Front misson Brockade
Mission 0 Huffman
2091/9/15 フォートモーナス郊外駐屯地 1644時
『ルスラーンより管制塔、着陸許可を求める。』
「管制塔了解、着陸を許可する。」
起伏の激しい荒地をある程度平坦にしただけの野戦滑走路に、暁光を浴びた茶色とベージュの織り交ざる地上迷彩を施したVTOL輸送機が翼端のエンジンを垂直に立てて着陸する。
土煙が一通り晴れてから、機体後部のハッチが開かれ兵員が赤いライトの点滅する誘導棒を手に持ち、招き寄せるように誘導する。
「今日の積荷は12機だけですか?」
「予備パーツも含めると24機分です。やけに多いですね。」
「ああ。本性丸出しだな。」
管制官が眉をしかめて、輸送機から出てくる「機体」を見つめる。全領域で戦うことが出来る、第二次ハフマン紛争以降からの主力兵器。
一見するとカエルのような愛嬌のある胴体をした6mもの人型機動兵器。通称ヴァンツァーは誘導する兵士の指示に従い新たに増設された野戦格納庫へと行列をなして入っていく。
「本性?」
部下がいぶかしげに管制官の顔色を伺う。まだ若い金髪の、USN出身の彼には軍の考える意図も何もかもわかっていない様子だ。
白髪の混じるベテランの管制官は、その様子を見てまだ続くのかとため息をつく。管制官として軍に臨時に迎え入れられた彼はさっさと戦争を終わらせ、故郷の家族に会いに行きたいためか苛つき喫煙の回数も増えている。
「戦争を実戦テストか何かと勘違いしてるんだよ、連中は。」
「ザーフトラですか?」
「見ろ、あれを・・・最新型だ。」
2機目の機体から搬出されたヴァンツァーは鋭角で構成された外見を持ち、持っている武装もマウントレールを搭載した最新型の85mmライフルと兵器マニアが見たら感激して飛び出しそうな装備だ。
「ヴィーザフ級・・・ですか?」
「軽量化された最新型だ。おそらく試作機だろう。パイロットはザーフトラ本部の軍ではなく、チェチェンやアゼルバイジャンといった占領地の軍の寄せ厚めだ。」
「成功すればよし。失敗してもザーフトラには一切被害が無いってことでは・・・?」
「苛つくのもわかるだろう?」
ええ、と部下も不機嫌になっている理由を察してうなずく。2015年に経済圏統合の名の下に独立しかけたチェチェンを手始めとして中央アジアの旧ソ連諸国を軍事侵攻で再び掌中に治めたのだ。
以降、何度も独立運動が起こりそのたびに武力で鎮圧。2035年には「装甲車の機動力と戦車の火力を持つ」と言われたWAWを実戦配備し圧倒的な戦力で中央アジアの反乱を押さえ込んだ。
その占領地の軍勢に最近では現地の人間も参加している。もっとも仕事もないしテロリストも最近は沈静化しているので普通に仕事として参加するかヴァンツァーの操縦経験をつんでECかOCU、あるいはCAU(中央アジア連合)に出稼ぎに出ることが多い。
「同感です。けど仕事は仕事です。全力でやりますよ、俺は。」
「・・・若いな。だが今はそれでいい。」
簡易的な管制塔につめている人員は輸送機や戦闘ヘリの管制だけを行い、それほど忙しくも無い。2人も座り、コーヒーを飲みながら緊急事態に備えて待機する。
が、管制官が吸う葉巻の量はどんどん増えていく。せめて連絡を入れたい気持ちはわかるがこの密閉空間で空調もロクなのが無い場所で大量の葉巻はやめて欲しいと部下は迷惑そうな目で管制官を見つめる。
「新型はどうだ?」
「凄く良かった。特に衝撃緩和機構がいい感じかな。歩行しても今までより衝撃がマイルドで。」
天井が12mほどある、大型の格納庫に格納された新型ヴァンツァー、ヴィーザフ2ローク型から梯子を使って2人のパイロットが降りてくる。ザーフトラ領内アゼルバイジャン方面軍の記章をつけ、SR-75サブマシンガン(※1)をホルスターに収めた兵士だ。
片方は金髪の女性、もう片方は黒髪で無精ひげをはやしたアラブ風の男性だ。
「何よりだ。しかしシエラ、お前ここに来てよかったのか?」
「何?最前線でいいじゃない。戦わないと軍人っていえないし、みんな嫌がってたから行く事に決めたんだけど。」
そんな感覚か、と彼・・・カダールはため息をつく。シエラにとっては「嫌でも誰かいかなきゃならないから」という程度でありそれ以上の情勢とか、小難しいことは一切わかっていない様子だ。
だが、だからこそ時々鋭く本質を見抜ける。部隊をまとめるカダールにとっては時々彼女の助言に助けられたこともそれなりにあり演習でもザーフトラ正規軍相手に引けを取らなかったことを覚えている。
