Front misson Brockade

Mission 0-2 Missing

 

1815時 フォートモーナス北駐屯地

『て、敵襲!ハフマンの魂が進入!!』

「何!?」

管制塔は警告音が鳴り響き、担当員が大慌てで輸送機の発進準備を進めさせる。レーダーに数十機単位で光点が点滅し多数のヴァンツァーが基地に侵入してくる。

それも、ごく近距離に来るまでまったく検知できなかった。地形が複雑なためあちこちに赤外線センサーを投下しておいたのだが全部稼動せず、駐屯地まで複雑なルートをたどってきたようだ。

「本当に連中なのか!?赤外線センサーはどうした!?」

管制官がお前たちのミスだ、とでも言いたげに声を荒げて部下に状況を尋ねる。部下は泣き言のように「相手が酷すぎるんです!」などと言い訳をしながらモニターに外の状況を映し出す。

蒼い海上迷彩の機体。主力機体はプレスニードルと肩にレオスタンD型を搭載したアルペジオで脚部は機動力のあるメアレイドの流用。ミサイラー機体はスカルを搭載したワイルドゴートが大半。まさに「ハフマンの魂」と呼ばれるハフマン島分離独立派のテロリストだ。

もっとも市街地のサカタインダストリィ関連施設を襲撃することはあっても、PMO相手には逃げるか防戦がほとんどでこのような駐屯地の襲撃はほとんどなかった。しかも赤外線センサーを突破しての薄暮攻撃などは一度も行われたことがない。

「敵機総数34機!しかし何なんですかこいつら、強すぎます!PMOのヴァンツァーが・・・!!」

『こちらルスラーン、離陸できない!機を捨てる!』

『第2格納庫が爆破された!お、おい見ろ!装甲車だ!戦闘ヘリまで混ざってるぞ!』

ヴァンツァー34機に加え、戦闘ヘリや装甲車を含めた攻撃。一体何故これほどの戦力をセンサーやレーダーにも引っかからず移動させて攻撃させられたのか。疑問符は尽きないが管制官は輸送機の誘導に尽力する。

「滑走路がダメなら近くの平地から離陸しろ!輸送機が無事なら何とかなる!」

『了解ルスラーン、離陸する・・・お、おい!管制塔にミサイル!』

「何!?」

管制官が窓の外を見ると、3発のミサイルが管制室に向かってきているのがはっきりと見えた。彼にはそのミサイルの型番などがはっきり見えたと同時に、家族にもう会えないということをはっきりと悟ってしまう。

 

「急げ、敵は待ってくれないぞ!」

「ヴァンツァーを出撃させろ!急げ!」

外で歩兵が対物ライフルや対戦車ミサイルを連射して時間を稼いでいる間にシエラはヴァンツァーへと乗り込む。食堂から大急ぎで駆け込んで来たがそのときには既に2番格納庫は燃料タンクの爆発に巻き込まれ崩壊した後だ。そして先ほど管制塔もミサイルの直撃を受けて破壊された。

ここもいつそうなるかもしれない。そんな不安こそあったが逆に言えば訓練と同じ。最大限の力を発揮すれば押し返せる。そう信じてIDを入力しヴァンツァーを稼動させる。

「隊長はどこ!?こっちはちょっとやばいんだけど!」

『シエラか!?今外で応戦中だ、合流してくれ!』

了解、と答えオートキャノンを搭載したジラーニ2が格納庫から出る。ローラーダッシュを仕掛けたために敵軍装甲車と衝突したが装甲車が横転してしまう。

外は格納庫や設備が炎上し、暗視装置が無くても敵ヴァンツァーを視認できるほどの明るさだ。浮かび上がった数はかなり多い。

「本気出さないと・・・」

いつもの軽口をたたいている余裕も無い。とりあえず横転した装甲車は無力なために放置するとアバローナが接近してくる。型番からしてカダール機だ。

『無事で何よりだ。PMO部隊は出撃したがそれほど数も多くない。』

「だいじょーぶ、1人で2機か3機ぶっ壊せばいいんだから!」

既にPMO側のデザート迷彩を施したテラーンやアバローナ、ヴィーザフ等が応戦しているが劣勢を強いられている。カダールの声にも精彩は無いがシエラが明るく振舞い元気付けようとする。

『それもそうだな。さて・・・やるとしよう。』

「了解。包囲されないようにがんばるね!」

カダールが気を取り直し、クレインを発射する。目標は箱型の胴体が特徴的なアルペジオで頭部と脚部にロックオンを仕掛けミサイルを発射。

高威力の対戦車ミサイルは正確に目標を捉え、頭部を一撃で破壊し脚部にも命中、だが脚部がまだ稼動しているためレオスタンDを連射しながら突撃してくる。

そこに友軍のジラーニがロッドを胴体めがけたたきつけて沈黙させる。シエラは横目でその様子を見ながらグレイブMGとオートキャノンを連射。

真正面から突撃してきたアルペジオが弾幕射撃を喰らい爆発する。脱出したパイロットを見て、一瞬だけシエラは何かが違うと感じた。テロリストの服装じゃない。もっと綺麗にしている上に装備もハイテクだ。

