・・来た!』

バックパックからのジェット噴射で飛んでいる武器腕搭載型ワイルドゴートとゼリア(※1)が向かってくる。驚きのあまり一瞬だけ射撃をやめると残ったシールドで殴りかかろうとウォーラスが接近してくる。

が、カダールはすぐにライフルの保持をやめるとアームでウォーラスをぶん殴る。ツィカーデには打撃機構は搭載されていないが、十分な一撃を与えウォーラスのシールドを吹き飛ばす。

直ちにシエラはウォーラスに射撃、腕を吹き飛ばしておくと後ろから突進してくるゼリアに射撃を浴びせる。だがゼリアは射撃にひるまず、限界まで接近するとナックルでツィカーデに一撃を喰らわせる。

「ちっ・・・!」

重い金属音が鳴り響き、胴体に一撃を喰らったが何とかカダールは姿勢を制御し。さすがにこんな場所で回避したら列車から転落してしまう。ツィカーデの装甲を信じて受け止めるしかない。

『隊長、大丈夫!?』

「何とかなる!」

損傷状況はそれほど深刻でもない。カダールはすぐに射撃体勢を保持させライフルを連射する。

格闘戦が出来るほどの至近距離、しかも動きの制約される列車の屋根ではゼリアも満足に回避行動を取れず75mm徹甲弾を2発喰らい胴体を破損。止めといわんばかりにシエラ機から20mm機銃が発射されゼリアに直撃する。

搭乗員が脱出した後でゼリアが爆発。残りのワイルドゴートは射線が開いたところでミサイルを発射しようとするが先にカダールがサンオウルを発射。ワイルドゴートも武器腕のフェザントからミサイルを発射する。

『ま、まずいよ!』

「ちっ、遅かったか・・・!」

機体は出荷前のためかフレアーが搭載されていない。舌打ちするとカダールはライフルをワイルドゴートめがけ連射する。狙いは正確ではないが、どこかに当たればいいと思っているようだ。

フェザントMSはそのままツィカーデに直撃、1発ほど命中しなかったがほとんどが命中しサンオウルが吹き飛ばされる。そのまま予備弾薬に引火、ツィカーデの左腕が吹き飛ばされる。

『隊長、大丈夫!?』

「心配するな、ライフルが残っている。突撃しろ!」

『う、うん!』

カダールを心配しながらもシエラは機体を前進させる。対するワイルドゴートは右腕の武器腕バズーカ砲を発射する。スフィンクスと呼ばれるサカタインダストリィ製のバズーカ砲だ。

シエラは狭い列車の上でガストを巧みに操り、砲弾を回避しながら機体を突撃させ有効射程に入ったところで20mm機銃を連射。するとワイルドゴートはバズーカ砲身上部に搭載された25mm機銃を連射する。

『嘘、こんなのが!?』

予想外の反撃にシエラは驚いたものの、負けじと武器腕を連射させるが25mm機銃が右腕の武器腕に直撃、破損させる。前回の戦闘から修理も出来ず酷使したため破損したようだ。

すぐに左腕だけで射撃するが、いきなりジャムを起こしてしまう。

『冗談でしょ、何でこんなときに・・・・!!』

アリャートのウォーラスにかなり手ひどくやられた左腕の武器腕も冷却機構が破損したため加熱した薬莢が変形、弾詰まりを起こしたらしく射撃不能になってしまう。

ワイルドゴートは戦闘不能になったガストにバズーカの砲身を向け、射撃体勢に入る。シエラにはスフィンクスの内部に入った砲弾まではっきりと見えた気がした。

『ちょっと、もう勘弁して・・・!』

思わずシエラが目をつぶると、いきなり徹甲弾がワイルドゴートを貫く。それだけなら平気だっただろうがバズーカを発射する寸前だったために状況はさらに悪化した。

徹甲弾は砲身を貫いたためにバズーカ砲が発射されると同時に爆発を起こしてしまう。バズーカの予備弾薬にも引火し、大爆発を起こしワイルドゴートは吹き飛ばされ車両から転落してしまう。

「シエラ、無事か!?」

『ぎりぎりでね。けど片腕で狙撃なんてよくできたね。』

片腕を吹き飛ばされ、ゆっくりと歩行してくるツィカーデを見てシエラは本当によく無事だったなぁと感心する。

「ワンハンドの狙撃など我ながら無謀だと思ったな。まったく、運良く当たったからいいようなものだ。」

『本当よね。ぎりぎりでよく当てたと感心できる。』

シエラは背筋に寒気を覚えながらも軽口をたたいてみせる。バズーカの一部は片手で発射できるタイプもあるがライフルは精密射撃用という特性上両手で持たないと銃身がぶれて上手く射撃できない。