「・・・お前と一緒に来てよかったのか悪かったのか・・・」
「あ、PMOのワッペン格好いい!」
わずかにのこったぼやきすらかき消され、カダールはもう好きにしろとあきらめた様子で宿舎に向かっていく。あんな調子でいつも話の重要なことを聞いたら目移りして珍しいものに向かっていく。
シエラがPMOの兵士に「どこでジャケットもらえるの?」などと能天気な様子でおおはしゃぎしている様子を横目に見ながらカダールが歩いていくと基地司令官が歩いてくる。
「カダール大尉か?」
「はっ。ただいま到着しました。」
いかにもロシア人風の濃いひげを蓄えた老人はしっかりと両足で立ち、敬礼する。カダールも敬礼を返すと、早速基地司令官が歩きながら状況を説明する。手には端末ボードを持ち地図を出し、哨戒ルートも表示される。
「貴官らは明日、フォートモーナス北を哨戒してもらおう。このルートだ。」
「哨戒ですか?」
「電探バックパックをこちらで用意した。ソナーと複合型だ。敵兵や装甲車、ヴァンツァーを見つけ次第破壊しろ。敵の戦力はそんなものだ。」
了解、とカダールはうなずくが司令官の態度は「一介のテロリスト風情、さっさと始末できる」などと思っているようだ。そのように侮っていると予想外の場所から一撃を喰らうことになりかねない。
「シエラにアタッカーを。俺にミサイラー機を手配してもらえますか?」
「わかった、新型を用意しておこう。それぞれ1番と3番ハンガーに格納している。」
「了解しました。早速受け取っていいですか?」
「無論だ。」
基地司令官は次の仕事があるといい立ち去っていく。非戦闘区域の司令官としてなら好感が持てる存在だ。無難な指示を出し人当たりもいい。だが戦場では型破りな采配を期待できる司令官で無ければ生き残れない。
カダールは嫌な予感を抱えながらもシエラを呼びつける。PMOのジャケットをもらってきて早速着用してきたシエラは機嫌がよさそうであり、カダールの呼びかけにも明るく答える。
「なーに?隊長。」
「機体を1番ハンガーに用意してもらった。基地司令官から整備員に伝達があるらしいから、向かってくれ。分隊を組んで慣れておきたい。」
「りょーかい!行ってきます!」
わざとらしく、大きく敬礼したシエラは1番格納庫まで走っていく。
「ちょっと待て、ここが1番格納庫・・・」
カダールが呼び止めようとしたが、既にシエラは扉を開けて隣の格納庫に駆け込んでいった後だった。
良くこれで軍人として採用されたな、とカダールはもう何十回も思い返してしまう。あれでヴァンツァーの操縦技量では自分よりも上なのだから、才能は性格などとまったく比例しないと改めて実感せざるを得ない。
だが、よく考えれば性格のいい奴はヴァンツァーに乗るわけが無いだろう。こんなものなのだとあきらめてカダールは3番格納庫へ向かう。
格納庫の脇にある人員用の扉から外に出て、2番格納庫を抜け3番格納庫に歩いていくとザーフトラ軍の整備兵が敬礼し、カダールを出迎える。
「大尉、機体はこちらです。」
無数の新型ヴァンツァーが立ち並ぶ中、整備員は1機の大型機体に誘導する。カダールは思わず感嘆の声を漏らし、整備員に尋ねる。
「機体はなんという名前だ?」
「アバローナの2型です、大尉。武装はグロムとクレインを。」
最新型の、まだ民間にすら出回っていないバズーカを所持し6連装ミサイルを肩に搭載した黄土色のデザート迷彩のアバローナを見てカダールはこれなら満足だとつぶやく。
性能に問題はない。もっとも祖国の軍に配備されるのはいつのことだろうと思いながら梯子を上がり、操縦席内部に入るとコンソールを稼動させる。
「シミュレーターを稼動できるか?」
「ええ。コンソールの下にあるスイッチを、ふたを開けてから押してください。」
これか、とカダールはうなずくとふたのついたスイッチを見つける。そして手順どおりにスイッチを押すとシミュレーターを稼動させる。
データリンクを応用したタイプで、小隊規模で同じシミュレーターに参加することも出来る上に対戦まで出来る。USNのシミュレーターは稼動させたり頻繁な調整が必要だったりするがザーフトラのは一歩進んでいる。
早速正面のディスプレイに画面が映し出される。メニュー画面から「戦場作成」を選びシチュエーションを設定する。
「フォートモーナス市街地戦闘?これにしてみるか。」