「こいつら、テロリストじゃないよ!ハフマンの魂に偽装した何か!」

『何だと!?』

カダールや友軍が驚いた様子を見せるが、攻撃の手を緩めることなく敵ヴァンツァーに対して攻撃を仕掛け続ける。態勢を立て直したPMOもテロリストのヴァンツァーに攻撃を加えていく。

敵の技量がハフマンの魂以上でも所詮は敵軍であり向かってくる以上倒すしかない。シエラがゲイルSGを至近距離で胴体にぶち込んでアルペジオを撃破すると間髪居れず、後方のワイルドゴートめがけアールアッソーCを射撃。

「お、結構頑丈・・・」

重装型であるワイルドゴートは大量の40mm銃弾を喰らっても平然と向かってくる。シエラは頑丈さに驚きを隠せなかったが落ち着いて脚部に照準を合わせ発射。

さすがに接合部は脆くオートキャノンを喰らいワイルドゴートは転倒、その直後にスカルを発射するが転倒の衝撃でロックオンがはずれ、見当違いの方向に飛んでいく。

『こちらルスラーン、空中退避完了・・・なんだあれは!?大型ヴァンツァーか!?』

『ルスラーン、状況を報告しろ!』

司令官が空中退避した全翼VTOL輸送機のルスラーンに状況を説明するように怒鳴りつける。レーダーは破壊されセンサーも役に立たない今では彼の報告だけが頼りであり、司令官もあせっているのがはっきりと声からわかる。

『大型のヴァンツァーです!そんな馬鹿な・・・』

「ルスラーン、敵機って何!?」

呆然とするルスラーンの声を聞いて、何があったのかとシエラは不安げにたずねる。だがトリガーは引きっぱなしにして向かってくるアルペジオに集中砲火を浴びせる。

隣にいたデザート迷彩のテラーンも同時に射撃、76mm砲弾とアールアッソー、グレイブの射撃を受けてアルペジオが吹き飛ぶと同時にルスラーンが報告を入れる。

『敵機確認。ホープライズ社製大型機動兵器、アルゲム級だ!』

「嘘、冗談でしょ!?」

シエラが冗談だと思っていた途端、隣で援護射撃をしていたテラーンが突然のように爆発する。12.7cm砲弾が胴体に直撃し大きくえぐれている。搭乗員はおそらく戦死しただろう。

『お、おい冗談だろ!』

『周辺のヴァンツァーを撃破しろ!それから囲め!』

PMO兵員が指示を出すものの敵軍の方が数で優位に立っている。装甲車やヘリは片づけたもののヴァンツァーの数では劣勢といっても過言ではない。

しかもアルゲム級の火力がすさまじく、一瞬でPMOのジラーニが57mm速射砲をまともに喰らい破壊される。搭乗員はヴァンツァーを捨てて脱出したようだ。

『シエラ、あのアルゲムをやる!』

「了解、おびき寄せるよ!」

ロックオンの間だけアルゲムをおびき寄せられればいい。シエラはスティックを握りジラーニの射線に割り込んでから発砲する。アルゲムが銃口を向ける前にジラーニは側面に回りこんでショットガンを連射。

銃身下部のシリンダーが動き、空薬莢を排出すると同時に散弾が発射されアルゲムへと直撃するが大したダメージも無く目標をシエラへと向ける。それがシエラの狙いでもあるのだが。

「隊長、発射して!」

『任せろ。アルゲムに攻撃できる奴は攻撃しろ!』

すぐにカダール機と他のアバローナがアルゲムに照準を合わせ、いっせいにクレインを発射。無数のミサイルに対しアルゲムはチャフ・フレアーをばら撒いて霍乱しようとするが何発かがそれただけで大半がアルゲムに命中。

弾薬に引火したのかアルゲムは大爆発を起こす。無線から一斉に歓声が湧き上がるがシエラ機からの応答が無く、カダールはすぐに呼びかける。

『シエラ、無事か!?』

「アルゲムにやられたみたい。脚部が壊れてるし・・・脱出も無理。」

ちょっとまずいな、とシエラは軽い調子で答える。勿論軽い損傷ではない。57mm砲弾を回避し損ねて胴体と脚部に命中。運悪く脚部が破損し転倒。しかも脱出装置も稼動していないのだ。