だからこそ両手保持での射撃が望ましい。片腕でバズーカの砲身を狙い打つなどかなりの技術がなくては出来ることでもない。

「・・・もうこれ以上戦いたくない。戻ろう。」

『同感。』

心底疲れたといった様子で2人はヴァンツァーを元の格納庫に戻す。リフトが下ろされ、また暗い格納庫へと2機は戻る。連戦とはいえ連続で13機もヴァンツァーを破壊できたのは新記録だと思ってしまう。

『隊長、これから全面戦争ってことはもっと厳しいのかな。』

「それはそうだ。シミュレーターとはワケが違う。もう疲れたか?」

シミュレーターでは一度も敗北したことのなかったシエラが始めて弱音をはく。ヴァンツァーとの連戦で精神的にも疲弊しているようだ。

『うん。一番最初の実戦がPMOのあれだったけど、必死だったからあんまり覚えてなくて・・・これが戦争なんだね。』

「いや、戦争のほうがまだマシだろう。味方がたくさんいる。こういう2人きりの戦闘は勘弁したいものだ。」

淡々とカダールは語るが、それでも疲れがたまっている。もっともこんな疲労感はいくら身体を鍛えたところで解消できるものでもない。精神的なものは自分自身でどうにかして補う他ないのだ。

『ん、じゃあ私1人だけは嫌なの?』

「十字軍の包囲下でアル・ムワリム(※2)に出会った気分だ。」

『まーたワケわかんないけど、最高の味方ってことでいいんだよね?』

ああ、とカダールは同意してみせる。シエラは声にこそ出さなかったがかなり嬉しいのかガッツポーズまで取っている。

「暇だからラジオでも聞くか?」

『あ、うん。』

民間放送にチャンネルを合わせてカダールがラジオを聴くと、意外なニュースが流れてくる。

『・・・サカタインダストリィが本日、非人道的な人体実験などを行っていたとしてCISUから一斉捜索を受けました。証拠品などを全て押収し、サカタインダストリィは事実上休業に追い込まれるとのことです。なお、ヴァンツァーの販売、修理業務などは一時的にイグチ社が引き継ぐとのことです。OCU日本政府はこの一斉捜索に全面的に支援する姿勢をとっております。同社は第二次ハフマン紛争において・・・』

サカタインダストリィの一斉捜索という情報を受けてカダールはやれやれと思ってしまう。これで何かわかればいいのだが、おそらく重要な証拠やデータはザーフトラに転送した後だろう。

そして傘下のイグチ社に格安で買収させ、また通常通りの業務を続けていくというもくろみではないだろうか。結局、CISUの一斉捜索も無駄足に終わりそうだ。

『サカタインダストリィ、潰れちゃいそうだね。』

「おそらく業務で混乱が生じるだろう。イグチの工場だけでは生産を継続できないな。」

これで少しは楽になればいいんだが、とカダールは一人つぶやく。サカタインダストリィ製の65式はアゼルバイジャン軍や武装警察の主力機体だから、もしかしたら供給が滞る可能性もある。こちらはEC側からガストなどの安価な武器腕機体、ことによると新型の機体を送り込んでくる可能性もある。

ヴァンツァー市場は大きい。安価な機体も代用品が出てくればガストから代替わりする可能性もある。もっとも現在は旧型のゼニス、フロストやハスキーの後継機という市場がメインのようだ。

『・・・私のことも何かわかるといいなぁ。』

「そうだな、なにをされたかわかればな。」

もっともそのような名簿は全て破棄しているだろうとカダールとシエラは思っている。うかつな証拠を残すような連中でもない。

「さて、仮眠を取るとしよう。もうこんな場所で起きているのも辛い。」

『本当だね、おやすみ。』

シートを最大限にまで倒し、2人は枕代わりのものをシート上部に敷きそのまま眠りに着く。コンソールも消して、到着まで起きないようにしている。

 