もうそんなデータが入ってるのか、と笑みを浮かべながら設定を続けていくと「入室を確認しました」の文字が表示される。
『やっほー、隊長。』
「シエラ、お前早速入ってきたのか・・・」
間違えた割りに早かったな、とぼやきながらシチュエーションを設定し「射撃訓練、無人標的射撃」を選ぶと早速開始される。訓練用の標的ヴァンツァーが出現したが、全部USN機だ。
一応カダールはシエラ機も確認する。鋭角で構成された機体、ヴィーザフの軽量化タイプで武装はグレイブMGとゲイルSG、そして肩にアールアッソー系列の機関砲(※2)を搭載している。
「肩にマシンガンだと?」
『そう、整備員がお勧めだからって搭載してくれたの。最近ガトリング砲とかを肩に乗せる機体が増えてるんだって。最近の流行だって話。』
確かに腕に格闘武器を搭載、肩にマシンガンの類を搭載すれば腕の射撃精度に関係なく射撃戦闘にも参加できる。照準の微調整は難しいが、その分を大火力高連射性能の銃で補うコンセプトだろう。
カダールは有効性を疑問視しているがシエラは嬉々として早速標的機めがけオートキャノンを連射する。
『わぁ、すごい!』
マシンガンのアールアッソーより連射速度が格段に跳ね上がっている。通常のアールアッソーより拡大された弾倉には4000発の40mm銃弾が入っている。
一瞬で標的フロストを吹き飛ばしたのを見てシエラはおおはしゃぎしている。確かに連射速度も圧倒的だとカダールは感じて新型のバズーカを構えてみる。
割と軽量で取り回しがいい・・・照準スティックを動かし、照準線があったところでフロストめがけ射撃。13cm砲弾はまっすぐフロストへと向かい胴体に直撃。爆風でビルを抉り取り標的機は爆発する。
ザーフトラ軍のシミュレーターは無駄に建物の破損や倒壊まで再現している。USNのシミュレーターのような、いかにもVR訓練といった地形や建物ではない。
「命中精度がいいな。炸薬も通常より多いようだ。」
『いい武装じゃない・・・お?シミュレーターに入室した人が居るみたい。』
ディスプレイ表示を見てシエラが誰か着たことに気づく。カダールも名前を見てザーフトラ軍の分隊ということに気づく。
『ちょうどいい、俺たちの訓練に付き合ってくれるか?』
「ん?ああ、かまわないが。」
『よし、行くぞ。』
ザーフトラ軍の兵士が出撃する、と指示を出すと標的機が消滅し変わりに要所の橋を封鎖するようにヴィーザフ級ヴァンツァーが出現する。訓練とか言って本当はストレスを発散したいだけなのか、とカダールが疑問符を抱く。
初対面の相手に2倍の戦力で攻め寄せるなど正々堂々という言葉からはかけ離れている。武装はザーフトラ軍支給のヴェスナーMGと霧島51式SG搭載タイプ、それに新型のルジャーンカ2ライフルを搭載しているのがそれぞれ2機ずつ。
『ちょ、ちょっと何のつもりこれー!?」
『悪いがコッチも苛ついてるんだ。新兵の歓迎会をしてやらないとな!』
シエラが唐突な襲撃に慌てているが、カダールは落ち着いた様子でバズーカをザーフトラ軍のヴィーザフへと向ける。
「シエラ、交戦開始だ。敵を殲滅しろ。」
『いいの?じゃあやっちゃうよ!』
シエラ機のジラーニが後退、カダール機と合流するとアタッカー武装のヴィーザフめがけグレイブMGを連射。
32mmの大口径銃弾は、カダール機を狙い突撃しているヴィーザフの右側面から浴びせられ装甲に穴を開けていく。
「シエラ、かわせ!」
『了解!』
ジラーニが後退すると射線があき、もう1機の狙撃型ヴィーザフがシエラ機めがけ照準を向けているのが確認できる。
すかさずカダールはトリガーを引き、バズーカを発射。スコープを覗き隙を見せていたヴィーザフは砲弾を回避できず、頭部とライフルを吹き飛ばされ転倒する。
『1機やられた!』
『早く支援しろ、誰か・・・!!』
悲鳴のような声で敵アタッカー機パイロットが救援を求めるが、その途端にシエラ機のオートキャノンを何十発という単位で操縦席に直撃され爆発する。無論シミュレーターで爆破エフェクトの処理も行われている。
『あまった2機は何やってんの?』
『何だと・・・!?消耗しているはずだ、やっちまえ!』
アタッカー武装のヴィーザフが突撃を仕掛けながらヴェスナーMGを連射、シエラはその場にとどまらず、移動しながらグレイブMGを連射。牽制する。
隙を見て、カダールはアタッカー機にロックオンをかける。狙撃機もシエラ機を潰すことに集中しているためカダール機の動きに注目していない。