『シエラ!さっさと脱出しろ!』

「ごめん、ハッチが開かないから無理。」

『ふざけるな!今行くぞ!』

カダール機が向かっていこうとするが、途端に司令官から通信が入る。

『拠点を放棄して撤退せよ!敵増援が到着した!』

『敵増援だと!?』

「ええ、一杯来てる。」

シエラのレーダーには大量の光点が追加された。敵軍は拠点を攻略しようと後続部隊を投入してきたらしい。およそ40機の増援でPMO側ヴァンツァーは既に20機を切っている。おまけに大型機動兵器がもう1機いるのだからかなうはずも無い。

司令官の撤退命令は理にかなっている。ここでフォートモーナス方面軍を全滅させるわけにも行かないのはカダールも理解しているがそれはシエラを見捨てることに他ならないのだ。

『救援に行くぞ、シエラ!』

『ダメです、敵ヴァンツァーの猛攻が・・・ロックオンされてます!撤退します!』

後方のワイルドゴートがロックオンをかけてくる。どうもアルペジオの中にソナーを搭載したレコンが存在するらしく遠距離からでもロックオン可能のようだ。

今から撃破するのは間に合わない。カダールも撤退するべきだと思ったがシエラ機を見て撤退するわけにも行かない。テロリスト相手なら大抵は殺される。捕虜にされてもなにをされるかわかったものでもない。

「・・・隊長、撤退して。」

『部下を見捨てられるか!今行く!』

何でこうもわからずやなんだろうか。シエラはこれ以上話をこじらせるわけにも行かないと思い、わざと無線機の周波数を少しずつ弱めていく。少しずつノイズが入っていくようにするためだ。

「もう無理だってば、隊長。故郷の仲間にダメだったって言ってくれればそれでいいから。じゃあね。」

『シエラ・・・おい、シエラ!頼むからまだ無線を切るな!あきらめたら・・・!』

完璧に無線の周波数を切り、シエラは深呼吸してから目を閉じる。数分後にはロックオンを仕掛けられて、ミサイルが直撃するかマシンガンで蜂の巣にされているだろう。

 

「おい、シエラ!応答しろ!」

『誰かあのアバローナを止めろ!』

カダールは無我夢中でアバローナを動かし突撃しようとするが友軍ヴァンツァー2機が無理やり前に出ると前進し、アバローナを止める。

『部下がいるのはわかる、だが撤退命令が出ているんだぞ!余計な犠牲を増やすな!』

「だが、このままでは・・・!」

『どうしてもと言うなら脚部を破壊して、トレーラーまで引っ張るぞ!いいな!?』

カダールはシエラ機を一瞬だけ見たが、無事でいてくれとただ願いそのまま撤収する。それを見て他のPMOヴァンツァーも後退を開始する。ヴァンツァー70機以上が稼動前に爆破され、残りの50機も各個撃破されるという無様な失態をしらしたのだった。

しかし、カダールにはそれ以上に重圧が重くのしかかっていた。部下を見捨てた能無しの上官、そんな幻聴がどこからか聞こえてきた気がした。

『こっちの増援はどうした!?』

『航空機での絨毯爆撃は不可能だ。捕虜などを考えるとな。今ヴァンツァーが向かっている。到着は2時間後だ。だが・・・』

『撤退した後か、畜生!』

PMO隊員の1人がコンソールを思いっきりぶん殴ったような鈍い音が無線から聞こえてきた。テロリストにしても拠点を破壊してとどまる理由は無い。使える物資や捕虜数名を確保した後で撤退するだろう。

助ける手段はもう無い。カダールは戦力がありながらなんというざまだと苛つきながらシエラの無事を願わずにはいられなかった。

 

2091/9/16 1045時 フォートモーナス仮設PMO司令部

「残念だが、カダール大尉。シエラ少尉の姿は確認できなかった。残骸は残っていたが血の跡は無い。おそらくは・・・」

捕虜にされた。それもテロリストではない何者かの手によって。カダールは司令官が口に出せない内容を大体は理解できた。40代くらいの髪を左右に分けた司令官は資料に目を通しながらカダールに話しかける。

明らかに統率の取れた部隊。ハフマンの魂もそれなりに統率力に長けた部隊でヴァンツァーの配備数もかなり多い。だが大型機動兵器まで繰り出してPMOの陣地を攻撃するような敵ではないのは明らかだ。

「・・・わかってます。けど、ここで行方不明になったということは。」

「その通りだ。発見率はかなり低い。」

ハフマン島で直接戦死した人員は確かに多いが、それ以上に行方不明の人が確認されている。88年から行方不明者が相次いでいるが89年度に事件は解決。暴走した企業私兵の独断とされ解決したのは第二次ハフマン紛争緒戦でUSN軍海兵部隊を完膚なきまでに叩きのめした精鋭傭兵部隊だという。