同時刻 ランカラン市街地貨物置場 港湾事務所

「少将、まだ到着しませんね。」

「うむ。」

補佐官がディートリッヒを見て、不安げに話しかける。反乱の計画まであの2人に打ち明けてよかったのだろうかという不安は確かに残っている。

だが人を信じなくて何になるとディートリッヒは考えている。部下を信じなくて、どうやってこの作戦の成功を信じることができるだろうか。

「道中にトラブルがあったようだな。悲観するのは明日でも遅くはない。」

「捕まりませんか?」

落ち着き払っているディートリッヒに対し、補佐官は少し動揺している。もし2人が捕まったらクーデターのことを話してしまうのではないか、という最悪の結果しか予想できないようだ。

「あの2人は捕まるような人じゃない。少しは落ち着いて部下を信じてやれ。」

「はっ。」

クーデター前日ゆえに落ち着かないのはディートリッヒも同じだが、それを顔に出すわけにも行かない。この方面を任されている以上、部下には動揺を見せるわけにも行かないのだ。

「ところで少将、クーデターの首謀者というのは?」

「2日後の会見で名前を明かすと言っていた。俺もまだ聞いていない。」

「え!?」

補佐官が驚いた様子でディートリッヒの顔を覗き込む。彼はこともなげに今回のクーデターに至る経緯を説明していく。

「インターネットで知り合った相手だ。最初は半信半疑だったがある政治家で、今は誰にも名前を知られるわけには行かないといっていた。計画はほぼ完璧なものであり出来るだけ短期間で戦争を終わらせる方法も他の幹部数名と話し合った。」

「なるほど。しかし誰なのでしょうね?」

「今の大統領・・・その側近だろう。推測の域を出ないが、おそらく立場を明かせば我々に信用されない人物の可能性が高い。野心からか、あるいは本当にこの国を思っているか。何にしても今の親ザーフトラ政権を倒しECの協力を得るという意見は一致した。」

ECの支援がなければ隣国アルメニアとザーフトラ、そしてアゼルバイジャン国軍という強敵を全て敵に回すことになる。CAUはザーフトラと協調体制をとりUSNに対抗しようとしているためまったく当てにならない。

本来は独立こそ望ましい形ではあるが、カスピ海の採掘権と反ザーフトラという目的の一致によりECの力を借りるのが最善だと判断したようだ。ここ最近のEC首脳たちは理性的な判断が出来るとディートリッヒやクーデターの幹部は信じている。

「やはり、大勢力の支援抜きには戦えませんか。」

「そうだな。チェチェンやグルジアもECの支援を得ている。我々が奮戦すればチェチェンの負担もかなり軽減されるというのもあるだろう。」

ハフマン紛争後あたりからチェチェンの独立運動が再燃。内戦にまで発展している。チェチェンはEC側に資源採掘やパイプライン使用料の無料化などをタネに支援を受けているがまだ互いに決定的な勝利を得る要因がない。

ここでアゼルバイジャンまでもEC側につけばザーフトラは戦力を割く以外にない。EC軍がアルメニアを押さえ込めばわずかなザーフトラ軍と政府軍のみ。2日後の戦闘で重要拠点を制圧すれば両国相手に互角な戦いが出来るとディートリッヒやクーデターの幹部は見ている。

「出来ることなら、独立したかったのですがね・・・なかなかそうも言ってられませんか。」

「EC次第だな。穏健にことを運ぶならそれでよし、ダメならば独立だ。グルジアの様子を見る限り、そう悪い待遇でもないようだから安心できるが。」

グルジアは2080年代にECの支援を受けてザーフトラから離反している。南オセチアは未だザーフトラ領だがECはグルジアの経済復興に尽力し今では経済なども回復したようだ。

「ですね。利用できるだけ利用させてもらいますか。」

「それでいい。とりあえずは出方を伺おう。」

ECがどこまで支援してくれるか。2人は疑問符こそ尽きなかったが端末のメールでのやり取りを見る限りそれなりの支援は期待してもよさそうだ。

兵器メーカーの思惑もあるのかヴァンツァーの、それも聞いたことのない型番の機体を数多く支援するという。これを民兵などに供給すればそれなりの戦力になりうるだろう。

 

続く

 

 

(※1)
ホークス隊のヴァンツァーはアサルトにウォーラス、ファイターにシンティラとゼリア、支援機はジグルとギザ。ミサイラー、グレネーダーにワイルドゴート、レコンはプリソメア系列、ザイゴートと設定。シャカールはまだ出ていない機体なので割愛。

(※2)
アル・ムワリムは実在の暗殺教団の長。英雄サラディンの命さえもてあそぶことが出来たという伝説の暗殺者。

 

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