「発射!」
クレインのハッチが開き、6発のミサイルがまとめて発射される。強烈な対戦車ミサイルが胴体や腕に直撃し、ヴィーザフは木っ端微塵に砕けてしまう。
『な・・・ちょ、ちょっと待った!』
『吹っかけておいて、逃げるなんてないよねぇ?』
高速でオートキャノンとグレイブMGを連射しながらシエラ機がヴィーザフめがけ接近、連射を受けてぼろぼろになったところにヴィーザフの頭部へとショットガンが突きつけられる。
そして、零距離でショットガンが発射され頭を吹き飛ばされたヴィーザフは戦闘不能になる。鮮やか過ぎるほどの勝利に敵パイロットは信じられないと言った様子だ。
『な、何でそんなに強いんだよ・・・こっちはザーフトラのエリートだぞ・・・?』
「相手が悪すぎたな。その程度ならテロリストにも勝てないぞ?」
ザーフトラ正規軍もこんなものか、とカダールはため息をついてシミュレーターを終了させる。こんな相手しか居ないなら訓練にならない。
少なくとも祖国のヴァンツァー部隊は癖こそあるが精鋭そろいでこんな歯ごたえの無い素人ではなかった。戦術の基礎どおり動いているだけで実戦にも出ていない連中だろう。カダールは気分が悪くなってヴァンツァーから降りる。
「まったく、あんな連中と付き合ってるとろくなことにならないな。」
機体の性能は把握できたから、それだけでもいいとカダールは思いなおし兵員宿舎へと向かう。廊下の人は割りとのんびりした様子で歩いている。
毎日敵を見つけては倒すサーチ&デストロイの任務ばかり。大規模な戦闘は無くこちら側が圧倒的優勢、ザーフトラやPMO兵員の言葉で言うなら「ウォッカ飲みながらでも勝てる」と言うことらしい。
「ふぁー、本当に疲れたよぉ。」
1番格納庫のジラーニから降りたシエラは軽く身体を伸ばすと、暇つぶしもかねて食堂へと向かう。
1800時、ちょうど夕食時であり各部署から食堂に向かって一斉に人がなだれ込んでいく。シエラも人にもまれながら食堂に入り、座席を確保するとメニューを見る。
「何かおいしそうなのないかなぁ。」
疲れたら甘いものを食べたくなる。夕食よりも甘いスウィーツの衝動に駆られシエラは行列に並びながら、なにを頼むか考える。
自分の順番が来ると、無難に日替わりメニューを頼み料理の盛られたプレートを持って行き、自分の席に座ると嬉しげに料理を食べ始める。
「マロージェナ、おいしそう。それにこっちの中華麺?またおいしそうでもー最高!」
珍しい料理を見てシエラは早速食べ始める。OCU日本発祥の塩味中華麺はなかなかコクが会っておいしくアイスとジャムの組み合わせのクレープであるロシアンスィーツのマロージェナも満足できる味だ。
そしてマロージェナの一欠片を最後に食べた途端、いきなりのように爆発音と衝撃が食堂にまで響く。途端にシエラがむせてしまうが何とかマロージェナだけは飲み込みつつ咳き込む。
「な、何よぉ・・・」
『緊急事態発生、敵軍が襲来した!直ちに迎撃体制をとれ!!これは訓練ではない、繰り返す・・・』
実戦が始まった。ウォッカをこの時間帯から飲んでいたPMO兵員は対応が効かずテロリストのヴァンツァーがいっせいになだれ込んでくる。
続く
(※1)
ドミトーリ公社製2075年採用のサブマシンガン。9mm×21弾を使用し反動もかなり小さい。ザーフトラ共和国内部の軍で採用されている。軽量なためパイロットの護身火器としても使われる。装弾数30発だが、60発いりツインカラムのマガジンも存在。(※2)
2にあったオートキャノンのカテゴリー。名前だけでも味気ないので肩搭載型のマシンガンの総称として使用。5thで肩に使用予定だったガトリングも含む。
基本的に威力と命中精度が高いが重量がかさみ取り回しも悪いためショットガンの射程距離あたりから命中率が大きく落ち込む。(※3)
1st〜4thまでの呼称にあわせMG,SG主力機をアタッカー、格闘武装搭載機をファイター、ライフルおよびバズーカ搭載機をスナイパー、ランチャー搭載機はミサイラー、グレネード、ロケット搭載機はグレネーダー。センサーバックパック搭載機をレコン、バックパックメインの機体をアシストと呼称。(※4)
ここでは機動力とは回避性能のことで判別する。ヒストリカではゼニスを「機動力不足」と言っていたが1stの移動性能で言っているためどちらかといえば速度性能不足というべきだろう。4th、5thで回避性能の高いゼニスを見ていればなおさら。