しかし行方不明者が減ったのはそのわずかな期間だけで89年紛争時からヴァンツァーパイロット、特にエースと呼べる技量を持った人員の行方不明が相次いでいる。生きて再発見される確立は10%以下。カダールの気分が沈んでしまうのも無理は無かった。

「敵軍のヴァンツァーについては何かわかりましたか?」

「ハフマンの魂所属ではない、と言うことがわかったくらいだ。」

何故、とカダールはたずねる。シエラがパイロットの服装などを見てようやくテロリストではないとわかった程度でしかない。後方にいて何故はっきりとわかるのだろう、と疑問に思ってしまう。

「関節毎に爆薬を仕掛けておくヴァンツァーなどテロリストでも乗らんよ。残骸は木っ端微塵で部隊所属などを示す証拠は一切無い。」

「関節毎に爆薬!?」

そんなものに乗っていたのか、とカダールは驚きは隠せない。万一戦闘不能になったら脱出した後で爆破するのか自爆するのかはわからないが被弾したときの危険性などを考えると到底恐くて乗っていられない。

狂信的なテロリストか特殊部隊だろう。自分達の痕跡を残さないか後は無いと思い知らせ部隊から裏切り者が出たら自爆させるためか。何にしてもシエラの無事はまずありえないだろうとカダールは肩を落とす。

「シエラ少尉は残念だったよ。これまでの実働演習やシミュレーションを見たが彼女は優秀だった。お悔やみ申し上げる。」

「感謝します、司令官。」

社交辞令ではなく、司令官も肩を落としていた様子を見てカダールは幾分か気が落ち着いた。一礼すると早速退出し廊下を歩いていく。

USN軍の基地を一時的に利用する形でPMOは駐屯し臨時の対テロリスト基地としてフォートモーナスを運用している。OCU兵員(※1)やPMO隊員がひっきりなしに行き来している。カダールはその中を掻き分けて部屋に向かうと途上で話し声を聞く。

「それで、マテリアルの確保は?」

「順調だ。しかし今度はPMOから確保するとは考えたな。お前も・・・」

「戦闘要員は間引いても十分だ。だが返してやるつもりだ。戦争状態の後はあくまでも「平和なハフマン」を維持しなければならん。」

マテリアル?PMOからの確保?気になる単語を聞きカダールはそっと扉の前に立ち聞き耳を立てる。無論息を殺し、相手が出る瞬間まで気配を悟られないようにしている。

「なにをするつもりだ?」

「必要なのはあくまでも脳そのものだ。特にオルソン、お前のところの傭兵部隊にはサカタインダストリィの子息とか将軍の娘とかもいる。単なる行方不明では突き止められるぞ。本格的な捜査をされたらどうなる?連中にはジャーナリストまで混ざっている、息の根を止めて済む問題でもない。」

「そうだな、その後の処理は任せて置こう。研究施設には後で案内する。」

「そうあってくれ。」

一体何の話をしているんだ、とカダールは疑問符に思ってしまう。片方はオルソン、キャニオンクロウの指揮官でありハフマン紛争での功労者ともいえる人物だ。声はテレビで聞いたものと同じだし相手方も名前を言っていた、間違いは無い。

だがもう片方はザーフトラ訛りの言葉をしゃべる人物で聞き覚えも無い。すると立ち上がるような音が聞こえすぐにカダールは扉から離れる。せめてそいつの顔を見てやろうと言う目論見だ。

扉を開けて出てきたのは金髪のサングラスでがっちりした40代の男性、オルソン大佐に間違いないがもう1人は60代くらいの男性、頭頂部の脱毛が著しい白髪の人物だ。白衣を着ているためにカダールは科学者だと判断する。

「ナザール・バリジコフ・・・」

名札を見て、名前をとりあえず覚えておくとカダールはそそくさと部屋へ戻っていく。今更こんな場所に長居する理由も無い。怪しまれて目をつけられる前に逃げてしまうべきだと考えたのだ。

 

2092年2月、ハフマン島ロングリバースで爆発事件発生。「ハフマンの魂」の集団自決としてPMO部隊は大半が撤退。勝利宣言を行う。

2092年8月、ロングリバース島の爆発事件の真相、デイリーフリーダムに掲載。

 

続く

 

(※1)
5thの描写ではUSN軍が持ちこたえていたが1stでOCUが市街地を占拠している描写がありキャニオンクロウもサカタインダストリィ社長の護衛に出撃している。またシーキング級以下のUSN軍ヴァンツァーと交戦した後補給や修理、さらにパーツ補充もしている上にサカタインダストリィ社長が来るほど治安が維持されていたと見て停戦合意後、PMOが撤退するまでOCUが占拠していたものとする。

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